※今回はヤンデレじゃない、です?
ドカン! と起きた爆発から二つの影が現れる。
「っはは! やるねえ、アンタ!」
「お互い様だ!」
男の魔法と鬼の拳撃、二つがぶつかり合い、潰しあい、壊しあう。
「楽しいな、アンタ!」
「お前もな!」
二人は技をぶつけ合う、殺すつもりで戦いあう。死のすぐ傍にありながら、死のすぐ傍にあるからこそ、二人の顔に笑みが浮かぶ。
幾度かの応酬の後、二人は満足げに笑う。
「楽しかったよ、でもさ」
「そうだな、そろそろ仕舞いにしよう」
二人は互いに構える、最強で以って勝利する為に。
「それじゃあ行こうか」
「何処まで行っても」
『真っ向勝負!!!』
二人の最強がぶつかり合う、競り勝ったのは果たしてどちらだったのか。
気付けば二人は倒れていた、生きて地に伏していた。
「アイタタ、ここまで喰らったのは何時振りかねえ」
「……死んでないのが不思議だ、何で俺は生きているのだろうか」
「アンタが強かったってことさ。私は星熊勇儀、アンタは?」
これが二人の始まりだった、これから長く続く二人の最初の殺し合いだった。
彼らの距離は戦うたびに縮まっていった、何時しか互いを思うようになった。口に出すことはなかったが、二人は同じ気持ちだった。
そんな生活が何年経ったときだろうか、葉桜を肴に呑んでいると、ふと男が口を開いた。
「……なあ、勇儀」
「なんだい?」
「……もう、俺はここに来ない」
「!? 何でだ?!」
男の言葉に鬼は驚愕する、鬼にとって男は傍らにいるべき者だったから。
「この前告白されたんだ、憎からず思っている相手にな。俺も人間だ、いつかは所帯を持たなければならない。だから……もうここには来ない」
「……そう、か」
無理やり吐き出すように発せられた男の言葉を聞いて、鬼は手で顔を覆う。どれ程経ったときだろうか、鬼は急に立ち上がった。
「…………なあ、アンタ」
「何だ?」
「死んでくれないか?」
「!!」
その言葉と共に振るわれた拳、男はそれを魔法で受け止める。
「何のつもりだ」
「私はこんな性格だ、色恋なんかに現を抜かすことは出来ない。でもさ、アンタが他の女のものになるのも気に入らない。勝手だってのは分かっているさ、だけど止められないんだ」
呟くように、鬼は言う。どうやっても止められぬ、心が生んだ感情を。
「勇儀……」
「だから私に殺されてくれ、私だけのものとなってくれ、私にその魂を縛られてくれ。私のために、死んでくれ」
それを聞いた男は魔法を、暗く濁った目をした鬼に向ける。
「……だったら殺してやるよ、勇儀。お前を殺して俺は俺の生きたいように生きる、互いに殺しあおうじゃないか」
「アンタ……」
「力が世界のすべてなら、勝った者が全てを手に入れる。さあ、やろうか殺し合いを。得る勝者と、失う敗者を決めようか」
自分と同じ目をした男に、鬼は狂った笑みを向ける。
「……ああ、その通りだ!」
二人は空で向かい合う、最後の最後の。
「始めようか」
「私達の」
『殺し愛を!!』
愛のために。
拳と魔法が衝突する、一当たりで空が揺れる。
「貰った!」
「! まだまだ!」
「ちっ、だったら!」
「ならこっちも!」
いつものように思えるそれは、二人の顔が違うと教える。狂った笑みと狂った瞳、狂った二人は狂った目的のために殺しあう。
その愛の饗宴も、いつしか終幕の時となる。
「……ははは」
「……くかか」
慢心相違の二人は笑う、いつものように、狂ったように。
「楽しいねえ」
「ああ、まったくだ」
「でも、そろそろ決めないとね」
「そうだな、そうするか」
正真正銘最後の一撃、己が全ての一撃のため二人は己が命を燃やす。
『……』
「これが最後」
「全てを決する」
「それじゃあ行こうか」
「何処まで行っても」
『真っ向勝負!!!』
これまで幾度となく繰り返された掛け合い、最後となるその時だけは二人の心から狂気が消える。しかし行きつく先は変らない、生き残れるのは一人だけ。
「!」
「かっ……」
最後はややもすればあっけなく、ある意味では当然のように、一瞬のうちに片がつく。男の身体は貫かれ、鬼の身体がその血で染まる。
地に伏す彼のその傍に、鬼は見下ろし立っている。納得いかぬと言いたげな、怒りの形相で鬼は立つ。
「……何でだ」
「……」
「何で手を抜いた! 何でわざと負けた!?」
「……わざとじゃ、ないさ。あれが、俺の全力だった」
「ふざけるな! 私が惚れたアンタの力、あんなもんじゃないはずだ!!」
「……老い、だよ。お前と初めて殺り合ってからもう二十年、限界だったのさ」
「そんな馬鹿なことがあるか! お前の魔法ならそのぐらい」
「……俺が知っているのは戦う魔法だけだ、お前を喜ばせる術だけだ。……お前を喜ばせる為に、それ以外の全ては切り捨てた。……全力でなければ、お前は俺を捨てるから」
「そんなことは……!」
そんな男の呟きを、鬼は否定しようとする。しかし否定しきれない、心が否定を許さない。
「……いいや、お前にとって弱者は守るべきものであって、横に立つものじゃない。……お前の横に立てなければ、何の意味も無いんだよ」
「そんな、ことは……」
否定しようとする鬼はそれより先を紡げない、嘘を良しとしない鬼にその言葉は言う事が出来ない。
「……お前に捨てられる前に俺から離れようと思った、……そうすれば俺は見たくない未来を見なくてすむと思った」
「! アンタ、だから」
「……お前から離れてみれば、お前を忘れられるかと思った。……でも、お前の言葉を聞いて思った。……老いた姿を見せる前に、先にお前を殺そうと思った。……お前にとっての最強であり続けたかった、お前以外には負けたくなかった。……俺がお前以外に負ける姿を見せる前に、お前を殺そうとした」
ごふっ、と男は血を吐きだす。ここまで来たら言わせろと、己が身体に命じながら鬼を見る。
「……はっ、結局、俺もお前も一緒だったのさ。……相手に固執して、殺してでも一緒にいたいと思えるほど、狂おしいほど好きになったということさ」
「……そうだね、そうだったんだね」
「……なあ、勇儀」
「なんだい?」
もはや何も見えぬ目と、もはや動かぬその腕を、鬼に向けながら男は言う。
「……誰にも、負けないでくれ。……俺以外の誰にも、敗れたお前を見せないでくれ」
「ああ、分かったよ」
もはや聞こえぬその耳で、男は確かに聞き取った。
「…………良かった。…………勇儀、俺は、お前を」
「……アンタ? ……そうだね、私もだよ」
ついぞ口に出さなかったその言葉を、男と鬼は確かに交わした。
どれ程経ったのであろうか、鬼は幾度も戦った。数多の敵と戦いながらも、鬼は一度も負けなかった。どれ程の数を集めようと、どれ程の策を弄そうと、鬼は一度も負けなかった。
血と肉が彩るその大地に、立つは常に鬼一人。
「悪いねえ、私は負けられないんだよ」
白い杯を傾けて、葉桜を見ながら鬼は呟く。
「私を殺せるのは一人だけ、なのさ」
彼で作った杯で、鬼は静かに酒を飲んだ。
はい、勇儀回です。…えー、多分ヤンデレじゃないです。別にこの作品はヤンデレだけを書く作品じゃないので良いと言えば良いのですが、リクエストなのにヤンデレじゃないのはどうなんでしょうかね。
いや、まあ、言い訳させてもらうと勇儀はどう考えても負の系統のお話が思いつかなかったのですよ、無理やり書いてみましたが何か違う感。これがリクエストじゃなければ胸を張って投稿したんですけどね、これだけだとあれなので一応萃香編も考えておきましょうか。
そもそも今日の十八時に感想を見てそれから構想を練って書くなんて無茶した自分が悪い、そもそも今日は不帰録を書く予定だっただろうが。…まあリクエスト頂ければ基本書きますが、どういう話になるかは私次第になることをご了承ください。基本的にはヤンデレで書くつもりですけどね、今回は例外みたいなもんです。…あ、シチュエーションなんかも希望があればどうぞ、とも言っておきましょうか。その方が私も楽かもしれない、困るかもしれないけどどうにかなるさ。
で、一応改めて言っておくとこの作品はヤンデレ以外の愛も書くのでこういった話を投稿することがあることをご了承ください。本来はチルノ編で言おうと思っていたのですがね、何故かここで言う羽目に。…それにしてもこっちの伸びがおかしい、一応ハーメルンでのメインである不帰録の立つ瀬が無い。まあいいか、あっちはあっちで伸びることを期待しよう。ではまた。