IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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飲み込まれる者たち 〜または無音の破壊者と再見する狂獣〜

「うおおおっ!」

ブレードとブレードがぶつかり合って火花が散る。

「いい踏み込み! でも!」

「くっ…!」

整備科の人たちの助っ人として現れた楯無さんはマシンガンから弾丸を連射して俺の動きを止めて距離を取る。

「おねーさんには通用しないぞ?」

小首を傾げてくる楯無さんに俺は口を尖らせた。

「まったく、なんなんですか。そのISは。《ラファール・リヴァイヴ》の改造機かと思ったら、《打鉄》のブレードまで装備していて、おまけにラファール以上に速いし打鉄以上に装甲が堅い」

「ええ。薫子ちゃんたちが改造したんだもの。凄いに決まってるわ。ラファール・リヴァイヴに打鉄の武装を追加して装甲強度と機動力を高めた、その名も《スーパー・ラファール》!」

「スーパー……ラファール……?」

 

「ちなみにこの名前のあとに(仮)がつくわ。結局決まらなかったのよ」

 

「いや、知りませんて」

(ようは、ラファール・リヴァイヴと打鉄のいいとこどりってわけか。速いし堅い……おまけに訓練機がベースだからクセが全くない。それにBRFが意味ないし、なにより━━━━)

試合が始まって少し経つ。大体の向こうの機体特徴は把握したつもりだけど……

「使ってる人が強烈すぎるっつーの……」

独り言を呟き、ビームカノンをコール。ロックオン対象はもちろん《スーパー・ラファール(仮)》だ。

「あら、今度は遠距離戦?」

楯無さんは浮遊するシールドアーマーを前に展開して防御の体勢をとる。

「いけっ!」

トリガーを引くと砲口から深い赤色の高出力ビームが飛び出した。

「てやぁっ!」

 

前に出たシールドアーマーに激突したビームは、激しいスパーク音を轟かせながら四方八方に散らばる。

(やっぱり通らないか……。だったら!)

ビームカノンの砲口を少しだけ下げて地面に当てる。

「むむ?」

楯無さんの周りに土煙が立ち込めた。

俺はその土煙の中に飛び込み、楯無さんの背後を取った。

(食らえ!)

ブレードを振り下ろすと、手応えがあった。

 

「当たり!」

「ハ・ズ・レ♡」

「!?」

直後、背中に連続した衝撃が走った。アサルトライフルによる銃撃だ。

「ぐあっ!」

よろけたところに追い打ちの斬撃が来た。直撃を食らった俺は数メートル吹っ飛んで地面に転がる。

「狙いは良かったけど、私には通じないのよね」

言いながら楯無さんは土煙が晴れた地面に突き刺さった打鉄のブレードを抜いた。

(やられた…! 俺がさっき攻撃したのはアレか!)

ギリ、と奥歯を噛み締めて立ち上がる。

(エネルギーはまだ大丈夫…だけど流石にこっちが不利だぜ……!)

せめてこのクローアームが使えればまだ可能性はあるけど、そんな都合よく動いてくれるわけがない。

「さてと、そろそろフィニッシュと行きましょうか」

言うと、スーパー・ラファールの腰の装甲が瞬く間に展開して、二本のサブアームに姿を変えた。

二本のアームはそれぞれ打鉄のブレードを握り、楯無さんは自分の両手にマシンガンとアサルトライフルを構える。

「本気ってわけですか……」

「まあね」

クス、と笑った楯無さん。

 

「この機体ね、薫子ちゃんたちが総力を挙げて造ったものなんだけど、性能が高すぎて整備科には扱える人がいなかったのよ」

 

次の瞬間には目の前に迫っていた。

「それが━━━━私が使ってる理由でもあるの」

 

「……ッ!」

咄嗟にガードをする。

「遅い!」

「うっ……! うああっ!?」

しかし弾丸と斬撃が同時に襲い掛かり、セフィロトのエネルギーが急速に減っていく。

(ここまでか……!)

覚悟を決める。そこで変化が起きた。

装甲の継ぎ目から、青い光が漏れている。

━━━━誰ダ━━━━

声が聞こえた。頭に直接響くような、そんな声。

━━━━我ヲ呼ブノハ、誰ダ━━━━

今度ははっきり聞こえた。けど、声が大きくなる度に、だんだん意識が遠のいてく。

━━━━我ヲ呼ブノハ……誰ダ!!━━━━

さっきから声はどんどん大きくなる一方だ。

エネルギーパーセンテージ……問題無し━━━━。

操縦者身体状態……良好━━━━。

システム……稼働確認━━━━。

 

目の前を様々な情報が流れていく。そこで俺はハッとした。

(マズい! これは……!)

 

サイコフレーム……start up━━━━。

そこで俺の視界は真っ黒に塗り潰された。

 

「やっぱり、こうなったわね……!」

楯無は、自分の頬を汗が伝うのを感じた。

彼女の目の前には、青い光を鼓動のように明滅させているセフィロトを身にまとった瑛斗がいる。

 

しかしその顔はフェイスマスクに覆われ、表情は分からない。

「グゥゥゥ……」

セフィロトの両手のクリアブルーのパーツが、瑛斗の手を覆いかぶさるように包む。それと同時に背中の突起が飛び出し、腕と背中の二対の豪爪がその姿を見せた。

「ガアアアアアアッ!!!!」

発せられたその咆哮は、衝撃波となってアリーナ全体と楯無を襲った。

ビリビリと伝わる衝撃を楯無はなんとか堪え、瑛斗から距離を取る。

(今度はこっちが不利ね……)

楯無はスーパー・ラファールから降り、その瞬間に専用機の《ミステリアス・レイディ》を展開した。

「ダメ元だけど……。瑛斗くん! 私が分かる!?」

呼びかけるが、返事はない。

「ガアァッ!」

その代りに右手のクローアームから五本のクローが射出された。

「うわっと!」

回避すると、瑛斗は高速でこちらに突進してきた。

「やっぱり、サイコフレームに呑まれてるのね!」

ランス《蒼流旋》に内蔵されたガトリングから弾丸を飛ばす。しかしそれは簡単に躱され、一気に目の前まで距離を詰められた。

「ヤバ━━━━」

攻撃が来ると直感したが、楯無の勘は外れた。

「グオオォォッ!!」

「え!?」

瑛斗は楯無を素通りし、大きく飛躍。アリーナから飛び出していったのだ。

「一体どう━━━━」

そこで楯無の脳内に今考えられる最悪のケースが浮かんだ。

(まさか……! 瑛斗くんの……セフィロトの狙いは!)

「マズイことになったわよ……!」

楯無も上空に舞い上がり、急いで瑛斗の後を追った。

 

「え……? なに? なんなの?」

「急に二人ともどこか行っちゃったけど……」

「なんだか、ヤバそうじゃない?」

対戦していた二人がいなくなり、一転して静まり返った第三アリーナで、取り残されたIS学園生徒たちはそれぞれの顔を見合わせた。

『第三アリーナにいる生徒全員に通知します。これから指示があるまで、絶対にここから出ないでください。繰り返します。第三アリーナにいる生徒は絶対にここから出ないでください』

IS学園の教職員のアナウンスが響く。

ざわざわとにわかに騒がしくなる観客席の生徒たち。

しかし、シャルロット、ラウラ、簪が座っていた座席には、彼女たちの姿は既になかった。

 

瑛斗が暴走を始めたのと同じ頃の第一アリーナ。

「たああああっ!」

「………!」

ここでも、激しい戦闘が繰り広げられていた。

鈴の駆る甲龍の双天牙月が梢の駆るフォルヴァニスのソードと激突する。

「この前のは途中で中断されたけど、今度は!」

そこで鈴は牙月をバトンのように回して梢のソードを弾き、衝撃砲の砲口を開いた。

「ちゃんと勝たせてもらうわよ?」

「……ッ」

衝撃砲の直撃を受けて吹き飛ぶ梢。

「一夏っ!」

「了解!」

そこに一夏が追い打ちをかけんと《雪片弐型》を振り上げた。

「だああっ!」

しかし、その攻撃は梢に届く直前で弾かれた。

「やらせません!」

「蘭か!」

一夏の前にフォルニアスを展開した蘭が立ちはだかり、リフレクト・ウォールが発動したのだ。

「梢ちゃん!」

「……うん」

フォルニアスの肩越しにレールガンの砲口が覗き、一夏は回避の姿勢を取った。

「チッ!」

「……甘い……!」

一夏の避けた先では梢はレーザーガンの引き金を指にかけていた。

「ちっ━━━━!」

回避が間に合わず、白式の装甲をレーザーが叩いた。

「……もう一撃」

逆に一夏を追い詰めた梢は右手の電撃掌、ボルテック・フィストを起動して一夏に迫る。

「やらせないんだから!!」

 

そこに鈴が投擲した牙月がブーメランのように回転しながら飛来した。

「危ないっ!」

いちはやく察知した蘭はフォルニアスに積まれたミサイルを発射して牙月を止めた。

「一夏、大丈夫!?」

牙月を回収し、鈴はそのまま一夏とともに梢たちと距離をとる。

「ああ! まだまだいける!」

一夏は頷いてから並んで立つ蘭と梢を見やった。

「それにしても、厄介だな」

これまでの戦闘を思い起こし、鈴はつぶやく。

「蘭があの戸宮の近くにいると攻撃が弾かれる……」

「って、ことは…」

一夏はそこまで言って、目だけを動かして鈴の顔を見る。鈴はそれに応えるように小さく笑った。

「……単純すぎるけど、そうするしかないわねっ!」

鈴は一気に加速をかけて飛び出し、蘭に迫った。

この時、リフレクト・ウォールの条件を一夏と鈴は把握していなかったが、蘭と梢が近くにいると攻撃が通用しなくなるとはなんとなく理解していた。

「蘭! アンタの相手はアタシよ! 覚悟しなさい!」

「きゃあ!」

蘭に体当たりをかけて梢と無理矢理距離を離させる。

「……………」

梢もそれを追いかけようとするが、後ろからのロックオン警報によって動きを止めた。

「悪いけど、戸宮ちゃんの相手は俺だ」

振り返ると第二形態雪羅を発動し、追加武装の《雪羅》を構えた一夏が立っていた。

「……相手にとって不足はない」

梢は無言のまま右手のソードを構えた。

「行くぞっ!」

梢は雪羅からの高出力レーザーを縦回転飛行で躱し、一夏に接近する。

「はああっ!」

雪片弐型から発せられるエネルギー刃が眼前に迫った。

「………」

梢は腕に意識を集中させ、肘部分のブースターによるさらなる加速でそれを躱す。そして左手に構えたレーザーガンを一夏に向けた。

連射されたレーザーは確実に雪羅のエネルギーを削っていく。

「やるな! けど!」

一夏はその攻撃に怯むことなく踏み込み、横なぎに雪片弐型を振るった。

「であああっ!」

「……ぐ……!」

直撃はなんとか避けたが、斬撃の凄まじい威力に耐えきれず、梢は大きく吹き飛ばされた。

「……………」

体勢を立て直したところで、横に何かが飛来した。蘭だった。

「うぅ……」

その装甲はボロボロに削られていた。見れば、鈴が勝ち誇ったように双天牙月を肩に担いでいる。

「鈴、やり過ぎだぞ」

流石に可哀想に思った一夏はプライベート・チャンネルで鈴に回線を開いた。

『何よ、蘭のやつ結構頑張って応戦してきたのよ? むしろあれはご褒美ね、ご褒美』

鈴は唇を尖らせながら一夏の隣に立つ。

「ごめん梢ちゃん、結構ヤバいかも……」

「………………」

梢の手を借りて起き上がった蘭は、苦々しい表情でささやいた。

そこで、フォルヴァニスにプライベート・チャンネルが入った。

『━━━━苦戦しているようだな』

相手の顔は映らないが、声は梢に指示を出していた男の声であった。

「………………」

『これより、計画を実行する。アクセスしろ』

(……来た。この時が……)

梢は覚悟を決め、フォルニアスの肩に手を置いた。

「……蘭」

「どうしたの?」

涙を溜めた瞳を蘭を向ける。

「……………ごめんなさい」

「え━━━━」

カッッッ!!

フォルヴァニスのヘッドギアから水色の光が溢れた。それに呼応するように、フォルニアスの装甲が赤色に輝きだした。

「な、なんだ!?」

一夏は目の前で起きた現象を理解できず思わず言葉を漏らす。

「あの光は……!」

鈴は蘭と梢を包みこむ輝きに嫌な見覚えがあった。

(まさか……でも、そんなことって━━━━!?)

光が収縮する。はじめに中から出てきたのは、紅い機体色のフォルニアスだった。しかし、様子がおかしい。

「蘭、だよな……?」

一夏と鈴の前に立つフォルニアスは大理石の彫刻のような白いフェイスマスクで蘭の顔を隠し、その装甲の奥から赤い光が滲み出していた。

だが、もっとも目を引くのは、その全身にフォルヴァニスの武装と装甲を装備していることである。

「……………」

隣に立つ梢の纏うフォルヴァニスは、最低限の装甲だけを残し、二本の角のようなヘッドギアは水色の光を明滅させている。

「合体した……?」

 

一夏の口の端から漏れた言葉は、まさしく的を射ていた。

「あ、アンタ! 蘭になにしたの!」

鈴は梢を指差し、叫ぶように問いかけた。

鈴の問いに、梢は涙を流しながら答えた。

「……これが、フォルニアスの本当の姿」

「本当の……」

「姿ですって……?」

そこで、フォルニアスが動いた。

 

超高速で鈴に接近し、フォルヴァニスの武装である《ボルテック・フィスト》を叩き込む。

「あああっ!!」

吹き飛ばされた鈴は壁に激突する。

「鈴っ!?」

援護しようとした一夏に振り返り、レーザーガンの砲口を向けた。

 

「ぐああっ!」

数段跳ね上がった威力のレーザーが一夏に直撃した。

「く…戸宮ちゃん! 蘭はどうしたんだ!?」

一夏の問いに、梢は諦めたような笑みを浮かべて答える。

「……《フォルヴァ・フォルニアス》」

「え?」

「……フォルヴァニスは……フォルヴァ・フォルニアスの攻撃用武装を集めたIS。フォルニアスは……フォルヴァ・フォルニアスの防御用武装を集めたIS」

「なあ頼む! 分かるように言ってくれ!」

「……フォルヴァニスと、フォルニアスは、二つで一つ。もう、止まらない……!」

そこで一夏に通信が入った。

「楯無さん? どうしたんです? 今こっちは━━━━」

『一夏くん! 気を付けて! そっちに━━━━』

「!?」

楯無の言葉の直後、一夏は嫌な予感を感じて、梢を抱きかかえてその場から瞬時加速で離脱した。

刹那、何かが二秒前まで一夏が立っていた地面を破砕した。

「な…!」

一夏は戦慄した。立ち込める土煙の中から出てきたのは……

 

「グウゥゥゥ………!」

「セフィロト…! 瑛斗か!?」

漆黒の装甲に身を包み、内側から青い色の光を放つ、セフィロトを身に纏った瑛斗であった。

「グオオオオアアアアアアアアァァァァァァッッ!!」

瑛斗の咆哮が、大気を震撼させる。あまりの衝撃に客席からも悲鳴が上がった。

『緊急事態発生! 生徒はその場を動かないように!』

緊迫したアナウンスが鳴り響く。それを皮切りに、アリーナはパニックになった。

「………」

しかし、緋と藍の装甲を身に纏う蘭は、この喧騒に反応を示さず、暴走する瑛斗の前に立った。

「ガアアァッ!」

クローアームを構えた瑛斗は、獲物を見つけた飢えた獣のように蘭に突進する。

ドッッッ!!!

激突する二人の周囲に、衝撃波が起こった。

「……な、なに…あれ……」

ぶつかり合う二機のISを見ながら梢はつぶやく。

「始まったか……!」

一夏の横にミステリアス・レイディを展開した楯無が降り立った。

「楯無さん! どうして瑛斗は暴走してるんですか!」

「一夏くん、よく聞いて。フォルヴァニスとフォルニアスにはサイコフレームが組み込まれてるの」

「そんな……!?」

一夏は梢を見るが、梢は逃れるように目を伏せた。

「サイコフレームが、別のサイコフレームと反応する場合があるのは瑛斗くんから聞いてるわよね」

「はい。でも、なんでさっきから瑛斗は蘭とだけ戦ってるんですか? 前と同じ暴走なら、俺たちだって狙うはずじゃ……」

「確かなことはエリナさんに聞かなくちゃ分からないけど……私たちのやることはただ一つよ」

「あのバカ二人を止めるのよね?」

鈴が一夏たちのもとへ戻ってきていた。甲龍の装甲は軽微だがところどころに損傷が見られる。

「鈴、平気か?」

「アレくらい、どうってことないわ」

「……どうやって、止める」

一同は震える声を絞り出した梢を見た。

「……フォルニアスが完全体になったら……もう止まらない……!」

「どういうことなの?」

「……プログラムが組み込まれてる。《コード・ベルセルク》……」

「ベルセルク?」

「……マーシャル社が……彼が極秘で作り上げて組み込んだ、無差別破壊システム」

 

「無差別破壊!?」

 

「……操縦者の限界を無視し、たとえ操縦者が力尽きても暴れ続ける……!」

「力尽きてもって……ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

そこで鈴が梢の肩に手を置いた。

「それじゃあなによ? 蘭はそれを分かっててああなってるっていうの!?」

梢は首を横に振る。

「……蘭は、何も知らない。今の蘭には多分、意識が……ない」

「ふざけんじゃないわよ!! アンタ蘭になんてことを!」

 

「鈴ちゃん落ち着いて。その子には後でじっくり話を聞かせてもらうわ。とにかく、あの二人を止めないと」

突き飛ばすようにして、鈴は梢の肩に置いた手をどけた。梢はフラフラとよろめき、地面に座り込んだ。

 

『お姉ちゃん!』

オープン・チャンネルの通信が入った。簪からである。

『瑛斗は今どこに……!?』

「いま目の前にいるわよ、結構ヤバい状況よ」

『我々もすぐに到着します』

ラウラとシャルロットも通信画面に顔が映し出され、その言葉通りすぐに一夏たちのもとへ降り立った。

ドガァンッ!

「一夏!」

「一夏さん!」

「お兄ちゃん!」

防護壁の一部を破壊した箒、セシリア、マドカがISを展開してアリーナに飛び込んできた。

「瑛斗……」

シャルロットが激突を続ける瑛斗を見てつぶやく。

「先生たちが来るまで持ちこたえる。そうすれば━━━━」

「残念だけど、それは望めそうにないわ」

ラウラの考えは楯無によって否定される。

「どうして……?」

「本音から通信が入ったの。システムにハッキングがかけられてるわ。先生たちが待機してる場所からの緊急経路が遮断されてるらしいの」

そんな………という簪のあと、梢がつぶやいた。

「……最低でも、ニ十分は足止めされる」

「これもアンタがやったの!?」

鈴が食って掛かるが、梢は俯き、黙ったまま答えない。

ドゴォォン!!

前方で轟音が鳴り響いた。

「グアアァァッ!!」

土煙から飛び出した瑛斗は再び蘭とクローアームとブレードを激突させる。

「とにかく今はあの二人を止めるのが優先されるわ。一撃必殺の攻撃ができるのは一夏くんよ。とどめはお願いね」

「はい!」

楯無の言葉に一夏は頷く。

「それと……梢ちゃん、あなたはここにいて。逃げようとしても無駄なのは、あなたが一番分かってるだろうけど」

「……………」

梢は頷きもせず、ただ俯くだけである。

「行くわよ! 被害を最小限に抑えるの!」

一同は激闘を繰り広げる瑛斗と蘭の周りに散り始める。

「……………」

ただ一人、梢だけは、その場を動くことができなかった。


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