東方病愛録   作:kokohm

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「特別な花」


風見幽香の愛

 災難だったわね、野良の妖怪に襲われるだなんて。ああ、大丈夫、ここには妖怪は早々来ないわ。安心して身体を休めるといいわ。少し待っていて、今お茶とお菓子を持ってくるわ。

 

 

 ……はい、どうぞ。お口に合うといいのだけれど。……あら、ありがとう。そうね、それは自信作なのよ。うちで咲いている花から作ったお茶でね、なかなかいいものになったと思っているわ。

 

 

 それにしてもどうしてこんなところに? 普通の人間が来る様な場所じゃないわよ、この辺は。…………まあ、そんなことがあったの。それは災難だったわね。せっかくだから少しゆっくりしていきなさいな。

 

 

 ……へえ、そんなことがあったのね。こんなところに住んでいると世間に疎くなってしまうから、そういう話は助かるわ。……あら、お茶がなくなったわね。おかわりを持ってくるわ、ちょっと待っていて。…………はい、どうぞ。……ええ、さっきとは違うお茶よ。同じくうちに生えている花から作ったものだけれど、こちらは口に合うかしら? ……そう、それは良かったわ。

 

 

 …………あら? 降ってきたようね、どうする? 雨が止むまでここで雨宿りしていっても別に構わないけど。……そう、じゃあもう少しお話を続けましょうか。

 

 

 ……へえ、それは面白いわね。……あら、ちょっとごめんなさいね。どうしたの? ……そう、確か向こうにあったはずだから探していらっしゃい。ええ、また後でね。…………お待たせ。……え? ああ、あれは娘よ。…………妹? ふふっ、そう見えた? でも娘なのよ、意外だったかしら? ……そんな歳には見えない? あらあら、それは嬉しいわね。分かっているわね貴方、女性に言うべき台詞というやつを。…………実は、私は妖怪なのよ、……って言ったら信じるかしら? ……ふふふ、そう。……そうね、秘密、としておきましょうか。ミステリアスな女性も悪くない、ってあの人に言われたからね。

 

 

 ……旦那? ああ……、少し前に、ね。前日までは元気だったのに突然あっさりと、あっけなくね。不思議なものよね、人間って。何でもないようなことであっけなく、突然いなくなってしまうのだから。悲しかったわ、あの娘も大きくなって家族三人ゆっくりと、と思っていたのに。……ごめんなさい、あのときのことを思い出すとつい、ね。不思議なものよね、克服したと思っていたのに悲しみは不意に訪れるんだから。まったく、なかなか思い通りにならないものね。…………ごめんなさいね、湿っぽくなっちゃって。話題を変えましょうか、何か話してくれる?

 

 

 ……恋? そうね、いいものだと思うわよ。何か悩みでもあったのかしら? ……それは、駄目じゃないかしら。……そうね、女の子に告白されてその返しは無いと思うわ。私? 私の場合は彼のほうから告白してくれたわ、お前を愛している、ってね。嬉しかったわ、彼も私のことを想っていてくれたのだと実感できたから。……馴れ初め、ね。外のお花畑、見えるかしら? そうね、大体あの辺に彼がいたのよ、あの大きな花が咲いている辺り。……そうね、見たこと無いと思うわ。育て方も難しいし、何より珍しい花だから。そう、私達にとって特別な花。……っと、話を戻しましょうか。

 

 

 最初に会った時はてっきり死体か何かと思ったわ、だって全く動かなかったんですもの。それで一先ず動かそうと思って腕を掴んだんだけど、そこで彼が突然パッと目を開いて逆に腕を引っ張られちゃったのよね。その所為で彼の胸の中に飛び込む形になっちゃってね、普通なら突き飛ばすなり何なりするはずなのに何故だか出来なくてね。初めての感覚だったわ、他の人に安心したのは。……ああ、それは分からないわ。後から聞いてみたのだけれど寝ぼけていたとしか答えてくれなかったし、結局何だったのかしらね。……まあ、そんな感じで最初は出会ったのよ。

 

 

 外来人って知っているかしら? ……そうそう、そんな感じ。彼がその外来人でね、右も左も分かっていなかったのよね。それで話した感じ植物に対する知識も深かったし途方にくれていたし、何よりあんな感覚を覚えちゃったものだからつい、うちに住まない? って誘っちゃったのよ。それでまあ、そのままずるずると二人の生活を続けて、彼に思慕の感情を抱き始めて、どうしようかと悩んでいたら彼のほうから告白されて。その後は分かるでしょう? ゆったりとした恋人生活を続けて、そのうちに夫婦になって、あの娘も生まれた。幸せだったわ、ええ。本当に幸せだった……、あの時までは。

 

 

 

 

 

 

 ……ああ、気にしなくていいわよ。

 

 

 

 

 

 だって、もうじき彼は蘇るのだから。

 

 

 

 

 

 あらあら、効いてきたようね。……? 何を言いたいのかしら? 生憎と私には読唇術の心得はないのよ、ごめんなさいね? まあいいわ、多分聞きたいであろうことを話してあげる。簡単に言うと貴方が飲んだお茶に毒を入れておいたのよ、特別な毒をね。ああ、特に苦痛を味わうようなタイプの毒じゃないからそこは安心して。そうね、一応動機も話しておこうかしら。あの花、って地面に倒れた状態じゃ見えないわね。さっき見せた花畑の中央にあった花を覚えているかしら? あれはね、人を蘇らせる力があるのよ。とは言っても条件が厳しくてね、あの花に適正がある人なんて数百人に一人いればいいってくらいなの。幸いなことにあの人はあの花に適正がある人だったから後は上手く花を咲かせるだけ、貴方の命を生贄にね。

 

 

 ……ああ、さすがに気がついたようね。そう、貴方は花を咲かせる為の生贄ってわけ。あの花から作られたお茶を飲んだ百の生贄、貴方は記念すべき九十九人目よ。ああ、長かったわ。大きく動けば騒ぎになるし、何より蘇った後に彼に知られることになる。だからこっそりひっそり、静かにゆっくりと。まったく、性に合わないったらなかったわ。でもその苦労ももうすぐ終わる、もうすぐあの花は咲く。そうすれば彼は再び蘇ることができる、もう一度三人で過ごせるようになるのよ……!

 

 

 …………あら? 何だ、もう死んでいたのね。それじゃあ早速運びましょうか。……え? あら、貴方も手伝ってくれるの? ありがとう、じゃあお手伝いお願いね。……ええ、もう少しよ。もう少しであの人が帰ってくるの。そうね、お父さんが帰って来たらまた一緒に遊びましょうね。……ええ、また三人でね。ふふふ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はい? あら、どうしたの? …………まあ、それは大変だったわね。良かったらここで休んでいかない? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓迎するわ。

 




 はい、幽香回です。これから先リクエストの順番が前後しますがご了承ください、難しいリクエストもあるので書きやすいほうから書かせてもらいます。それで今回のお話、リクエストとしては純愛系のヤンデレだったんですがね、何かもう普通に書かせてもらいました。いや、純愛って一途に愛しているんでしょう? で、ヤンデレも一途なわけです。じゃあもういいじゃんと思考が止まりました。…はい、すみません。

 話の内容については…、ぶっちゃけこれヤンデレですかね? だって人間を生贄にしているから狂っているように見えますけど幽香って妖怪ですからね、人間なんて捕食対象ですよ。私達が牛や豚を使って儀式をするようなものですからね、まあ狂気はあるかもしれませんがちょっと微妙な気がしないでも無い。…まあいいか、思いついたからしょうがない。

 で、次回の話。次は大妖精の話か二人組みの話を書こうかと思っています。大妖精の話についてはちょっと元のアイデアから変更中、二人組みについてはどのコンビにしようか悩んでいます。秘封倶楽部で頭だけ書いてみたんですがね、何かしっくりと来ない。一応現代が舞台なのでどんな病みにするかが意外と難しくて、ちょっと難儀しそうです。結局いいアイデアが出なければ別の組み合わせにするかも、まあ考え中です。ではまた。

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