IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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それは天の恵みか、悪魔の契約か 〜またはその手綱は掴めない〜

「………………」

放課後、俺は第一アリーナにいた。

「………………」

「………………」

「………………」

俺の近くにはシャル、簪、そしてラウラが俺を囲むようにそれぞれのISを展開している。

「……いくぞ」

俺が告げると三人とも無言で頷いた。

「来い……《セフィロト》!」

念じ、セフィロトの姿をイメージして展開する。

首のチョーカーが光を放ち、俺の身体が黒い装甲に包まれた。

「ここまでは問題ないね……」

シャルの言葉に俺は頷く。

「だから、問題はここからだ」

 

みんなの表情が一層固くなる。

俺は足に力を入れて気張った。

「ふっ……!」

それを合図にするようにみんな各々の武装を構えた。

「んぐぐ……!」

俺はさらに力を込める。

……しかし何も起こらない。

「んぐぐぐ………!」

めげずに力を込め続けるが、

「え、瑛斗、大丈夫?」

「無理はするな」

「顔、真っ赤……」

みんなが言うとおり、黒い装甲に顔真っ赤というなんとも悲しいことになってしまう。

そして。

「……っぶはあっ! ダメだぁ~っ!」

息を吐いて地面に座り込む。

俺がやろうとしているのはサイコフレームの起動だ。しかしご覧のとおり上手くいってるわけがない。例のサイコフレームは装甲の内側でだんまりだ。

「本っ当に言うこと聞かねえなぁおい!」

俺は左腕で右腕の装甲をゴンゴンと叩く。

「日曜日に整備科の人達と勝負するってのに」

「瑛斗、そう落ち込まないで」

シャルが近づいてきて優しく言ってくれた。

「そうは言うけどよ……」

「サイコフレームが使えなくても……性能でカバーすれば、大、丈夫」

「俺としては使えるようになっておきたいんだよな~」

俺は大の字に寝転んだ。

俺の懸念は一つ。整備科の人達がどんなISで俺との模擬戦に臨むのか、ということだ。

敵の能力が未知数な場合、こちら側は万全を期して備えるのがセオリー。にもかかわらず、このISと来たら。

「まったく……! あんまり言うこと聞かないんなら、バラバラに分解しちまおうか!」

「ダメだ。エリナ殿から言われているだろう。機体を弄るなと。分解など以ての外だぞ」

俺の一言をラウラがぴしゃり。

「わーってるよ。仕方ない、とりあえずコイツの武器だけでも使いこなせるようにしないと」

俺は立ち上がってウインドウを開いて武装一覧を見た。

今のセフィロトの武装は大出力ビームカノン、それとブレードだけ。

みんなの話を聞くと、俺はパンチやキックも使っていたそうだが、そんな戦闘法はヘル・ハウンドを使うダリル先輩だけで十分だ。使うつもりはない。

サイコフレームが発動したときはこの両腕の青い結晶体がクローアームになって、背中にも二本のクローアームが飛び出してきたそうだ。

「ま、無いものねだりはしないでおこう。まずは今度の模擬戦に備えての特訓だ!」

「その意気だ。では私が相手をしてやろう」

ラウラが俺の前に立った。

「言っておくが手加減はしないぞ?」

「ああ。よろしく頼む」

笑みを浮かべるラウラに俺も負けじと強がってみる。

「行くぞ!」

「よし来い!」

俺はプラズマ手刀を構えたラウラに突進した。

 

 

「ここかぁ」

夜、蘭は自分にあてがわれた部屋の前にいた。混雑を防ぐため、部屋への異動は夕食後となり、蘭は荷物を置いたら大浴場に行こうと考えていた。

初日である今日の授業はISの基礎を学ぶもので、なかなかハードなものだったが、そこは五反田家のしっかり者の長女。予習も万全にしていたので何の問題もなく乗り切ることができた。

(本当に頑張ってよかったなあ。一夏さんにもすぐに会えたし……)

 

蘭がIS学園への進学を決めたのは、一夏がいるから。

 

若干不純かもしれないが、少しでもその背中に追いつきたかった蘭にとって、これは大きな決断であった。

 

(鈴さんに会えたのも、それはそれで嬉しいし……えへへ)

 

上機嫌で扉を開けると、目の前に現れたのは綺麗に掃除された部屋だった。

「すご………」

何より先に蘭がおどろいたのは、その広さだった。

 

自分の部屋と比べると少し……いや、かなり広い。二人部屋だということを差し引いても広い。

蘭は手前のベッドに荷物の入った鞄を置いて、一息ついた。

(それにしても………)

蘭の頭に浮かんでいるのは昼休みに聞いた、クラスメイトの戸宮梢の言葉。

(運命って……どういうことだったのかな)

その言葉が引っ掛かり、蘭は午後の授業で梢の様子を伺ってみたが、特に話しかけてくるでもなく、何事もないまま終わった。

(……そう言えば、私と同じ部屋の人って誰だろう?)

ふと考えた蘭は一度部屋を出て、扉の横に付けられている表札を見た。

「あ」

見れば、自分の名前の隣には『戸宮梢』と綺麗な字で書かれていた。

「同じ部屋なんだ……」

ちょっぴり不安を感じつつも、蘭は部屋に戻る。

「…………」

そこには手に購買で買ったであろう牛乳のパックを持った梢が立っていた。

しかしその梢の恰好が問題だ。体にバスタオルを巻き、髪は湿っている。

つまり、シャワーから上がってきた姿である。

「へ?」

あまりのことに蘭は梢の姿を見たまま止まってしまう。

「……………」

梢も無言のまま動かない。

「わぁ!? ご、ごめんなさい!」

一拍遅れて蘭は飛び上がり、梢に背を向けた。

「ま、まさかシャワー浴びてるなんて思わなくて……!」

あわあわと慌てる蘭に梢は不思議そうに首を傾げてから、

「……別に気にしない」

と言って牛乳パックに口を付けた。

「……服、着てくる。待ってて」

「あ」

蘭が口を開いたときには梢は洗面所への扉の内側に消えていた。

(い、いきなりすごいタイミングで鉢合わせしちゃった……)

そんなことを考えているとすぐに梢は出てきた。Tシャツにスウェットの長ズボンというラフな出で立ちだった。

「同じ部屋、だね。よ、よろしく」

蘭はぎこちない挨拶をする。

「…………」

梢はコクリ、と頷いた。

そのままベッドに向かい、ぽふ、と腰を下ろした。

「……………」

無言の梢は、一見すると何を考えているのかさっぱりわからない。

(無口な子なのかな………)

蘭がどうやってこの無言の空気から会話を切り出そうか考えていると、

「…………」

梢がこっちを向いた。そして無言のまま自分が腰を下ろしているベッドを手でぽんぽんと叩く。

「座れってこと?」

蘭が問うと、梢はまたコクリと頷いた。

言われる(?)まま蘭は梢の隣に座る。

「こ、ここの大浴場はすごいって聞いたけど、そっちにはいかないの?」

「……人が大勢いるのは、苦手」

「そ、そっか」

蘭の何気ない会話のキャッチボールはその一言で撃墜される。

しかし、蘭もそれくらいではへこたれない。

「お、お昼休みの、あの、運命を感じるって、その、どういう意味だったのかな?」

向こうも食いついてくると踏んだ話題を振る。

「……そのままの意味」

梢は反応した。

「……あなたに、運命を感じた。それ以上でも、それ以下でもない」

「だ、だから……その、つまり?」

いまいち要領を得ない蘭は、さらに追及した。

「……………」

梢はおもむろに立ち上がると、所有物であろうトランクへ向かい、その中から小さな木の箱を取り出して蘭に渡した

「?」

受け取った蘭がその木箱を開けると、中には藍色と緋色の二つの指輪が入っていた。

「綺麗……!」

思わず口に出すと、梢の口元に笑みが浮かんだ。

「ねぇ」

「え? わっ━━━━」

蘭を押し倒し、梢は蘭に覆いかぶさるようにしながら言った。

「……私と、専用機持ちになって」

「……………え?」

蘭は最初梢が何を言っているのか分からなかった。

そして脳内で専用機持ちになるとはどういうことなのか思い出すと、さらにわけが分からなくなってしまった。

「だ、代表候補生になるの? 私が?」

梢は頭を横に振った。

「……私たちが、なるの」

「そ、そうなんだ……。って、ますます意味が分からないわよ……」

困惑する蘭に、梢は目を潤ませて言った。

「……………イヤ?」

「そ……そんなこと言われても……。急な話だし……」

梢とベッドの間からなんとかすり抜け、一呼吸。

「と、とりあえずお風呂入って来るね?」

そう言って必要な道具を引っ掴んで、蘭は部屋から抜け出した。

(ど、どういうこと? 代表候補生って、一夏さんたちと同じ、ってことよね? じゃ、じゃあさっきの指輪って、もしかして待機状態のISだったの!?)

早足で大浴場へ向かい、体を洗って湯船につかる。

(専用機持ちって確かどこかの企業とか研究施設からISが送られてきて、それを試験的に運用してデータを取るのが役目なのよね……でも、それ以外にも他にも、えっと、えっと━━━━!)

バシャッ!

「わぶっ!?」

突然お湯をかけられた。

「ちょっと蘭。さっきからなに無視してんのよ」

「り、鈴さん…」

言葉を詰まらせた蘭に鈴はしたり顔をした。

「はっはーん、さては授業がハードでへばってんでしょ?」

「そ、そんなことありません!」

「あらそう?」

「おい鈴。新入生弄りは感心しないぞ」

箒がジト目で鈴を見る。

「何よ。いいじゃない。蘭なんだし」

「どういう意味ですかそれ!」

そこで鈴は少し考えた。

(そう言えば……鈴さんも箒さんも専用機を持ってるんだ)

見れば鈴の腕と箒の手首には待機状態の甲龍と紅椿が。蘭は意を決して聞いた。

「あ、あの!」

「「?」」

話をしていた二人は蘭の方を見た。

「お、お二人は専用機を持ってるんですよね?」

「そうだが」

「それが何よ?」

蘭は湯船の中で正座していた。

「そ、それって、どういう感じなんですか!?」

「どういうって……」

「言われても……」

二人ともうーんと唸って、

「……己を鍛えるもの、だろうか」

箒が答えた。

「これがあることで自分を律し、鍛練にも力が入れることができる。それに……いや、とにかく大切なものだ」

「なるほど………」

「ちょっと、それは箒だから言えることでしょ。代表候補生のアタシなんかになると、研究所からデータを寄越せってしつこいんだから」

「そうだろうか?」

「そうよ。一夏と瑛斗の方はどうかは知らないけど、そう考えてんのは多分アンタだけよ」

ま、なんにしても、と鈴は続けた。

「蘭はどう転んでも専用機持ちにはなれないだろうけど」

「なっ……!?」

蘭は顔を強張らせた。

「途中から渡される例もあるらしいけど、まだ理論学習しかしてない新入生が専用機なんて持てないわよフツー。それこそ代表候補として入って来るなりなんなりしないとね」

「うぅ……」

鈴のドヤ顔に蘭は押される。

「打鉄やラファールなんかの訓練機じゃまず専用機の相手になんないわ。……このおっぱいはそれをやったけどね」

そう言いながら鈴は箒の胸を掴んだ。

「ひゃっ!? な、何をする!」

「それにしてもホントにデカいわ。アタシにも少しくらい分けなさ━━━━」

「そんなことできるわけないだろう!」

「食い気味! アンタ今食い気味に言ったわね!?」

ばっしゃばっしゃと湯船でじゃれあう、というか鈴が一方的に箒に絡んでいるのを無視しながら蘭は考えた。

(そうよね……。やっぱり専用機を持つと大変なのよね……………)

少しネガティブ思考になる。

(でも! 一夏さんも専用機を持ってるんだし、一夏さんの周りには専用機を持ってる人がたくさんいるって聞いたから、私も負けてられないわ!)

しかしすぐに心のボルテージを上げる。それには鈴の言葉も手伝っていた。

「よし!」

ザバッ!

蘭は湯船から立ち上がって、そのまま出口へ歩いて行く。

そのまま体に着いた水滴を拭き、持ってきた部屋着に着替え、そのまま脱衣所を出て廊下を歩く。

最初はゆっくりと、だが、それは少しずつスピードを上げていき、最終的に走っていた。

「梢ちゃん!」

自室の扉を開けると、梢はぽーっとしながらテレビ鑑賞中だ。

「……………」

梢は肩で息をしている蘭を不思議そうに見つめる。

「私、なるよ!」

蘭は梢の両肩に手を置いた。

「専用機持ちになる!」

「………?」

梢は最初きょとんとしてから、

「………!」

コクコクと嬉しそうに首を縦に振った。


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