雪歩が発掘調査をはじめたようです。   作:Brahma

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足立区某所、窓に六角形に囲まれた六芒星の中央に「萩」の字が描かれたステッカーが貼ってあるビルがある。主として建設、土木業、不動産業を営み、一部では株式投資や不正を行う企業を株主として糾す活動を行う「中堅企業」である萩原組の事務所であった。


第1話 大学へ進学しますぅ

萩原組事務所の一室で、いかつい男性に対し、清楚な少女が何かを決心したように話しかけている。

「お父さん、わ、わたし、大学へ進学したいですぅ。」

「そうかそうか。アイドルをやめる気になったのか。」

「ち、ちがいますぅ。大学で考古学を専攻するんですぅ。」

「ん?どうしてだ?」

「お父さん、うちって、建設業ですよね?」

「うん。そうだ。土木や不動産業もやっているぞ。それから最近は、IT化で若い衆の中に腕力はないが頭のいいやつがいるから株式投資もやっている。」

「お父さん、この間現場で遺跡がでてくると調査費用を払わなきゃいけないし、現場が止まって困るんだっていってたよね。」

「そうだ。遺跡はご先祖様が残した形見みたいなものだからな。遺跡を残したご先祖がいなければ俺も雪歩も生れていないんだぞ。法律にきまっているだけじゃなくて、そういうものは日本人の誇りであり、財産だから大事にしなければいけない。だから壊せばいいなんて考えている会社を株主総会で糾したこともある。その社長はふるえあがっていたがな。ただ見つかると発掘調査費用がかかるのがな...。」

少女の父親であるいかつい男性は困った顔をして、あごをなでながらうなる。

「わ、わたしが発掘調査できるようになれば、発掘会社や教育委員会にお金を払って調査してもらわなくてすみますよね....。」

「そういうことを心配してくれたのか。それはいいことだ。雪歩が学者になって発掘調査をやってくれれば、発掘調査費用を払わないで済むうえに、若い衆の仕事も増えるし、うちのく...えへん、会社のイメージアップになるしな。」

「はい。」

雪歩はにっこりほほえみ、両手をぎゅっとした。

 

翌日の765プロである。

「雪歩?大学に進学することにしたんだって?」

「うん、真ちゃん。わたしの得意の穴掘りを生かせる上におうちのためにも役にたつかなって。」

「雪歩?何を勉強するの?」

「考古学ですぅ。」

「なるほどねえ。雪歩の得意技を生かせる上に家の仕事にも役にたつわけね。」

「ゆきぴょん?黄金のマスクとか発掘するの?」

真美が声をかけると亜美がなにやら手拭いをファラオのようにかぶって

「ツタンカーメンののろいじゃああ。」

とはやしたてる。

「亜美、真美、日本で調査するんだから黄金のマスクはでてこないわよ。」

「なんだぁ。つまんないの。」

「つまらなくないよ。日本にはいろんな遺跡があるんだよ。たとえば...。」

 

【挿絵表示】

 

「これは秋田県の大湯のストーンサークル。日時計とかいわれていたけど発掘調査でお墓であることがわかったの。」

「これは寺野東遺跡を航空写真でみたところ。これは発掘調査をしているところ。」

「へええ、まるく盛り土がされているんだね。」

「うん。儀式をやる場所で土器がすてられてこんな形になんたんだって。」

「それからこれが西谷墳丘墓。」

「亜美、これ知ってる。」

「古墳 GALのコフィーにでてくるよね。」

「え?亜美たち、蛙男商会を知ってるの?」

律子が双子に問い返す

「ふっふ→っていうかたまたま知ってたのだ。」

「これはダニエルなの。」

「えっ。美希も?」

「四隅突出型墳丘墓って言って弥生時代の後半から古墳時初めごろの山陰地方独特のお墓の形なんだって。」

「なになに、雪歩くんは考古学を学ぶために大学へ行くのかな。」

「は、はい。社長。アイドル活動の幅を広げて、時間をかけて卒業したら実家の仕事に役立てたいんですぅ。」

「うむ。りっぱな心がけだ。雪歩くんの個性が生かせるし、知的なアイドルということでわが765プロのイメージアップにもなる。学業とうまく両立できるようがんばってくれたまえ。」

雪歩は、アイドル活動のかたわら受験勉強をした。アイドル活動に影響しないよう国語、英語、日本史で受験できる私立の考古学の名門と呼ばれる国士学院大学文学部史学科を受験し、見事合格し、入学した。

 

雪歩が入学するということでマスコミが入学式に取材にあらわれる。

BBS(ブーブーエス)テレビです。萩原雪歩さん、なにを勉強するために大学へ入学するんですか?」

「へっ??」

男性レポーターが気付くと雪歩はそこにいない。雪歩はあとずさりしてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい。」

雪歩の取材ということで念のためにきていた女性レポーターが男性レポーターに対しうっすらとしたしかめっ面を向けて、軽くひじてつでこづく。

「雪歩さんは、何を専攻されるんですか。」

女性レポーターがあらためておなじ質問をする。

「え、ええっと考古学ですぅ。穴を掘っていたら...じゃなくて高校時代に学校のとなりで黒森峰、じゃなくて黒井峰っていうすごい遺跡が見つかって...それから遺跡の調査がおもしろいことがわかって...わたしの得意な穴掘りが生かせるのと、実家のお仕事にも生かせるからですぅ。」

「これからアイドルとしてはどのように活動を?」

「え、ええっと...アイドル活動の幅をひろげて、考古学のおもしろさを紹介したり、全国の小さな博物館や資料館の魅力を紹介できるようになりたいですぅ。」

「そうですか。以上本日は国士学院大学の入学式の模様をBBSがお伝えいたしました。」

 

765プロの事務所でテレビを見ながら高木社長がつぶやく。

「雪歩くんが男性が苦手ということがそのまま放映されているな。」

「いいんじゃないですか。わざわざ犬をつれきたわけじゃないし、ファンのみなさんは雪歩ちゃんが男の人が苦手なのは知っていますし。」

緑色のベストを着た若い事務員の女性がそれに答えている。

かくして雪歩の大学生活が幕を開けたのだった。

 




雪歩の大学生活についてはいろいろ考えましたが、大学の講義ノートみたいになってしまうこと、図が多量に必要になることからやめました(もうそうなったら小説じゃないw)。小さな博物館で学芸員の実務実習をしているところとか考えましたが、学芸員として就職してからも似たような描写を繰り返すことになると考えやめました。
講義をしないなら、型式学を考えたオスカル・モンテリウスをタイムマシンでたずねるような設定にすれば面白いものが一本かけそうですが、調べものが必要なこととまったく性質が異なってしまうのでやめました。
ということで次回はいきなり4年間すっとばして就職する話からになりますw。

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