リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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前話まで、ちょっと改訂しました。
具体的には名前表記。=を・に変更。それだけです。


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第二十五話 失楽園の日 其之拾

1.

 蒼い雷光が迸る。深い色が空を駆け抜けて、身を躍らせるのは夢追い人。

 雷を思わせるかの如く、多角的な軌道を描いて、手にした銃剣より弾丸を放ちながらに駆け抜ける。

 

 駆け抜ける彼が閃光ならば、続く少年の姿は苛烈な焔。

 手にした魔槍に力を纏わせ、身を弓の如くに引き絞り、撃ち放つのは怒涛の如き一撃必殺。

 

 

「ディバイドゼロ・エクリプスっ!!」

 

 

 全ての事象を魔力に解して、己が糧として吸収する力。

 これは防げない。彼の神が眷属であるが故に、受ければ抵抗すらも出来ない。

 

 故に正しく一撃必殺。天魔に対する弱点特効。()()()()()()()()()が放ったその一撃を前にして、天魔・悪路は大きく後退した。

 

 

「薙ぎ払え! サンダーレイジッ!!」

 

 

 大きく退いたと言う事は、その分だけ隙が生まれると言う事。共にある少年は、その決定的な隙を見逃さない。

 後退を続ける悪路へと、展開する魔法は広域殲滅。トーマ・ナカジマには本来適正がない筈の遠距離雷変換魔法。それが此処に、その力を示していた。

 

 

「異能の共有。……いや、それだけではないな」

 

 

 当たり前の様に、時の鎧を摺り抜ける蒼い雷。雷光にその身を焼かれながらに、痛痒を隠す悪路は静かに思考する。

 互いの異能を共有している。この創造位階の能力は、たったそれだけではない。睨んだ方向性は正しいが、進んだ距離の目測を誤っている。

 

 

「ちっ、扱い難い。一撃必殺の大振りなんて、火力が高過ぎて警戒される。もう少し、小回りを利かせて欲しいものだね」

 

「言いたい放題言いやがって、お前こそ、何勝手に無価値の炎無くしてんだよ。あれが使えれば、もうちょっとやりやすかったのに」

 

 

 口々に愚痴を言いながら、しかしその動きは鏡合わせ。まるで事前に合わせたかの様に、全く同じ挙動で前進する。

 踏み出す足の動きはおろか呼吸や瞬きの瞬間までも、全てが全く同一なのだ。意図して合わせたなどと言う、そんな領域を超えている。

 

 

〈ちょっと近過ぎる気がする。……やっぱりエリオが一番の強敵〉

 

〈頭ん中で変な事考えてんじゃねぇよ!? こっちにも伝わって来るんだからなっ!!〉

 

 

 白と赤。二色の花が口にする。彼女らの間に念話のラインは存在しない。

 波長を合わせる意味がないのだ。既に彼らは皆が繋がっている。なればこその、完全同時攻撃だろう。

 

 全く同じ様に振るわれた銃剣と魔槍。それに再び押し切られながら、隻腕の屍鬼はその全容を理解していた。

 

 

「異能。経験。思考。渇望。能力。あらゆる全てを、()()()()()()上で共有する。それが、君の祈りの形か」

 

 

 明媚礼賛・協奏。その効果は全ての共有。特殊な能力も、積み重ねた経験も、些細な思考ですらも加算した上で共有する。

 能力影響下にある者たち。心の底から信頼できる仲間の能力を集め、それを参加者全員で同時共有する事が出来る能力なのだ。

 

 今のトーマはトーマ自身とエリオとリリィとアギトの四人分、その数値全てを足し合わせただけの身体能力を持っている。

 そしてエリオもまた同じく、エリオ自身とトーマとリリィとアギトの四人分、全てを足して合わせただけの能力値に至っている。

 

 相手の経験を己の物とし、互いの異能を全く同時に発現できる。数字化される総合戦力値は、参加者全員の()()()()()()()だ。

 

 これは、支配者しか存在しない軍勢。一兵卒に至るまで、誰も彼もが対等となれる絆の覇道。

 たった四人で偽神を超えた。ならば仲間全員で手を取り合えれば、一体何処まで跳ね上がるのか。

 

 

「恐ろしいな。素直に思うよ。……一体何処まで、先を目指し続ける心算だ」

 

 

 たった一人では何も出来ず、だが皆で手を取り合えれば何だって出来る。そう信じる理想へ辿り着く為のこの祈り。

 至る世界は明白だ。手を取り合って前に進めば、きっと何処へだって行ける筈。そう願う祈りの行き付く果てなど、たった一つしか存在しない。

 

 

〈はっ、今更愚問だろ! そんなのさっ!〉

 

 

 紅蓮の花は信じている。どれ程に弱く儚くとも、大切な誰かの助けになれると知ったから。

 ならば彼女に疑心はない。愛する彼を信じた儘に、その傍らに咲き続ける。共に前へ進む事こそ、アギトは確かに願っていた。

 

 

〈うん。そうだね。私達が見た夢の先へと、辿り着くまで進むんだ〉

 

 

 白百合の花は祈っている。歩き続けるこの道は、確かに彼が夢見た形だ。同じ夢を見た白は、この今に歓喜を抱いて。

 最も憎い者を受け入れた。そんな今のトーマならば誰とだって、手を取り合えると思うのだ。だからこそ、共に前へ進もうと、リリィは此処に祈っている。

 

 

「大丈夫。一人じゃなくて、一緒なら。……嗚呼、そうだとも、手を差し伸べる誰かが居る。膝を折っている時間なんて、必要ないさ」

 

 

 穢れた罪人は小さく微笑む。流れ込んで来るのは宿敵の理想。彼が目指したその渇望。

 

 手を取り合って理解した。心の底で共感した。それは助け合う事の大切さ。

 なれば彼の思想は僅かに変わる。小さな芽が花開く様に、願う形が優しく染まる。

 

 守られた者(イクスヴェリア)が種を植えて、導いた者(キャロ)が水を撒いて、共にある者(アギト)が育んだ小さな芽。

 負けたくない宿敵(トーマ)との共感で、それが確かな花となった。だからこそ、何度も挫け泥の中で足掻き続けたエリオ・モンディアルは確かに微笑んでいた。

 

 

力への意志(ヴィレ・ツァ・マハト)。助けてくれる誰かに誇れる様に、強く、強く、強く、強く――今を強く生きていくっ!!」

 

 

 流れ込む渇望は、決して一方的な物ではない。共有する事を望んだのだから、同じ様に彼も共感する。

 前を目指す事の大切さ。強くなろうとする想いの意味。大切な誰かに誇れる様にと、その胸には確かな想いが芽生えている。

 

 泣いていた神の子は今此処に、漸くに前を見て足を踏み出す。

 負けたくない宿敵から先に進む強さを貰って、己に厳しい形へ願いが染まる。トーマ・ナカジマは力への意志を胸に、立ち上がって進み始めた。

 

 辿り着く先は唯一つ。ずっと昔に見た綺麗な夢。手を取り合って、其処を目指そう。四人の心は今此処に、確かに一つとなっていた。

 

 

『これが、答えだ!!』

 

「……そうか。それが次代の解答か」

 

 

 迫る剣閃。恐るべき刺突。振るわれる魔法と異能の力を前に、腐毒の王は一方的に押し負け続ける。

 傷付きながら後退を続けるその身以上に、震えているのはその心。遥か嘗てに見限った想いが、強く強く震えていた。

 

 それはきっと、求め続けた答えの形が見えたから。

 

 

「絆を以って前へと進む。成程、お前達の目指した先、確かに見せて貰った」

 

 

 力への意志。手を取り合う協奏曲。二人の願いが混ざった先こそ、彼らが至ろうと目指す新世界。

 未だ過程に差異はあっても、目指す先は同じ物。何時かきっと誰もが報われる様に、それでも誰もが脱落せずに進める様に、求めた祈りは絆と進歩。

 

 それはきっと、何よりも美しい形となろう。四人が目指す優しい世界を垣間見て、天魔・悪路も魅せられた。

 

 

「だけど、それでもだ。素直には頷けない。何もせずには退けない。そうするには、長き時を生きてしまった」

 

 

 魅せられた。次代に相応しいと、心の底から感動している。だがそれでも、無条件では譲れない。

 重ねた過去。積み重ねた憎悪。残した敵への恐怖と、まだ流れ出すには至っていない彼らへの不安。理由はそれこそ山ほどに。

 

 全ては長く時を重ねて来たから、嘗て生きた人の頃とは違って柵が酷く多いのだ。

 己の心だけで託せると、そう認めたから退けると言う問題ではない。この身は生き続ける限り、彼らの道を阻むであろう。

 

 故にこそ、天魔・悪路がこの今に、求める物は一つだけ。

 

 

「次代は見た。ならば次は証明してくれ。その美しい輝きが、決して潰えはしないのだと。……我らの戦いは――無意味ではなかったのだと」

 

 

 先は示された。ならば次に求めるのは、その先が揺るがないと言う証明だ。

 何れ、そう遠くない時に訪れるであろう唯我の怪物。その戦いにおいても負ける事はないのだと、信頼できる証拠が欲しい。

 

 故にこれは前提条件。信じて託す事すら出来ぬ老害などに、敗れる様では未来がない。

 

 

「全てを腐らせ、塵とする。そんな屑でしかない我が身を、乗り越える形で証明しろ」

 

『応っ!!』

 

 

 語る言葉に返るは強く揺るがぬ意志。四人の想いを突き付けられて、天魔・悪路は小さく笑う。

 魅せられたからこそ、この先を信じ続ける為に――誰よりこの世の民を憎んでいた大天魔は、己が命を試練として使い果たすを良しとした。

 

 

 

 

 

2.

 無数の地獄が渦巻き反発し、生まれた僅かな空隙に彼女は立つ。

 見上げる限りの一面は、蒼く蒼く、透き通った蒼い空。その下に立つはたった一人、異なる宙より遺った者。

 

 和服の女は其処に立つ。ボロボロと崩れていく白い肌の下、異形の相を覗かせながら――それでも一人で立っていた。

 

 

「嗚呼、漸く――」

 

 

 息を吸い、そして吐く。息苦しいと感じていた、そんな呼吸にすらも感じる感慨。

 

 この世に生きる者らの皆が海水魚だと言うならば、此処に居る女は唯一匹の淡水魚。

 そもそも生きる道理が違うのだ。此処まで来るだけで、どれ程の苦痛に苛まれて来た事か。

 

 崩れ落ちる肌の下、明らかになる異形の貌。それこそが何より明確な違いを示している。

 この女は此処に生きていて良い者ではない。既に死した者。死していなくてはいけない者。それでも、生き続けた者なのだ。

 

 

「感じるとも、分かるとも、美しい、素晴らしい願いだ」

 

 

 理由があった。生き続けるに足る理由。生き続けねばならない理由。だから、女は此処に生き続けた。

 敗軍の将としての意地。師にして育ての親への恩義。受け継ぐ立場に居ながらに、背負えなかった事への後悔。理由はそれこそ山ほどある。だが明確に一つとしてあげるなら――そう、納得出来なかったのだ。

 

 こんな終わりなんて認めない。こんな結末なんて許せない。だから、どうか――ほんの少しの救いが欲しい。

 彼女が遺った理由はそれだけだ。全てを託すに足るのだと、その結果を知るまでは消えられない。そんな意地だけで、死せるその身を維持していた。

 

 そして、その戦いは今日この日、漸くに報われたのだろう。

 

 

「お前達はまだ信じ切れぬのだろうが、私はもう既に決めたぞ。全てを託すに足るのだ。信じたいのではない。信じさせて欲しいのでもない。心の底から、そう信じている」

 

 

 見届ける為に残した瞳。其処に映り込んだ輝きは、嗚呼、確かに信じられると言える物。

 

 穢土・夜都賀波岐は認めずとも、曙光を夢見た敗残兵は認めよう。

 その願いは美しく、その想いは尊く、何度も立ち上るその姿は確かな強さに満ちている。

 

 故にこそその女は、最期に残った己の命と己の切り札、その使い道を此処に定めた。

 

 

「用意したのは無数の戦場痕(スワスチカ)。あの太陽の系譜が居ると知ってから組み上げた術式だが、多少の融通くらいは利くだろう」

 

 

 古き時代に対抗手段を模索して、彼の星にその末裔が居ると知った。その時に組み上げたのがこの術式。

 彼女の模倣だ。無数の命が散華した戦場痕を用意して、その中心地に太陽の御子を贄とくべる。そして齎す結果は神の再誕。

 

 

「疑似流出。贄となる者の質は悪く、強引な術式改竄の影響は大きいが、それでも不完全な模倣くらいは出来ようさ」

 

 

 戦場痕はある。多くの戦士の魂が捧げられた場所は存在している。大天魔との戦場が正しくそうだ。

 大結界と獣の領土であると言う性質を利用して、望み得る最良の形で維持出来た。獣の気配に紛れさせる事で、この瞬間まで隠し通す事にも成功した。

 

 太陽の御子は聖王教会の地下に、今の彼女には手を出せないが、そもそも手を出す心算も最早ない。

 己は術者としては、何億年と経とうと未熟な女だ。そんな劣等な質では代替となり切れぬだろうが、それでも量と言う点では十二分。

 

 贄の質は、戦場痕の質と量で誤魔化し通す。完全な模倣は元より望んでいないのだ。最低限、ほんの僅かな時間だけ、形を成せればそれで良い。

 

 

「それで良い。ほんの僅かな時で良い。その一時に、何れ来る世界の形を此処に示そう」

 

 

 求めるのは獣の復活――ではない。彼を呼び起こす為に用意したこの儀式、用いるのは彼の為にではない。

 魅せて貰ったのだ。信じられると、心の底から思えたのだ。ならばこの今に求めるのは、既に終わった者ではない。これより始まっていく者である。

 

 疑似流出。それは創造位階の拡大。この今に芽生えた彼の祈りの効果範囲を、クラナガン全土に拡大する。

 永続展開は出来ないだろう。そもそも効果範囲の拡大すら、数分の維持が精一杯。だが、それだけ出来れば十分なのだ。

 

 

「さあ、始めるぞ。御門顕明、いや、久雅竜胆。私が此処に遺った意味。その全てをこの今に――」

 

 

 狩衣を風に靡かせながら、女は己の名を口にする。

 既に滅んだ彼女はその理に従って、滅んだ者として消えていく。

 

 その刹那に、辿り着いた答えを口にして。

 

 

「新しい世は、新しい世の若者たちに託して逝こう」

 

 

 それこそが、彼女が至った彼女の答え。零れ落ちる人型は、何時しか古き世の姿へと。

 師の真似をして纏った白い狩衣が、何時しか鮮やかな着物に変わった。この今の民の目には醜悪にしか見えないだろう。そんな真の姿を此処に晒す。それでも、女は美しかった。

 

 

「一世一代の大舞台だ! 旧きを生きた者は刮目せよ! 次代を生きる者らは気合を示せ!」

 

 

 何時の間にか腰に携えていた剣を、嘗ての様に抜き放ちながらに天を指す。

 この満天下に伝えよう。嘗て負けた一人の将として、今に立ち向かう彼らへと、伝えるべきは激励だ。

 

 戦場痕(スワスチカ)が淡く輝く。恨みや憎悪に満ちた色ではない。

 この地で敗れた命達。奪われ零れた戦士達。その全ての意志が、彼らの門出を祝福していた。

 

 

「東征の将! 久雅竜胆鈴鹿が此処に宣言する! さあ、お前達――魂、魅せろやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 そして、彼の願いが溢れ出す。崩れ落ちる女を贄として、トーマの祈りが此処に満ちていく。

 明媚礼賛・協奏。夢追い人が目指した世界。全ての想いを共有する輝きが戦士達へと降り注ぎ、そして――今を生きる彼らの舞台は始まるのだ。

 

 

 

 

 

3.

 先ず真っ先に流れ出した願いに適応したのは、管理局陣営において最も多芸と言えるこの男。

 全てを救うと心に誓った。届かず共に手を伸ばすのだと祈り続けた。そんな黒衣の将官は、此処に新たな力を受け入れる。

 

 

「ディバイドゼロ・エクリプス」

 

 

 魔法も体術もほぼ同等。歪みと機械の身体を得た事での利点は、時の鎧で相殺される。

 それ故に拮抗していた戦闘は、外部干渉が在ればあっさりと傾く物。撃ち合いの最中に伏せられた一撃を、クライド・ハラオウンは躱せない。

 

 白き光が輝いて、囚われた魂を簒奪する。協力者が増えた事で膨れ上がった魂の格。位階差によって強引に遁甲を崩壊させて、クロノは己の父を取り戻した。

 

 

「おかえり。父さん」

 

 

 魂を取り込み、静かに黙祷する。胸に当てた拳で伝える感情は、遅くなり過ぎた迎えの言葉。

 感傷に長く浸っている余裕はない。目を閉じ、呼吸を一つ。そうして目を開けた瞬間には、既に彼は切り替えていた。

 

 

「……とは言え、もう助力は要らないかも知れないがな」

 

 

 異色の目を開いて口にする。此処に居るのは己だけではなく、その力の恩恵を受けているのも己一人ではない。

 クロノが一番早く慣れただけ、故に彼が動かず共に残る二人が対応できる。それだけの力をこの今に、彼らは確かに得ているのだ。

 

 

「オォォォォォッ! 涅槃寂静(アインファウスト)終曲(フィナーレ)!!」

 

 

 盾の守護獣が雄叫びを上げる。その背に負った断頭台が駆動して、彼は此処に全力を行使した。

 斬。切り裂かれる音が響くよりも前に、雲の騎士達が大地へ墜ちる。必ず倒す。その意志を前に、木偶人形では抗えない。

 

 全力を出せば自滅する。それ故に盾の守護獣はこの瞬間まで、消耗を気にして思うように戦えなかった。

 だがそれも最早以前の話。既にその前提が崩れている。両腕を取り戻した今のザフィーラに、時間制限などは存在しない。

 

 

「成程、これが――魂を魔力に変えると言う感覚かっ!!」

 

 

 共有した異能は不撓不屈。無尽蔵に魔力を生み出す力で以って、彼は己の消滅を克服した。

 故にこの今、この瞬間。盾の守護獣はもう止まらない。圧倒的と言うにも生温い、その全霊を躊躇なく使い続ける事が出来るのだ。

 

 雲の騎士は墜ちた。クライドは奪われた。残る者らも確かに粒揃いではあったが、相手が余りに悪過ぎる。

 紅葉の太極が如何に不滅の護りを持とうとも、個々の力量は生前の数値に依存する。対してトーマ・ナカジマの異能は即ち、弱兵さえも神格域へと成長させる力である。

 

 軍勢系の異能としては間違いなく最高峰。高町なのはとトーマ・ナカジマ。この二人の力を加算して共有した時点で、並みの神格では最早手に負えない領域へと全参加者が至っているのだ。

 

 

「ここまでです。天魔・紅葉」

 

 

 故にこれは当然の幕引き。当たり前の道理。振るわれる二振りのトンファーに、屍人の軍勢は蜘蛛の子が如く散らされる。

 既にこの女、シャッハ・ヌエラすらも神格域だ。囚われている死人達では対処が出来ず、止められないならば訪れる結果は論ずるまでもない。

 

 天魔・紅葉は抗えない。戦士ではない彼女は、量で対抗できない質を前にすれば弱いのだ。

 

 

「――っ」

 

 

 如何にか逃れようとして、無数の死者を生み出す女。

 屍人の兵は呆気なく散らされて、後退を続ける天魔の眼前に迫るは鈍器。

 

 

「烈風、一迅っ!!」

 

 

 膨大な密度を誇る魔力を腹へ打ち込まれ、天魔のその身が大きく浮いた。

 生まれた隙を見逃さず、放たれるのは連続攻撃。吐血しながら崩れる女に、それを躱す術などない。

 

 巨大な蜘蛛が崩れ墜ちる。絡新婦の巣が砕け散る。そして――天魔・紅葉は遂に膝を折った。

 

 

 

 

 

 そして、逆転の一手は此処にも届く。トーマの祈りが紡いだ力は、確かに彼へと届いていた。

 彼は不器用な男だ。無数の手札を与えられて、すぐさま使い熟す事など出来ない。そんな器用さなど、生来持ち合わせてはいないのだ。

 

 そも、彼が求めたのは貫く事。決して足を止める事はなく、唯一つを信じ貫く。それだけを求めて来たのだ。今更他の何かなど、最初から必要とはしていないのだ。

 

 

「オォォォォォッ! 乾坤一擲っ!!」

 

 

 故に彼が受け入れたのは己の強化。参加者全員分の力で己の位階を強化して、真っ向からに叩き潰す。

 脳筋此処に極まれり。そうとしか言えない愚直な答えだったが、それでも確かにこの場において、何より相応しい選択だった。

 

 

「……これが、アンタ達の答えだって言うの」

 

 

 影の海が吹き飛ばされる。迫る男の突進を、阻む事すら出来て居ない。

 足を引くのだ。引き摺り下して共に在るのだ。そんな祈りを打ち破るのは、手を引いて共に在ろうとするその願い。

 

 直接の脅威よりも遥かに動揺してしまう。その在り様が、己の願いの鏡写しに見えたから。

 

 

「足を引いて等価になるんじゃなくて、手を引いて等価になる。抱き締めて、支えてくれて、彼の空へ、彼の空の果てへ、連れて行ってくれる星が居たなら私だって――」

 

 

 羨ましい。羨ましい。羨ましい。そんな風に抱きしめて、共に行こうと行ってくれる。そんな誰かが居たのなら。

 妬ましい。妬ましい。妬ましい。空の上でも等価になる事は出来るのに、どうして自分の回りの人々は引き摺り下す事ばかりを願っていたのか。

 

 その輝きに目が眩む。思わず手を伸ばしそうになって、しかし天魔・奴奈比売は伸ばした手を途中で止めた。

 

 

「……いいえ、未練ね。今が満たされているから、きっとそれで十分なのよ」

 

 

 これは未練だ。在りし日に終わった魔女の未練。沼地に沈んだ女は求めて、天魔となって報われた。

 だから今更に望む事でもないだろう。荒れ狂う内心を彼への愛で慰めて、冷静になった奴奈比売はその光を見詰め直した。

 

 

「少しだけ夢想するわ。そういう風に、誰かが助けてくれるなら――そんな誰かが作るんだもの。きっと良い世界よ、それ。……心の底から、住んでみたいって思うくらいにはさ」

 

 

 素直に想う。この輝きは美しく、ならば生まれる世界はきっと綺麗な形だろう。

 伝わって来る願いは一つ。“誰かと手を取り合って、一緒に前へと進む事”。生まれる世界は決まっている。孤独な者など生まれない、天狗道の真逆な世界。

 

 問題は多くあるだろう。陥穽だって今は見えないだけで、長く続けば増えていく。だがそれでも、きっと美しい世界になると確信出来た。

 だから素直に女は口にする。住んでみたいと思えた世界。素晴らしいと感じた世界。外道と地獄の後に続くが此れならば、きっと我らが生き延びて来た理由はあったのだろうと。

 

 

「そうだな。新しい世と、娘たちの為に命を費やす。最期の仕事は、思っていた以上の物だった」

 

 

 影の海を貫きながらに、駆ける男は静かに笑う。

 女が素の表情を見せたからだろう。今の穏やかな表情は、戦地において浮かべる類の物ではなかった。

 

 振り返るのは己の生涯。夢を抱いて入局し、絶望と隣り合わせに戦い続けたその一生。

 諦めない為に、犠牲を良しとした。奪われる命があると言う現状を変えられず、変えようともせず、だからその末路が碌な物ではないと分かっていた。

 

 そんなゼストにとってこれは、正しく望外な幸運だろう。

 歴史の節目。変わり始めた時代の流れをその目に焼き付け、動かす為に逝けるのだから。

 

 

「……頭硬いのね。貴方」

 

「生憎な、今は亡き友にも良く言われたよ」

 

 

 もしかしたら、共有した異能の中には助かる手段もあるかもしれない。

 そんな可能性が脳裏に浮かんでも、男はそれを選ばない。不器用と自覚すればこそ、それでは届かなくなると分かっている。

 

 だから最初から此処が死地だ。そうと決めて揺るがぬ男の泥臭さに、天魔・奴奈比売はくすりと笑った。

 

 

「さあ、終わりにしようか。天魔・奴奈比売――いやさ、アンナ・マリーア・シュヴェーゲリン」

 

 

 影の海を切り裂きながら、奴奈比売へと迫るゼスト・グランガイツ。

 記憶の共有によって彼らの過去を垣間見ながら、それでも下す結論は変わらない。

 

 それは無理解が故でも、ましてや哀れみが故でもない。結論が変わらない理由は唯一つ。

 

 

「お前は我が子らの、そして次代の脅威である。故に、此処で俺と共に終わってくれ」

 

 

 彼ら夜都賀波岐は、納得するまで退かぬであろう。その記憶を垣間見て、確かな確信と共に理解した。

 その闘争。残り続けた意志。彼らに憎悪を抱く男ですらも、其処には敬意を感じずには居られない。だが、それでも彼らは倒すべき敵であるのだ。

 

 倒して、乗り越える。それこそが憎悪を晴らす手段であり、偉大な先人である彼らへの感謝を示す術であり、次代を生きる者らの義務なのだから。

 

 

「ほんっと、子供を背にした親って強いわよね。何か、毎回してやられてるって気がするわ」

 

 

 我が子を生かす為に、大天魔へと挑む父。全てを貫く一擲を前に、空間転移で距離を取りながらに魔女は呟く。

 逃げ回るだけの防戦一方。同格以下に対しては無敵となるゼストは、神格域まで強化された事によって、正しく脅威となっていた。

 

 

「けどね。私だって、唯じゃ終われない」

 

 

 空間を飛び回りながら、何れ追い付かれると理解する。下手に遠くに逃げたとすれば、その距離ごとに貫かれよう。

 故にアンナ・マリーア・シュヴェーゲリンは選択する。それは理屈で考えれば愚策と、そう断じられてもおかしくない行為。

 

 逃げ回るのは此処で終わりだ。残る全ての海を集めて、真正面から迎え撃つ。そんな選択をする。それだけの理由があったのだ。

 

 

「昔の私なら嫉妬して、気が狂う程に羨んで、そんな物を見せられた。それでも冷静で居られるのは、それだけ愛して貰えたから」

 

 

 理由は彼らが纏った光だ。共に在ろうとする優しい祈り。共有の力を前にして、女は心に決めたのだ。

 

 明媚礼賛・協奏。その輝きは、報われなかった魔女には猛毒だ。どうしてあの時に、そう望み求めてしまう程に美しい輝きだ。

 在りし日に見ていたならば、狂乱する程にそれを求めただろう。だが今はそうはならない。それは既にこの輝きを求める必要がない程に、アンナは満たされていたのだから。

 

 愛されていた。抱きしめられていた。だから、耐えられた。そうと自覚する女は、そうで在ればこそ此処では退けない。

 

 

「だから、唯でなんて負けられない。愛された想いに応えられない様な、そんな安い女じゃないのよ! この私はっ!!」

 

 

 黒き影が沸き立つ様に、溢れ出しては荒れ狂う。無間の海を此処に集めて、迫る一騎当千への矛とする。

 無様な敗北だけは出来ないのだ。見定めずに、眼を焼かれただけで墜ちてはいけないのだ。そんな結果は、愛してくれた男への冒涜だろう。

 

 

「全力で行く! だからっ! 超えられるって言うんなら、超えてみなさいよっ!! 無間・黒縄ォォォォォォォォッ!!」

 

 

 正しくこれが全力全開。子を守らんとする父の意志と、男の愛に応えんとする女の祈りがぶつかり合う。

 激しい振動と共に聖王の揺り籠が大地に墜落し、玉座の間は神域の力によって跡形もなく消し飛ばされた。

 

 

 

 

 

4.

 クラナガンの街にほんの僅かな時、満ちて溢れた絆の覇道。その恩恵を受けた者の中には、彼の姿も存在していた。

 荒涼とした砂漠の中心。吹き付ける死の嵐と、振り下ろされる幕引きの鉄拳。それによって崩れ落ちていた金髪の青年が、その身をゆっくりと動かし始める。

 

 指先に力を入れて、溢れる砂を掴み取る。引き摺る様に腕を引いて、崩れたその身を支え起こす。

 震える腕は何度も崩れそうになって、立ち上がろうとした足は幾度も挫けそうになって、それでも彼は起き上がる。

 

 そうとも、苦しい戦いは今回限りの事ではない。地獄の様な苦しみも、勝てないと思わせる絶望も、所詮何時もの事なのだ。

 その度に立ち上がれたのは、そうする理由が胸にあったから。心に感じる熱は未だ消えていない。ならばそう。今回だって立ち上がれる。

 

 最強の怪物を前に、最弱の人間は立ち上がる。

 何の力もない青年は己の意志で立ち上がって、誰よりも強大な存在に向かって告げた。

 

 

「じゃあ、始めようか」

 

 

 戦いを始めよう。そう語り、拳を握る。震える足で大地を踏み締め、腰を落として構えを取った。

 

 この絶死の世界。無間地獄の主を前にして、ユーノは拳を握る。

 特殊な異能は使えない。他人と渇望を共有していても、ユーノ・スクライアでは使えない。

 

 狂気にしか思えぬ程の精神性を持っていても、彼は人として真面に過ぎるのだ。

 故に例え他者の願いを内に取り込もうとも、その異能を再現する事は出来ない。それでも、今の彼は先程までとは違っている。

 

 不完全な形での疑似流出。その恩恵を確かに得ていて、ユーノは戦う力を手に入れた。

 それは単純な身体能力。そしてこの地獄に耐え得るだけの魂強度。たったそれだけを武器にして、彼は最強へと挑むのだ。

 

 

「…………解せないな」

 

 

 立ち上がり、拳を構えるユーノ・スクライア。その姿に、天魔・大獄は疑問を抱く。

 どうして立てると言うのか。どうして立ち向かえるのか。例え力を得ようとも、傷が癒えた訳ではない。

 

 

「今も、苦痛に苛まれ、死した方が、余程楽であろうに……」

 

 

 その身は既に満身創痍だ。自己再生の異能などは使用できずに、治療の魔法も使えていない。

 魔法を喪失したと言う意識が影響しているのだろう。共有できる状態になっても、小器用に他者の力を借りられないのだ。

 

 満身創痍は肉体だけの話じゃない。寧ろ心に付いた傷の方が遥かに重いと言えるだろう。

 幕引きの拳によって殺害されて、苦しみのたうち回りながらに蘇生される。そんな生き地獄を繰り返して、心が摩耗しない筈がない。

 

 

「お前は、何故、戦える」

 

 

 だと言うのに、青年は拳を構えている。揺るがず己の意志を示している。

 どれ程に傷付いたのか、分からぬ程に傷だらけ。死んだ方が遥かにマシな、そんな場所で生きている。

 

 

「何故、憎まずに居られる」

 

 

 その生き地獄。突き落としたのは天魔・大獄と高町なのは。彼を今尚苦しめ続ける二つの要因。

 恨んで然るべきだ。憎んで良い筈だ。それが自然と言うのなら、今の彼こそ不自然の極み。どうして己の死すら嘲弄する元凶を、恨まずに居られると言うのか。

 

 死を弄ばれた過去がある。故にこそ誰よりも、それを愚弄する者を許せない。

 そんな過去を持つが故に抱いた疑問。最強の怪物が零した疑念を耳にして、ユーノ・スクライアはくすりと笑った。

 

 

「君さ。女の子を本気で好きになった事、ないだろ」

 

「……なに?」

 

 

 小さく笑ったユーノが口にするのは、そんな場違いにも程がある言葉。

 呆気にとられて問い返す大天魔を前にして、彼は誰に憚るでもない己の想いを口にした。

 

 

「舐めるなよ。ミハエル・ヴィットマン。彼女の愛は、呪詛じゃない」

 

 

 再演開幕。その力によって引き起こされる強制蘇生。苦痛に満ちたその生は、しかし決して呪詛ではない。

 呪いだなんて認めない。愛する人に生きて欲しいと望まれて、それをどうして憎めよう。この愛は誰に否定されたとしても、決して呪いなどではないのだ。

 

 

「哀れむなよ。ミハエル・ヴィットマン。僕らの想いは、哀れみを受ける様な物じゃない!」

 

 

 愛した女に、心の底から愛された。その結果が無限に生死を繰り返す地獄だとしても、それは哀れまれる物ではない。

 愛しているのだ。心の底から女を愛していて、その女から狂おしい程に求められている。其の全てを愛せると言うならば、どんな結果であっても悲劇などには成りはしない。

 

 

「惚れた女が、死んでくれるなって言ってんだ! だったら――」

 

 

 死んでくれるなと望まれた。ならば生きて共に歩こう。太陽である君と一緒ならば、どんな地獄の底でだって生きていける。

 その覚悟がある。ならば哀れまれる理由がない。共に地獄を進みたいのだと願っている。ならば其処から救いだそうとする行為であっても、それは侮辱と変わらない。

 

 女の狂愛を受け入れて、男は此処に拳を握る。大きく大地を踏み締めて、裂帛の意志と共にその拳を打ち出した。

 

 

「男の冥利に尽きるって、もんだろうがっ!!」

 

 

 御神不破が奥義・閃。打ち出された鋼鉄の右腕が、黒き鎧を揺るがせる。

 きしりきしりと軋みを立てて、大獄の鎧が砕け始める。黒き虎の甲冑には、拳の痕がはっきりと残っていた。

 

 

「……なるほど」

 

 

 その一撃を胸に刻んで、最強の天魔は最弱の人間を静かに見詰め直す。

 睨み返す青年の瞳は揺るがなく、最強への恐怖はない。あるのは唯、生きていくのだと言う意志だけだ。

 

 その瞳の先、浮かんだ光が彼にとっての太陽か。

 女への愛を理由に生きる。己には分からぬ感情だが、戦友を思い出させる好ましい強さ(アマさ)だった。

 

 

「非礼を詫びよう」

 

 

 故に非礼を詫びる。見誤っていたのだと確かに認める。

 謝罪をしたのは、彼らの愛を理解したからではない。狂気に堕ちた女の駄々など、理解しようとすら思えない。

 

 それでも、誤っていたのだと理解する。それは彼への認識だ。

 

 天魔・大獄から見て、ユーノ・スクライアとは死を弄ばれた犠牲者だった。

 狂気の愛で縛られて、死ぬ事すらも出来なくなった哀れな男。女の呪詛を跳ね除ける事も出来ない弱い男。そんな認識だったのだ。

 

 だが、違うと分かった。彼の言葉は理解出来ずとも、彼の意志なら理解できる。

 あの甘い戦友と同じく、この男の愛に生きる人間だった。どれ程に辛い地獄の中でも、前に進める人間だった。

 

 そんな“人間”を、天魔・大獄はこう定義する。

 

 

「お前は、戦士だ」

 

 

 どれ程に弱くとも関係ない。例え吹けば飛ぶ程に儚くとも、その尊さは決して揺るがない。

 強弱ではなく、重要なのは意志の強さ。心が強い人間こそが、正しく戦士と呼ぶべき人種。天魔・大獄が、全霊を以って向き合うべき存在なのだ。

 

 

「戦士には、相応しい幕がある」

 

 

 故にこそ謝罪を――幕引きの拳だけで終わらせようなどと、それこそが侮辱であった。

 なればこそ全力を――この男には、己の全てをぶつけて、終わらせるだけの価値がある。

 

 これを使えば自滅する? いいや最早関係ない。これを使わずに終わらせる事など、どうして出来ると言うのであろうか。

 過剰な火力に過ぎるだろう? いいやそんな筈はない。相応しい戦士に、相応しい幕を与えようと言うのだ。それがどうして、不足が過ぎると言う話になるか。

 

 故に、天魔・大獄はゆっくりと動き出す。

 敬意を向けるべきと定めた敵を此処に、己の全霊で打ち破る為に。

 

 

「俺の終焉を見せよう」

 

 

 キシリ、キシリと軋みを立てて、最強の怪物の腕がゆっくりと曲げられる。

 その五指は己の頭部へと。その顔を覆う黒き虎面をした兜。それを外す為に、ゆっくりと動いている。

 

 いいや、実際には緩慢な動作と言う訳ではない。そう見えているだけだ。

 死の直前に起こる脳の錯覚。これはそれと同じ物。強烈な死臭を感じて、脳が体感時間を停滞させているのである。

 

 これは駄目だ。この先は駄目だ。それを見ては駄目だ。理由もなく、直感する様に感じている。

 五指で掴んで、ゆっくりと動き始める虎の面。その下にある物こそが、この地獄の中心地点。最も濃度と密度が高い場所。

 

 それは全てを滅ぼす力。死後すら殺す絶死の力。全てを終わらせる、死の極点に位置する虚無だ。

 

 止めないと、だが止められない。兜を手にして、外すだけ。そんな僅かな動作に付け入る隙などある筈ない。

 故に、その終焉は止められない。その絶望には抗えない。ユーノ・スクライアは動けずに、天魔・大獄はゆっくりと――その虎面を外し始めた。

 

 

 

 

 




逆転のムード。それを一瞬で覆すKYなマッキー。
ヤンデレって男側がイケメンだと、純愛になるんだよねってのが今回の話。



〇オリ創造解説
【名称】明媚礼賛・協奏(アインファウスト・シンフォニー)
【使用者】トーマ・ナカジマ
【効果】効果対象者全員での能力共有。共有する物は、特殊な異能から経験記憶知識に至るまで全て。数値化可能な物は、合算した上で共有する。味方の強化と言う一点においては、これ以上がないと言う特殊能力。対象の中に一柱でも神が居れば、全員が神格保有者になれると言う反則な力。しかし強力な反面、欠点も多い。

 先ず一つに異能を共有しても、使い熟せるかどうかは個人の資質に依存する事。エリオやクロノの様に共有した全ての異能を使い熟せる者も居れば、ゼストやユーノの様に自分の能力以外全く使い熟せない者も出てくる。
 次の二つに全員を同等にしてしまう為、使用者が対象者に対し強制力を持てない事。反逆や内部分裂が起きた際、トーマは何も出来ずに討たれる危険を常に負う。
 そして最後に、一人では全く役に立たない事。手を取ってくれる誰かが居て初めて、これは意味を為す異能である。

 因みにこの異能が流れ出した場合、世界法則は“特別な人と必ず出会える”と言う形になる。

 誰だって必ず、素晴らしい出逢いに恵まれる。それが唯一無二の世界法則。
 大切な人が一人でも居れば、誰だって前に進める筈だ。そんな祈りが生み出す世界は、孤独な者を生み出さない。

 あくまで自由意志を尊重する世界故に、出逢いを大切にするかどうかは本人次第。だがそれでも、機会がなく何も得られないと言う者は決して生まれはしないだろう。

 望まずとも必ず一度は誰かと触れ合う事になる世界に成る為、波旬にとっては間違いなく地獄である。


Q.詰まりどういう意味だってばよ!?
A.トーマは縁結びの神様だったんだよ!!


【詠唱】
「風は競い合って吹きすさび、華やかな大地を旋回する」
「海から陸へ、陸から海へ、絡まり連なり、永劫不変の連鎖を巡らせる」
「そは御使い称える生々流転。美しく、豊かな生こそ神の祝福」
「優しき愛の囲いこそ、誰もが願う原初の荘厳」
「Briah――明媚礼賛(アインファウスト)協奏(シンフォニー)

※詠唱文はゲーテのファウスト、日本語訳より拝借。練炭が使ってない場所を切り貼りして、単語を同義語や類語で入れ替えただけ。





〇おまけ たった五行で分かる、今回のあらすじ。





ユーノ「君さ。女の子を本気で好きになった事ないだろ」
マッキー「漢の戦場(意味深)に、女子供は必要ない」
(゚o゚ ) 「……え?」

┌(┌ ^o^)┐「そして――お前も戦士だぁ」

Σ(゚д゚;)「ア゛ーッ!?」





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