……ダンジョン、に……出会、い、を……求める、のは……間違ってい、る……の?   作:カミカミュ

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久々に5000文字越えたのを書いたと思う。


7話 兎と狼

 

 

 

 

ベルと一緒にダンジョンに来ていたシュヴィだが、結局はベルを見守るだけで戦闘はしなかった。

 

ベルは問題なく先頭をしており、ゴブリンに一撃貰った程度で問題なく反撃していたので、大丈夫だろう。

 

それから一度教会へ戻り、ベルのステータスを更新したのだが、ヘスティアの様子がおかしい。

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:I 82→H 120

耐久:I 13→I 42

器用:I 96→H 139

敏捷:H 172→G 225

魔力:I 0

《魔法》

【 】

《スキル》

【 】

 

 

「……えっ」

 

 

ステータスの用紙を見て声を上げるベル。

 

ちらりと覗き見たステータスは最近のベルにしては伸び率が多い。

 

 

「か、神様、これ、書き写すの間違ったりしてませんか……?」

 

「君はボクが簡単な読み書きもできないなんて、そう思っているのかい?」

 

「い、いえっ!そういうことじゃなくて……ただ……」

 

 

ベルの言いたいことはわかる。

 

これでまでとは全く違う熟練度の上昇数値。

 

過去の上昇数値と比較しても異常な数値である。

 

 

「か、神様っ、でもやっぱりおかしいですよ!?ここっ、ほら、『耐久』の項目!僕、今日は敵の攻撃を一回だけしかもらっていないのに!」

 

「……」

 

 

今までに敏捷の伸びだけが良かったベルのステータスが、上昇数160オーバーなどあり得るのか?前まで30~40程度の数値で伸びていたはずだ。

 

だから分かる。ベルのステータスに何かが…。

 

ふと、ステータスのスキル欄に違和感を感じる。

 

 

-【開始】視覚情報から用紙の分析を始めます-

 

-【終了】スキル欄に消したと思われる文字の解析が終了しました-

 

-【結果】……『憧憬一途(リアリス・フレーゼ)』の読み取りに成功しました-

 

 

おそらく原因はこのスキル。

 

しかし、ヘスティアがこのスキルを隠している理由がわからない。

 

憧れ、憬れ、一途……上昇効果があると思われるスキル。

 

効果を名前から分析しようとする。

 

憧れに一途、憧れを抱いた人物に一途であることが、上昇効果につながる?

 

 

-【検索】ベル・クラネルに関わりのある人物について-

 

-【結果】……最近の人物での特定結果『シル・フローヴァ』『アイズ・ヴァレンシュタイン』『エイナ・チュール』『ヘスティア』それ以外の人物も可能性あり-

 

-【検索】さらに憧れ・スキル・冒険で絞り込みます-

 

-【結果】……『アイズ・ヴァレンシュタイン』の可能性が一番高いです-

 

 

彼女ならば、いつ?ミノタウロスに助けられた時?

 

自分にもまだまだ知らない『感情()』がまだある……。

 

ヘスティアが浮かべる感情は嫉妬?自分には分からない。

 

リク……シュヴィは、もっと『心』を教えて欲しかったよぉ……。

 

一緒に死ぬまで暮らしたかった。

 

あんな戦争のないこの世界に来れても、リクがいないと意味がない。

 

やっぱり一緒にいたいよ、リクぅ……。

 

 

「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、そっちに行ってくる。君をたまには一人になって羽を伸ばしながら、寂しく豪華な食事でも食べればいいさっ」

 

 

自分の思案中にも、話は進みバタンッ!と音を立ててヘスティアは出かけてしまった。

 

頭を掻きながらベルがこちらを見てくる。

 

 

「なんだか神様怒らせちゃったみたい。シルさんの所に僕たちも出かけようか?……シュヴィ?どうしたの?」

 

「……?」

 

 

頬を涙が伝っていた。

 

私はそれを拭い、大丈夫と言いながら店に向かう用意をする。

 

 

 

 

 

日が既に西の空へ沈もうとする時間帯。

 

自分とベルは今朝、シルに出会った場所を目指す。

 

この時間になると、辺りの酒場から景気良く大声が打ち上がり、後から怒声や大笑の声が続く。

 

辺りは暗くなり始め、開放された店から漏れ出すオレンジの光が自分たちの影を伸ばす。

 

人の往来が絶えないメインストリート歩みながら、目的の場所まで来た。

 

ベルは何処の店か分からずにキョロキョロと辺りを見回している。

 

 

「……ベル、あそ、こ……」

 

「……ここ?」

 

 

その酒場の名前は『豊饒の女主人』。

 

中を覗けばドワーフの女性がお酒や料理を振る舞う姿や、今朝のシルと同じ格好をした女性も見える。

 

酒場の名の通り、女性しか従業員のいない酒場のようだ。

 

従業員が女性ばかりのせいか、ベルの腰が引けてる。

 

そんなベルに。

 

 

「ベルさん、シュヴィちゃんっ」

 

「……」

 

 

緊張で気づかないベルの隣にシルが立っている。

 

そんなシルに引きつった笑みを浮かべるベル。

 

 

「……ん、来た、よ」

 

「……やってきました」

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

 

自分たちは出迎えてもらい、入口をくぐる。

 

 

「お客様二名はいりまーす!では、こちらへどうぞ」

 

「は、はい……」

 

「……ん」

 

 

案内されたカウンター席にベルと隣同士で座る。

 

すると、女将さん?が話しかけてくる。

 

 

「アンタ達がシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせに可愛らしい顔してるねぇ!」

 

 

可愛らしいという言葉にベルが苦笑いしている。

 

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

 

 

「……ベル、大食、い……?」

 

「信じないでシュヴィ!?違うからね!」

 

 

ばっとベルが振り返り、側にいたシルはさっと目を横に逸らした。

 

どうやら、シルの策略らしい。

 

少し信じかけた……。

 

 

「ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか!?僕自身初耳ですよ!?」

 

「……えへへ」

 

「えへへ、じゃねー!?」

 

 

ちなみに自分はリクの頃の習慣からか、普段人間らしくするために食事をしているが、食べても分解されるだけなので、大食いの真似事ぐらいならできる。

 

 

「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾ひれがついてあんな話になってしまって」

 

「絶対に故意じゃないですか!?」

 

「私、応援してますからっ」

 

「まずは誤解を解いてよ!?」

 

「……お金、は、あるか……ら、腹に詰、め、込む作……業」

 

「シュヴィ!?僕絶対大食いしないよ!?」

 

「……オ腹ガ空イテ力ガ出ナイー……朝ゴ飯ヲ食ベラレナカッタセイダー」

 

「やめてくださいよ棒読み!?ていうか、汚いですよ!?」

 

「ふふ、冗談です。ちょっと奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください」

 

「……奮発、し、て……大食いチャレン、ジ……?」

 

「シュヴィやめて……シュヴィがお金出して本気でやり始めそうだから、普通に食べよう……」

 

 

ベルがパスタを頼んだので、自分も同じものを頼む。

 

「酒は?」と聞かれたけど断っておく。

 

断ったのにドンと置かれるエールに少し悩み、そっと、ベルの方に押しておいた。

ベルがえぇっ!?って顔をしていたが無視を決め込む。

 

 

「楽しんでますか?」

 

「……圧倒されてます」

 

「……ベルが、おかわ、りっ……て」

 

「……言ってないからね。まだ半分しか食べてないからねシュヴィ」

 

 

シルはエプロンを外し、窓際に置いてあった丸椅子を持ってベルの隣に座る。

 

 

「お仕事、いいんですか?」

 

「キッチンは忙しいですけど、給仕は十分に間に合ってますので。今は余裕もありますし」

 

 

いいんですよね?とシルは視線で女将に尋ね、女将も口を吊り上げながら許しを出した。

 

 

「えっと、とりあえず、今朝はありがとうございます。パン、美味しかったです」

 

「……ありが、と……う」

 

「いえいえ。頑張って渡した甲斐がありました」

 

「……頑張って売り込んだっていう方が正しいんじゃないんですか?」

 

 

ベルの言葉にシルは苦笑いしながら「すみません」と誤った。

 

シルはこの店のことを語りながら働き始めた理由も述べる。

 

すると、突如十数人の団体が酒場に入店した。

 

予約をしていたのかぽっかりと席の空いた一角に案内されている。

 

様々な種族がいる団体だが、よく見覚えがあった。

 

ロキ・ファミリアの面々がこの酒場に来たようだ。

 

よく見れば、先頭を歩いていたのはボロ負けしていたロキだった。

 

ベルはアイズを見て頬を染めながら固まっている。あっ伏せた。

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

 

ロキの音頭にを聞き、ロキ・ファミリアは騒ぎ出す。

 

ベルはしばらく経っても隠れるようにアイズを見ている。

 

そして、狼男の声が聞こえてきた。

 

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話聞かせてやれよ!」

 

「あの話……?」

 

 

狼がアイズに話をせがんでる。

 

なんの話だろうか?

 

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、クソガキが飛んできて……じゃなかった。あん時のトマト野郎だよ!」

 

「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上って行きやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰り途中でチビガキにコケにされて疲れていたってのによ~」

 

 

ティオネの確認に、狼がジョッキを卓に叩きつけながら頷く。

 

だいぶ酔っているようだ、迷宮で話した時よりも声の調子が上がっている。

 

さらに詳しく説明し出す。

 

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しってっていうようなひょろくせぇガキが!」

 

 

ベルのことかな。

 

 

「抱腹もんだったぜ兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可愛そうなくらい震え上がっちまって、顔を引きつらせてやんの!」

 

「ふむぅ?それで、その冒険者はどうしたん?助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

 

ベルの顔色が悪い。

 

体温や、脈拍が上がっていってる。

 

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……!」

 

「うわぁ……」

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……!」

 

「……そんなこと、ないです」

 

 

……………………………。

 

 

「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……ぷくくっ!うちのお姫様、助けた相手ににげられてやんのおっ!」

 

「……くっ」

 

「アハハハハハッ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてしまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

「ふ、ふふっ……ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない……!」

 

「……」

 

「ああぁん、ほら、そんな怖い目しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」

 

 

笑い声に包まれるロキ・ファミリア。

 

 

「べ、ベルさんっ……?」

 

 

シルの声が聞こえる。

 

しかし、自分とベルは黙ったまま喋らない。

 

 

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

 

「……」

 

「ああいうヤツがいるから俺たちの品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ?それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ?ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

 

――ガリガリガリと歯ぎしりの音が聞こえる。

 

 

「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。あれが俺たちと同じ冒険者を名乗ってんだぜ?」

 

「あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

 

――ガリガリガリ、ガリガリガリ音は続く。

 

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

ツガイ……伴侶、連れ立って行く者。仲間。配偶者…………夫婦。

 

自分にとっては特別な言葉だから……だからなのだろうか。

 

機械であるはずの自分は力の調節を間違えて手元のお皿に罅が入っていた。

 

 

「ベート、君、酔ってるの?」

 

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ・雌のお前はどっちの雄に尻尾振ってどっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 

隣から聞こえる歯軋りと共に、皿の罅が増える。

 

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「……っ」

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分よりも弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけ空回りしている雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。他ならないお前がそれを認めねえ」

 

 

 

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

 

 

 

 

ベルが椅子を飛ばして、立ち上がり、そのまま外へ走り去った。

 

「ベルさん!?」

 

「ああン?食い逃げか?」

 

 

 

 

 

「【確認】問題はない。当機がベルの分を払えば解決する」

 

 

 

 

 

自分はフードを目深く被り、立ち上がりながら言葉を発する。

 

シルにお金を払い狼に近づく。

 

 

「お前あの時のクソチビじゃ「【確認】ロキ。狼を少しの間だけ貸りる、肯定を」」

 

「え、あの…………え、ええよ……」

 

 

ロキは私と分かると、見つめる自分の視線から目をそらし、どもりながら答える。

 

心なしか震えてるようにも見える。

 

自分は狼の襟首を掴むと、抵抗する暇もなく外へ連れ出す。

 

 

 

――店内から声だけでお聞きください――

 

 

 

 

「おい、クソチビ。てめぇなんの真似d「【解答】躾がなってないようなので、あなたの主神に代わり、躾る」」

 

 

「喋らせr「【開始】伏せ」」ドバンッ!!

 

 

「ぎゃ「【続行】伏せ」」ドゴォンッ!!

 

 

「あが「【続行】伏せ」」ゴガァンッ!!

 

 

「ぎぃ「【終了】金的」」ゴシャアッ!!

 

 

 

「あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

絶叫が聞こえ、店内は声と音だけで静まり返り、テラス側の人たちは震えながら女は顔を顰め、男は股を抑えていた。

 

その後、フラつきながら戻ったベートは万能薬(エリクサー)を飲んでいた。

 

誰もそれに突っ込むものなどいない……。

 

 

 

 

 





シュヴィ は 怒り の 感情 を 覚えた 。

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