IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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参上! 中国代表候補生 〜またはファースト幼馴染の嫉妬〜

「というわけで! 織斑一夏くん、クラス代表おめでとう!」

 

「「「「「おめでと~!」」」」」

 

  パン、パンパーンとクラッカーが乱射され、紙テープが一夏の頭に大量に降りかかる。

 

  ちなみにここは寮の食堂である。散歩を再開しようとしたらメールが来て、ここに来るよう言われたのだ。俺が着いたのが最後のようで、俺が来てからすぐにこんな状況になった。

 

「やー、これで断然一組が注目されるよねっ!」

 

「そうだねっ!」

 

  持参した菓子や飲み物を片手に一組のメンバー全員が集合してやいのやいのと盛り上がっている。

 

  だが気になることが二つある。明らかに人数が多い。多すぎる気がする。なんかもう、ごった返している、としか言いようがないのだ。絶対に他のクラスの奴らも来てるよな。

 

「………。」

 

  それともう一つ。当の一夏は全然嬉しそうじゃない。ま、気持ちは分からんでもないが、こうして集まったのだ。楽しまなきゃ損だとは思う。

 

「はいはーい!新聞部でーす!話題沸騰中の男の子二人に独占インタビューしちゃいまーす!」

 

  いきなり現れた女子がそんなことを言って俺と一夏をしっかり捕まえる。周りでは他の女子がオーとさらに盛り上がっている。

 

「あ、これ名刺ね。私は二年の黛薫子、新聞部の部長やってます」

 

「あ、どうも。俺はこういうものです」

 

 俺はステーションに居た頃の癖で持っている名刺と交換した。と言っても、もうこれ一枚しかないのだが。

 

  しかし画数が多いな。書く本人はさぞ大変だろう。

 

「さて!まずは織斑君!クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

  ボイスレコーダーまで出てくるなんて本格的だな。さて一夏はなんて答えるのかな?

 

「まあ、何と言うか、頑張ります」

 

 んだよ、ふつーすぎてつまんないな。

 

「えー、もっとなんかないの?『俺に触るとヤケドするぜ!』的なの」

 

「えらく前時代ですね、それ」

 

  うん、俺もそー思った。

 

「じゃあ………………自分、不器用ですから」

 

「「うわ、前時代的」」

 

  いかん。つい言葉に出てしまった。もう少しなんか選べよ一夏。そんなの所長が見てたDVDでしか、見たことが無いぞ……。

 

「うん、まあ捏造するからいいとして、次は桐野君!」

 

 おい、この人さらっととんでもないこと言ってないか?まあ良いか。さて、俺は何を聞かれるのかな?

 

「えー、好きな食べ物は?」

 

「小学生かよっ!?」

 

  いきなり質問のレベルがガクッと下がってビックリした。なんなんだこの人。

 

「嘘嘘。冗談よ。宇宙での生活はどんな感じでしたか?」

 

  おお、そう来たか。てっきりどうして一人だけ助かったのか、とかそういう方向のを聞かれると思ったんだが、そう言う話題は避けてくれてるようだ。

 

「そうですね。やっぱり無重力は凄いですね。いろんなものがフワフワ浮いちゃうから、あれ取ってとか言われたら投げればいいだけですよ。でも、地球に降りてからは大変でしたね。なんか、こう引っ張られる感じ? っていうのに慣れなくて。あ、いまは大丈夫ですけど」

 

  俺が話し終えると、黛さんは満足げに頷いた。

 

「ありがとうございました。じゃあ、最後に写真を」

 

  そう言われて俺と一夏は並んで立った。すると、一夏の隣にセシリアが立った。どうしたんだろうか?

 

「ん?どうしたセシリア?」

 

  一夏が聞くとセシリアは顔を俯かせて答えた。

 

「な、何でもありませんわ……」

 

「おお、専用機持ちが集合!これはいい写真が撮れるわね。じゃ、撮るわよー。35×51÷24は?」

 

「「え、えーと、2?」」

 

「残念。74・375でした」

 

 パシャ、とシャッターが切られる音がした。

 

「あー………」

 

 俺と一夏とセシリアのスリーショットの写真のはずだったが、なぜか全員が入った写真になっていた。俺、微妙に姿勢崩してるところで撮られてるじゃねえか。あ、よく見れば箒も入っている。

 

「ちょ、ちょっとあなたたちっ!?」

 

「まーまーまー」

 

「セシリアだけに抜け駆けはさせないよん?」

 

「クラスの思い出ってことでー」

 

「ねー」

 

 皆セシリアを丸め込むようにそんなことを言っている。なぜだ?

 

「くっ、仕方ありませんわね……」

 

  苦虫を噛み潰したような顔をしたセシリア。お前もお前で、なぜなんだ?

 

  ともあれ、この、『織斑一夏就任パーティー』は十時過ぎまで続いた。途切れることを知らない女子たちのトークに、俺と一夏は女子パワーというものをたっぷりと思い知った。

 

  俺は部屋にフラフラになりながら戻り、そのまま寝てしまった。

 

  この日の夢は、所長と初めて会った時の夢だった。

 

  ◆

 

「桐野君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

 朝、席に着くなり、クラスメイトの一人が話しかけてきた。入学からしばらく経って、女子と話すのも慣れてきた。

 

「ん? 転校生? ……そう言えば、昨日の夜に会ったな」

 

「えっ!?ほんと!?」

 

「ああ、中国の代表候補生とか言ってたな。名前は確か……ふぁ、ふぁん、何たらだったな」

 

「この時期に転校? 入学じゃなくてか?」

 

「その中国の転校生、二組に編入されたそうですわよ」

 

  一夏とセシリアも話の輪に入ってきた。

 

「しかも、いきなりクラス代表になったらしいですわ」

 

「うわ、そりゃまた大変だな」

 

  クラス代表とはつまり、今度のクラス代表対抗戦に出る、というわけだ。

 

「一夏、気合入れてけよ」

 

「うーん、ま、やるだけやってみるか」

 

 一夏自体は乗り気ではないが来月に行われるこのクラス対抗戦、女子には燃える理由がある。優勝クラスには食堂のデザートの無料フリーパスが半年使えるのだ。女子は甘いものが本当に好きなんだな。

 

「頑張ってね織斑君!」

 

「フリーパスのためにも!」

 

  女子たちから、軽く自分の欲求も混ざった声援が一夏に送られる。

 

「まあ、専用機を持っているのは一組と四組だけですし、一組で持っているのはわたくしと一夏さんと瑛斗さんだけですから、問題は無いでしょう!」

 

 なんか『だけ』の部分だけを妙に強調して言ってたが、スルーしよう。

 

「その情報、古いよ━━━━」

 

  ふと、扉の方から声が聞こえた。

 

  振り向くと、そこには片膝を立てて、腕を組み、扉に寄りかかってる昨日の夜のツインテールの女子がいた。

 

  なんかカッコつけてるけど、微妙に似合わないぞ。

 

「二組も専用機持ちが代表になったの。だからそう簡単に優勝はできないわよ」

 

 その女子の顔を見た一夏がはっと目を見開いた。

 

「お前、鈴か?」

 

 鈴? あ、思い出した。そうだ、凰。凰鈴音だ。あいつの名前。

 

「そうよ、中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

  ふっと小さく笑みを漏らす鈴に一夏は言った。

 

「なに格好つけてんだよ。そういうの似合わねえぞ、お前」

 

「んなっ………! なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

  やっとまともに喋ったぞ。あいつ。まあ、軽く挨拶しとくか。

 

「よう」

 

「あっ、昨日の夜の……瑛斗、だっけ?」

 

  お。覚えていてくれたようだ。こっちは完全に忘れてしまっていたが、すまん。

 

「なんの用だ?」

 

  箒がいきなり鈴の前に立った。目は明らかに攻撃色である。

 

「別に~?久しぶりに幼馴染の顔でも見てやろうかと思っただけよ。アンタには関係ないわ」

 

  そんな箒を気に留める素振りもなく、鈴はクルリと踵を返した。

 

「じゃあね、一夏。また来るわ」

 

  そう言って鈴は一組から出て行った。

 

「一夏、何者だあいつは?幼馴染と言っていたが?」

 

「そうですわ!あんないかにも知能が低そうな女とどういう関係ですの!?」

 

「だから、幼馴染だって。中学の時の。ほら、箒と離れてから、あいつと知り合ったから」

 

  なるほど、それなら箒が知るわけもないか。しかし箒は何やら気を損ねたらしい。

 

「………幼馴染は私だろう……」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「なんでもない!!」

 

  バン!と机を箒が叩いたと同時にチャイムが鳴った。少々気まずい雰囲気を残しながら、授業がスタートする。




そんなわけで鈴が登場です。まあ、前の話でもう顔出しは済んでおりましが。

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