IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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第二章 波乱のクラス対抗戦
春の終わりの夜のこと 〜または郷愁と新たな来訪者〜


「それではこれよりISによる飛行訓練と解説を始める。織斑、オルコット、桐野、前に出ろ」

 

  春も後半、桜がほとんど散った頃、俺たちはグラウンドで授業を受けていた。

 

「よし、ISに展開しろ」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

  織斑先生に言われ、俺は《G-soul》を、セシリアは《ブルー・ティアーズ》を展開する。これくらいは何ら問題はない。……のだが、

 

「織斑、さっさと展開しろ」

 

「は、はい……」

 

  一夏だけはまだ不慣れなのか、白式を展開するのに数十秒かかった。まあ、初めは一分ちょっとかかってたけど大分成長したな、一夏。

 

「よし、では飛べ」

 

「「はい!」」

 

  ギュウン!と勢いよくスラスターを吹かせて俺とセシリアは上空二〇〇メートルまで一気に上昇した。この爽快感はいつ感じてもいいモノだと思う。

 

「ふぃ~、やっと追いついた」

 

  遅れて一夏も追いついた。飛行も初めのころよりは大分様になってきている。良いセンスしてるな。

 

「一夏さん、お上手ですわ」

 

「お、おお。ありがとう」

 

  セシリアに褒められて照れたように一夏は笑った。しかし、どういう心境の変化なのだろうか? あの出来事以来、セシリアは随分と俺や一夏に接してくる。しかも初めて会った時とはほぼ真逆の態度だ。

 

「それにしても、飛ぶイメージってやっぱり分からないな。大体、何で浮いてるんだ、これ?」

 

  一夏は白式の翼のような部分を見て言った。

 

「説明しても構いませんが、長くなりますわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますから」

 

「いや、良い。説明しなくていいぞ」

 

  やはりセシリアは代表候補生ということもあってか、ISのことならよく知っている。だけどどれもこれも理論的なところから入るから全然一夏の頭にはちんぷんかんぷんだ。

だから俺がいろんなことを教えてやっている。後、たまに箒も一夏にISの事を教えようとするのだが、その説明の仕方が…………

 

『ぐっ、とする感じだ』

 

『どんっ、という感覚だ』

 

『ずかーん、という具合だ』

 

  擬音オンリーなので、そりゃまあかなり時間がかかる。ホントにあいつは篠ノ之博士の妹なのだろうかと疑問に思うこともよくある。

 

『よし、お前たち、急降下からの完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ』

 

「了解です。ではお二人とも、お先に」

 

  ニコッと微笑んでからセシリアはぐんぐんと急降下していった。

 

「うまいもんだなぁ」

 

  隣で一夏が感心したような声をあげる。さて、俺も続くとしよう。

 

「先に行くぜ」

 

  俺はスラスターの出力を調整して、地表に向けて降下していく。さて、そろそろブレーキを――――

 

「え、瑛斗、避けろおぉぉぉぉぉ!」

 

「ん?ぐっはあ!?」

 

ギュン━━━━ドッゴォォォン!!

 

  と盛大な音を立てながら俺は一夏と一緒に地表に落下した。

 

  怪我はしなかったが、お互いの勢いからか、グラウンドに大きな穴を空けてしまったようだ。

 

  もうもうと立ち込める土煙が晴れると、女子たちが心配そうな目で俺と一夏を見ていた。しかし、その二秒後……

 

「きゃあーーーーー!あ、あれはっ!」

 

「な、何てそそる体勢で絡んでるの!?」

 

「どうしよう!私、よだれが止まんない!」

 

「大丈夫!私は鼻血が止まらないから!」

 

  と一瞬にして女子たちは色めきたった。

 

「?」

 

 訳が分からなくて視線を戻すと、俺の目の前に目をぐるぐる回した一夏の顔が度アップで映っていた。

 

「どわぁっ!?」

 

「ぐへっ!」

 

 俺は慌てて一夏を放り投げて、立ち上がる。び、びっくりした………

 

「お二人とも!大丈夫ですか!?」

 

 セシリアが心配そうな目をして駆け寄ってくる。というか、その自己主張が激しい胸を揺らしながら来られると、少し目のやり場に困るんだが。

 

「あ、ああ。何とか大丈夫だ。な、一夏?」

 

「お、おおー……」

 

  プルプルと震える手を親指を上に向けて掲げる一夏。それを見て箒は憤慨した。

 

「一夏! 昨日の訓練はどうした! 急降下はぐいーんとする感じだとあれほど言っただろうが!」

 

  いや、箒さん、いくら何でもそれじゃ上手くいかないよ。

 

「あーら、篠ノ之さん。それはあなたの教え方が悪かったんじゃなくって?」

 

  セシリアがまた箒に突っかかった。ああ、また始まったよ。セシリアが俺と一夏に優しくするようになった分、セシリアはよく箒を挑発するようにもなった。やめなさいってそーゆーのは。

 

「な、なんだとっ!?」

 

  ほらそこで箒も乗らない。顔に青筋浮かんでるぞ?

 

「お、おい、二人とも………」

 

  たまらず一夏が仲裁に入る。しかしかえってそれが逆効果だった。

 

「「一夏(さん)!今日の放課後、一緒に訓練だ(ですわ)!」」

 

「ええー………」

 

  その後の授業はつつがなく行われた。

 

  今日の授業で一番大変だったのは一夏のせいでグラウンドに空いたでけえ穴の修復だったな。

 

 ◆

 

「……………はあっ」

 

  この日の夜、俺は夕飯を食べ終わった後、散歩をしていた。春の風が心地よく、改めて地球の偉大さが身に染みる。

 

「……………」

 

  ふと空を見上げると、大きな半月が夜空を照らしたいた。

 

「宇宙………遠いな……」

 

  少し前まではあんなに近くに感じていたのに、ここに来てからはとても遠くのように感じる。そういえば、よく研究所のみんなと地球や月を見ながらわいわい騒いだな。

 

「……ん?」

 

 視線を戻したら、目の前に俺より背の低い女の子がメモを片手にうんうん唸っていた。

 

「だからそれがどこにあるのか分からないって言ってんでしょ………え? うわぁっ!?」

 

 俺に気づいた女の子はツインテールを揺らしながら飛び上がった。

 

「何やってるんだ?ここの生徒か?」

 

 俺が聞くと、女の子は首を縦に振った。

 

「そ、そうそう! アタシ、今度ここに転校する凰鈴音よ。よろしくね」

 

  この名前の響き。てことは……

 

「中国人か?」

 

「そうよ。中国の代表候補生とはアタシの事よ! ………ところでアンタは?」

 

 名乗るように言われたからには名乗らないとな。

 

「俺は桐野瑛斗だ。よろしくな」

 

「ふぅん、アンタが噂の男のIS操縦者の片割れ?」

 

「まあ、そういうことになってる」

 

「ふーん……。それで、その、もう一人の方は?」

 

「ああ、一夏か。一夏に用があるなら呼ぶけど?」

 

  俺がそう言うと、ツインテールの少女は慌てたように手を振った。

 

「へっ!? べ、べ、別にそんなことしなくていいわよ! ちょっと気になっただけなんだから! じゃね!」

 

  そのままツインテール少女は脱兎のごとくどこかへ走り去っていった。

 

  なんだったんだ?


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