東方病愛録   作:kokohm

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「私だけを見てくれ」


霧雨魔理沙の愛

 

 あの日あの場所を飛ばなければ、まったく運命は変わっていたのだろう。少なくともアイツは死んでいただろうし、私はこのような感情を抱くこともなかったに違いない。

 

「……っと、大丈夫だったか? 災難だったな、こんなところで妖怪に襲われるなんてよ」

「は? 何って、妖怪以外ないだろ? …………もしかしてアンタ、外来人か?」

「じゃあ博麗神社まで送ってやるよ、そこから先は霊夢に、そこの巫女さんに頼んでくれ」

 

 

 最初に会ったときは、外来人か、程度だった。外来人は珍しいがまったく居ないわけでもない、この時点ではまだ私はそれほど興味を抱いてはいなかった。

 

 

 

 

「邪魔するぜー、霊夢。早速だが茶をくれ、喉乾いちゃったんでな」

「……え? あいつ帰らなかったのか?」

「人里で、ねえ……。ふーん……」

 

 

 次に名前を聞いたときは、変な奴だな、と思った。どうして外に戻らなかったのか、どうしてここに残ったのか。私はひどく興味が湧いた。

 

 

 

 

「や、久しぶりだな。……もしかして忘れちゃったか?」

「あ、覚えていてくれたようで何よりだ。そういやまだ自己紹介してなかったな、私の名前は霧雨魔理沙だ。アンタの名前を教えてくれないか?」

「んじゃ、またな」

 

 

 再び会った時は、面白い奴かも、と感じた。霊夢たちには感じた事のなかった何かがアイツから感じ取れる、そんな漠然として感覚が私にはあった。

 

 

 

 

 

「よっす、なかなか広いところに住んでいるじゃないか。もしかして意外と儲かっているのか?」

「これなら遊びに来ても邪魔にならなさそうだな、これから時々邪魔しに来るかもしれないからよろしく」

「お、そう言ってもらえると助かるぜ」

 

 

 人里で再会してから時折、アイツの家を訪ねるようになった。アイツも助けた私に恩でも感じているのか嫌な顔一つせず私を受け入れてくれた。そこでの会話は私にとっていつしか日々の楽しみとなって言った。

 

 

 

 

 

「おお、偶然だな」

「最近何か困ったことなんか起きてないか? 何かあれば私が力を貸すから遠慮なく言ってくれ」

「気にするなって、私とお前の仲じゃないか」

 

 

 気付けば人里に行く頻度が増えていた、気付けばアイツの家の付近へと足を向けていた。その理由にはまた、私は思い至っていなかった。

 

 

 

 

 

「霊夢がうちに来るなんて珍しいな、まあお茶くらいは出すから上がっていけよ」

「アイツか? まあ何かと面白い奴だからな、一緒にいると楽しいんだよ」

「……そんなに笑っているのか、私は?」

 

 気付くと日課の日記にはアイツのことしか書かなくなった、夢の中でもしばしばアイツが出てくるようになった。寝ても覚めても、私の頭にはアイツの顔があった。もしかしてと思いつつ、未だに私はそれを明確には自覚してなかった。

 

 

 

 

 

「よ、久しぶり」

「あれ、こんなところで会うなんて奇遇だな」

「おっと、このところよく会うな」

 

 

 いつからかもっとアイツの事を知りたいと思うようになった私は、アイツを観察するようになった。気付けば朝から夕まで、日がな一日アイツのことを見ている時もあった。何で私はそんなにアイツの事を気にしてしまうのか、どうして私はこんなにもアイツを見ていたいのか。少しだけ分かったような、まったく分かっていないような、そんな状態だった。

 

 

 

 

 

「……!」

「何で、アイツが…………」

「……嫌、だな」

 

 

 でもある日気がついたんだ、アイツが私以外の女と仲良くしているのを見た時に。私は、アイツが好きなんだってことに。そして……、私がアイツを独占したがっていることに。私だけを見て欲しい、私以外の誰も見て欲しくないって。そう自覚してからの日々は、私にとってひどくつらい日々だった。

 

 

 

 

 

「……なあ、何であんなに近かったんだ?」

「惚けるなよ、私は全部見ていたんだからな」

「だからっ……! お前はどう思っているだって聞いているんだ!!」

 

 

 ある日思わず迫った私にアイツは悩んだような表情を浮かべていた。私の質問にもきちんと答えたつもりなのかもしれないが、私には到底納得ができなかった。

 

 

 

 

 

「なあ、気付いているんだろう? 私は……」

「ここまで言っているんだ、お前も……」

「………………ここまで、ここまでしても駄目なのか?」

 

 

 私だって女だ、いつもの私とは違うけど精一杯私なりにアイツを誘ってみたこともある。…………でも、目が覚めたときアイツはもういなかった。私は……、どうしたらいいのか分からなかったんだ。

 

 

 

 

 

「あれ? あの鳥どっか行っちゃった……」

「怪我が治って飛んで行ったみたいね、かごの中にでも入れていたら逃げなかったんでしょうけれど」

 

 

 落ち込みながら里を歩いていた時に聞こえたその会話、その言葉を聞いた瞬間私は分かったんだ、私がどうすればいいかってことを。だから私は…………。

 

 

「……でもかわいそうだもん、かごに閉じ込めるなんて」

「そう、貴方は優しい子ね…………」

 

 私は何を省みることもなく、その衝動と感情のままに動いた。

 

 

 

「……気付いたみたいだな。ようこそ、私の家に。こうしてお前をここに招待するのは初めてだったかな?」

「何でって? そんなの私の傍にいて欲しいからに決まっているじゃないか」

「……私はお前だけを見るから、お前も私だけを見てくれ…………」

 

 

 私は、アイツを閉じ込めたんだ。私だけを見てくれるように、私以外を見ないように。アイツには私がいればいい、アイツにも私がいればいい。そう、そういうことなのだ。

 

 

 

 

 

「……目が覚めたか? まったく、無茶をするんだから」

「駄目じゃないか、ここから出ちゃ。魔法の森を迂闊に歩けばどうなるかなんて、お前にも前教えただろう?」

「大丈夫、ここにいる限り魔法のきのこの胞子の影響を受けたりなんてしないから。だから絶対に、ここから出ないでくれよ……?」

 

 

 アイツも素直に私の家にいてくれた、だから私もアイツと一緒に毎日を過ごすことができた。アイツが傍にいてくれるというだけで、私の心は満たされていた。

 

 

 

 

 

「ふんふふ~ん、ふふふふ~ん」

「じゃーん! 今日も魔理沙さんの特製ご飯だ、残さず食べてくれると嬉しいな」

「美味しいか? ふふっ」

 

 

 まるで新婚生活のように、私はアイツと一日を過ごせるようになった。眠るアイツを起こして、私の手料理を食べてもらって、一緒に眠る。初めて知った喜びに、私は幸せを感じていた。

 

 

 

 

 

「……あ、今動いた!」

「もうすぐ私がお母さんになるなんてな、いまいち実感が湧かないぜ」

「お前もお父さんになるんだからしっかりしてくれよ? 私一人で子育てなんて自信ないからな」

 

 

 私とアイツだけのこの世界、そしていずれはもう一人増えるこの世界。その世界の中で生きていける私は、とても幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、幸せなのだ。

 

 

 




 はい、魔理沙回です。久々にちょっと頑張って連日投稿をしてみました、といっても少しだけ書き溜めがあったから出来たんですけどね。今回は割と王道、チックに、書け、たと思って、いま、す? …まあぶっちゃけ良く分かりません、最初は私のことが好きに違いないみたいな路線で書こうと思っていましたしね、いつしか変わっていましたが。

 さて次回、いいかげん聖を書くかな? 上手く形になってくれると助かるんですけどねえ。流石に次回は遅くなります、ええ。ではまた。

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