IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
球体型のビットが放ったビームが眼前に迫った。
「くっ!」
そのビームに殴るように俺のセフィロト、《ブラック・レオル》の腕に内蔵されたBRFを叩きつける。
湾曲されたビームが硬い床を抉って消えた。
「オータム! 大丈夫か!?」
振り返ってオータムの姿を確認する。座り込むような姿勢のオータムを《アルバ・アラクネ》の六本のウェポンアームが守るように伸びていた。よかった。咄嗟に防御したみたいだ。
「瑛斗! 上じゃっ!」
「なっ!?」
「《ケテル》……」
今度は上からビームが襲いかかってきた。
「あぶねっ!」
その場から離れると、俺がさっきまで立っていた地面に穴が空いていた。
「っの!!」
マルチライフルをビームモードで呼び出して引き金を攻撃をしかけて来たビットに向ける。
「《ビナー》……」
すると今度は別のビットがビームの前に滑り込んで来て、ビームが掻き消えた。
「BRF!? あれも使えるのか!」
驚きはしたが、すぐに実弾モードに切り替えて引き金を引く。
「《コクマー》……」
また別のビットが現れて、ファンのようなものが回転して弾丸を弾いた。
「硬過ぎるだろ……!」
汗が一筋頬を伝って落ちた。
「オータム! いつまでそんなとこで寝てるつもりじゃ! しっかりせんか!」
「チヨリちゃん!?」
オータムに近づいて呼びかけているチヨリちゃんにスコールが腕を伸ばした。それに応えるようにビットが飛んでいく。
「《ダアト》……《ゲブラー》……」
二つのビットにはナイフのような刃物が至るところに着けられていて回転することで殺傷力を高めていた。
「チヨリちゃん! 危ないっ!」
ブレードを握ってチヨリちゃんとオータムのところに跳ぶ。
「《ケセド》……」
いきなり体が動かなくなった。
「なんだ!?」
見れば、ワイヤーのようなものが俺の両腕と両脚に巻きついていた。ワイヤーの出どころはビット。四本のワイヤーがそこから伸びている。これじゃ二人のところに間に合わない……!!
「オータム! チヨリちゃん!!」
「オータム! 起きるんじゃ! オータム!」
「うるせえな………」
アルバ・アラクネのウェポンアームが高速で動いて、ビットに突き刺さった。
「この程度で騒ぐんじゃねぇよ!!」
ビットが内側から爆発。あの時のゴーレム戦と同じように突き刺した状態でエネルギー弾を撃ったのか。
「オータム!」
「ババァ! とっとと下がれ! 邪魔だ!」
オータムに賛成だ。
「チヨリちゃんはここから出るんだ! いつチヨリちゃんが狙われてもおかしくない!」
「………任せたぞ!」
チヨリちゃんは開け放たれていた扉から外へ出た。
「《ティファレト》……」
ビットからオータムに向けて弾丸が連射される。
「食らうかよっ!」
オータムは弾丸を避けて俺に向かって飛んで来た。
「オータム! このワイヤー切ってくれ!」
「知るか! 自分でなんとかしろ!!」
「おまっ!?」
「スコール!」
そのまま俺をスルーしてスコールに接近するオータム。
「《ホド》……《ネツァク》……」
その行く手を二つのビットがレーザーを飛ばして阻む。
「邪魔すんじゃねえ!」
レーザーをウェポンアームで防ぎ、オータムはついにスコールの目の前に立った。
「スコール! 私だ! わかるよな!?」
「……………」
「ダメだオータム! スコールにお前の声は届いてない!」
「そんなこと━━━━!!」
ウェポンアームが大きく開いて、スコールに迫る。
「スコール! 目を覚ませ!」
「《イェソド》……」
最後のビットがオータムへ飛び、瞬間、オータムはピクリとも動かなくなった。
「A……I……C……!?」
「……………」
ホドとネツァクのレーザーがアルバ・アラクネの装甲を激しく叩いた。
「ぐはっ……!!」
オータムが血を吐きながら吹っ飛ぶ。
「……………」
スコールがこっちを向いた。次は俺ってわけか。
金色の装甲、オレンジ色のサイコフレーム。
そして頭部を完全に覆い、無機質さを感じさせるフェイスマスク。
二種類の輝きと合間って、神々しさと同時に狂気じみたものを感じた。
「目には目を……ってやつだな。やるしかない!」
黒い装甲がの隙間から青い光が走る。フルフェイスマスクが顔を覆った。
「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
サイコフレームが起動して黒い装甲を押し退けたことで腕と脚に巻きついていたワイヤーも引き裂くことができた。
(やっぱ、叫んだほうがいい!)
俺を拘束していたケセドがワイヤーを巻き取り始める。
「逃がすかぁっ!!」
まだクローアームは展開せず、ビットに繋がるワイヤーの切れ端を掴んで思いっきり引っ張った。
「もらった!」
左腕のクリアブルーのクローアームでこっちに来たビットを砕く。
「フッ!!」
落下したビットを足で踏んで地面にめり込ませて動きを完全に止めた。
「……………」
背中と両腕のクローアームを完全に展開してスコールの前に立つ。
スコールの周りにまたビットが集結した。
「オータム! 動けるか?」
「ナメてんじゃねぇよ……まだまだ……!」
オータムは立ち上がり、血をぺっと吐き出してから口を拭った。
「あのビットが面倒だ。特にあの、ビナーとコクマーってやつ。ビームと実弾どっちも防がれる」
「んなこたわかってる。問題はスコールだろうが。どうなってるんだよ、あれ」
「多分、サイコフレームに飲み込まれてるんだ」
「その飲み込まれてるってなんだよ。わかるように言え」
こいつ、チヨリちゃんにサイコフレームのこと聞かされてないのか?
「俺も経験してる。サイコフレームが操縦者の意志に関係無く動いて、手当たり次第に攻撃するんだ」
「意志に関係無くって……じゃあ」
「スコールは意識がない」
「………………」
ケテルからまたビームが発射された。
「このっ!」
《ブラック・レオル》のBRFで湾曲させて軌道をそらす。
「どうすればスコールは元に戻る!」
「俺が戦った相手は、サイコフレームを壊したら止まったらしい!」
「壊せばいいんだな? そうとわかれば!」
オータムが俺を飛び越えてスコールに突進していく。
「オータム! 無闇に突っ込むな! サイコフレームは俺のセフィロトじゃなきゃ━━━━ああ、クソッ!」
オータムの後に続いて俺も地面を蹴った。
右腕のクローアームからクローを飛ばしてスコールの牽制に使う。
「………………」
コクマーがクローを弾き飛ばす。
「まだあるんだぜっ!」
左腕のクローアームからもさらに五本のクローを飛ばす。
「スコールを返せっ!」
オータムがウェポンアームからエネルギー弾を至近距離で放つ。
「……………」
ビナーとコクマーが高速で動いてエネルギー弾とクローを防御した。
そしてビームが効かないとわかったのかティファレトが俺に実弾を浴びせかけてくる。
「当たらねぇよ!」
ワイヤーを巻き戻して地面に突き刺さった右腕のクローのところまで跳躍してスコールとの距離を一気に詰める。射程に入った!
「食らえっ!」
右腕のクローアームを突きの要領で金色の装甲から見えるサイコフレームにぶつけようとした。
「………………」
「うぐっ!?」
俺の右腕が止まった。押しても引いてもビクともしない。
「……………」
(イェソドってやつか……!)
理解した瞬間にケテルからのビームが俺をスコールから引き剥がした。
「なろぉっ!!」
背中の左右両方のクローアームからクローを全て飛ばした。
十本の爪が金色の装甲を捉える。
「おおおおおっ!!」
着地の瞬間に右腕を突き立てて急停止。もう一度スコールに飛びかかってクローを振り上げる。
━━━━貴方ハ、誰━━━━
「え?」
女の人の澄んだ声が頭に響いた。
━━━━貴様ハ、誰ダ━━━━
別の声だ。低い男の人の声。
(これ……どこかで……)
全てがスローモーションになっていく。
━━━━貴方ハ━━━━
(これは……)
━━━━貴様ハ━━━━
(もしかして………)
━━━━誰ダ━━━━
身体が熱い。
いつもなら首にだけ感じた熱さが、全身に走っている。
ブラック・レオルの青いサイコフレームが燃えるような光を放っている。
スコールのセフィロトのオレンジ色のサイコフレームも同じような光り方をしていた。
(これは…………あの時の!)
二つの光が混ざり合う。
(神掌島の時の!!)
意識がスコールに、いや、スコールのセフィロトのサイコフレームに吸い込まれた。
◆
「うわああああっ!?」
すごい高いところから落下する感覚があった。
ズドーンッ!
「いだっ!?」
落下が終わって地面に背中から叩きつけられた。
「ったたた…」
かなりの高さから落ちた感覚なのに、不思議となんともない。
立ち上がって、周囲を観察する。
「これは……スコールの、深層意識なのか?」
周りを見ても、ただただ真っ暗で、俺の立っているところだけにスポットライトのような光が当たっていた。
「でも……俺のと違って、何も無いな」
部屋の中でもなんでもない、何も無い空間に放り込まれたって感じだぜ。
もしかして、目が白黒反転したスコールとか出てくんのか?
「こっちよ」
「!?」
声のした方に振り返る。
「スコール!」
そこには思った通りスコールがいた。
「来ると思っていたわ」
だけど、スコールの声は覇気がない。しかも、鎖でがんじがらめにされている。目は閉じて、ポツリポツリとつぶやくような声。
「お前、それ……」
「今、あなたと戦っている私は私じゃない。あの球体に人為的に抑え込められている、球体からの命令をビットへ送るだけの中継役」
い、いきなりなんか重要そうなことを話しだしたぞ。
「狙うのは私ではなく、その上よ」
「ま、待てよ。お前はスコールの深層意識なのか?」
「……………」
目の前のスコールは、ゆっくりと目を開けた。
「やっぱり!」
その目は白黒反転、俺の深層意識と同じだ。
「これで、満足かしら」
言うと、俺の体が宙に浮いた。
「わ、な、なんだ!?」
「私も、抑え込まれてる影響で今のが精一杯なの」
鎖がスコールの顔を覆い始める。
「ま、待てよ! 話はまだ……!!」
俺はジタバタともがくけど、どんどん距離が離れていく。
「あの子に、伝えて……」
あの子? もしかしてオータムのことか?
「来てくれて……ありがとう、って」
全てが、白くなった。
◆
「くっ!」
頭を刺すような痛みの後、意識が定まる。
「ガキッ!」
オータムの声で、目の前に《ケテル》がいることを把握した。
「ぐあぁぁっ!!」
両腕のBRFで防御したけど至近距離で放たれたビームの威力に吹っ飛んでしまった。
クローを地面に突き刺して動きを止めてから着地する。
「いってぇ……!」
「おいガキ、なんだよさっきのは。いきなり攻撃止めやがって」
「…………スコールに会ってきた」
「は? 何をわけのわからないこと言って━━━━」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない。よく聞けオータム」
「な。なんだよ、えらそうに」
「俺たちが狙うのはスコールじゃない。その上の、ビットの制御をしてる━━━━《マルクト》だ」
スコールの頭上に浮かぶ金色の球体、《マルクト》を指差す。
「なんでわかる」
「スコールに聞いた」
「どのタイミングでだよ!? そんなことするような時間なんてなかっただろ!?」
「あぁ説明がめんどくさい! とにかくマルクトだ! マルクトを狙え! そうすればスコールを助けられる!」
「本当か!?」
「ああ、それと……スコールがお前に伝えろって」
「えっ?」
「来てくれてありがとう、ってさ」
「……! っしゃぁっ!」
オータムがさっきとは比べ物にならないくらいのスピードで動きだした。
それに反応するようにスコールが手を伸ばし、ビットが飛んでいく。
「オラオラァッ!! どけビット共っ!」
わ、わかりやすいやつ……
「けど、今はそれくらいがちょうどいい!」
地面を蹴ってスコールに突き進 む。
イェソドが俺の前に現れた。このままじゃ動きを封じられる。
(邪魔すんな!!)
サイコフレームから青い光が弾けて、イェソドが凍りついたように空中で停止した。
「はあぁぁぁっ!!」
背中のクローでズタズタに引き裂くと、イェソドは爆発を起こして消滅した。
「今のは……」
まるで、俺の考えに反応するかのように動きを止めた……?
「っ! オータム!」
オータムは五機のビットを相手にしていた。
「ちょこまかちょこまかと!」
ウェポンアームを広げて、先端から銃口を覗かせた。
「ぶっ壊す!」
エネルギー弾が凄まじい勢いで乱射される。被弾した《ホド》が爆発する。
ただ闇雲に撃ってるわけじゃない。全方向に撃つことによってエネルギー弾がマルクトの方へも飛んでいくようになってる。
防御系ビットの《ビナー》と《コクマー》が《マルクト》の防御へ動き、攻撃系ビットの《ケルト》がまたビームを撃った。
「ちゃんと俺も数に入れろよ!」
オータムの頭上を飛び、《ケテル》に狙いを定める。
(止まれ!!)
もう一度強く念じると《ケテル》は《イェソド》と同じように停止した。
「はぁっ!!」
それを踏み台にしてさらに高く飛んで、《ビナー》と《コクマー》の真上を取る。
右腕のクローを《ビナー》に向けて発射した。
「ダメ押しだあああああっ!!」
サイコフレームから青色の光線が炸裂する。
攻撃を受けた二機のビットは煙を吹いて地面に転がった。
「もうお前を守る盾は無い!!」
《マルクト》に向かって、左腕を振り上げた。
「はあぁぁぁぁっ!!」
手応えがあった。金色の球体はその一部を抉られて地面に転がった。
そして、ビットたちがスイッチが切れたように地面に落ちる。
「やった!」
確信して叫んだ。
ビットたちはピクリとも動かない。
「あれ?」
《ブラック・レオル》のサイコフレームが勝手に黒い装甲の中に戻る。
気がつくと、エネルギーがもう底を突いていた。
(そっか、お疲れさん……)
労いの言葉をチョーカーにかけた。
「よし、スコールをぶっ!?」
近づこうとしたら、顔面を強打した。
は!? え!? なんで!?
「な、なんふぁふぉれ!?」
何かが、ある。見えない壁のような
「どうなってんだこりゃ!」
オータムも突然現れた何かに困惑している。
「どういうことだガキ! 話が違うじゃねぇか! あのデカい球落とせば終わりじゃねぇのかよ!」
「俺に聞くな!」
何かが落ちる音がした。スクラップ寸前のビットたちがまた飛ぼうとして失敗してる音だった。
「マズい……! ビット共が! あのデカいの、まだ動けたのか!」
「くっ……《G-soul》!」
G-soulを展開して、目の前をスキャンした。
『高圧縮されたエネルギー障壁を感知しました』
「エネルギー障壁!?」
ここまで来てなんて往生際の悪さだよ!
「おいガキ! 早くなんとかしないとまた攻撃が来るぞ!」
「わかってる!」
冷静になれ。どうすればいいのか考えるんだ。
深層意識のスコールは、俺たちがこうして戦っているのは《マルクト》からの命令をビットたちへ送るだけのマシンって言ってた。
確かにこれまでスコールは攻撃してくるわけではなく、そこに立っているだけだった。事実今も見えない障壁を出した以外は何もしていない。
いや、ビットたちが動いてるところを見ると命令を送っているのか。
(命令を━━━━送るだけ?)
頭の中であるアイディアが生まれた。迷ってる場合じゃないな。
「………………やるしかないな」
「あ?」
「オータム、一つだけ策がある」
「策だと?」
「スコールを倒すんだ」
「お前、さっきから言ってることがコロコロ変わりすぎなんだよ! スコールを助けるってのに、倒すだぁ?」
「聞いてくれ。これで最後だ」
オータムは何か言いたそうな顔をした。
「……………言ってみろ」
でもすぐに、鋭い目つきは変わらないけど聞く体勢をとってくれた。
「スコールはマルクトから下される命令をビットたちに送っているだけだ。だから攻撃はしてこない。だから中継役のスコールを倒せば、あのセフィロトを止めれば、ビットはもう動かない」
「展開が解除されれば、あの球も無意味になる……って算段か?」
「そうだ。俺のセフィロトが動けない今、一発でスコールのセフィロトを止める方法は俺のG-soulのボルケーノブレイカーしかない」
「私のグラインド・パニッシャーじゃダメなのかよ」
「あれは危険すぎる。
「じゃあ、私はどうすれば良い」
「お前にはあの障壁を突破してもらいたい。チャンスは多分一回きり。できるか?」
「……ケッ、良いように使いやがって」
オータムがスコールを見据えた。
「ガキの言うことなんざ、聞きたくはねぇが!!」
ウェポンアームが大きく開き、オータムの腕も装甲が包み込む。
「……………」
「おおおおおあああああっ!!」
障壁が、
「ぐっ……おお……!!」
オータムが戻ろうとする障壁に押される。
「オータム!」
「アラクネ! 根性見せやがれ!!」
グラインド・パニッシャーの熱攻撃がさらに激しくなり、ジリジリとオータムは前に進んでいく。
オーバーヒートしているのか、ウェポンアームが赤色化している。
それでも、確実に立ち塞がる見えない壁は砕かれている。だけどアルバ・アラクネのウェポンアームも砕け始めていた
「スコールは━━━━絶対に!!」
オータムの腕の装甲と、ウェポンアームと、壁が消えた!
「ガキッ!!」
「任せろぉっ!!」
《G-spirit》のボルケーノモードの発動と同時に、起動したボルケーノブレイカーをスコールに全力で叩き込んだ。
「おおりゃぁぁぁぁぁっ!!」
セフィロトのエネルギーを吸収して、さらに輝きを増す右腕と、背中の光輪。
その真横にレーザー砲を覗かせた《ネツァク》が出て来た。
(まず━━━━!?)
「させるかあっ!」
先端が砕けたウェポンアームでネツァクをぶち抜いた。
「オータム!?」
「早くしろ!!」
オータムの怒声が俺の背中を押した。
「これで………終わりだああああああああああっ!!」
ボルケーノブレイカーが一瞬大きく光り輝き、発光が終わった。
「……………」
スコールの顔を隠すフェイスマスクが砕けて、セフィロトのサイコフレームが金色の装甲の奥へと消える。そして、セフィロト自体も展開が解除された。
セフィロトが消えて、スコールは崩れ落ちるように倒れる。
「た、倒した……!」
G-soulに戻ってから息を吐いて膝に手をつく。
「どけガキッ!」
「ぶへっ!?」
アラクネの展開を解除したオータムが俺を突き飛ばしてスコールに駆け寄った。お。おんどりゃあ……!!
「スコール! もう大丈夫だからな!」
スコールにオータムが呼びかけるけど反応はない。
「……スコール?」
オータムも不安そうな表情になりながらも、呼びかけ続ける。
「おい、スコール? スコール!」
オータムはスコールの口元に顔を近づけた。そして、顔色が変わった。
「ど、どうした?」
「息……して、ねぇ……」
「嘘だろ……!?」
「スコール! スコール起きろってば!」
スコールの体をオータムが揺さぶる。
「スコール……冗談だろ……? なぁ、スコール……! 目を開けてよ………!」
「落ち着けオータム! まだ━━━━」
金属が擦れ合う音が聞こえた。
「!?」
戦慄した。
ビットの制御装置とばかり思っていた《マルクト》。その球状のボディが変形して大型の砲台のようになっていたんだ。
砲口の奥が光り始める。
「最後の悪あがきか!」
ビームブラスターを構えて、ビームを放つ。しかしそれは雲散霧消した。
「BRF!?」
あの中にも入ってたのか!
「だったら!! 」
ヘッドギアのバルカンを放つ。
それまで弾かれた。
「《コクマー》が……!?」
まだ動けたのか…!
「チッ! オータム! ここから出るぞ!」
「わかってる!!」
動き出そうとした瞬間、オータムと俺の間で爆発が起きた。
「ぐあっ!!」
「がっ!?」
何が爆発したのか見たら、破片からして《ティファレト》だった。つくづくしつこいビット共だ!
俺は前方に吹っ飛んだから良かったけどスコールとオータムが《マルクト》の射線に入ってしまった!
「しまった! あの位置じゃマルクトの攻撃が…!」
是が非でもスコールを連れていかせないつもりか……!
「オータム! 早くこっちに!!」
「……スコー……ル………!」
オータムが俺の言う事を聞かず、這うようにしてスコールに近づいていく。
「何やってんだよ! こっちに来いって!」
「間に合うかよ………ガキ、てめえはさっさと……行け!」
見れば、オータムの脚から血が流れていた。あれじゃまともに動けない!
「アラクネを使え! 飛ぶんだ!」
「無理だ……もう、エネルギーも残ってねぇよ」
さっきので使い果たしたのか!?
「スコール……スコールだけ行かせやしない…………私も一緒だよ」
スコールに手を伸ばしながら、地面を這うオータム。見てられなかった。
「ダメだ! スコールは諦めろ! 今からそっちに行ってお前だけでも━━━━!」
「来るんじゃねえっ!! 早く行けっ!!」
「……っ!」
オータムの叫びに、身体が硬直した。
「スコール…………私の愛した人……だから……スコールと一緒なら………!」
「だからってそんなバカな真似………!」
「瑛斗」
チヨリちゃんが俺の隣に立っていた。終わったと思って入って来たのか。
「チヨリちゃん! オータムが!」
「止めるな」
「でも━━━━!」
「あれが、オータムの選択なんじゃ」
チヨリちゃんの目は、歳不相応なほどに冷たかった。
もう一度オータムを見る。スコールに寄り添って、どこか満ち足りた表情をしてるように見える。
「………!」
納得しようとした。
だけど納得することなんて出来ない。出来るわけないだろ。
こんな……こんな終わり方なんて………!
「行くぞ」
「クソ………クソ!」
悔しさでどうにかなってしまいそうだった。それでも俺は背を向けてこの部屋から出ようとした。
「……ぁ………」
声が聞こえた気がした。
チヨリちゃんじゃない。
オータムでもない。
もちろん、俺でもない。
「え………?」
そんなはずはない。と思った。でも、そうとしか考えられない。
「スコール……!?」
スコールが、目を覚ました。
「……オータム……あなた………」
俺の身体は、その瞬間に二人と、二人を飲み込もうとする破壊の光の間に割って入っていた。
「瑛斗っ!?」
一瞬でもう一度G-spiritを発動してビームウイングを展開する。
「うあああああああああああっ!!!!」
G-spiritのビームウイングに、超大出力のビームが吸い込まれていく。背中全体で激流を受けてるみたいだ。
オータムがスコールを抱きしめたまま、俺を見た。
「ガキ……お前………?!」
「言っただろ……! 目の前で死のうとしてる人を止めないようなやつは、人間じゃないって……!!」
ウインドウに警報が出た。ビームウイングの吸収許容量が限界を迎えようとしてるみたいだ。
だけど構わず俺はビームを吸収し続ける。
「それに……! 俺はスコールから本当のことを聞かなきゃならない……!!」
悪いなG-soul……! もう少しだけ頑張れ……!!
けたたましいアラームが鳴り響いた。吸収量が150%を超えて、ビームウイングの発生基部に亀裂が走る。
「もうやめろよ! お前が死ぬぞ!!」
「いいや……これでいい。これで!!」
右腕にビームメガキャノンを装着して、左腕のBRFシールドを最大出力で起動する。
「はあああっ!!」
左腕のBRFシールドを裏拳の形でビームに叩きつける。するとビームはほんの一瞬だけど流れを止めた。
ほんの一瞬でよかった。
それで、十分!!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ビームメガキャノンから今までにない威力のビームが発射された。当然だ。許容量オーバーのチャージをしたんだからな。
二つのビームがぶつかり合って、
「おおおおおおおおっ!!!!」
メガキャノンのビームがマルクトのビームを飲み込んだ。
マルクトはビームの中に溶けて、その後ろの硝子のドームの壁が粉砕される。
「ハァッ………ハァッ……!」
太陽の光が差した。どうやら外の雨雲が晴れたらしい。
硝子に、ヒビが走った。
そのヒビは全体に広がって、最終的に大きな音を立てながら粉々になった。
「……うぁ…………」
展開を解除して、ドサリ、と尻餅をつくみたいに座り込む。
「瑛斗!」
チヨリちゃんが駆け寄って来た。
「大丈夫か!? 無茶をしおって……!」
「だ、大丈夫……。それより、そこの二人をなんとかしないと」
オータムもスコールも、気を失って倒れていた。
「特にオータムは脚を怪我してるから急いで手当しないと……」
「ちょうどこの建物はベッドやらがある。そこで行おう」
俺はG-soulにもうちょっとだけ頑張ってもらって、スコールとオータムを、両腕に抱えて持ち上げて、激戦のドームを後にした。
そんなわけで無事スコール戦終了です。ですがまだまだ戦いは続きます。
ちなみにですが、瑛斗とオータムが苦戦したビットたちの名前は、『生命の樹』から取っています。