※予告とは内容を変更しております、そのあたりについては活動報告に書いてありますので暇な方はお読みください。
※今回は少女たちの物語の一部分を切り取ったものとなっております。そのため前後の状況、背景などの説明はろくにされていません。そのことをご承知の上楽しむ事の出来る方のみお読みください。
その壱、文の手帳
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「……あら?」
それを見つけたのは、天狗たちの仕事場でのことであった。同僚の机のすぐ傍に落ちているそれには見覚えがあった。
「文の手帳ね…………、よし」
好奇心に負け、はたてはその手帳を適当に開いて読み始めた。
『
06:02 起床
06:44 朝食を作った後、食事を取る
07:34 外出、目的地は人里の模様
07:56 人里に到着
08:04 女性と会話を始める、どうやらかなり親密な様子、警戒対象に追加
08:45 慧音さんと遭遇、その後14分にわたって談笑、要警戒を維持
09:21 商店の女性店員と軽く世間話、会話後の様子から警戒対象に追加
10:24 人里の離れる、次目的地は博麗神社の模様
11:12 博麗神社に到着、奥に入っていく
11:16 霊夢さんと談笑を始める、霊夢さんは笑顔を浮かべている
12:09 霊夢さんと食事を始める、かなり仲むつまじい
13:45 博麗神社を去る、別れ際の霊夢さんは憂いのある表情、要警戒第一位を維持
』
「……なに、これ」
そこまで読んではたては思わずそうこぼす。これ以上読み進めたくはない、そう思っているのに手は勝手にページをめくり、目は勝手にその内容を脳に刻む。一人の人物の一日、一週間、一ヶ月、一年、その詳細が事細かに書かれたその手帳。そこに込められた彼女の感情、その重すぎるほどの想いに、はたては気分が悪くなる。これほどまでに個人に執着して、これほどまでに常軌を逸した行動を取れるのかと。そう思った瞬間、
「はたて?」
「!!」
後ろから声をかけられた。恐る恐ると振り向けばそこには、文がいた。
「何を、しているの?」
ただ、ただ小首を傾げているだけの文が、たまらなく恐ろしく感じた。僅かばかり前まで元気な笑みだと思っていた彼女の顔が、とてつもなく気持ちの悪いもののように思えてくる。
「あ……、貴方の手帳が落ちていたから、拾っただけよ」
「そうだったの、拾ってくれてありがとう」
「じゃ、じゃあ、私はこれで」
手帳を渡してすぐにその場を離れようと彼女に背を向ける、これ以上彼女の姿を視界の中に収めていたくなかったから。
「ところで」
「!」
「中身、読みました?」
「……よ、読んでいないわ」
「……それは良かった」
おそらく笑っているのであろう彼女の顔を、振り向いて確かめる気には到底なれなかった。
その弐、アリスの人形
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コンコン、とノックの音がした。誰であろうかとアリスが戸を開けると、そこには魔理沙が立っていた。
「……あら、魔理沙」
「今、いいか?」
「……ええ」
急に訪ねてきた魔理沙とついでに自分のためにお茶を入れる、珍しくおとなしい彼女に首を傾げつつその対面に座る。
「それで、今日はどうしたの?」
「いや、別に用があるってわけじゃないんだが……」
なにやら言いよどんでいる魔理沙の様子にピンと来たアリスは薄く微笑む。
「慰めに来てくれたのかしら?」
「……ばれていたか」
「似合わないわよ、貴方がそういう気を回すのは」
「みたいだな、その調子なら大丈夫そうか」
「当たり前よ、貴方に心配されるほど落ちぶれた覚えはないわ」
「言ってくれるぜ」
彼を失ったことで随分と落ち込んでいたと思っていたがどうやら心配しなくてもいいらしい、そう分かった魔理沙は気を軽くして出されたお茶を一口飲む。慣れない重荷を下ろしたおかげで周りを見る余裕が出来た彼女はとあることに気がつく。
「それにしても、人形の数増えてないか?」
「色々と試したいことがあってね、その一環よ」
「ふーん、例の自動人形がらみか?」
「そうよ」
「へえ、前から聞いてみたかったんだがどうやって自動人形を作るつもりなんだ?」
「それこそ色々よ、色々。そういう魔法をかけていったり、人形を人工生物に進化されたり。……単純なものなら中に何かの魂や意識を入れるというのもあるわね」
「……魂を?」
何かが、引っかかった。
「? 珍しい手法ではないはずだけど、何か気になるの?」
「……いや、何でもないぜ」
「そう?」
何が気にかかっているのだろうか、自分のことながら魔理沙にはその理由に思い至らなかった。その言葉を口にしたときのアリスの様子に、何かが引っかかったような気がしたのだが……。
(まあ、いいか)
とりあえずアリスは大丈夫そうなのだ、だったら特に問題もないだろう。
「じゃあ、これで私は失礼させてもらうぜ。またな、アリス」
「ええ、またね」
魔理沙が去った後、アリスはティーカップを片付けながら口を開く。
「……ふう、何だかんだと優しいわよね、彼女。あれで盗み癖がなければいいのだけれどね」
洗い物を済ませた後、彼女は棚に置いてあった人形の一つを手に取った。
「貴方も、そう思うわよね?」
誰かに似ている人形を手に、アリスは満面の笑みで浮かべた。
その参、『』の父
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……不思議だった、ようやく不思議なのだと彼女も知ったのだ。
「ねえお母様、私のお父様ってどんな人なの?」
「貴方のお父様?」
生まれて時から今まで、彼女は父親というものをみたことがなかった。いや、友人に聞かれるまで父親と言う存在すら知らなかった。彼女にとって親とは母親だけであって、父親という彼女の生まれに関与したはずの存在は、まったく彼女の人生には関わってきていなかった。
「ねえ、どうしてお父様のことを聞きたいの?」
「皆はお父様がいるって言っていたから。私にはいないのに」
「そう……」
彼女の言葉に母親は少し考え込んだ後、口を開く。
「格好良くて、気が利いて、優しくて、とても魅力的な人よ、貴方のお父様は」
「そうだったんだ」
「そう、魅力的過ぎたから……」
「どうしたの?」
「いいえ、何でもないわ」
母の言葉に何かあるのではないかと思ったけれども、いまだ幼い彼女には母親が何を言い掛けたのかがまったく分からなかった。
父親の話をしてから数日後のことだ、彼女がそれを見つけたのは。
「……階段、かな?」
入ってはいけないと言われていた彼女の母親の部屋に、母親が不在と言うことで好奇心に駆られて入ってしまったところ、部屋の隅に階段を見つけた。前に入ったときは隠していたのであろうその階段は、地下へと通じているようであった。
「何処につながっているんだろう……」
入ってはいけない母の部屋にある不思議な階段、そこを下りてはいけないと思いつつも、子供の好奇心はそんな理性を簡単に崩した。
階段を下りて存在していた少し暗い通路を数分ほど歩いていると先に明かりを見つけた。なんだろうと思って小走りにそこへと近づいていると、その向こうから声が聞こえてきた。
「……おや、まだ時間じゃないと思っていたんだが、俺も感覚が鈍ったかな。……ん?」
そこには一人の男性がいた。木枠のはまった部屋、彼女は知らないだろうが多少常識のある者なら牢屋と呼ぶであろうその部屋、そのなかで座っていたその男性は彼女の顔を見て怪訝な顔を浮かべる。
「……珍しいな、彼女以外に誰かが、しかも女の子が来るなんてな」
本当に珍しい、そう呟く彼を彼女は思わず見とれていた。初めて会ったというのにもかかわらず彼女は彼に親近感を覚えていた。彼が自分の傍にいるのは当然と言うような、あるいは傍にいるべきであると言うような、そんな不思議な感覚を彼女は何のためらいもなく受けいれた。だから、まずは。
「貴方、だあれ?」
彼の名前を聞くことから、彼女は始めるのであった。
「……俺か? そうだな……」
…………どうして彼に親近感を覚えたのか、どうして彼をすぐに受け入れる気になったのか。それを彼女が少しでも考えていたら、この後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。幼い彼女では思いつきもしなかったのであろうそのことを、今更言ってもしょうがないのであるが。そんな先のことは知らず、彼女は何処か自分に似た容姿を持つ男と言葉を重ねるのであった。
はい、特別回です。…えー、皆様には二つのことで謝罪しなければなりません。一つは大きく投稿が遅れたこと、一つは投稿の内容を変えていることです。本当に申し訳ありません。前者に関してはこれからはもう少し投稿ペースが上げられるようにがんばります。後者についてなのですが、チルノのそれはどうにも細かいところが上手くいかないので延期させてもらいます。おそらく特別回などではなく通常のお話として投稿するかと思います。
今回の話について、これは少女達の愛の物語の一部分を切り取ったという体で書いたものです。そのためどういうことなのか良くわからないだろうと思いますが、まあ少しは察してもらえるんじゃないかなあとも思います。こういうことなのか、もしかしたらこうじゃないのか、と言う疑問などがありましたら感想に書いていただければ返答するつもりです、まあいつも通りのことですがね。ぶっちゃけ今回は迷走回だと思ってください、皆さんの返答などでこのタイプの書き方をまたするかは考えますので。
さて次回、まったく決まっていません。とりあえず頂いたリクエストをじっくりと見て考えます、…結果的に何の関係もないキャラになるかもしれませんが。ではまた。