IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
「はぁぁっ!」
「やぁぁっ!」
「ギャアァァ!」
ドカーン!
「……………」
えっと、今の状況を分かりやすく伝えるとだな、ここは放課後の第三アリーナで、いつも通りセシリアと俺で一夏の訓練をしようとしてたところに箒がやって来た。
箒が『今日は私が戦闘技術を教える』って言って一夏と訓練しようとしたら、セシリアが割って入ってきて、そんで二人のバトルがスタート。お互いが一夏に援護に回るよう言ってきたから、どうしていいか分からない一夏はとりあえず俺と組んで二人を止めようとしてるんだが………
「ちょ、お前らっ、なんで俺だけに攻撃を!?」
俺には全然攻撃が来ない。ただただ、一夏がタコ殴りにされてるだけ。
「ええいっ!いつまで逃げている!攻撃してこんか!」
「そうですわ!一夏さんが攻撃してこないと始まりませんわ!」
「お前らの攻撃が激しすぎるんだよー!!」
「…………はぁ」
いつまで続くんだ、この光景は……。
とりあえず今日の訓練はできそうにないな。……おっと、流れ弾。
◆
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」
「お、おう……」
あれから二時間ほど経っただろうか。
二人もようやく落ち着いたみたいで、訓練(?)はお開きとなった。
結局、始終一夏が攻撃されてただけだったな。まあ、少なくともIS操縦の訓練にはなっただろ。
「まったく……無駄な動きが多いからそうなる」
「う………」
訓練が終わり、ピットに戻ってから箒が髪を結いなおしながら一夏に小言を言っている。一夏も苦労が絶えないな。
「そう言うなよ。一夏だってISの操縦は大分慣れてきたみたいだしよ」
「瑛斗、そうは言うが一夏にはまだ戦闘の訓練が足りない。もっと訓練が必要だ」
「まあ、武器は雪片だけだもんな……」
一夏の白式の武器の雪片弐型は、シールドエネルギーを攻撃に転換してその攻撃力を上げる言わば諸刃の剣。扱うにはそれ相応の技術が必要だ。
「せめて白式にもう少し
俺が研究員モードで考えていると、ピットの入口がバシュッと開いた。
「一夏! お疲れ様。はいこれタオル。それとスポーツドリンクね」
勢いよく入ってきたのは鈴だった。
「お、おう。サンキュ」
一夏がそれを受け取ると鈴と話し始めた。
「………………」
「ん? どうした? ご機嫌斜めだな」
「……なんでもない」
おお、怖い怖い。不機嫌オーラが全開だ。
「そうだ、箒、今日は俺に先にシャワー使わせてくれよ」
一夏が箒に顔を向ける。別にどうでもいいが、いつもは箒が先にシャワーを使ってるみたいだな。
「へ? 先に? 使わせてくれ? 」
鈴が急に凍りついた。どうしたんだろうか。
「ん? ああ、言ってなかったな。俺と箒は部屋が同じなんだよ」
「部屋が一緒!? え、てことは何? アンタ、あの子と寝食を共にしてるってわけ!?」
ビシッと箒を指差し、目をグルグルさせながら鈴は一夏に問いかけた。俺はどうでもいいと思ってたんだが、鈴はどうでもよくないようだ。
「ああ、そうなんだよ。いやー、幼馴染の箒がルームメイトで良かったよ。これで全然見ず知らずの人だったら俺、気が気じゃなかった」
あっはっはと笑っている一夏。だが、鈴は下を向いている。
「………ったら、いいのね?」
「ん?」
「幼馴染だったらいいのね!? いいわ! わかったわ!」
ど、どうしたんだ?いきなり鈴が一夏をまくし立てて出て行ったぞ?
「なんだったんだ?」
「さあ? あ、箒、シャワーのことだけど………」
「ああ、別に構わん」
箒はそのままピットを出て行った。しかし何だろう?この嫌な予感は……。
◆
「というわけだから、部屋代わって」
「「「……………は?」」」
時間は八時過ぎ。夕飯を食べ終わって、一夏と箒の部屋で俺は白式のデータ解析を頼まれたのでパソコンをいじっていたら、突然鈴がやって来た。
「や、鈴。それって一体どういう━━━━」
「ふ、ふざけるな! いきなりやって来て部屋を代われだと!?」
修羅場スタート。もうやだ……。
「篠ノ之さん? だっけ? いやー男と相部屋だと気を遣うし、のんびりできないかなーって。その点アタシはそういうの全然気にしないから」
「それは私と一夏の問題だ! 部外者は黙っていろ!」
箒が怒髪天を超えんばかりにブチ切れている。触れれば切れるような殺気もセットだ。
「アタシも一夏の幼馴染だし? 部外者ってことは無いわよ」
ふふんと鼻を鳴らしながら答える。
「も……もう限界だ!もう許さん!絶対に許さん!」
「あ━━━━!」
言うより速く、箒はいつでもとれるようにベッドに立てかけてある竹刀を鈴の頭に向けて振り上げた。
「おい!箒!?」
一夏の制止も聞かず、真っ直ぐ振り下ろされる竹刀。流石にこれはマズイだろ!
激しい音が、響いた。
「鈴!大丈夫………か?」
見ると、振り下ろされた竹刀は鈴の右腕に部分展開されたISに阻まれていた。
「なっ……!?」
「……!」
俺は驚いていた。
何に驚いたって、鈴の挙動にである。
ISの展開にはその操縦者の判断が絶対に必要だ。つまりISの展開時間は人の反射時間を超えることは無い。
しかも今の箒が放った剣撃は常人が反応できる速度ではなかった。要するに、これは鈴が相当の実力者であることを明瞭に示していた。
「ふぅ、アタシだから問題ないけど、今の普通の人だったら本当に危なかったよ?」
部分展開を解除し鈴は箒に言った。
「う………」
なにより自制心を失っていたことを指摘されて箒は俯いた。
「ま、良いわ。そんなことより一夏。約束、覚えてる?」
「約束?」
「その、覚えてる………よね?」
急にしおらしくなり、上目づかいで一夏を見ながら鈴が聞いた。凄い変わりようだ。
「約束…………あ、もしかして」
「!」
「鈴の料理の腕が上達したら毎日酢豚を」
「そうっ!それっ!」
ふむふむ、毎日酢豚を?
「おごってくれるってやつか?」
毎日酢豚をおごってもらう、か。なかなかヘビーな約束をしたもんだ。
「へぇ、そりゃまたすごい約束だな」
俺が笑いながら言うと、下を向いて唇を噛み締めている鈴が見えた。な、なんだなんだ?
「あ……」
「り、鈴? どうし━━━━」
乾いた音が弾けた。
鈴が突然、一夏の頬を張ったんだ。どういうことだ?
「アンタ……最っっっ低!女の子とした約束も覚えてないなんて、男の風上にも置けないわね!」
一夏を罵倒し、鈴は部屋を出て行った。チラと見えたが、アレは泣いてたな。
「やべ。怒らせちまった………」
「ああ。少なくとも、毎日酢豚をおごってもらうって約束はしてないってことだろ?」
俺は肩を竦めるしかない。本当の約束の内容はどんなものなんだろう。
「………………」
頬を押さえている一夏を見下すように見る箒は鋭く言った。
「━━━━馬に蹴られて死ね」
こ、怖いって………。