IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜 作:ドラーグEX
プロローグ 〜またはそれは、すべての始まり〜
「第二、第三ブロック破損! ステーションの形状維持は不可能! 所長! このままでは……!」
聞きなれた通信係の声が宇宙ステーション中に響き渡る。しかしいつものように定時連絡ではなく、焦りがにじみ出ている声のアナウンスだった。
「……限界ね。瑛斗、こっちにいらっしゃい」
この宇宙ステーションのIS研究所所長、アオイ・アールマインに呼ばれて、俺は所長に近づいた。
「う、うん」
言うと所長は俺の左腕にブレスレットをつけた。白と青と赤と黄色の玉が一つずつ等間隔に間をとって紐で繋がれているそれは、この研究所にある唯一の使用可能なISの、その待機状態だった。
「所長……? 俺、男だけど?」
━━━━IS。正式名称インフィニット・ストラトス。
それ以前に存在した戦闘兵器を遥かに凌駕し、世界の軍事バランスを崩壊させた、まさしく世界を変えた存在。しかし、それは女性にしか動かすことができない。そして今言ったように、俺は男だ。
所長の考えを理解しきれないでいると、所長は優しく微笑んだ。
「これはお守りよ。あなたが困ったときに、必ず助けてくれるわ」
所長がそう言った直後、轟音が響き、それと同時に足場が不自然な振動を始める。
「ここは長くは保たないわ。あなただけでも脱出して」
「ふざけないでくれ!俺だけ逃げるなんてそんなこと━━━━!」
できるわけがない。そう言おうとした。けれど、出来なかった。
「………………」
所長が俺を強く抱き締めたからだ。優しい匂いが俺の鼻をくすぐる。
「瑛斗。あなたはこの研究所に良く貢献してくれたわ。あなたのアイディアと研究データが私たちに与えてくれた恩恵は計り知れない。だからあなたがこんなところで死んじゃいけないのよ」
「そんなの━━━━」
途端、何かが首元に刺さるのを感じた。
「っ!」
反射的に離れ、首を抑える。
「所長! 今、なにを……」
身体が重い。視界が定まらず、足から力が抜けていく。……おかしいな。意識、薄れ……て……
「……ごめんなさい」
なんで……謝るんだよ……
……
…………
………………
……………………
「う……ん……?」
目を開けると、そこは脱出ポッドの中だった。
身体は固定されている。眼下に地球が見えるってことはまだ降下してはいないのだろう。
「これは……!?」
狼狽えていると窓を叩く音が聞こえた。振り向けば、はめ殺しの小さな窓の向こうに、所長が立っている。そこで俺の意識は完全に覚醒した。
「おい! どういうことだよ! なんで所長は入らないんだ!?」
俺は必死に窓を叩いた。すると所長がポッド内のスピーカーから答えた。
『本当はそうしたかったんだけど、自動射出装置が壊れちゃってね。手動じゃないと動かないのよ』
俺の目の前にあるディスプレイにカウントダウンの画面が表示される。あと十秒でこの脱出ポッドは地球へ落下するだろう。
『瑛斗……今まで、ありがとうね』
機関室を飲み込んだ炎の中に、所長の顔が消える。
「所長!」
それが所長の顔を見た最期の瞬間だった。超高速で射出されたポッドの窓の向こうが、どんどん地球に迫っていく。
「あ……ああ……!」
反対側の窓を見ると、大爆発を起こす宇宙ステーションが見えた。
その光景を見ながら俺に出来たのは、声にならない絶叫を上げることだけだった。
プロローグです。瑛斗の物語はここから始まっていきます。
……数年前に書いたとはいえ、稚拙だなあ…。