IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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月下を駆ける悪夢 〜または砕かれた祈りの鉄杭〜

アンノウン━━━━瑛斗のクローアームが俺の顔面に迫った。

「グゥッ!?」

しかしクローが当たる寸前で軌道が変わって攻撃は空振りに終わった。

腕の装甲に拳の形をした何かが激突したんだ。

「一夏くん! そのISから離れてっ!」

「エリナさん!」

アサルトライフルを構えながらエリナさんがISを展開してこっちに前進してきていた。そう言えば瑛斗からエリナさんも専用機を持っているって聞いたな。

「グァゥ!」

瑛斗は俺から離れて数メートル上空に飛んだ。

「エリナさん! 助かりました!」

「そんなのは後! 早くあのISを━━━━」

「待ってください!」

「シャルロットちゃん!?」

シャルロットがエリナさんの前に手を広げて立ちはだかった。

「あの黒いISは……瑛斗が………瑛斗が操縦してるんです!」

「なんですって!?」

目を見開くエリナさん。

「本当です! あのISからG-soulの反応があって……!」

俺が説明するとエリナさんは思案顔になった。

「彼女が言ってたあげるっていうのはこのことか……!」

「何か知ってるんですか?」

「……あのISは《セフィロト》って言って、エレクリットが生産したワンオフの機体なの。あれはその二号機。サイコフレームって聞いたことある?」

「ええ。人の思考をISに反映させるものだって瑛斗から聞きました」

「そしてあのISは亡国機業に強奪されて、行方知れずだったのよ」

「それじゃあどうして瑛斗はあんなことに?」

「分からないけど……おそらくサイコフレームが何らかの影響を与えてるのかも……」

止める方法は? 俺が聞こうとしたとき、瑛斗が動いた。

「グアアアアッ!!」

クローアームを振り下ろしながらこっちに突進してきた。

「くっ!」

俺は《雪片弐型》でそれを受け止めてフル・フェイスマスクで顔を隠した瑛斗に顔を詰める。

「どうしたんだ瑛斗! 俺だ! 一夏だ! 分からないのか!?」

「ガァァァッ!」

しかし瑛斗はそれを聞かず、もう片腕のクローアームが俺に迫った。

「一夏くん!」

「楯無さん!?」

 

楯無さんがランスでクローを受け止めて、瑛斗の動きを一瞬止めた。

「早く下がって!」

俺はそのおかげで距離をとることができた。

「瑛斗くん、ちょっとおイタが過ぎるんじゃない?」

楯無さんはそう言うと《ミステリアス・レイディ》のアクア・ナノマシンが黒い装甲にまとわりついて、瑛斗の動きを止めた。

「ラウラちゃん!」

「了解した! セシリア! 箒! 簪! 四方向から攻撃を仕掛ける!」

ラウラが指揮を執って瑛斗を四方向に箒たちが陣取る。

「瑛斗さん、ごめんなさい!」

「すぐに止めてやるからな!」

「瑛斗………!」

セシリアがスターライトmkⅢを、箒が穿千を、簪がレールガンを瑛斗に向ける。

「今だ! う―――――――」

ラウラがカノン砲の安全装置を外したところで、瑛斗の身を包む装甲の青い光の脈動が速くなった。

「グォォォォォォォッ!!」

「「「「!?」」」」

背中の突起が飛び出して、両腕同様にクローアームになった。

「ガゥゥゥッ!」

そしてその四本のクローアームをそれぞれ四人に向けられる。

「まずい! 避けろ━━━━!」

ラウラがそう言った瞬間クリアブルーの爪が装甲から離れ、高速で発射された。

「きゃああっ!」

「うああっ!」

「うっ……!」

「ぐああっ!」

直撃は免れたが四人は大幅にシールドエネルギーを削られる。

動きを止めた爪は装甲と繋がっているワイヤーに牽引されて瑛斗のもとへ戻った。

「あんなこともできるの……!」

エリナさんが驚いたようにつぶやく。

「……瑛斗っ!」

シャルロットが瑛斗の前に躍り出た。

「シャルロット! ダメだよっ!」

マドカの制止も聞かず、シャルロットは瑛斗に近づく。

「瑛斗、どうしちゃったの? 僕たちのことが分からないの?」

「グゥゥ……」

瑛斗は動かないでシャルロットを凝視する。

「グアアァァァァッ!」

しかしそれはほんの一瞬で、瑛斗はすぐに四本のクローアームをシャルロットに向けて突進する。

「っ!」

「危ねえっ!!」

俺は咄嗟に雪羅を発動して瞬時加速でシャルロットに近づいて身体を掴んで瑛斗から離す。

「グォォァァァッ!!」

背中のアームの爪が射出され、俺たちを追尾してくる。

「マドカさんっ!」

「わかってる!」

セシリアとマドカがそれぞれ動かせるありったけのビットを操って俺たちの前に配置、爪の動きを阻害してくれる。

「離して一夏!あれは瑛斗なんだよ!」

「そんなことは分かってる! だけど闇雲に近づくのは危険すぎるんだ!」

瑛斗に手を伸ばすシャルロットの目は涙でいっぱいになっていた。

(けどどうする? 今の瑛斗は理性がまるで無い! 下手すりゃこっちがやられる……!)

「エリナさん! サイコフレームを使うとああなるんですか!?」

「いいえ、テストではあんな現象は見られなかったわ。まだ未知の領域があるというの……!」

エリナさんにも想定外のことのようだ。

「グオォォォッ!」

瑛斗がクローアームを突出し、爪を射出する。

「うっ! 瑛斗! しっかりしなさいよっ!」

鈴が双天牙月をバトンのように操って襲い来るクローをいなして躱す。

「恨まないでよねっ!」

そのまま動きを止めた瑛斗に接近し、衝撃砲を撃った。

「グァゥ!」

身体に衝撃砲の直撃を受けてふらつく瑛斗に鈴は大上段で牙月を振り上げる。

「もらった!」

刃が瑛斗を斬った。

……はずだった。

「ガアァァァッ!」

「きゃあああ!?」

「鈴っ!」

背中のクローアームで月牙を受け止められて、瑛斗の両腕のクローに甲龍の装甲が砕かれた。

「ガァッ!」

二撃目が鈴に迫る。

「白式っ!!」

俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で鈴と瑛斗の間に割って入り、クロー攻撃を受け流す。

「はああっ!」

受け流した勢いで雪片を瑛斗に向けて振る━━━━

「なっ……!?」

信じられないことが起きた。

 

瑛斗を捉えたはずの雪片に、まるで手ごたえがない。

それどころか、その瑛斗の姿は夜空に掻き消えた!

「残像……!?」

「グァゥッ!!」

 

「うああっ!」

瑛斗の攻撃が直撃し、白式のシールドエネルギーを削る。襲いかかる衝撃を歯を食いしばって堪えて、俺は零落白夜を発動。

「まだだああああっ!」

それを思いきり振り下ろした!

「グガァァァッ!!」

斬撃は今度こそ瑛斗を捉えて、左腕のクローアームを砕け散らせた。

「……ガァァァッ!」

だけど瑛斗も反撃とばかりに俺に残った右腕のクローを飛ばし、さらにシールドエネルギーを削っていく。

「しまった! 雪羅が!?」

エネルギーが足りなくなり、《白式》に戻ってしまう。

「こっちだ一夏! 紅椿の絢爛舞踏でエネルギーを回復させる!」 

「あ、ああ!」

俺が箒に近づこうと瑛斗から離れる。

「ガァァァッ!」

だが瑛斗は俺に追撃をしかけようと背中のものも合わせて三つのアームからクローを射出した。

「一夏っ!」

「なっ━━━━!?」

向こうの速度が速すぎる。

(回避が間に合わない……!)

「やああっ!」

間一髪、シャルロットがラファールのシールドで俺を守ってくれた。

「シャルロット!」

「僕は大丈夫! 一夏は早く箒のところに!」

そう言うシャルロットの頬をつぅ、と血が伝った。

見ればクローの一本がシールドを貫通している。

その時、瑛斗がクローを引き戻し始めた。クローに引っかかって、シャルロットがシールドごと瑛斗に引っ張られていく。

「シャルロット!」

簪が悲鳴に近い声を上げた。

「瑛斗、目を覚まして!」

シャルロットはシールドの上半分をパージ。中から現れるラファールの最強武装のパイルバンカー、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を構えた。

「シャルロットのやつ、まさか相討ちを!?」

ラウラがシャルロットを追いかける。

「待て! シャルロットっ!!」

ラウラが声を出した時には、シャルロットはパイルバンカーを瑛斗に向けていた。

「はあああああっ!」

パイルバンカーの発射音が空気を引き裂く。

「………………」

しかし、シャルロットの渾身の一撃は瑛斗には届いていなかった。

「そ……そんな……!?」

「グゥゥゥゥ……!」

クローが破壊され、元に戻していた手で、瑛斗はパイルバンカーの杭を握りしめていた。

「ガァッ!」

 

そして杭は一瞬で握り潰され、その手が必殺の一撃を破られて怯んだシャルロットの首を掴んだ。

「うっ……!」

「………………」

瑛斗は沈黙したままシャルロットを見る。

「え……いと……!」

シャルロットの細い声が聞こえる。

瑛斗の背中のクローアームがその爪をゆらり、とシャルロットに向けた。

「セシリア!」

俺はセシリアに叫ぶ。狙撃して動きを止めてもらおうと考えたからだ。

「ダメですわ! シャルロットさんにも当たってしまいます!」

スコープから目を離してセシリアは怒鳴る。

「クソ! 箒! まだなのか!?」

「待ってくれ! 損傷が激しすぎる!」

「けどあのままじゃシャルロットが!」

早くしないと取り返しのつかないことになる。

 

━━━━そう考えた矢先、瑛斗の背中のクローアームが開いた。

「やめろおおおおおおおっ!!」

ラウラが絶叫する。

「グァァァァッ!!」

クローがシャルロットの首に━━━━!

「……!」

この空間の時間が止まったような錯覚を覚えた。

けど、シャルロットは一滴の血も出していない。

 

クローは、シャルロットの喉元で静止していた。

「ウッ……!」

瑛斗がシャルロットから手を離した。

「ゴホッ! ゴホッ!」

呼吸ができるようになったシャルロットは咳き込んだ。

「ウ……グゥ……」

「サイコフレームが……」

エリナさんがつぶやく。見れば瑛斗の身を覆っていた装甲のサイコフレームから光が徐々に消えていっている。

「…………」

背中のクローアームが支えを失ったようにぶらりと垂れ下がった。

そして、漆黒の装甲が足から消えていき、気を失った瑛斗が現れた。

「瑛斗!」

飛行手段を失った瑛斗を落ちる寸前でシャルロットが受け止めた。

「止まった……のか……?」

 

箒がぽつりとつぶやいた。

「なんだったの……一体」

マドカもうわごとのように言う。

みんな、突然の戦闘終了で呆気にとられていた。

それは、ほんの数分の出来事。

 

夜空はまた、静寂を取り戻した。


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