ねえ。
どうしたのよ。
最近の旦那様、ちょっと変じゃない?
……変って、何が?
付き合いが悪い、って表現は変だけど、前と比べて壁があるっていうか、距離があるっていうか。こう、フレンドリーではなくなったわよね。
……叱責もないけど褒められもしない。声をかけてもあんまり会話をしてくれない。むしろそそくさとその場を離れていく、って感じ?
そう、それ。なんだ、アンタも同じことを思っていたんだ。
アタシっていうか、それ、最近の妖精メイドの間じゃ結構話題になっているよ。パチュリー様のところの小悪魔たちも含めて、そこらでちょくちょくとね。
え、そうなの? 最近メイド長につきっきりだったから、気付かなかった。
アンタ、特にそういうのに鈍いしね。で、まあ、その旦那様の変化のことなんだけど。
何かあったの? 原因とかきっかけとか。
そりゃ、いきなりはそう変わらないでしょ……旦那様が変わったのは、お嬢様が原因っぽいわよ。
お嬢様が? なんでまた。旦那様が正式に紅魔館に来て、それこそ『旦那様』って私たちに呼ばせるようになってから、大体いっつもご機嫌だったじゃん。ニコニコして、旦那様と見せつけるように腕を組んだりしてさ。婚約どころかご婚姻も近いってもっぱらの噂だったはずでしょ。
……アンタ、メイド長についていたのに、その辺もまるで知らないの?
自覚ないけど、たぶん分かんない。だってメイド長って厳しいから、そういう雑談もないし。それに、旦那様が来てからは旦那様がお嬢様のお世話をすることも結構あるから、メイド長もあんまりこっちに仕事振らないし。目でも耳でも、最近は知る機会がないんだもん。
ああ、そういう。というかまあ、それが答えなんだけどね。
はい? 何処が答え?
旦那様との接触が減らされている、ってとこ。どうもお嬢様、旦那様が私たちと近づくのを嫌がっているみたいなのよ。下手するとメイド長や門番さんも、ってレベルで。
ええ? なにそれ、独占欲って奴?
まあ……そうらしいわ。なんでも旦那様が妖精メイドと話したりすると、後で折檻を加えちゃうとかなんとか。
私以外と話すなって? うわあ、ないわあ。それが本当なら最悪じゃん。
でも、そうでもないと旦那様が私たちを避ける理由がないじゃない? 避けるだけならともかく、こっちから話しかけても相槌ばっかりだし。
外の世界から来たばっかりの頃なんか、しょっちゅうお喋りしたり、お仕事のやりかたを教えてもらったりしたしねえ。精々お仕事中は乗り気じゃないってくらいで、後は本当にフレンドリーだったよね。
そう。だから今距離を取られているのは、お嬢様の反感を変わらないように自衛しているんじゃないかってこと。
旦那様かわいそう。というか、何で今更? 旦那様がこっちに来てからもう、結構長いはずなのに。
お二人の関係が変わったからでしょ。吸血鬼と外来人じゃなくて、吸血鬼とその伴侶候補ってなれば、ね。
……なんだかなあ。独占欲にしても、浮気でも疑われているわけ? 旦那さまってそういう人じゃないでしょ。人格的な意味で。
そこはアタシだって分かっているわよ。問題なのはたぶん、お嬢様の方。
お嬢様が疑っている側なんだから当然じゃん。邪推も邪推って言いたいわけ?
というか、うーん…………さっき、アタシは独占欲って言ったけどさ。
うん。
実際は、ちょっと違うんじゃないかって話もあるのよ。お嬢様が持っているのは独占欲じゃなくて、
束縛ぅ? その方が信じられないんだけど。こう言っちゃなんだけど、お嬢様って結構放流主義でしょ。そりゃ欲しい相手はどうしても手に入れたいってタイプだとは思うけど、それでも去る相手に対しては割とほったらかしにするじゃん。
……妹様。
え?
それにパチュリー様。
……いや、それが何か?
確かに妹様は能力や性格的にアレだったかもしれないけどさ、四百年だか五百年だかも幽閉ってありだと思う? 妹様の意向もあったとはいえ、それだけの間をほとんど地下室に閉じ込めるって。吸血鬼ってことを踏まえても変な感じしない?
それは……でも、それならパチュリー様は関係なくない? 愛するってのに友愛も含めるのはいいとしてもさ。パチュリー様が大図書館に引きこもっているのは、パチュリー様自身の喘息が原因じゃん。お嬢様が閉じ込めているわけじゃないと思うんだけど。
だからさ、逆に考えたらどうなのかって話よ。
逆?
…………いや、いやいやいや、それはないっしょ。それってどんな精神よ。狂っているじゃん。
そりゃ……あの……ええと…………
まあ、私だって本気じゃないわよ。ただ、そういう話をする妖精もいるってこと。最終的には旦那様をガチで束縛するつもりで、まずは旦那様に女を近づけさせないようにしているんじゃ、ってね。
それもそれで邪推……って、なんか否定しきれなくなってきちゃったなあ。本当、嫌な感じ。
まあ、ね。強いて反論するなら、でも外にはよく出ているじゃない、ってところかしら。
あー、でも言われてみれば、最近はお出かけの時も元気なさそうだったような。なんて言ったらいいのかなあ。こう、先のことが気になってしょうがない、的な?
そうなの? うーん、お嬢様のことが気にかかる、とかなのかしら? 外にはついていかないからこそ、後々が不安になるとか。いつも以上に邪推を重ねられるけど、かといって紅魔館の中に居ても、ってことならきついわよね……
そうなのかなあ。あーあ、旦那様かわいそう。自由を制限された挙句、折檻までうけるなんて。お嬢様に愛されたばっかりに――
「――ばっかりに、なに?」
えっ…………あ、あっ、あの…………お、おじょっ……
お、お嬢様!?
「どうしたの? 主に対する態度ではないわよ? まったく、どいつもこいつも」
そ、それは、その。
えっと、です、ね……
「まあ、いいわ。お前たちの運命はもう、決まっている。これまでの有象無象と同じように、私自ら下してあげる」
その、申し訳ありません! だから――
「うるさい」
っ!!
「たかが妖精メイド風情が、彼のことを語るなど、同情するなど、甚だ不快。あまつさえ、彼のことを、伴侶から痛めつけられる程度の男と評するなどと。私のこともそうだけど、彼への侮辱は――決して許さん」
待ってくだ――
お嬢さ――
「――お仕置きよ」
はい、レミリア回その二です。短いですが、なんとなく思い浮かんだので、どうにか出力してみました。二時間前後だかで突発的に、と考えると短編の方が性に合ってる気がしないでもない。
今回はそうですね。妖精メイドの井戸端会議、みたいな形式で、会話文ばっかりの話にしました。妖精メイドの割に賢くないか、ってのは突っ込まない方向で。内容に関して注釈することは……どうだろう、あるのかないのか。本文でも書きましたが、レミリア周りの関係ってこういう解釈も出来ないことはないんじゃないか、とか思っちゃったのが全てです。ただ言っておくと、妖精メイドの発言はあくまで彼女たちの想像であって、事実かどうかは不明です。私としても特に裏を考える気はないです。そういう考え方もあり、という感じで。そういう意味では今回は恋愛要素は少なめのタイトル詐欺かも。精々最後のレミリアの激昂くらいかなあ。もし仮にレミリア周りの予想が事実なら、病み方としてはまあ、ないでもないんじゃないとは思っているんですが。あとそうだ、折檻回りが彼ではなくメイドたちに向かっていると周知されていないのは、たぶん『一回休み』が原因じゃないかと。そもそも、ここではそれっぽくはしていますが、妖精って本当は頭があれですし。
さて、次回。どうにか気が向いた時にまた書こうと思います。よければ気長にお待ちいただけたらと思います。ではまた。