リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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みつど「見せてやろう! これが被害担当世界筆頭。被害者の頂点足る我が実力だ!!」


第二十五話 失楽園の日 其之肆

1.

 二色の力がぶつかり合う。深い青と冷たい黄色、意志の籠った視線が交わる。

 片や不動。白衣の男は玉座に腰を掛けたまま、迎撃すると言う方針を崩しはしない。

 片や流動。流れる水の如くに絶え間なく、空を駆ける翡翠の女。なのはは僅かにでも足を止めたならば、迫る破滅に追いつかれると分かっていた。

 

 高町なのはは、振り返らずに背後の気配を感じ取る。迫る力は無限量。狭い空間を満たす程に膨大な蟲は、白衣の背に空いた門から際限なく溢れ出している。

 逃げ場を塞ぐ様に、行動の自由を奪う様に、蟲が進路を制限した後にスカリエッティは嗤いながら力を揮う。顕現する力は三種。気付いた時には既に魔鏡に映っていた、この狂人が生み出していない筈の力であった。

 

 

「蒼き衣を纏う者よ、EHEIEH――来たれエデンの統治者」

 

 

 遥か高く、破壊の光が落ちて来る。神の鉄槌を思わせるそれは、数千条にも及ぶ流星群。

 蒼き衣を纏う者。其は即ち熾天使。奈落に生まれる筈がない汝の名はガブリエル。聖王教会の玉座の間を押し潰さんと、天蓋を突き破って空が堕ちた。

 

 守りもなく巻き込まれれば千度は死ねる。だが足を止めて身を守っても、その物量は障壁諸共潰すであろう。

 回避も防御も許さない。そう言わんばかりの破壊の力。落ちて来る空を前にして、杖を握った高町なのはは選択する。

 

 回避か防御か、それ単独で防げぬならば――回避も防御も同時にするのだ。

 

 

「レイジングハートっ!」

 

〈Protection smash〉

 

 

 魔力障壁を纏ったままに、高速加速で移動する。数千条の流星群を掻き分けて、翡翠の女は超音速で駆け抜ける。

 そんな女の背後にて、背を追う蟲と隕石雨が潰しあう。状況を考えずに放てばこうもなるかと、スカリエッティは妙な感心を浮かべながらに接近する女を見た。

 

 反応は間に合わない。咄嗟の対応は彼には出来ない。故にその一撃は必ず受ける。

 前面に魔力障壁を集中して、高町なのはの攻撃手段は超音速の体当たり。速度を伴った質量は、男が座る玉座を砕いた。

 

 空に舞う。砕けた瓦礫の中、天蓋の先を舞いながらに、スカリエッティは肝を冷やしていた。

 自動で発動する様にプログラムされた障壁がなければ、この一撃で終わっていただろう。砕けた王座と同じく、その身も粉々になっていた筈である。

 迫る翡翠。空を飛ぶ女の瞳に迷いはない。その速度は一分一秒、僅かな時間経過と共に増大している。このまま放置したならば、後180秒程で己の障壁すらも抜けてしまうであろう。一瞬の戦闘判断は不得手でも、物事を見抜く頭脳に自信があった。故にこの判断は、疑う余地すらない真実だ。

 

 

(狙って当てるのは難しい。罠に嵌めようにも、戦場での咄嗟の判断力と発想力で後れを取るは必定か。……ならば、これしかないだろうね)

 

 

 手札を探る。使うべき力を選別する。為すべきは絶対に命中し、一撃で決められる力の行使。

 だが腐炎は使えない。それは相手の安否を気遣う、と言う意味ではない。こと戦場においては、相手の方が上を行くのだ。気遣う余裕などは何処にもない。

 腐炎では己も巻き込む。身に纏って理解したが、アレは自分では制御し切れない。下手に頼り過ぎれば、あの無価値な悪魔は何もかもを台無しにし兼ねないのだ。

 

 故に選ぶべき手札は一つ。その一つの前に先ず一つ。布石としての手札を切った。

 

 

「黄衣を纏いし者よ、YOD HE VAU HE――来たれエデンの守護天使」

 

 

 巻き起こるのは巨大な竜巻。荒れ狂う嵐が触れた空間を削り取り、開いた傷口を縮めて繋げる。

 接着した部位に生じる力。空間を歪曲させて生み出した断層は、あらゆる全てを此処ではない何処かへと吹き飛ばす。

 

 それは当然、高町なのはも防げはしない。障壁を纏った女はまるでボールの様に、膨大な“風”に弾き飛ばされた。

 

 

「っ! けど、こんな物っ!!」

 

 

 目の前に迫るは、人工的に起こされた次元断層。世界に穴を開けて、自然と傷が治る際に発生する歪曲空間に敵を巻き込む力。

 それをこんな物と口に出して、高町なのはは加速する。吹き付ける“風”すら乗り越える程に、速く、速く、只管に速く。閉じる世界の顎門を、突破せんと前へと進む。

 

 其の対応は、何処までも魔力任せな力技。遥か格上の敵手が為した破壊に対し、力で立ち向かうは愚策であろう。

 されどこの女は未完の太極。リミッターと言う制約を解除した彼女は、この今にも完成に向かって成長を続けているのだ。ならばその純粋質量が、膨大な風を超えるのは時間の問題だった。

 

 吹き抜ける嵐を突破して、高町なのはは空を飛ぶ。目指すは一路、この一撃で距離を離された狂人の下へ。

 次元の嵐を突破した高町なのはの姿を前に、しかしジェイル・スカリエッティは彼女を見ない。見る必要など端からないのだ。

 

 

虚空より、陸空海の(Huc per inane advoco )透明なる天使たちを(angelos sanctos )ここへ呼ばわん (terrarum aerisque,)

 

 

 そう、分かっていた。ラファエルが突破される事など想定内で、故に風は時間と距離を稼ぐ為。

 確実な決め手は次だ。この今に顕現する力。詠唱を破棄せず、一つ一つの言葉に意志を込めて、最大火力で力を放つ。その為の時間稼ぎに過ぎなかったのだ。

 

 

この円陣にて(marisque et liquidi simul )我を保護し、暖め、(ignis qui me custodiant foveant )防御したる火を灯せ(protegant et defendant in hoc circulo)

 

 天蓋が崩れ、吹き抜けになった玉座の間。その場に一人立つ白衣の男は、滅殺の意志と共に魔力を高める。

 引き出される力を纏って、一点へと集まるのは天蓋だった瓦礫の山。それを核に凝縮熔解。足りない質量は魔力で補い、頭上に生み出されるは疑似太陽。

 

 

幸いなれ、義の天使。(Slave Uriel, )大地の全ての生き物は、(nam tellus et omnia )汝の支配をいと喜びたるものなり(viva regno tuo pergaudent)

 

 

 飛翔する高町なのはは気付く、これは先の再現だ。アリサ・バニングスが行ったミッドチルダ全土を巻き添えにした大火力砲撃。それと同じ事を、このジェイル・スカリエッティは行おうと言うのである。

 

 

さればありとあらゆる災い、(Non accedet ad me )我に近付かざるべし(malum cuiuscemodin)

 

 

 今度は非殺傷などはない。戦うに足りぬ者。戦士足り得る資質なき者。その全てを焼き尽す。それだけの破壊が、彼の頭上には集っていたのだ。

 

 

我何処に居れど、(quoniam angeli sancti )聖なる天使に守護される者ゆえに(custodiunt me ubicumeque sum)

 

 

 不味い。不味い。これは決して、通してはいけない力である。太陽の炎を浴びてしまえば、この今に消耗している六課の誰も生き残れない。

 だが最早止められない。唱える言葉は既にして、その力を放つ程に。呼び出された天使の力。一億個分の水素爆弾にも迫る破壊の力は、既にもう放たれるのだ。

 

 

「斑の衣を纏う者よ、AGLA――来たれ太陽の統率者!!」

 

「っ!! レイジングハートっ!! 封時結界!!」

 

 

 だからこそ高町なのはは、その全てを己の一身で受け切ると決意した。

 そう決断して、展開されるのは封時結界。たった二人を取り込む小さな異界。

 

 それが形成する瞬間に、白衣の狂人はニヤリと笑みを深めていた。

 

 

「そう。君はそうするしかない。……故にだ、受けたまえ。数千万度を超えるフレアの爆発。世界全土を襲う筈だった膨大な力を、君の身体だけで受け止めるが良いっ!!」

 

 

 結界の中に、太陽が堕ちる。そして膨大な質量が、激しい光と共に爆発した。

 

 逃げ場などはない。他ならぬ高町なのはが自分の意志で、退路を全て塞いだのだ。逃げられる筈がない。

 耐えきれる理屈などはない。世界全土にフレアの爆発を起こそうとした。その膨大な効果範囲を、僅かな空間へと濃縮したのだ。受ける破壊の威力は、最早太陽の爆発さえも超えている。

 

 

「フフフ、フハハ、ハァーッハハハハッ!!」

 

 

 翡翠の結界が、破壊力に耐えきれずに砕け散った。

 そうして不釣り合いな青空が広がる下で一人、ジェイル・スカリエッティは嗤い狂う。

 

 恐らく高町なのはは生きている。だが生き延びたとして、それが限界だ。それだけの破壊であった。

 如何に不撓不屈であっても、如何に再演開幕であっても、耐えられぬし耐えきれぬ。最早決着は付いたと言えよう。

 

 それでも初期の想定は果たせた。だから後は残骸と化した彼女を回収して、最後の調整を加えるだけだ。そう考えて、嗤い狂った男を前に――翡翠の光が、膨れ上がった。

 

 

「再演、開幕」

 

 

 焼け落ちた炎の中から、翡翠の輝きが舞い上がる。空へ、この蒼き空へ、星の輝きが飛翔する。高町なのはの舞台は、決して終わりはしないのだ。

 

 

「まさか、よもや其処まで――私の想定を、其処まで超える程に――っ!?」

 

 

 驚愕に動揺する。戦場で致命の隙を晒す、故に男は戦士ではない。

 気が付いた時にはもう遅かった。神々ですら耐えきれない太陽に耐えたと言う事実は即ち、もう既に彼女が神域に到達していると言う事を意味していたのだ。

 

 故に、最早互いの力に差などない。ならば当然、どちらが敗れ去るかは明白。

 まるで硝子細工の様に砕かれた自動障壁。服を通して感じる冷たさは、己の腹部に突き付けられた杖の先端。

 

 黄金の杖が静かに告げる。機械音声が突き付けるのは、最早防げぬ翡翠の砲火。

 

 

〈Divine buster〉

 

「シュゥゥゥーットッ!!」

 

 

 零距離から、翡翠の砲撃が撃ち放たれる。神域に至った膨大な魔力は、魔人と化した身体であっても耐えられない。

 痛みだ。直撃を受けた腹部に感じる痛烈な感覚に、喉から固形の血反吐が噴き出す。血を吐いて崩れ落ちるスカリエッティを前にして、高町なのはに躊躇はない。

 

 

「ディバィィィィンバスタァァァァァァァァッ!!」

 

 

 大地に倒れた男に向かって、零距離での追撃砲火。この狂人を前に一瞬でも時間を与えれば何をするか分からぬから、此処で決めると油断はない。

 戦士と研究者。それがこの違いであろう。頭脳の優劣ではなく、性能の差でもなく、狂気の有無ですらない。一瞬の判断力、そして為すと決めたならば躊躇しない事。詰まりは意識の違いであった。

 

 玉座の間に穴が開く。殺傷設定で放たれた翡翠の砲撃が、大地を穿って吹き飛ばす。

 大理石の床が砕け、その地中までも崩れ、大地の底に空いた大穴の中へと両者は落ちる。

 

 下へ。下へ。下へ。落下を続ける両者の行動は、落下の最中であっても変わらない。

 高町なのはは零距離から、砲撃魔法を撃ち続ける。僅かにでも動き続ける限りは、決してその手を緩めない。

 ジェイル・スカリエッティは何も出来ない。身動き一つ取れぬままに、翡翠の光を撃ち込まれ続けて、血反吐と共に落下を続けた。

 

 三。四。五。六。七。八。九。十。絶え間なく続く砲火の雨、直接撃ち込まれる破壊の力に対応など出来よう筈もない。

 二十。三十。四十。五十。六十。七十。気が遠くなる程の距離を落ち続けながら、作業の如くに砲撃を続ける。倒したと言う確信が持てない限り、この砲撃は止まらないし止める必要すらありはしない。

 

 そして、両者は大地の底に着く。翡翠の光に焼かれ続けた白衣の男は、塩の山へと叩き落された。

 衝撃で巻き上がる塩の結晶。翡翠の光と共に白い粒が大気を満たして、一種幻想的な光景を作り上げる。

 

 だがそんな光景に見惚れる隙などありはしない。この部屋が何の為の部屋なのか、思考に捕らわれる意味もない。

 この今に、戦場に情緒は不要だ。ジェイル・スカリエッティと言う狂人が、何をするか分からぬのだ。ならばこの手を休める必要は、底に着いたとしてもありはしない。

 

 当たり前の様に追撃を、そう為そうとして異常に気付いた。

 

 

「レイジングハートっ!?」

 

〈The system rests. ……Sorry. my master〉

 

 

 砲撃が撃てないのだ。手にした黄金の杖の先、魔力の集束が起こらない。

 この場に辿り着いた瞬間に、レイジングハートに異常が起きた。一体何をされたのか、驚愕に一瞬の隙が生まれた。

 

 その瞬間に、黒い鉄杭が飛来した。まるで意志が在る様に、飛翔した杭が掌に刺さる。

 動作不良となったレイジングハートを吹き飛ばして、掴んでいた右手に深く突き刺さった黒い鉄杭。

 流れ込む悪意の情報と蠢くその姿は、正しく害獣。数匹の魔群によって形成された物質は、女が為した魔蟲形成。

 

 

「くっ!!」

 

 

 打ち込まれた黒い杭は一つではない。降り頻る雨の如くに襲ってくる。

 思わず後退して躱そうとしたその身に、激しい“風”が吹き付ける。次元断層に吹き飛ばされて、高町なのはの身体は最下層の壁へと押し付けられた。

 

 其処に打ち込まれる黒き杭。両の掌を深くまで、抉り取った魔蟲がなのはを壁に張り付ける。

 天使の風を起こした男は血反吐を吐き捨てながら、ゆっくりと塩の山から立ち上がる。そんなスカリエッティの傍らには、茶髪の流した悪女の姿。

 

 

「ドクター。御免なさい。言い付け、破ってしまいました」

 

「いいや、助けられたよ。クアットロ。……そんな心算はなかったんだが、彼女を些か侮っていた様だ」

 

 

 クアットロは見ていたのだ。父たる彼に不要と言われて、それでも不安だったからこそ蟲を数匹近付けていた。

 そうして彼女は怒り狂った。襤褸雑巾の如くに砲火に晒されて、今にも危機にあった父の姿に柄にもなく必死になった。

 

 だがクアットロでは敵わない。数に長ける事を選んだ彼女では、神すら滅する力に耐えられる程に高まったなのはに打ち勝てない。だから選んだのは搦め手だ。真面に戦えば勝てないからこそ、クアットロは罠を動かしたのだ。

 

 

「此処は随分と、AMFが濃いだろう? 臆病な彼らに相応しい程に、だ。如何に君でも、前知識なくこの場で魔法を使う事は不可能。知っていれば兎も角、常の調子で砲撃を行おうとすれば失敗する」

 

 

 これはスカリエッティが用意した罠ではない。最高評議会が用意していた、スカリエッティへの罠。例えどんな魔導師であっても、魔法を使う限りは制限を受ける程の高密度AMF。

 その存在を知っていたクアットロが、高町なのはの隙を作る為に起動させた。膨大な数を誇る彼女なればこそ、エースの足止めと同時にそれを行えた。そしてその僅かな隙が、スカリエッティの勝機を作り出したのだ。

 

 

「……一体、何をしたの」

 

 

 磔にされた高町なのはは、疑念の声を此処に漏らす。ディバインバスターが途切れた理由は理解出来た。だが一つ、理解出来ない事がある。

 それはレイジングハートの機能異常。AMFだけでは理屈が付かず、答えは大凡想定出来ていたが敢えて問い掛ける。如何にか脱出する為にも、僅かな時を稼ぎたかった。

 

 

「そのレイジングハートは、一体誰が作ったと思っているのかね? 異能との同化故に変質しようとも、元が私の作品ならば対処は簡単だ」

 

 

 不撓不屈が覚醒した時に、レイジングハートは高町なのはと同化した。

 それは生体と機械の高次元での融合。その時にレイジングハートは、唯のデバイスではなくなった。

 それでも原形を留めない程の変化ではなかった。この狂人が用意していた地雷を取り除けた訳ではなかったのだ。

 

 

「レイジングハートに、停止コードを打ち込んだ。触れてさえいれば、何時でも機能は止められたんだ。……あくまで一時的な物だから、使う心算はなかったんだけどね」

 

 

 レイジングハートには、緊急停止用のコードが設定されていた。

 腕に付けた精密作業用のデバイスで、ジェイル・スカリエッティはそれを打ち込んだのだ。

 

 だからレイジングハートは機能異常を起こして停止した。異能での変質故に完全停止は不可能でも、一時的に混線させる事なら出来た。

 そんな予想通りの解答に、高町なのはは静かに唇を噛み締める。万全を期すならばこの狂人が裏切った時点で、デバイスを変えておくべきだったのかも知れないと。

 

 

「さて、では名残惜しいが。そろそろ次に移るとしよう。その拘束とて、余り長くは続かないだろうからねぇ」

 

 

 時折咳き込みながら、口に溜まった血反吐を吐き出しながら、ジェイル・スカリエッティは歪に嗤う。

 少々予想を外す事態はあったが、それでも結果は予定通りに。安全マージンとして用意していた範囲内を、未だ超えてはいないからこそ修正は容易だ。

 

 寧ろ、この状況はまるで誂えたかの様に、スカリエッティにとって都合が良い。

 或いは“彼”の意図もあったのかも知れない。己の末を、次男の子の血を引いた彼女を、槍の中で求めていたのか。

 

 そんな風に愚にも付かぬ事を考えながらに、白衣の狂人は己の娘に指示を出した。

 

 

「クアットロ。しっかりと抑えておきなさい」

 

「はい。ドクター」

 

「――っ」

 

 

 頷きと共に、高町なのはを縛る拘束が強くなる。傷口から流れ込む悪意の量に、思わずなのはは苦悶の声を漏らしてしまう。

 

 如何にか耐えられる程度の痛み。常ならば取り除ける拘束も、この状況では些か不味い。

 高密度に過ぎるAMF下で、レイジングハートの助けもない。この状況下で魔群を振り払おう程の力は、さしもの彼女にも未だ足りない。

 

 もう少し、時があれば――後僅かにでも時を稼げば、如何にか突破も出来るだろう。

 だがそのもう少しを知っていて、だからこそ猶予は与えられない。磔られた彼女を前に、ジェイル・スカリエッティは笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

 

「時に高町なのは。君は知っているかね? 十字架に磔られた聖者が、如何にして死を迎えたのかを」

 

 

 それは基督教に伝わる話。宗派の人間でなくとも知っている。最も有名な説話の一つ。

 神の子の死。高町なのはの磔られた場所とは違う場所へと足を運びながらに、ジェイル・スカリエッティは嗤って告げる。

 

 

「処刑人ロンギヌス。彼が磔られた聖者を、その手にした粗雑な槍で貫いた。そうして神の子は人としての死を迎え、聖霊と一体となったそうだ。君の故郷に伝わる神話の一つだよ」

 

 

 歩む先にある物を視て、思わず高町なのはは意識を奪われ掛けた。

 見惚れてしまう。目を奪われてしまう。そんな場合ではないのに、意識に空白が浮かんでしまう。

 

 どうしてこの今にまで気付かなかったのか、そう思う程に強大な密度の魂を纏った物が其処にはあった。

 

 

「中国易学が語る陰陽と基督教の教えとでは、少々ごった煮感があるのは否めないがね。……余りに都合良く状況が整っているのだ。ならば、再現してみよう」

 

 

 其れは槍だ。粗雑とは真逆、見ただけで神々しいと分かる程に優美な黄金。

 彼の蛇が作り上げた至高の聖遺物。粗雑な槍を素材として、生み出されたのは獣に捧げた究極の一。

 

 手にした者は、世界を統べると謳われた黄金の槍。

 眼を奪うのはその槍の輝き――ではない。真に言及するべきは、その中で眠り揺蕩うモノ。

 

 それとの間に、何かを感じる。魂が酷く叫んでいるのだ。

 己との共鳴。其の先にある者こそが、この身に流れる血にまつわる至高の黄金。

 

 その槍を前に立ち、スカリエッティは腕を振るう。

 軽く振られた腕は衝撃波を伴って、高町なのはを打ち付けた。

 

 そして、壁が抉れて崩れ落ちる。磔られた身体と同じ形が残されて、その周囲が削れて落ちる。

 両手を杭に射抜かれて、両足も同じく蟲で射抜かれて、残された壁の形はまるで十字架。そうして聖者の如く、女は十字架に架けられた。

 

 

「これで十字架は出来た。――そして、ロンギヌスの槍も此処にある」

 

 

 ジェイル・スカリエッティは槍に手を伸ばす。相応しくないと掌を焼かれながらに、痛痒を見せぬ狂気の笑みで槍を握り締める。そうして、音を立てる事もなくゆっくりと、その黄金の槍を引き抜いた。

 

 

「さあ、始めよう。聖者の死、神の誕生を。彼の神話に準えて、君の命に幕を落とそう」

 

 

 激しい力の奔流に、その身を焼かれながらにジェイル・スカリエッティは嗤う。

 狂気の笑みを浮かべたままに、弓を引く様に全身を引き絞って――白衣の狂人は黄金の槍を投げ放った。

 

 

聖約・(ロンギヌス)運命の神槍(ランゼ・テスタメント)!!」

 

 

 空を飛翔した槍。風を置きざりにした投擲に、特殊な異能などは残っていない。

 それでも内に宿った獣の力は健在で、唯投げ放つだけでも恐ろしい程に力が込められていた。

 

 故に当然、防げない。咄嗟に障壁を張ったとしても、当たり前の様に崩されて防げない。ならばこそ、この結果は当然だ。

 

 

「…………」

 

 

 黄金の槍は深く、その半ばまで女の腹を射抜いていた。

 断末魔を漏らす事も出来ず、高町なのはは意識を閉ざす。視界が暗闇に染まる、その間際――

 

 

「ククク、クハハ、ハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 耳にこびり付く狂人の哄笑と、僅かに見えた玉座に座る黄金の君。それを見詰めながらに、彼女の意識は闇へと堕ちた。

 

 

 

 

 

2.

 聖者の如く磔られて、その意識を失った高町なのは。

 崩れ落ちた聖王教会の地下深くにて、クアットロ=ベルゼバブは会心の笑みと共に口にする。

 

 

「終わりましたね。ドクター」

 

 

 これで終わりだ。父の望んだ被検体は掌中に納まり、己達もまた完成した。

 此れにて当初に予定していたプロジェクト・パラダイスロストは完全達成。紆余曲折こそあったのだが、最早盤面は覆らない。

 

 

「残るはもう弱者のみ。エリオ君の周囲が少し面倒だけど、それ以外などもう取るに足りない。流石はお父様。その神算。その鬼謀。誰であろうと、最早止める事は――」

 

 

 そうして笑みを浮かべたまま、甘い声で胡麻をする様に父を賛辞するクアットロ。

 そんな彼女の頭を優しく撫でながらに、ジェイル・スカリエッティは彼女の言葉を遮った。

 

 

「いいや、違うよ。それは間違いだ。クアットロ」

 

 

 愛娘を見詰める温かい笑みと共に、スカリエッティは彼女の言葉を否定する。

 そうとも未だ終わっていない。エリオと同じく、クアットロも教えられていない事がある。

 

 それは此処から、全ては此処から始まるのだ。

 

 

「此処からが本番だ。これまでの全てが序曲過ぎない。イントロダクションが終わっただけだ。真に始まるのは此処からなんだよ」

 

「……ドクター? 何を言ってるんですか? 事前の想定では、もう」

 

()()()()()()()。だから教えてなかったが、もう良いだろう。時間が来た。為すべき時は今此処に、漸くに私の願いが叶う時が来たんだ」

 

 

 困惑するクアットロを置いて、スカリエッティは天を仰ぐ。まだ魔群が満ちていない青空の、その向こう側に居る彼らを見詰める。

 

 

「長かった。嗚呼、長かったとも、本当に、だけど、漸く此処まで来たんだ」

 

 

 息を吐いた。万感の想いと共に、その息を吐いた。そうして狂人が見据える先、空が揺れる。大気に隠れた物が形になって、それが明確に揺れていた。

 

 

「ドクター!? 結界がっ!!」

 

「当然だよ。基点となっていた槍を抜いたんだ。ミッドチルダ大結界は、今にも崩れる」

 

 

 揺れているのは黄金の輝き。この星を遍く覆うように、形となっていたのはミッドチルダ大結界。

 常は光学迷彩で、常人の目には映らない様に隠している。そんな隠された結界が、姿を隠せない程に揺れていた。

 

 理由は明白だ。基点を失くしたから。運搬には細心の注意を、そんな槍を無造作に引き抜いて投げたのだ。

 当然、結界の術式は壊れ果てる。力の供給を失ったこの大結界は揺れに揺れて、そう遠くない未来に自然崩壊を迎えるだろう。

 

 

「いいや、自然崩壊と言うのは詰まらんな。折角の機会だ。待ち侘びていた失楽園。終末の喇叭はやはり、自分の手で鳴らしてこそだろう」

 

 

 今も残る結界の基点。この地にある最も重要なその中枢。

 既に滅んだ御門の一門が、ミッドチルダに生きた人々が、死力を賭して守り続けたその故郷を守る最も重要な物。

 

 その術式中枢を、スカリエッティは踏み躙る。

 狂気の笑みを浮かべたままに、己の意志で大結界を此処に破壊した。

 

 

「これで、終わりだ。ミッドチルダ大結界は、これで崩壊した。――故に、だ」

 

 

 揺れていた結界が壊れる。まるで硝子細工の様に、甲高い音を立てて割れていく。

 誰もが見ていた。その光景を。この今に目覚め戦う者たちの全てが此処に、その空を見上げていたのだ。

 

 

「来るぞ。必ずや、彼らが来るぞ」

 

 

 空の向こう側に、彼らは居た。他ならぬクアットロこそが一番良く知っている。だからこそ、彼女は表情を凍らせた。

 

 無尽蔵の彼女がどうして、ミッドチルダを埋め尽くすのに時間が掛かったのか。

 其処に彼らが居たからだ。真っ直ぐ進めば駆除されてしまうから、次元世界全土を満たした数を辿り着かせるのにも時間が掛かったのである。

 

 

「君も見ていただろう? 彼らは此処を見ていた。あの終焉が訪れた日からずっと、この世界を見詰めていたんだ。監視していた」

 

 

 そう。彼らは見詰めていた。監視していた。今のクアットロを排除出来る。そんな彼らは直ぐ傍に、ずっと機を伺っていた。

 短時間の結界消滅では駄目だ。一柱だけでは対処される。それ程に今の人々は高まったから、一柱以上の数を送り込める隙が生まれる時をずっと待っていた。

 

 だからこそ、スカリエッティは用意したのだ。彼らをこの地に招く為に、この大舞台を用意していた訳である。

 

 

「そんな彼らが結界の消失を、見落とす筈がない。故に、もう来るぞ。今来るぞ。正にこの時こそが失楽園。私が真実求め続けた唯一つ!」

 

 

 待っていた。その時の訪れを、己も彼らも待っていたのだ。

 己の血に塗れ、赤に染まった白衣を翻す。そうして両手を広げた男は、堕ちて来る彼らを歓喜をもって歓迎した。

 

 

「さあ、大天魔の到来だ――っ!!」

 

 

 空から赤き滴が堕ちて来る。その数は――七。

 天魔・夜都賀波岐に残った戦力。その全てが、この地に出陣したのだ。

 

 

 

 

 

――一二三四五六七八九十

 

 

 先ず先陣を切るのはこの神威。我だけが穢れるから、愛しい全てを清らかであれ。

 そう願ったのだ。ならばこの男は最も危険な死地にこそ、この地で最も強大な力がぶつかり合う場所に来る。

 

 

「なっ!? 櫻井、戒っ!?」

 

「お前も、僕らの邪魔をするかっ!!」

 

 

 決着を付けよう。その意志をぶつけ合っていた少年達。振るわれる銃剣と槍を、巨大な剣と残る腕にて掴み取る。

 背負った腐毒に腐った死人は少年達の間に立ち、その濁った瞳で二人を見る。また邪魔が入るのかと、怒り狂う二人を見詰めて静かに語った。

 

 

「本意ではない。とは言え、万が一を思えば見過ごす訳にもいかない。……故に恨め。故に憎め。嫌悪し、憎悪する。その資格が君達にはあって、僕はそうされるに十分な屑だ」

 

 

 男の決着の邪魔をする。それが無粋であるのだと、分かっているのだ知っている。それでも、そうと分かって、それでも妨害する必要が此処にはある。

 エリオ・モンディアル。この少年は危険が過ぎる。内に宿った悪魔は既に、両翼さえも手に負えぬ程。そしてトーマ・ナカジマ。彼の宿した魂は、万が一にも失う訳にはいかない物だ。

 

 故にこそ、この腐毒の王が動いたのだ。我らの永遠を、決して終わらせぬ為にこそ。

 

 

「だけど、退けない理由がある。僕らの永遠を、終わらせない為にこそ――神を殺せる悪魔を排除し、君が宿した彼の魂を回収しよう」

 

 

 此処で二人を同時に相手に――天魔・悪路はその死地に挑む。

 

 

 

 

 

――出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき

 

 

 先陣を行くのが彼ならば、常にその背を追い続けるのは一人の女。

 彼の妹と、彼の恋人。その二人の魂を併せ持った融合体。天魔・母禮こそが、第二陣として参戦する。

 

 

「っ! アァァァァァァァッ!?」

 

 

 天魔が出現した瞬間に、一人の女が絶叫を上げて苦しみもがく。

 展開した森を利用して炎上拡大する炎の地獄に包まれて、メガーヌ・グランガイツは死に掛けていた。

 

 その姿を冷たい瞳で見下ろす。天魔・母禮はこれを必要だと理解するが故に、もう揺らぐ様な無様は見せない。

 そう必要なのだ。この女を此処で殺す。それは決して譲れぬ行為。夜都賀波岐の勝利の為に、決して外せぬ条件の一つだ。

 

 メガーヌ・グランガイツの増殖庭園。其れは間違いなく、兄である悪路にとって最悪の異能だ。

 彼は唯でさえ、両翼より強大な悪魔を相手にしている。そして同時に相手をするトーマ・ナカジマとて、夜都賀波岐にとっては比類なき脅威である。

 

 トーマは夜刀なのだ。その魂は彼の物で、故にこそトーマを前にした時に主柱の力は機能しない。

 

 時の鎧は無抵抗に摺り抜ける。元より彼の力であるのだ。彼に通じないのが道理である。

 その上、格の差と言うルールさえも無視されてしまう。何故なら夜都賀波岐とは夜刀の一部。その身体の一片なれば、主人の転生体でもある彼の力に抵抗出来る道理がない。

 

 トーマだけならば、身体能力と経験の差でどうにでも出来ただろう。

 だが其処にナハトが加われば、最悪の事態ですら十分に起こり得る死地となる。

 

 故にこそ天魔・悪路は今、最も危険な場所に居る。

 だからこそ、彼にとっての天敵をこれ以上向かわせる訳には行かないのだ。

 

 

「お前は此処で死ね。メガーヌ・グランガイツ」

 

 

 丁度都合良く、女は異能を使っていた。だからその歪みを介して、魂を焼き焦がしてやったのだ。

 のたうち回る女の姿は、最も苦手とする敵に焼かれたが故に。今にも終わり掛けている女の命を、確実に終わらせる為に刃を握る。

 

 決して生きては残さない。その意志を以って、振り下ろしたのは二振りの剣。

 その斬撃による死を前にして、そうはさせるかと金糸を靡かせる女は銃火を撃ち放った。

 

 

「さ、せるかぁぁぁぁっ!!」

 

 

 魔群を倒す為に、同じ場所で共闘していたアリサ・バニングス。

 突然出現した天魔を前にしてやられた女は、これ以上させるかと形成した携行兵器を撃ち放つ。

 

 その射撃で怯む事もなく、だが僅かに動きを遅らせる事ならば出来る。

 そうして倒れたメガーヌを回収すると、歪みを閉じさせながらにアリサは敵を睨み付けた。

 

 

「そう、……貴女が居たわね」

 

 

 冷たい目だ。何時か見て、焦がれたその火が、温もりもない目で見据えている。

 怯みそうになる。憧れた炎を前にして、今にも膝が抜けそうだ。実力差だけではない。相性面でも、相手が悪いにも程がある。

 

 

(最っ悪。相性が死んでる。こちとら中途半端な炎しか使えないってのに、炎弱点の味方抱えて、炎を吸収する火雷の化身相手にガチれって、馬っ鹿じゃないのっ!?)

 

 

 アリサが使うは、赤騎士の力の一端。対してこの天魔を構成するのは、嘗て永劫に回帰する世界で赤騎士を打倒した二人の女なのだ。

 櫻井螢。そしてベアトリス・キルヒアイゼン。この女達は赤騎士エレオノーレに対する天敵。その力を一部しか使えないアリサにとっても、最悪と言って良い相手であった。

 

 

「けど、アンタには、言いたい事もあるのよねっ! だから、逃げられるかっ!!」

 

 

 それでも退路はない。逃げる訳にはいかない理由と、言ってやらねばならない言葉がある。

 だからアリサ・バニングスは己の消耗も弱音も隠して、突如現れ全てを焼き尽さんとする大天魔に抗うのだ。

 

 そんな女の瞳。其処に何を見たのか、僅か眼を細めて――一瞬後には気炎を燃やして、天魔・母禮は宣言した。

 

 

「……良いだろう。今から絶望を教えてやる」

 

 

 状況の変化も分からずに、ただ退けぬと荒ぶる金髪の女傑。

 そんな女を前にして、天魔・母禮は此処に断ずる。決して生かしはしないのだと。

 

 

 

 

 

――起きよ そして参れ 私の愛の晩餐へ

 

 

 獣は駆けていた。漸くに訪れたその好機、眠っていた獣は全霊を振り絞って駆けていた。

 奴が来た。奴が来た。恨み憎み殺意を燃やす女が来たのだ。その炎を感じ取って、それでどうして眠って居られよう。

 

 

「天魔・母禮っ!!」

 

 

 最期の力を駆動する。最早後などは要らないと、盾の守護獣は疾走する。

 これで最期。これにて最期。最後の最後に好機が来たと、この運命にすら歓喜を抱いて街を走り抜ける。

 

 そんな彼は故にこそ――その一撃に気付けなかった。

 

 

「ツェアシュテールングスッ! ハンマァァァァァァァッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 振り下ろされる鉄槌が、時間停滞の鎧を抜ける。受ける衝撃は、全開の鎧すらも抜けていた。

 そして同時に感じるのは、その少女から感じる力。それは己と同じ物。()()()()()()()()()()()

 

 

「馬鹿なっ!? 何故、お前が――」

 

「翔けよ、隼! シュツルムファルケン!!」

 

 

 動揺する蒼き獣に対し、続く二撃もまた同じく既知の物。

 桃色の髪をした嘗ての騎士長が放つ必殺の一撃が、守護獣の身体を射抜いて飛ばす。

 

 

「シグナム!? ヴィータだけではなく、貴様までが!? っ、だとするならばっ!?」

 

 

 彼女も居る筈だと、気付いた瞬間に鎧を最大効率で駆動して身を動かす。

 何もない空間に開いた穴。それがあったのはつい先程までザフィーラが居た場所で、それを開いたのは間違いなく見知った女。

 

 

「……旅の鏡。シャマル、か」

 

 

 信じたくはなかった。理解したくもなかった。死んだ様な目で見詰める姿。其処に集った三人は、間違いなく嘗てに滅びた己の同胞。

 死ぬ前に、彼らは己の魂を得ていた。自我に目覚め、自己が芽生え、だからこそ殺された後に残ってしまった。その魂を取り込まれたのだ。

 

 

「こういうのは、正直趣味じゃないのだけど……貴方が本気で逃げに回れば、私ではどうしようと追い付けないから」

 

 

 大天魔たちは繋がっている。彼らは皆夜刀の一部であればこそ、他の誰かが倒した敵を取り込む事が可能である。

 天魔・紅葉の太極は、死者を蘇らせて使役する力。悪路や母禮に殺された彼女ら三人は、例外なく紅葉の遁甲に飲まれていた。

 

 花魁衣装の女が立つ。死人の顔色をした女は、己の愛し子の願いが為に。

 彼女の前に騎士が立つ。赤毛の少女。桃髪の女騎士。金髪の術師が其処に立って道を阻む。

 

 母禮に対する天敵とも言うべきこの狼。彼を此処に足止めする。それこそが、天魔・常世の望みであった。

 

 我が子の願いの為にこそ、この女は死者を愚弄する。本来望んでいない事でも、我が子の為なら何でもするのだ。それが遥か昔に、鬼母と化した女の真実だ。

 

 

「無視出来ない物を用意するしかなかったの。……でもお陰で、貴方も足を止めたでしょう」

 

「天魔・紅葉っ!!」

 

 

 道を阻む天魔・紅葉。この女を、この女の地獄に囚われた仲間たちをザフィーラは無視出来ない。

 手を伸ばせば届く場所に、何より憎む敵が居る。そうと分かっているのに、死んだ目で囚われた死者を見過ごせない。

 

 だからこそザフィーラは、この女と戦う道を選んだ。懊悩の果てに、一刻も早く倒して先に進む事を決断したのだ。

 

 

「付き合って貰うわ。あの子が願いを遂げるまで、他でもない、それがあの子の願いだから」

 

 

 そんなザフィーラの闘志を前に、気怠い声で鬼母は告げる。全ては愛しい我が子の為に、ならば他の何もかもが取るに足りない。

 どれ程に輝かしい意志を見せても、この今に生きる人々は全て我が子が否定する者たち。ならばそう、加減は要らない。此処に全てを滅ぼしてしまおう。

 

 闘志と殺意が混じり合い、此処に第三の戦場は幕を開いた。

 

 

 

 

 

――緑なす濡れ髪うちふるい 乾かし遊ぶぞ楽しけれ

 

 

 赤い夢が始まった。何時もの悪夢。それが遂に、現実となったのだ。

 先ずそれに最初に気付いたのはキャロだった。友を救うのだと猛っていた少女が突然に、怯え震え始めた。

 

 

「あ、あぁ……」

 

「キャロ!? どうしたの!!」

 

 

 ガクガクと理解の出来ない恐怖に震えるキャロ。その異様な姿に思わず、ルーテシアは振り返る。

 ヴィヴィオと言う強大な存在を前にして、それでも妹の異常を無視は出来なかった。そんな彼女に、キャロは嫌々と首を振る事しか出来ていない。

 

 何が何だか、自分でも分からないのだ。どうしようもない事に、この恐怖の意味が何一つとして分からない。

 分かるのは一つ、余りに幼い頃に刻まれた恐怖の記憶。覚えていられる筈がない忘却の彼方に、しかしその覇道だけは刻まれた。

 

 だから同じ気配を感じて、理由も分からず恐怖に震えた。怯え竦んで、何一つとして言葉を発せなくなってしまったのだ。

 

 

「――っ! 其処かっ!!」

 

 

 そんな彼女の様子に呆気に取られて、放つ筈だった力を留めてしまったヴィヴィオ=アスタロス。

 幼子は友を怯えさせる存在の気配を感じ取り、其処に向かって反天使としての力を振り下ろした。

 

 放たれた魔力の塊。虹ではなく白に、白く染まった魔力弾を受けて、その影は小さく揺れて崩れ落ちた。

 

 

「あーらら、もう少し三人で続けてくれても良かったのに」

 

「……天魔・奴奈比売」

 

 

 崩れた影の先、隠れていたのは赤毛の女。死人の様な肌色に、四つの瞳を思わせる紅玉。現れた天魔・奴奈比売の姿に、アストは警戒心を引き上げる。

 大天魔の出現。それはあくまで予定されていた事。アストが反天使達の心臓部であればこそ、此処に来る事は予想していた。予想外なのは一つ、その場に部外者が居る事だ。

 

 震える少女。慰める少女。この二人の友達は、完全に想定外の異物。

 大天魔と比べるまでもなく、取るに足りない小物たち。故にそれを一瞥して、アストは敵対者を決める。

 

 

「貴女達の相手は後だ。先ずは侵入者を此処に――排除します!」

 

 

 倒すべきは怯え震える友ではなく、此処に出現した神々の一柱。

 だからこれは仕方がないのだと、内心で己を誤魔化しながらに飛翔する。

 

 アストが立つは、キャロとルーテシアの眼前。彼女達と大天魔を繋ぐ軸線上。

 まるで怖がる友達を庇うかの様に、ヴィヴィオ=アスタロスは天魔・奴奈比売を前に立ち塞がった。

 

 

「……へぇ」

 

 

 そんな子供の姿に、沼地の魔女は小さく笑う。肌に感じる力は己と同等。それ程に迫った反天使の、その子供らしさにクスリと笑った。

 その稚拙な感情は好ましく、その魂の在り様は堕ちて尚も美しく、されど見過ごせない要の一つ。故に天魔・奴奈比売は、アストをその四つの瞳で見据えて告げた。

 

 

「分かってるわよ。反天使。貴女達の力の根源。それがこの奈落で、それを護るのが貴女だって事は――」

 

 

 既に夜都賀波岐と同等か、或いはそれ以上に至った反天使。彼らの力の根源は奈落だ。

 だが魂が集まる夢界であればこそ、其処に囚われた人々を一人一人殺しても意味がない。例え人類全てを滅ぼしても、その魂が内にある奈落は消せないのだ。

 

 故にこそ基点を、中枢を潰して人々を悪夢から目覚めさせなければならない。

 その基点となっているのが揺り籠で、それと同化して守っているのがこの反天使。

 

 魔鏡アストを攻略できるか、それが天魔・夜都賀波岐が勝利出来るか否かの条件なのだ。

 

 

「だから、潰すわ。皆々全て水底へ、藻屑になってしまいなさい」

 

 

 此処を潰せば、反天使は全滅する。故にこそ、天魔・奴奈比売は確実に倒すと心に誓う。

 我らの永遠を終わらせぬ為に、愛しい者らの時を停めて保護する為に――この幼子こそが倒すべき敵なのだ。

 

 

 

 

 

――ファルマナント ヘパタイティス パルマナリー ファイブロシス オートイミューン ディズィーズ

 

 

 天魔・夜都賀波岐。彼らは遂に全力を出した。後先などは考えずに、なれば彼らも此処に居る。

 要救助者を避難させていた月村すずかは、人々を避難させた先であるその場所で、両面の鬼に遭遇した。

 

 

「よう。運が良かったな。やっぱあれかね? 敵を倒そうとするより人命救助を優先したからこそ、こういう幸運に当たるんかね?」

 

「……天魔・宿儺」

 

 

 未だ眠り続ける避難民を乗せた車両を背に、医務官姿の月村すずかは敵を見詰める。

 女物の着物をだらしなく着崩した金髪の男。鬼の面を頭に付けた怪物は、ニヤリとした笑みと共に嘯いた。

 

 

「そう怯えんなって、幸運ってのは嘘じゃねぇよ」

 

 

 瓦礫の山の上に胡坐を掻いて、頬杖を突いた両面悪鬼は此処に告げる。

 その言葉に嘘はない。此処に集まった彼らは間違いなく、この世界で最も幸運な者らと言えるのだろう。

 

 何故ならば、天魔・宿儺にやる気がないからだ。

 

 

「俺も黒甲冑も今回は本気でやる気がねぇ、あくまでダチへの義理立てが理由さ。……それでも、黒甲冑と遭遇してるんだろうアイツは大凶だが、逆にお前らは大吉って話さ」

 

 

 そしてその真逆、両翼を除いた五柱は本気だ。今回で全てを終わらせるのだと、全力投球を選んだのだ。

 だからこそ、義理立ての為に二柱も動いた。その内、存在するだけで脅威の大獄と異なって、やる気のない宿儺の周囲は安全だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「家の連中は本気だ。今回ばかりは本気で、お前ら全部潰す気さ。だから太極を開いてまで、こうして安全地帯を作ってやった。人が一番多い場所に狙って作ったんだぜ? 寧ろ褒めてくれても良いだろ。コイツはよ」

 

 

 まだ滅んでもらっては困る。だからこそ、一番多くを救える場所で宿儺は太極を開いた。

 まだ滅んでもらっては困る。だからこそ、一番被害が少ない場所で大獄は太極を開いている。

 

 此処に月村すずかが遭遇したのは、偶然ではなく必然だ。

 誰よりも多くを救おうとしたからこそ、一番危険が少ない場所に彼女は居る。

 

 だがそれでも、危険が少ないだけで皆無ではない。何故ならば、この両面鬼は誰よりも気紛れだからである。

 

 

「ま、それにしても、何時までもくっちゃべってるだけじゃ義理立てにもなんねぇからよ。――俺と少し遊ぼうぜ、お嬢ちゃん」

 

 

 ゆっくりと立ち上がる。さあ遊ぼうか、さあ潰そうか、と両面悪鬼は嗤っている。

 溢れる神威。立ち昇る圧倒的な魔力と威圧感。それに晒された二人は、背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。

 

 

「っ!? 来るのかっ!?」

 

「ロッサ君は、皆の保護に回って! コイツは私が――相手をする!!」

 

 

 足手纏いだと言外に告げて、月村すずかは前に出る。

 覚悟を決めた表情で、自壊法に囚われている彼女は内面に居る彼の名を呼んだ。

 

 

(力を貸しなさい! ヴィルヘルム! 貴方が望んだ、貴方の敵を倒す為に!!)

 

 

 勝機があるとすれば唯一つ。何よりも共鳴する天魔・血染花。

 その力を引き出し切れれば或いは、欠片程度の勝率は生まれるかも知れない。

 

 不可能に近い那由他の果ての勝利の可能性。青褪めた表情の中でそれを手繰り寄せようとする。そんな月村すずかを前に、大地に飛び降りた両面鬼は常の笑みを浮かべていた。

 

 

「さあ、始めるか。可愛くなっちまった()()()()()! 外側だけでなく中身まで可愛らしくなってたら、腹ぁ抱えて嗤ってやるよ!!」

 

 

 それは正しく悪童の笑み。何時かの決着を付けようと、両面鬼は此処に語った。

 

 

 

 

 

――至高の光はおのずからその上に照り輝いて降りるだろう

 

 

 今この世界で、最も人が少ない場所。其処に居たのは彼だった。

 元より人気のない森林地帯。その奥地に作られた研究施設の更に奥、後詰めの武装隊員との距離も離れて、青年は完全に孤立していたのだ。

 

 二十のガジェットを相手取り、たった一人で生き延びていたユーノ・スクライア。

 彼に逃げろと狂人が語ったのは、あの時既に予測が出来ていたのだ。一人先行する彼の下に、やって来るのは最悪最強の天魔しか居ないのだと。

 

 その救いを拒んだ以上、その遭遇はもう避けられない。故にこそ、その結末は正しく分かり切った物だった。

 

 

「あ――っ」

 

 

 糸が切れた様に、ユーノ・スクライアは崩れ落ちる。何故倒れるのか、それすら理解出来ずに崩れ落ちた。

 壊れた兵器が砂に変わる。何処までも果てのない。そんな砂漠が広がっている。死が、死が、死が溢れていた。

 

 意識が遠のく、命の火が消える。思考が消えるその刹那――青年は確かにその姿を垣間見た。

 

 

「…………」

 

 

 最強の大天魔。天魔・大獄は何一つとして語る事もなく、何時の間にか其処に居た。

 其処に居るのに、気付けなかった黒甲冑。佇むその存在を認識した瞬間に、ユーノ・スクライアの命は途絶えた。

 

 

 

 

 

――太・極――

 

無間叫喚(ムゲンキョウカン)

 

無間焦熱(ムゲンショウネツ)

 

無間黒縄(ムゲンコクジョウ)

 

無間等活(ムゲントウカツ)

 

無間身洋受苦処(マリグナント・チューマー・)地獄(アポトーシス)

 

無間黒(ミズカルズ・)肚処地獄(ヴォルスング・サガ)

 

 

 此処、ミッドチルダの大地に六つの地獄が顕現する。

 そして万感の想いを前に待つ白衣の狂人の、その眼前に最後の一つが姿を現した。

 

 赤子の声だ。赤子の声で泣く、無数の顔が付いた巨大な芋虫が其処に居た。

 魂なき者。弱き者は見ただけで発狂するその姿。余りに外れた異形の神相を前にして、ジェイル・スカリエッティは揺らがない。

 それは強者と化しているから、と言う理由もあるが、そうでなくとも狂いはしなかったであろう。既にこの狂人は、どうしようもない程に壊れていたのだ。狂った者は、もうそれ以上狂えない。

 

 

「待っていた。そう言いたそうな表情」

 

「嗚呼、そうとも、この時を私は待っていた。君達の到来をこそ、その為の失楽園だ」

 

 

 異形の神相を前に、緑の着物を着た女が現れる。袖に目玉模様の付いた、長い白髪の美しい少女。

 死人の様な肌をした彼女が、黄金の双眸で見下している。見詰める先に居るのは三者。白衣の狂人と、汚らわしい蟲の群体と、そして――回収するべき槍に射抜かれた血縁者。

 

 恐怖と受けた傷故に、口を開けぬ女二人。その前に立つ白衣の男は、壊れた笑みと共に己の意志を語り始めた。

 

 

「楽園とは何か? ミッドチルダがそうか? いいや否だ。此処は美しい地獄。最先端である戦場なればこそ、皆が安らぐ楽園とは言えない場所だ」

 

 

 楽園を壊す。失わせると語ったジェイル・スカリエッティ。ならば果たして、彼が楽園と語った場所とは何なのか。

 誰もがミッドチルダの事だと判断していた。それは背後で硬直している魔群も、意識を閉ざした高町なのはも、そしてこの天魔・常世すらも同じであろう。

 

 誰もがその前提を、見誤っていたのである。

 

 

「故にだ。パラダイスロスト。私が壊す楽園とは、此処ではない。ミッドチルダではないんだよ」

 

 

 そうではない。ミッドチルダではないのだ。こんな最前線を壊しただけでは、スカリエッティは満足しない。

 そして目指すべき場所など決まっている。最初から彼は口にしている。何時だって、何時だって、彼が目指すと口にした場所は唯一点。その狂気の求道に、一点たりとも曇りはないのだ。故にそう、その目的地は唯一つ。

 

 

「……詰まり、何が言いたいの?」

 

「簡単だ。私が壊すモノは誰もが楽園と認める場所。偉大な神が作り上げた、我らの為の揺り籠。即ち――天魔・夜刀と言う名の神だっ!!」

 

 

 彼が語る楽園とは、この世界の全てであった。偉大な神が愛しい子供たちの為に、我が身と引き換えに留め続けたこの世界。

 幼い子らの為のゆりかごこそが、彼が壊すと決めた世界。最初からそう告げていたのだ。初めから、ジェイル・スカリエッティは神を殺すと断言していたのだから。

 

 

「偉大な神よ。御身を私は終わらせよう! 我らが愛しいと語る神よ。御身は子らの悪意と狂気を理解せよ! 今日この日こそが、パラダイスロスト! 貴方が私の手で滅ぶその日である!!」

 

 

 その為に、夜都賀波岐を此処に集めた。反天使を作り上げ、そして六課の精鋭達を此処に揃えた。

 さあ決戦の時は今此処に、総決算を始めよう。今に持てる全ての戦力が維持できる状況で、戦わなければならない敵を用意した。

 

 これぞパラダイスロスト。ジェイル・スカリエッティの目論見は唯一つ。盤面を加速させ、神に手を届かせる状況を生み出す事だったのだ。

 

 

「せめて安らかに、私の手で眠るが良い! レェェェスト・イィィィン・ピィィィィィィスッ!!」

 

 

 レストインピース。それは死後に、せめて安らぎをと願う言葉。

 心の底から想いを込めて、ジェイル・スカリエッティは口にする。

 

 偉大な神よ。我らが父よ。今日この日に死するが良い。

 我らは滂沱の悲しみと万感の歓喜で以って、御身の崩御を見届けよう。

 

 

「……本当に、貴方達は最悪」

 

 

 狂気に嗤うスカリエッティを、まるで塵の様に見下しながら常世は語る。

 

 

「守ろうとしてあげたのに、守って来てあげたのに、本当に、最悪」

 

 

 愛しい人は、こんな者を守る為に苦しんでいたのかと。愛しい彼は、こんな者らの為に今も苦しんでいるのかと。

 ああ、そんなのは認めない。こんなにも悍ましく、余りにも醜悪で、生きる価値がない者らの為に愛しい君が苦しむなどとは許せない。

 

 何よりも、この狂人は駄目だ。生きている事すら許せないと、天魔・常世は冷たく告げる。

 

 

「特に貴方は駄目。先ずその狂気が駄目。次にその声が駄目。腹黒な所も、頭脳戦が得意な所も論外。何よりも――娘を孕ませるって思考が吐き気がする。これで金髪だったら、どうしようもなかったね」

 

「ふむ。誰かと重ねて見ている、か……それ程に嫌いな人物かい?」

 

「貴方と同じ、どうしようもないロクデナシ。……でも、多分、貴方よりはマシじゃないかな」

 

 

 何処かの誰かと似ていると、少しだけ面影を重ねながらに口にする。

 そんな常世の冷たい視線を鼻で嗤い飛ばしながらに、狂った男は揺るがず告げた。

 

 

「そうか、まあ、どうでも良い話だろう」

 

「そう。どうでも良い話だね」

 

『だってお前達は、此処で滅ぶのだから――』

 

 

 どうでも良い。此処でお前たちは消え去るのだから。

 共に同じ殺意を抱いて、夜都賀波岐の指揮官と管理局の最高頭脳は睨み合う。

 

 此処に誓おう。我らが前に居る者こそが怨敵。その全てを、肉片すら残さず滅ぼし尽すと。

 

 

「誓うわ。滅侭滅相。誰も生かして残さない」

 

「誓おう。滅侭滅相。その果てに、偉大な神をも殺してみせよう!」

 

 

 そして、失楽園の日は此処に、最終段階を遂に迎える。

 飛び交う四柱の反天使。舞い降りた七柱の大天魔。そして管理局のエース達。各々の陣営が相争う三つ巴こそが、白衣の狂人が求めた失楽園。

 

 

「これが私の一世一代の舞台劇だ!!」

 

 

 これ以上はない。これこそ正しく至高の舞台。歓喜に嗤うスカリエッティと、天魔・常世は此処に争う。

 狂人は明日を見ず、ただ今を終わらせる為に。古き者らは明日を見ず、ただ今を続ける為に。そして新しき者らは、何時かの明日を掴む為。

 

 

 

 失楽園の日は続く。その終わりに何を齎すのか。

 狂人の掌に納まらぬ程に事態が肥大した今、趨勢は最早誰にも分かりはしないのだ。

 

 

 

 

 




ダイナミック同窓会、遂に開幕。
夜刀様は不在だけど、作中主要人物は全員集合しました。


〇おまけ「常世ちゃんが語る。紫の狂人と鍍金の変態の違いについての考察」

常世ちゃん「先ず髪の色が違う。次に子供からの愛され方も違うよね。間違っても家の神父様みたいに、お父さんのパンツと一緒に洗濯しないでって言われた事はなさそう。寧ろお願い抱いてって娘に言われてる感じ? 声も一緒で、狂人で頭脳派なのも、実はイケメンなのも一緒。なのに何が違うんだろう。……真実は意外と残酷なのかな、神父様?」
鍍金の変態さん「テレジアぁぁぁぁぁ(滂沱)」




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