咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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にじファンでは、「アフター阿知賀編その1」(現在の「高鴨穏乃」)「志野崎秀介その5」「志野崎秀介その6」の3話のみを投稿していました。
にじファンが閉鎖すると決まってからこの3話を投稿、読者の反応を見て要望があったら移転するよーとやっていたのです。
そうしたらオリジナルを含むそれ以外の作品を大幅に上回る評価とアクセスがありまして(
「ブラッド・スティンガー」はまだしも「エアウォーク」ぇ・・・・・・。
いいんだ・・・・・・俺、この作品が書き終わったら「エアウォーク」に新キャラ加えて再リメイクするんだ(宣伝
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02松実玄 挨拶と波乱

ガチャリと家のドアを開ける。

時刻は9:50、約束の時間の10分前だ。

 

にもかかわらず、そこにはすでに一台の高級車が止まっていた。

そしてなおかつ、家の門の前には一人の女性が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「遅いですわ!」

「・・・・・・いつからいたんですか」

 

夏休み目前、こんな時間だが既に暑くなってきているというのに。

後ろに車もあるし、わざわざ彼女はいつからそこで仁王立ちしていたというのか。

 

「かれこれ20分ほどですわ。

 衣は暑いからと車に戻ってしまいましたし。

 女性を待たせるなんて最低ですわよ!

 男なら気を利かせてもっと早く出てくるべきですわ!」

 

それはまた何とも勝手な言い分。

チャイムでも鳴らせばよかったものを。

だがそんな理不尽を向けられた相手は怒ることなく、笑顔を返すのだった。

 

「これは失礼を、時刻を守る事に捕らわれ過ぎていたようだ。

 次回から改善させて頂きましょう」

 

そう言って大仰に頭を下げる。

芝居がかったような口調に、彼女はプイッと顔をそむける。

 

「ふ、フン、分かればよろしいのですわ。

 さっさと参りますわよ」

 

くるっと車に向き直ると、彼女専属の執事が車のドアを開けて二人を迎え入れる。

そしてドアを閉めた後、運転席に戻るのだった。

 

車の中は実に涼しい、外とは比べ物にならなかった。

 

「しゅーすけ! よく来たのだ!」

「おう衣、元気だったか?

 前回会った時よりも大きくなったんじゃないか?」

「本当か!?」

 

車に入るなり少女は腕を絡めてきゃっきゃっと喜ぶ。

相手はよしよしと少女の頭を撫でてやった。

その様子を見ていた彼女はムッとした表情で執事に告げる。

 

「出して下さいまし」

「かしこまりました、透華お嬢様」

 

そして車が動き出す。

 

「・・・・・・ん? 何を持っているのだ?」

 

ふと、少女は彼が持っていた袋に目を向ける。

がさがさと音を立てるビニール袋、その中には箱が入っているようだ。

 

「昨日透華さんには言っておいたケーキさ。

 良ければ皆さんで、ってな」

「ケーキ!?」

 

わーい!と喜んだ後うずうずし出す少女。

早くも食べたくて仕方がないらしい。

彼はフッと笑うと箱から手に持てるカップケーキを一つ取り出す。

 

「ほら、衣用に一つ多く買っておいたから、食べていいぞ」

「いいのか!? ありがとうしゅーすけ!」

 

受け取るなり即座にパクッと食べる衣。

そして幸せそうな笑みを浮かべるのだった。

 

「・・・・・・あんまり甘やかさないでくださいまし」

 

フンッと不機嫌そうに女性は告げた。

そんな中、不意に執事から声が掛かる。

 

「志野崎様、箱の大きさから察するに龍門渕の方々の分しか用意が無いのでは?」

「申し訳ない、昨日連絡を受ける前から用意していたもので。

 なんでも今日は他の学校の方々が練習試合に来ているそうですね」

「・・・・・・ふむ。

 お嬢様、本日いらしているお客様の分、よろしければ少し急いでご購入して参りますが」

「さすがハギヨシですわ。

 それでしたらお願いします」

「かしこまりました」

 

小さく頭を下げた後、バックミラー越しに客人に視線を送る執事。

 

「そう言うわけですので志野崎様、少しばかり急がせて頂きます」

「どうぞお構いなく、ハギヨシさん」

 

そうして高級車は少しばかりスピードを上げた。

 

 

 

 

 

午前10時、阿知賀の一同は約束通り龍門渕を訪れていた。

昨日同様校門で入場受付を済ませて校内に入ると、迎えに来ていた一の姿を見つける。

 

「おはようございまーす!」

「本日もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

穏乃と玄の挨拶に一も返事をする。

そのまま連れられて昨日の麻雀部室へ。

そこではやはり昨日同様に純と智紀が待っていた。

が、2名ほど足りない。

 

「龍門渕さんと天江さんは?」

 

穏乃がキョロキョロ見回しながら問い掛けると、智紀が返事をする。

 

「・・・・・・お二人とも志野崎さんをお迎えに行かれました」

「え、二人で?」

 

何故わざわざ二人で?と穏乃が首を傾げると、純もため息交じりに答えた。

 

「透華はいつも迎えに行ってるから今回もって言ってたんだけど、そしたら衣も一緒に行きたいって言い出してさ。

 なんだかんだ言いつつ結局二人で行くことになったんだ」

 

やれやれと首を振る純。

が、すぐに卓にスッと手を向けた。

 

「ま、戻ってくるまで少しかかるだろうから、先に打ってないか?」

「それじゃ遠慮なく」

「待て」

 

そそくさと席に座ろうとする穏乃を晴絵が押さえつけた。

 

「その前にちゃんと挨拶しような」

「あ、はーい」

 

そうだった、と穏乃は大人しくそれに従い、一同揃って並ぶ。

 

「本日もよろしくお願いします」

「「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」」

 

「ああ、こちらこそ」

「改めてよろしくね」

「・・・・・・よろしくお願いします」

 

挨拶を交わしたところで一同は卓に着き、麻雀を始めるのだった。

 

 

 

打ち始めて30分ほど。

一卓が終わり、もう一卓も終盤という状況で不意に部室のドアが開いた。

入ってきたのは衣と透華だ。

 

「今戻ったのだー」

「お待たせいたしましたわ、阿知賀の皆さん」

 

「あ、天江さんに龍門渕さん!」

「おはようございます」

 

穏乃と憧が声をかける。

と。

 

「失礼します」

 

その後ろから一人の男性が入ってきた。

阿知賀一同は揃ってそちらに視線を向けた。

見慣れぬ男、彼が透華達が言っていた男性か。

 

「初めまして、清澄高校3年志野崎秀介です。

 本日はよろしくお願いします」

 

丁寧な挨拶に、阿知賀一同も思わず背筋を伸ばしてかしこまる。

 

「は、初めまして!

 阿知賀女子1年高鴨穏乃です!」

「お、同じく阿知賀女子1年新子憧です!」

 

「よろしくお願いします!」と気合いを入れて挨拶しようとした刹那、純から声が上がる。

 

「よ、志野崎先輩、ずいぶん似合わない挨拶だな」

「まぁ、最初くらいはな」

 

スチャッと手を挙げて交わすフレンドな挨拶に、二人は拍子抜けしてしまった。

「あれー? 気合い入れて挨拶しようとしたのに」とキョトンとする穏乃と憧の横をすり抜けて、秀介は晴絵の前に来る。

 

「初めまして、顧問かコーチの方でよろしいですか?

 昨日(さくじつ)ご紹介に預かったらしい清澄の志野崎秀介です。

 本日はお邪魔させて頂きます」

「あ、いえ、こちらこそ。

 阿知賀女子学院麻雀部顧問の赤土晴絵です。

 よろしくお願いします」

 

お互いに頭を下げて挨拶を交わす。

その後秀介は「それでは」と告げ、まだ麻雀を打っている卓の方に向かった。

 

「・・・・・・挨拶がしっかりしてる。

 敬語使ってくれない憧にも見習って貰いたいわ・・・・・・」

「ハルエ、何か言った?」

「いや、別に」

 

晴絵は卓に向かう秀介を感心した表情で見送った後、憧に視線を向けてこっそりとため息をつくのだった。

 

 

 

「今はどんな状況だい?」

 

秀介に声を掛けられ、卓で打っていた智紀が返事をする。

 

「・・・・・・今からオーラスです」

「そうか。

 ケーキの用意があるんだ、終わったら食べよう」

「・・・・・・ありがとうございます」

 

ペコリと頭を下げた後、智紀は配牌を取りに手を伸ばす。

 

「あ、あの! はじめまして!」

「初めまして」

 

玄と灼が慌てて立ち上がろうとしたが、秀介はそれを片手で制した。

 

「ああ、初めまして。

 挨拶は終わってからでいいよ」

「・・・・・・はい、分かりました」

「は、はい。

 はわわ・・・・・・」

 

見慣れぬ男性に見られての麻雀。

良く分からない、経験したことのないプレッシャーを感じながら玄も配牌を受け取る。

 

(・・・・・・この人が噂の志野崎秀介・・・・・・)

 

灼も配牌を受け取りながら、意識を秀介に向けていた。

 

(普通の男子にしか見えないけど、龍門渕さん達曰く天江さんに匹敵する強さを持つとか)

 

そんな人に見られながらの麻雀。

別に普段通りに打てばいいのだ、秀介への意識を切り卓に向き直る灼。

と。

 

「・・・・・・?」

 

様子がおかしい人物が一名。

一である。

あからさまに秀介から視線を逸らし、表情もどこか暗い。

 

(・・・・・・そう言えば昨日龍門渕さんが、自分も国広さんも彼が苦手だと言ってた気がす・・・)

 

合宿をやった時に出会ったと言っていたはず。

その時に何かあったのだろうか、などと考えながら配牌を整理し、山から牌をツモる。

 

 

 

南四局0本場 親・玄 ドラ{二}

 

智紀 31600

配牌

 

{一⑤⑦⑧⑨23779西北發}

 

灼 22500

配牌

 

{三七七八九②②⑥⑧2東南北}

 

秀介の立ち位置は智紀と灼の間、二人分の手牌が同時に見える位置だ。

だが秀介の目には対面の一の手牌も見えている。

 

一 19100

配牌

 

{三五七八⑦3469東南中中}

 

それを知らないから灼は現在の秀介の立ち位置を好都合に思っていた。

 

(このままクロが上がらなければ、志野崎さんにはクロの特性が理解できないまま戦うことになる)

 

ドラが手牌に集まる特性なんて言うものは、その特性の持ち主が上がらない限り明白にはならない。

玄が上がる以外で玄の特性を理解する方法は、玄と一緒に何局も打つくらいだろう。

だが秀介がやってきたのはオーラス、この一局で玄の特性を見抜くことは不可能。

確かに上がりを取って勝つのも大事だが、ここはその情報を伏せておいた方がアドバンテージになると思われる。

 

(ま、そのアドバンテージもクロが上がっちゃったら意味ないけど・・・・・・)

 

果たして玄は上がりを取るかアドバンテージを取るか。

そんなことを考えていたから、灼は秀介が渋い表情を浮かべていたことに気付かなかった。

 

当然秀介相手にそんなアドバンテージは存在しない。

一と同様に玄の手牌も秀介には見えているのだから。

 

(・・・・・・何だあれ・・・・・・)

 

 

玄 26800

配牌

 

{(ドラ)二三五六[⑤]⑦⑨4[5]689} {西}

 

 

配牌でドラ4である。

さらに次巡の彼女のツモも{(ドラ)}。

玄は相変わらずどこか秀介を意識したような緊張感のまま{西}を手放す。

逆に言えば彼女にとってそれ以外の部分、これだけドラが集まっていることは自然なことなのだろう。

彼女が{(ドラ)をツモらない可能性は、灼が2}を切ってラス目の一がわざわざ面前を崩してそれをチーするという有り得ない展開の時のみ。

そして当然ながらそんな展開は起きず、玄は手にした3枚目の{(ドラ)}を笑顔で手牌に加えるのだった。

秀介はげんなりとしながら山の方にも視線を向ける。

 

(・・・・・・裏ドラは{白、カンドラは③、カン}裏{は中}・・・・・・。

 {中は既に国広さんの手牌にあるが、白}は王牌と山の奥の方に固まってる。

 {③}も誰も所持していないし、ツモられるのは中盤以降・・・・・・。

 ・・・・・・というかそもそもカンが出来そうな人は・・・・・・)

 

ポリポリと頭をかきながら小さくため息をついた。

 

(・・・・・・支配力高すぎだろう)

 

 

そして各々手を進めて行って5巡目。

 

玄手牌

 

{(ドラ)二二三五六(横[五])[⑤]⑦⑨4[5]68}

 

赤ドラ追加、これでドラ6である。

タンヤオドラ6はほぼ確定、三色が追加されれば倍満だ。

この様子ならやられっぱなしでも上がり一回だけで逆転できる。

むしろここまで点差が拮抗しているのを見ると、玄は一度上がった後に他のメンバーに削られて現在の状況になったのではないかと思われる。

着々と上がりへと近づいていく玄。

だがこの局はそう簡単には上がれなさそうだ。

 

智紀手牌

 

{四五六⑤⑦⑧⑨2237(横4)79}

 

現在トップの智紀は平和のみでも上がれば勝利。

玄がドラ6になった次巡で既にこの形、勝利は目前に見える。

ただしその場合最下位が一になる。

龍門渕として――学校としても透華(あのお嬢様)としても――それは少し不満の残るところではないだろうか。

おそらく一としてもここで上がりを取って智紀とワンツーフィニッシュと行きたいところだろう。

一の手牌はこの形。

 

{三五六七八⑦3346中中中}

 

ドラも赤も玄が押さえて使えない以上精々リーヅモ中の3翻30符で1000・2000止まり。

ふむ、と秀介は顎をさする。

 

(・・・・・・親のドラっ娘との点差は7700。

 ペンチャン、カンチャン、単騎の悪待ちで2符をつけるか、暗刻を一つ増やして同じく符を増やすか、一発ツモで4翻にしなければ逆転できない。

 仮に直撃してもツモが消えるのでリーチ中で2600止まり、一発で当たらない限り逆転できない)

 

さて、それではどうするのかなと秀介は一に視線を向ける。

一はそれに気付いているのかいないのか、ただ秀介の方は見ずに牌をツモる。

 

一手牌

 

{三五六七八⑦(横九)3346中中中}

 

{三を切れば萬子は四-七}の両面待ちで、筒子、索子は中張牌の受け入れを待つ形。

赤ツモにも対応できるし本来はそうしたいところ。

だが赤は玄が抑えているし、両面待ちにした場合符が足りずに逆転できない。

ここは{⑦}を切ってカンチャン、単騎待ちになるのを期待するしかないか。

一応{6}を切って萬子を一通まで伸ばす手もあるが、ツモが上手くかみ合わなければ玄か智紀が上がってしまうだろう。

 

この先のツモが見えている秀介には正解の打ち筋が分かっている。

だが当然ながら秀介が一を助けるつもりは無い。

ただ見守るのみだ。

 

(衣のチームメイトを名乗るなら、これくらいはやってもらわないとな)

 

そして一は{⑦}を切り出す。

続いて先程から秀介がげんなりしているドラ娘、玄の手番である。

 

玄手牌

 

{(ドラ)二二三五(横三)[五]六[⑤]⑦⑨4[5]6}

 

玄は{⑨}を取り出して切った。

これでタンヤオ確定聴牌間近だ。

続いて秀介を目の敵にしている智紀。

 

智紀手牌

 

{四五六⑤⑦⑧⑨234(横3)779}

 

前巡{2を切ってしまったのでこの234}周辺でもう一面子作るのは厳しいか。

それでもツモればいいという考えで{3を残し、9を切って頭を確定したり⑤を切ったり}と打ち様はある。

智紀は暫し考えた後、{3}をツモ切りした。

灼の手番を経て一。

 

一手牌

 

{三五六七八九3346(横4)中中中}

 

このツモで{3344}のシャボ待ち、すなわち上がり形で暗刻が一つ増やせる可能性が出てきた。

そうなると一がここで切るのは{三か6}。

一も一度{三}に手をかけた。

が。

 

(・・・・・・ともきーの捨て牌に{3}が一つ・・・・・・)

 

一は今しがた智紀が捨てた{3}に焦点を合わせる。

仮にシャボ待ちでリーチをかけても待ち牌の残りは{3}が1枚と{4}が2枚。

ましてや真ん中寄りの中張牌は誰かの手に1枚や2枚抱えられていてもおかしくない。

現実的に山に2枚残っているかどうか。

 

(・・・・・・前巡にともきーが{2を捨てた後に3}をツモ切り・・・・・・。

 {2234の面子から2を切った後に3}をツモっちゃって、不要だからツモ切りしたっていう可能性はあるよね・・・・・・。

 ・・・・・・なら、やっぱりこれじゃダメだ。

 どこかのカンチャン待ちにしないと)

 

せっかくツモった{4}だが、一はツモ切りした。

実際智紀の手牌に{234}の面子がある。

さらに玄の手牌に{4[5]6の面子があるので、もしも3と4}のシャボ待ちにしていたらロン上がり以外不可能になっていたわけだ。

なんとか危機は回避した一。

そして数巡後。

 

一手牌

 

{三五六七八九3346(横5)中中中}

 

一の手に聴牌が訪れる。

{三}を切ってリーチしたいところだが逆転の符を稼ぐためにカンチャンでリーチをかけなければならない。

 

「リーチ!」

 

{九を切り、カンチャン四}待ちにする。

それを見て秀介はフッと笑った。

 

(まぁ、そうでなきゃな)

 

{四}は智紀の手牌に1枚あるのみ。

嶺上牌にも1枚眠っているが残りはまだ山の中だ。

後はこのまま鳴きが入らなければ。

 

(・・・・・・さて、そんな非常識な鳴きが出来るメンバーはいるかな?)

 

秀介は楽しげに玄と灼の様子をうかがう。

ちなみに智紀はその手の鳴きが出来る人物だと秀介は評価しているが、この状況で一の流れを崩すような鳴きはしないだろう。

 

このまま一が上がればトップにはなれないが挑戦者二人を抑えて龍門渕のワンツーフィニッシュ。

もし玄か灼がその上がりを崩す鳴きを入れられる面子ならば、これから戦うであろう秀介としてはいい収穫と期待になる。

傍観者としてはどちらであっても損は無い。

 

そしてそれから3巡、一の手牌に上がり牌が舞い込むまで鳴きは入らなかった。

 

「ツモ!」

 

ダンッと少し強めに牌が叩きつけられる。

 

{三五六七八33456中中中} {(ツモ)}

 

「リーヅモ中、3翻40符で1300・2600!」

 

事前の計算通り、ギリギリだがこれで逆転だ。

 

 

 

智紀 30300

灼  21200

一  24300

玄  24200

 

 

「・・・・・・ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございましたー」

 

一同は挨拶を交わして席を立つ。

見事逆転を成し遂げてほっと一息ついた一は「ともきーの捨て牌に助けられたよ」と感謝しており、感謝された智紀はそれを狙っていたのかは不明だが「・・・・・・助けになったのなら何より」と返していた。

 

「あーん、逆転されちゃったよー」

「あの状況で逆転の手を作ったのは凄いとおも・・・。

 私たちも見習うべき」

「そうだね、同学年だもん、負けられないなぁ」

 

一方玄と灼も終わった直後こそ少し落ち込んでいたようだったが、既に立ち直っているようだ。

わざわざ遠征してきた事だし、これくらいでいつまでも沈んでいるようなメンタルはしていないのだろう。

なるほど、自分が声を掛けられただけはありそうだなと思いながら、秀介は彼女達を見ていた。

と、灼達もそれに気付いたのかこちらに向かってくる。

挨拶は終わったらでいいと言ったから挨拶に来るのだろう。

そう思って秀介も彼女たちの方に歩み寄った。

 

「志野崎さん」

 

そして挨拶を交わそうとした刹那、透華に呼び止められた。

このタイミングで声を掛けてきたということは挨拶の前に何か用事があるということだろうか?

一先ず世話になっている身として透華の方を優先する。

 

「どうかしましたか?」

「せっかくですから皆さんにまとめて挨拶をされた方がよろしいかと思いまして」

「ああ、なるほど」

 

一人一人個別に挨拶するよりも、確かにそちらの方がいいかもしれない。

阿知賀の一同もそれに従い横一列に集まる。

秀介もそれに向かい合った。

それを確認して、透華が秀介の方にスッと手を差し出す。

 

「では志野崎さん、ご挨拶を」

「・・・・・・ついでに何か面白い一言を」

「・・・・・・一発ギャグ」

「期待してるぜ、志野崎先輩」

 

ついでに一と智紀と純も言葉を続ける。

 

「何だそれ、やんなきゃダメなの?」

「ダメです」

「・・・・・・当然」

「やってくれるよな!」

 

ぐっと親指を立てながら追撃してきた。

透華の方に視線を送るがプイッとそっぽを向くのみ、助けてくれる気配はない。

 

(・・・・・・仕方ないな、この手は使いたくなかったが・・・・・・)

 

秀介は少しばかりため息をついた後、声を上げた。

 

「衣お姉さん、みんながいじめるんだが助けてくれないか?」

「何!? 衣おねえさんに助けを求めたか!? しゅーすけ!」

 

秀介の言葉に衣はシュババッと現れ、秀介と龍門渕メンバーの間に立ちはだかった。

 

「安心しろしゅーすけ、いつも衣と麻雀を打ってくれるお前の頼みとあらばいつでも助けに馳せ参じようぞ。

 任せておくがいい、この衣()()()()()に。

 この衣()()()()()に!」

「初めまして、ご紹介に預かりました志野崎秀介です。

 本日は一日よろしくお願いいたします」

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

 

こうして秀介は衣が龍門渕一同をせき止めている間に挨拶を済ませたのだった。

 

「面白い一言が無かったみたいですが」

「・・・・・・一発ギャグ」

「期待してたのになー」

「お前ら後で覚えてろよ」

「こらー! しゅーすけをいじめるなー!」

 

 

挨拶を終えたところで休憩がてら、秀介とハギヨシが用意したケーキが振舞われた。

それぞれ別の種類、まずはお客様の阿知賀メンバーが選び、その後龍門渕メンバーと秀介が順番に選んだ。

紅茶を飲みながらケーキを食べ、一先ずのんびりしてから麻雀をということで話はまとまり、自己紹介を交えながら各々くつろいでいた。

のだが。

 

(憧、志野崎さんってずいぶん龍門渕さん達と仲がいいんだね)

(・・・・・・そうね、こんな場にわざわざ呼ばれるくらいだし)

 

何やら穏乃が憧に話しかけていた。

 

(日頃からよく一緒に麻雀打ってるんだろうね!)

(え、うん、そうでしょうね)

(あー、どんな麻雀打つんだろう?

 楽しみだなー、早く打ちたいよ!)

(とりあえずケーキ食べてからでしょ、静かにしてなさいよ)

「あーもう待てない! 早く麻雀打ちましょう!」

「静かにしてなさいって言ったでしょ!?」

 

ガターンと席から立ち上がってわめく穏乃を取り押さえる憧。

なお穏乃は既にケーキを完食した模様、紅茶も空である。

その様子に秀介は、はっはっはっと笑いながら答えた。

 

「そうだな、待ち切れない様子だしいいよ。

 麻雀しながらでもケーキは食べられるし」

「やったー! じゃあさっそく打ちましょう!

 憧! 一緒に打とう?」

「巻き込まれた!?」

 

ゆっくりケーキ食べたかったのに、と愚痴りながらも穏乃の誘いを断らない憧。

なんだかんだで穏乃に弱いのだ。

 

「それじゃあ、あと一人・・・・・・」

 

穏乃が一同を見回す中、秀介が声を上げた。

 

「一応阿知賀さんとの練習試合ってことだから阿知賀さんから選んだ方がいいだろ?」

 

そして先程試合をしていた玄の方へと歩み寄る。

 

「さっきの試合、一局だけだし手牌は見れなくて打ち方がよく分からなかったから、よかったら一緒に打ってもらえないかな?」

「ふぇ!? べ、別に構いませんけど・・・・・・」

 

普段から男子との接点が無い中で唐突に紳士的なお誘い、思わず玄は頷いていた。

こうして秀介と打つ阿知賀のメンバーが決まった。

 

秀介は卓に近づくと山の一つを器用に崩さずくるっと返し、{東南西北}を抜き出すと裏返してガシャッと混ぜた。

 

「さぁ、引いてくれ」

 

それに従い穏乃は真っ先に{南}を引き当て、続いて憧が{北}、玄が{西}をそれぞれ引く。

残った{東}が秀介だ。

 

「賽を振るかい?

 それとも俺がこのまま親をやるかい?」

「しゅーすけ! そのまま親で圧倒的力を見せてほしいのだ!」

 

秀介の言葉に答えたのは阿知賀メンバーではなく衣だった。

そうか、と秀介は頷く。

 

「圧倒的力か。

 うん、まぁ、楽しんで貰えるよう善処はするよ」

 

そう答えて席に着いた。

それに従い、阿知賀メンバーもそれぞれの席に着く。

 

「志野崎さん!」

「ん?」

 

不意に穏乃に声を掛けられ、秀介はそちらを向いた。

 

「和は・・・・・・強いですか?」

「おや、原村さんの知り合いかい?」

「はい。

 私も、向かいの憧も、下家の玄さんも、赤土先生も」

 

一人ならまだしもこれだけたくさんいるとは。

 

(原村さんは昔彼女達の地元に住んでたことがあるのかな?)

 

秀介はどちらかといえば和に目の敵にされている、故にそのような雑談はしたことが無かったので新たな一面が知れたなと小さく喜んだ。

 

「私たち皆で・・・・・・全国で和と遊ぶんです!」

 

ぐっと気合を表すように拳を握る穏乃。

苦笑いを浮かべたりため息をついたりする阿知賀メンバーとは対照的に秀介は、へぇ・・・と眉を吊り上げていた。

 

麻雀を楽しみ、想いの限りをぶつけようという心意気。

彼女もまた、「牌に愛された子」なのだろう。

 

その輝きをなんだか眩しく思いながら、秀介はふと衣に声を掛けた。

 

「衣、この子は強いか?」

 

突然声を掛けられてキョトンとしたが、衣はすぐに笑顔で返事をした。

 

「ああ、しずのは強いぞ!

 衣の海底を目の当たりにしても微塵も怯えを見せぬ勇気を見せてくれたしな!」

「そうか」

 

衣の言葉に何かを思いついたのか、トントンと何度か机を指で叩きながら考えている様子の秀介。

そしてやがて、小さく頷いた。

 

「・・・・・・分かった、圧倒的力を見せるとしようか」

 

真剣な表情でそう言う秀介に憧と玄は警戒を高めた様子。

 

だが穏乃と衣は、期待にあふれた笑みを浮かべた。

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

そうして期待に満ちたその半荘は、

 

 

「あ・・・・・・えっと、ロンです・・・・・・志野崎さん」

 

 

{四[五]六九④[⑤]⑥(ドラ)114[5]6} {(ロン)}

 

 

「三色ドラ6、16000です」

 

 

「・・・・・・しゅー、すけ・・・・・・?」

 

 

東一局倍満直撃、波乱の幕開けとなった。

 

 

 

秀介  9000

穏乃 25000

玄  41000

憧  25000

 

 




のよー「裸単騎なのよー!」
ネキ「十三面待ちやから!」
でこ「オープンリーチですから!」

特技盲牌の人の罰ゲームまだー?
それにしてもアニメの影響か少しずつ咲小説が増えてきて嬉し・・・・・・はっ! 秀介の身に一体何がー!?(

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