IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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策謀のタッグマッチ 〜または学園最強の助っ人〜

日曜日。今日は二つのアリーナで二つの試合が行われる。

第一アリーナでは蘭と梢の一年生専用機持ちによるコンビと、鈴と一夏によるコンビの戦闘データ収集を兼ねたタッグマッチ。

第三アリーナでは整備科が改造したISと、セフィロトを使用する瑛斗が試合をする。この試合は瑛斗が負ければ整備科への強制所属という本人の了承も得ないままのペナルティが存在している。

第一アリーナには蘭と梢がすでにピットに入っており、向かいのピットには鈴と一夏もいる。

「すごい人だね~。緊張しちゃう」

ISスーツを着た蘭は外を映すモニターで観客席の人の多さを確認して思わず言葉をこぼす。

「頑張ろうね、梢ちゃん!」

「……………」

声をかけられた梢は無言で俯いたままである。

「梢ちゃん?」

「……え? う、うん。そうだね」

名前を呼ばれて慌てて取り繕う。

「どうしたの? 朝から元気がないみたいだけど……」

心配するように梢の顔を覗き込む蘭。

「……大丈夫。心配ない」

梢は小さく笑ってみせた。

「なら、いいけど…」

蘭もそれを信じてまたモニターに顔を向ける。

「……………」

梢は再び俯き、右手の人差し指の待機状態のフォルヴァニスに触れる。

(……分かってる。辛いけど、こうするしか、ないの)

口には出さず、しかし自分に言い聞かせるようにフォルヴァニスの声に返事をした。

 

「うー、なんだか緊張するな」

蘭たちのいる場所の反対側のピット。そこでは一夏が蘭と同じようにモニターを見てそうつぶやいていた。

「なに情けないこと言ってんのよ!」

そう言って一夏の背を叩くのは鈴だ。

「いってーな、何すんだよ」

鈴は、いい? と前置きを置いて左手を腰にやり、右の人差し指で一夏を指差しながらから言った。

「今日は一年生たちにアタシたち先輩がいかに強いのか教えるいい機会よ!」

「お、おう。確かに、後輩になめられたら面目が立たないな。でも、それって逆に言えば勝つっきゃないってことだよな?」

「もちろん! 絶対勝つわよ! 勝って蘭と、あの無口なオランダ代表候補生の鼻を明かしてやるんだから!」

「な、なんだかよく分からんけど、燃えてるなぁ」

メラメラと鈴の背中に炎を幻視した一夏は(鈴に負けないように俺も頑張らねぇと!)と息巻いた。

(ふふふ……この一週間、二人っきりで一夏と一緒に訓練できたし、その成果を見せるんだから、そりゃやる気も出るってもんよね……!)

鈴のテンションが高いのはそれが一因でもある。間近で一夏の凛々しい姿を見れるとなれば、鈴の乙女心のボルテージは青天井になるのは必然だ。

「箒とセシリアにも自慢できるし……………えへへっ♫」

「ん? 箒とセシリアがなんだって?」

「えっ!? あ、ううん! なんでもないなんでもない!」

ブンブンと頭を横に振ると、鈴のツインテールもそれに従ってブンブンと振られる。

「?」

一夏は首を傾げたがそれ以上は追及せず次の話題に入った。

「そう言えば、瑛斗は第三の方で試合なんだよな」

あっちも凄い人みたいだ。と言った一夏に鈴は頷く。

「そ、そうね。アイツもセフィロトの制御で結構苦労してるみたい」

「整備科との対決って、相手は誰なんだろうな」

「んー、整備科の人達って、戦う姿見たことないわね」

『間もなく試合を開始します。両タッグはアリーナへ出てください』

そこでピット内にアナウンスが響いた。

「お、時間みたいだ。行こうぜ、鈴」

「うん」

二人は《白式》と《甲龍》をそれぞれ展開し、物々しい音を立てながら開くゲートの前に立った。

 

「……………」

アナウンスに従ってアリーナに出た瑛斗は《セフィロト》を展開し、大歓声を浴びながら、まだ現れない対戦相手について考えていた。

(で、誰が相手なんだろうなぁ…)

頭の中で昨日の夜からの疑問を再び浮かべる。

(一番候補なのは黛さん。でも活発的な感じなら、京子さんだよな。……大穴でのほほんさんとか)

そこまで考えて、瑛斗は後ろの観客席へ振り返る。そこには席に座ってこちらを見るシャルロット、簪、ラウラが確認できた。

(さっきピットにいたときにラウラが『整備科の者が相手なら、十分勝てる』って言ってくれたけど、そうならありがたいぜ)

そこで歓声が一層強くなった。見れば、瑛斗の視線の先のピットのゲートが開きはじめていた。

(出てきた。さあ、相手は………)

そこで瑛斗は思考を中断した。

目の前に立ったのは、《ラファール・リヴァイヴ》の原型がかろうじて見受けられるISに身を包み、不敵な笑みを浮かべる、髪が上に跳ねた癖っ毛な……

「や、瑛斗くん。おねーさんが君の相手だぞ☆」

フリーダム生徒会長、更識楯無であった。

「……………」

瑛斗は楯無の星が出るウインクをスルーし、後ろの観客席に振り返った。いや、正確にはラウラを見た。

「………」(パクパク)

声は大歓声で聞こえないので口を動かし、ラウラに読唇術で意志を伝える。

(『話が違うぞオイ』……か)

読み取ったラウラはタラ、と汗を一筋垂らす。

「……………」(プイ)

そして、気まずそうに顔を逸らした。

「顔逸らすな!」

瑛斗はたまらず叫ぶ。しかし声は歓声で届かないので、

「……はぁ、何のマネですか。楯無さん」

諦めて腕を組み、前に立つ楯無に顔を向けてオープン・チャンネルを開いた。

「あら、おねーさんが相手じゃ物足りない?」

「足りすぎてお腹いっぱいです。てか、そうじゃありません。なんで整備科のみなさんと俺の対決に楯無さんが首を突っ込んでるんですかって聞いてるんです」

「だってぇ、瑛斗くんのセフィロトは最新の第三世代機体だし、フェアにするなら私が出るしかないって薫子ちゃんが言うから、じゃあ私がやってあげようってね」

「そう来たか……」

わざとらしく身体をくねらせる楯無に、瑛斗はがっくりとうなだれる。

 

見れば、楯無が出てきたゲートがわずかに開いており、顔を出した薫子や本音、その他整備科の面々が舌を出して悪戯っぽく笑っていた。

「ほらほら、負けたら整備科に強制所属よ? 頑張って!」

「対戦相手にそんなこと言われるなんて、世も末だな……」

「うふふ♫ さて━━━━それじゃあ始めましょうか」

試合開始のカウントダウンが始まり、楯無が身構える。

(どうする……? 負けたら整備科へ入れられる。決して嫌じゃないけど、この流れで負けるのはなんか納得がいかない……)

短い時間で瑛斗は思考を巡らせる。

(でも暴走なんてしたらマジで洒落にならない。止めるか? けど楯無さんはそんなの聞きそうにないし……………)

「………だー! もう! なるようになれってんだ!」

瑛斗が半ば自棄になって叫ぶのと、開始のブザーが鳴ったのはほぼ同時だった。


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