「またハルナ山が火を噴いて石がふってきたべ。」
1450年前、群馬県の榛名山のふもとにあるコモチ村。複数の寄棟造りの平地式建物の間に、一棟の切妻の平地式建物、土をかぶせて、マウンド状になったひときわ低い竪穴住居、サイロなどがまとまって、その周囲にはいくつかの小さな田んぼがある。
そういった組み合わせが一単位となって点在している。
季節は6月くらいであろうか。農民たちが田んぼで作業をしながら不安そうに話している。
「ここんとこ、頻繁だな。なにも起こらねばいいが。」
「ようやく田起こしして代かきやってるのにな。去年のままで手を付けてない場所もあるし。」
「田植えしているときに大噴火起こって、田んぼがめちゃくちゃにならなきゃいいな。」
そのとき水滴が顔にふれた。
「ん?雨だな。」
「今日は帰るか。」
「んだな。」
雨音がポツポツからしとしとになり、農民たちが家に帰ったときには
ザザーッと雨音が激しくなっていた。
翌朝、昨日の雨がかわかない状態で、道がしめっていた。
「じゃあいってくるよ。」
「あなたいってらっしゃい。」
朝食を食べ終わってタロマロは自分の田んぼへ出掛ける。
代かきをはじめてしばらくした時だった。
ドーン
パラパラパラ...
ドーン
パラパラパラ...
ドドーン
バラバラバラ...
ゴゴゴゴゴゴゴ...
なにやら低いくぐもったような音が地響きのようになり、あたりが揺れる。
グラグラグラグラ
ドッガー―――――ンゴッガ――――ン
ズドーンズドーン...
ドッガー―――――ンゴッガ――――ン
ズドーンズドーン...
バラバラバラ....
ビューンビューンビューンビューン
榛名山二ツ岳がついに大噴火を起こしたのだ。
すさまじい勢いで軽石をまき散らし、大粒の軽石が降り注ぎ始める。
「みんなにげろ!~~~~~」
だれかが叫び農民たちは一目散に火山の反対側に逃げる。
みると榛名山二ツ岳は噴煙を激しく噴き上げ、もくもくと灰色の雲のように空全体に広がっていき、あっというまに空がかきくもっていく。
激しい爆発音が響き、それまでの石ころ程度の軽石に混じって、サッカーボールくらいある軽石と火山弾がふりそそぎはじめる。
「なんとか無事に逃げたか...。」
「いやスクネんとこの一家がいねえぞ。」
「なんだって!」
「そういえば、あの竪穴住居に入っていったのを見たな。」
今はいけないな、と皆の表情は暗くなるものの、やがて飛んでくる軽石の粒がちいさくなる。
「お、軽石の粒が小さくなったぞ。」
「すぐ助けにいくんだ。」
軽石と火山弾の層は2mにもおよんでいた。種火のあった平地式住居の屋根は軽石の重みでつぶれて火事になっているが、軽石の量が多いために燃え広がることはなく、くすぶって煙があがっている。
それが目印となってスクネ家の竪穴住居を見つける。
うめき声が聞こえる。
「おい、ここからうめき声が聞こえるぞ。」
「まだ、生きてるな。」
「ここを掘るんだ、」
鋤や鍬で必死に軽石の層をかきわける。
「おお、スクネ、イラメ,無事だったか。」
「タロマロ、すまねえ。」
ズルズル、ドサッツ
竪穴住居がついにくずれる。
「危ないところだったな。」
「あ、首飾り...。」
逃げるのに必死で、住居の中に水晶の切子玉、琥珀玉、ガラス玉を組み合わせた首飾りがちぎれたのだ。
「スクネ、イラメ、仕方ない。命が無事だっただけで感謝しなければ...。」
「そうだな。」
ゴロゴロゴロ...
今度は雷の音だった。
ザザーッツと雨が降り始める。
「みんな無事でよかったな。」
「軽石のせいでぼろぼろだけどな。」
村人たちは、灰とすり傷だらけの顔で笑いあう。
「雨がやんだら家財道具とりにいくか。」
「そうだな。」
雨がやんだらいく人かは家財道具をとりにもどり、平地建物や竪穴住居の軽石を鋤や鍬でどける。
「あった、あった。」
「だけどこの村はもうだめだな...。」
「そうだな...。」
こうして軽石で埋まったコモチ村は忘れさられていった。
1450年後、軽石採取業も営む萩原土木の作業員が四つほどの土のマウンドを発見するまでは....
戦車道をドラマと練習試合で体験した雪歩は(詳細は「戦車道やりますぅ」の小説参照)、群馬県渋川市の黒森峰学園渋川高校に進学する。戦車道の名門黒森峰女学園が群馬県につくった高校であった。
「お嬢、学校の隣で、軽石をほっていたらこんな土まんじゅうみたいなものが...。」
「それってなんですか?」
「わかりません。大昔の遺跡かもしれないから教育委員会に問い合わせているところです。」
それが雪歩と考古学の出会いだった。学校のとなりで遺跡が発見されたのである。
しかもそれが噴火で軽石がそっくり積もって当時の建物が建ったまま埋まっているというタイムカプセルのような遺跡であることが判明した。
なにせ学校の隣である。社会科教師が熱心に調査について問い合わせ調査速報が授業時間の一部を割いて伝えられる。
「教育委員会が貴重な遺跡なので住居跡がどのように分布しているか地中レーダー探査をするとのことです。」
地中レーダー探査は、竪穴住居などの遺構がどこにあって、遺跡がどういう構造になっているか発掘調査せずに調べることができる技術である。黒井峰と名付けられたこの遺跡で、遺跡の全貌をつかむことを目的とした大規模なレーダー探査は全国初といってもよかった。
黒森峰学園渋川高校は理事長をはじめ、教師、生徒たちが見学することになった。
長さ1m高さ30cmほどの箱を引っ張っていくとその箱に内蔵されているアンテナから電磁波が送信され、解析装置の画面に断面が映し出されはじめる。凹の字状に竪穴住居を巡る周堤の盛り上がりが現れ、竪穴住居のへこみがそれに続き、また再び周堤の盛り上がりがはっきり画面に映し出される。
「おおお...。」
と歓声があがる。
数日後、A型バリケードが張り巡らされ、「発掘調査中」の看板がたてられる。
遺跡の範囲確認のための学術調査のため時間をかけて丁寧に行なわれることになった。
平地式建物を調査していると、稲穂がはいったままの土器(高坏)が生々しい状態で発見される。豊作を祈るために棚の上におかれていたものが噴火のために家がつぶれて転落して床に落ちたことと推定された。そして平地式建物の壁を立ったまま樹脂でかためて壊さないようにするという前代未聞の発掘調査になった。
雪歩はすっかりのめりこんで、両手をぎゅっとしながら見学していた。
そしてときどき体験発掘調査に参加し、お得意のスコップで軽石を
「うんしょうんしょ」
と掘るようになっていた。黒森峰学園渋川高校は高校の理事長と黒森峰女学園本校の理事長で話し合いが行われ、黒井峰高校と改称された。
雪歩は大学へ行って考古学をやろうと思うようになっていた。
萩原姓は群馬県に多く見られます。雪歩の穴掘りとあとは黒井峰と黒森峰というご都合主義ですw
地中レーダー探査は、一定の速度でアンテナつきの箱を引きずらなければならないこと、キャベツの千切りやキュウリの輪切りのように測線をいくつも設定しなければならないので費用がかさむ、遺跡以外の地下にあるものを読み取ってしまうことがある、複数の地権者の了解が必要で細切れな調査になると手間も費用がかさむなどいくつかの事情によってあまり行なわれません。学術調査や保存目的には行なわれるようですが、工事の事前調査のためであれば試掘して遺跡を発見するのが手っ取り早く、手間も費用もかさまないからです。
実際に黒井峯遺跡の発掘調査が行なわれたのは、90年代で、当時は渋川市ではなく子持村でした。が、本作は、戦車道のあるパラレルワールドな世界を舞台にしているので、遺跡名は黒井峰で、実際の市町村合併も反映していませんw(ここもご都合主義w)あしからず^^;