咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
感想では特に突っ込みがありませんでしたが、Aが未来でBが過去って逆でもよくね?と思った方がいらっしゃるかも知れません。
「A story」がAfter、となれば「B story」も予想がつくでしょう。
35天江衣その3 作業と恐怖
(・・・・・・シュウ・・・・・・まさかと思うけど・・・・・・あんた・・・・・・)
久は不安げに秀介に視線を向ける。
(あんたまさかこんな場で・・・・・・ただの合宿なんて場で・・・・・・)
その不安は美穂子に対し秀介が本気を見せようとしていた時にも感じたもの。
(・・・・・・命をかけるつもりじゃないでしょうね・・・・・・?)
今の秀介はいつものように100点棒を口に銜えて、何やら楽しそうに山を見ているだけ。
とても命を掛けるような場ではないし、秀介自身からもそんな事をしているようには見えない。
久としても秀介がそんな事をする心当たりは無い。
それでも付き合いが長い久だからこそ、今の秀介がいつも通りでは無いと感じてしまう。
(・・・・・・もし本当に無茶をするつもりがあるんだとしたら・・・・・・)
久は一人、いつも以上に秀介に意識を向ける。
もちろんせっかく一緒に打つ機会が訪れたわけだし、それが台無しにならないように麻雀にも集中しなければならないが。
(絶対に止めさせないと!)
山が出来上がり、賽が回される。
賽の目は5、親の秀介自身の山からの取り出しだ。
東三局1本場 親・秀介 ドラ{白}
秀介の点数は119100、衣の点数は138600。
最初の東二局までの上がりで点差は逆転されているがその差は2万も無い。
ツモ狙いでも十分逆転の余地はある。
配牌を取っていく。
2トン4牌のブロックを受け取る事3回、秀介は手早く理牌を済ませる。
配牌
{二二⑤⑨⑨33688南西}
「・・・・・・」
あちこちに視線を移す。
ドラ表示牌は{中、ドラの白}はまだ誰の手にも無い、全て山の中だ。
配牌はまだ
(・・・・・・そして裏ドラ表示牌が{7})
七対子狙いならリーヅモ七対子裏2で跳満が余裕。
1本場を考慮しなくても6000オールならツモでも衣を逆転。
無理にロンを狙う必要も無い。
だが残りの二人、ゆみは73000で久は68000。
ツモを続けて行けば衣より先に二人、特に久をトバす可能性が高い。
残りの二牌は{三と中}。
有効牌と入れ替えてとっとと上がりを目指してもいいのだが、配牌が良すぎるのも考え物。
それにロン上がりに狙いを定めるなら、多少捨て牌が多くて「これが通りそう」と考える判断材料があった方がいい。
字牌連打の3巡でリーチをかけるよりは、捨て牌7つを萬子一色に固めて萬子待ちリーチにした方がロン上がりが期待できそうなのは分かるだろう。
もちろん、だからこそ逆に萬子が怪しいと読む者もいるだろうが、その辺りの心理戦はお手の物だ。
そんなわけで彼は残りの配牌を普通に受け取る。
{二
さて、他のメンバーの配牌に目を向ける。
久配牌
{一二三七九③⑥⑥⑥79發中}
ゆみ配牌
{[五]①②②④⑥⑧⑨1[5]6南北}
衣配牌
{三六八③④⑤⑦356689}
誰もみな配牌は悪くない。
だがそれがそのまま上がりやすさに繋がるかというとそうではない。
一見速そうに見える久だが、そのツモは{五3西2四東}・・・・・・。
このままでは配牌と噛み合っていない。
ゆみのツモは{⑦四1白發八}・・・・・・こちらも噛み合っていない。
一方の衣。
この配牌にツモが{4四5五84}。
鳴きが入らなければ6巡でタンピン三色ツモ上がりだ。
ゆみはおそらく一通狙い。
久はどう打つだろうか?
手成りで打っても高くなる気配は無い。
チャンタを狙うなら{⑥}暗刻が邪魔、第一ツモの{五}を混ぜ込んでこちらも一通を狙うだろうか。
まぁ、いずれにしろ秀介達の読みの裏を行こうと悪待ちを選択しそうだ。
そしてそうなると二人に鳴かせて衣のツモをずらすのは難しい。
だがこちらは対子4つの七対子狙い。
有効ツモを引けば3巡で聴牌だ。
後は不要牌を狙い打つように待ち牌を変えればそれでよし。
彼にとって実に簡単な
第一打は{三}。
不要牌であり狙い打てる牌でもない、それでいて見る者の混乱を誘う第一打。
そして久。
{一二三七九③⑥
どうするかと暫し悩み、そして秀介をちらりと見た。
同じく様子見をしていた秀介と目が合う。
さて、どうするのかな?と見ていると久は{③}に手を掛けた。
秀介の打ち方に乗ったわ!と言いたげな笑顔で、彼女はそれを手放す。
(ほぅ・・・・・・これはこれは)
真っ先に役牌を手放してもおかしくなさそうだったのに。
実に乗りがいい幼馴染だ。
秀介も笑い返してやった。
続いてゆみ。
{[五]①②②④⑥⑧
一通の有効牌。
この乗りなら思い切って{[五]}なんか切ってきたりするのだろうか。
ゆみは二人の捨て牌と自分の手牌を見て、ふむと一息つく。
そして、{1}を切り出した。
実に堅実だ。
{三六八③④⑤⑦
最後に衣も二人の打ち方に乗ったりはせず{9}切り。
(・・・・・・ふむ・・・・・・)
これはもしや悪乗りだとかふざけているだとか思われているのだろうか。
心外な、と秀介は山に手を伸ばす。
(最善手を打っているんだがな)
そして秀介は、本来のツモである{發を[⑤]}と
{二二⑤⑨⑨33
{[⑤]}が入った事により、ロン上がりでもリーチ七対子裏2赤1で跳満。
既に衣とゆみと自分の手牌で4枚在り処が知られている{6}を切り捨てる。
次巡、{南をツモって中切り、西}待ち聴牌だ。
ここでリーチをかけて衣のツモ牌を{西}に変えて振り込ませるのもありなのだが、ここではまだリーチをかけない。
(おそらく・・・・・・警戒される)
そして同巡の衣。
{三四六③④⑤⑦
タンピン三色に向けて前進中。
{六}を切り出す。
気になるのは秀介だ、チラッと視線を向ける。
(・・・・・・4800、既に張っているな・・・・・・)
3900では安い、5800では高い気配。
その間に該当するのは2翻50符の4800のみ。
リーチをかけないのは、手が安いので待ち変えを狙っているからだろうか。
いや、思い返してみれば秀介は面前手でもリーチをかけない事の方が多い。
衣が知っている限りでは美穂子を狙い撃ちし始めた試合で4回。
一度目は失敗、二度目は清一を装った七対子、そしてその後透華を狙い打った時の河底と、美穂子を飛ばした手くらいだ。
もっとも河底時のリーチは無効だったが。
先程の局では衣が狙われた。
余り牌が零れる事を見越しての鳴き三色。
(・・・・・・今回も衣を狙っていて、その為に有効そうな牌を待っているのか?)
そう思っている目の前で、タンと秀介の捨て牌が横向きになる。
「リーチだ」
秀介捨牌
{三6中} {
同時にその手から感じる気配がぐっと強くなる。
(・・・・・・18000!)
先程まで4800の手がリーチをかけて跳満とは。
考えられるのは単純に裏ドラだ。
嶺上開花とそれ絡みの手の変化を衣が感知できないのは県大会決勝、咲との対局で確認済み。
咲は全く手に絡まないが、おそらく開いていない状態のカンドラ、カン裏も感知できないと思われる。
(・・・・・・風越の先鋒を狙った時のインパクトのせいか?
しゅーすけの手は七対子の気がする・・・・・・。
となれば元々の4800は2翻50符ではなく3翻25符の七対子か?
七対子は2翻で当然ながら手牌は全て対子、ドラが1個だけ乗るなんてありえない。
あり得るのは赤1だけ。
七対子赤1の3翻25符4800がリーチをかけて裏ドラ2丁18000)
計算上ぴったりだ。
秀介の手はリーチ七対子裏2赤1。
(・・・・・・狙いは衣か?)
面と向かって本気で戦って欲しいと言い、それに正面から答えてくれた秀介。
今回もその延長で衣を狙っているのだろうか?
(・・・・・・嬉しい!)
だが同時に。
(そうたやすく打ちとれると思うでないぞ、しゅーすけ)
同巡、衣。
{三四③④⑤⑦
タンピン三色に向けてまたも有効牌ツモ。
何を切るかと少し考える。
候補としては{⑦68}。
(・・・・・・順当に考えれば{⑦}だろう。
牌の寄り方を考えれば次巡辺りで頭が確定して平和手で聴牌できるはず)
次巡{⑥⑦⑧}を引いてきて聴牌する可能性と、{4678}を引いてきて聴牌する可能性。
それを考えれば索子に手を付けるよりも{⑦}切りで行くべきだ。
なのだが。
(・・・・・・しゅーすけの捨て牌、筒子が1枚も無い。
あからさまに筒子を捨てずに筒子待ちというよりも、その可能性を考えさせて別のところで待つと思うのだが・・・・・・)
その前に1巡回したというのが気になる。
おそらく衣を狙い打つのに最適な牌を待っていたのだろう。
({⑦}・・・・・・ありえるか?)
一先ず{6}という現物もある。
だが{6}は現状頭になる最有力候補だ。
これを切ると新たに頭になりそうな牌を引いてこなければならない。
それでも。
(・・・・・・一度引いて機を待つ)
衣は{6}を捨てた。
秀介のツモは{2}、そのまま切った。
続いて久。
{一二三五七九⑥
{
手が進まないわー、と頭の中で愚痴りながらドラ表示牌の{中}を切り出す。
ゆみは不要牌の{發}をそのままツモ切った。
そして再び衣の手番。
{三四五③④⑤⑦
(聴牌!)
{⑦を切って4-7}待ちだ。
秀介に目を向ける。
(この{⑦}・・・・・・危険かもしれない)
これで振り込む可能性もある。
捨て牌を読んだそのまま、筒子の多面張だったならば。
けれども。
(・・・・・・ここは押すところだ!)
本気になってくれた秀介の前で、この巡目にこれだけの手を張れたのだ。
ここは押す。
仮にこれで振り込んだとしても、流れのままに打ったのならば手はくるはず。
全力で迎え撃つのだ! しゅーすけを!
「リーチだ!」
パシッと{⑦}を横向きに捨てた。
(衣は負けないぞ、しゅーすけ!)
カシャッと点箱を開き、千点棒を取り出す。
「・・・・・・ああ、
それを見て、秀介は口を開いた。
「リー棒は不要だ、ロン」
{二二⑤[⑤]⑦⑨⑨3388南南} {
「リーチ七対子赤」
そして自ら目の前の裏ドラを晒す。
確認していた通り、現れたのは{7}。
「裏2、18000の1本付け」
この上がりで衣は120300、秀介は137400、すなわち再逆転だ。
さすがに跳満に振り込むのは大きかったか。
だが衣は攻めた事を後悔したりはしない。
振り込めば悔しい、上がれば嬉しい。
それが麻雀なのだから。
例えこの振り込みが、秀介の掌の上だったとしても。
東三局2本場 親・秀介 ドラ{南}
そしてそんな思いが実らせたのか、それともチャンス手を潰されてきた衣に対する最後のチャンスなのか。
衣 120300
配牌
{一七②⑦⑧17北白白發發中}
大物手を予感させる配牌が舞い込んでいた。
(この手、できればしゅーすけに直撃させたいが・・・・・・さすがに難しいか)
今まで見て来た打ち方、そしてこうして直接戦ってみて感じた事。
それらを総合すれば、自分よりも秀介の方が実力が上なのかもしれないという想定も出来てしまう。
(だがまだ、衣は諦めないぞ)
そういう想定も含めて、攻める事を止めはしない。
衣に守りの麻雀は似合わない。
それは龍門渕に限らず、この場にいるあらゆるメンバーがそう思う事だろう。
衣自身もそう思っている。
だからこそ攻める。
それが自分の麻雀だから。
(衣が衣の麻雀を打っているからこそ、しゅーすけと麻雀を通じて分かり合う事が出来るはずだ!)
秀介の第一打は{西}。
さぁ、この局の行方はどうなるか。
久の{①、ゆみの西}切りを経て衣のツモ番。
{一七②⑦⑧17
大三元になるかは別として、一先ず手は進む。
衣は{北}を切り捨てた。
次巡、親の秀介は手牌から{東}を切り出す。
ダブ東は不要という事だろうか。
直後、久とゆみも手から{東}を合わせ打ち。
なるほど、それを察しての事か。
そして衣のツモ。
{一七七②⑦⑧1
その手はまた一歩進んだ。
(・・・・・・天江衣は大三元・・・・・・)
{一}を切り出す衣の手牌を見ながら、秀介は己の手牌に手を添える。
(その手は成就させない)
「チー」
カシャンと牌を晒して{7}を切り出した。
({横一二三}の鳴き・・・・・・)
これは大きい。
例え秀介が本来とは別の手に意識を振って狙い打ちを試みているとしても、鳴きが入ったというのは大きい。
{横一二三}で鳴きが入った以上他の色の混一やタンヤオは絶対にあり得ないのだから。
しかしそれならそれでやり様はある。
例えば智紀は二回戦で{横⑨⑦⑧}の鳴きを入れた後に、2の三色同刻三暗刻の上がりを披露して見せた。
秀介自身も678に意識を振って567の三色で打ち取っていた。
同じようにフェイクを入れる可能性はある。
(そこは注意が必要だな)
タンと対面の久が切り出したのは{發}。
「ポン」
遠慮なく鳴いた。
(さぁ、しゅーすけ)
{②}を切り出して衣は笑いかける。
(衣は引かないぞ)
この大三元で勝負を掛ける!
秀介は手牌から{7}を切り出す。
対子落としだったようだ。
久とゆみの手牌がどうなっているかは分からないが、二人は揃って手出しの{九}。
手は進んでいると思っておいた方がいいだろう。
衣のツモ番。
{七七⑦⑧1
不要牌ツモ、そのまま切り捨てる。
続く秀介は手牌から{五}切り、こちらも手は進んだだろう。
だがまだ聴牌気配はない。
今のうちに少しでも手は進めておきたい。
そして2巡後。
再び衣の手が進む、高い方に。
{七七⑦⑧1
大三元にしろ小三元にしろ一向聴だ。
仮に秀介から直撃を狙うのが難しいとしても、秀介が親番の今ならツモでも十分削れる。
(もうじきだぞ、しゅーすけ)
必ずこの局で仕留める、それくらいに強い意志を持って{1}を切り出す。
そして、それをさせてこなかったからこそ秀介は強いのだ。
「チー」
再び鳴きが入る。
そして{⑤}が切り出されると同時にその手に聴牌の気配を感じた。
(また先を越されたか・・・・・・)
だがそれは今に始まった事では無い。
今度こそ追いつく!と衣は秀介の捨て牌に目を向ける。
秀介捨牌
{西東77五⑥二} {⑤}
秀介手牌
{■■■■■■■} {横123横一二三}
純チャンかチャンタの三色。
だがその手から感じる気配は。
(・・・・・・11600・・・・・・か?)
満貫の12000にはギリギリ届いていない気配だ。
11600となれば該当するのは三翻60符と四翻30符。
だが暗カン無しの手で60符はありえないだろう。
完全に四翻30符で考えてみる。
ドラは{南}、鳴きの入った純チャン三色では他に役もドラも当然赤も絡められないし四翻には届かない。
あり得そうなのはチャンタ三色ドラドラ辺り。
{九九九①③
暗刻、三元牌対子、単騎、カンチャン、ペンチャン待ちで符が加わって繰り上げ30符。
{七八九②③
もしくは鳴き平和の形で30符だ。
その際は平和形なので両面待ち、つまり不確定チャンタの形という事だ。
三色が完成していてもチャンタが無ければ三色ドラドラで3900。
三色が未完成なら安目では上がれないという事になる。
他にも役牌ドラ3なんて可能性もあるにはあるが・・・・・・。
ちらっと全員捨て牌に目を向ける。
秀介
{西東77五⑥二⑤}
久
{①東九八9四⑦}
ゆみ
{西東九③93} {1}
衣
{北②四五北}
({東}は捨て牌で3枚見えているし、しゅーすけ自身が切っている)
同巡、衣のツモ番。
{七七⑦⑧
(衣の手には{白暗刻、發明刻、中対子}。
しゅーすけの手に役牌が入っている事はあり得ない)
そうなればまず何より注意するべきは。
({七八九①②③⑦⑧⑨789}の辺りだな)
他の字牌単騎待ちという可能性もあるが、現在衣の手牌には不要な字牌は無いので一先ず無視する。
チャンタ系の上がり牌を警戒するとこれだけ抑えなければならないのが厄介だ。
逆にいえばこれだけ抑えておけばもう他には無い、無いはず・・・・・・だ。
(・・・・・・いや・・・・・・)
それでも秀介なら、あっさりと衣の予想を超える手でロン上がりを狙っているのかもしれない。
かもしれないのだが・・・・・・。
(・・・・・・今回のしゅーすけは2面子も晒している。
他の役に意識を振るには晒し過ぎだ)
ここから他の手で上がるだなんて。
衣はツモってきた{四}をそのまま切り捨てた。
フッと秀介の笑い声が聞こえた。
いや、まさかそんな事が・・・・・・。
「ロン」
上がられた、今度はどんな手で?
「上がれる方だ」
そう言って秀介は手牌を倒し始める。
(あ、上がれる方って・・・・・・!?)
そんなまさか!
チャンタにしろ三色にしろ{四}で上がれるわけがない!
そもそも既に{一二三}は晒しているのに!
上がれるわけがない!
ましてや「上がれる方」なわけがない!
片上がりの「上がれない方」なら分かるのに!
パタン、と最後の一枚まで手牌が倒された。
{[五]六七八九
「一通ドラドラ赤、11600の2本付け」
「い、一通・・・・・・!?」
チャンタでも三色でもない、鳴き一通!
おまけにチャンタでは絶対に使えないと思っていた赤が加わって四翻。
今までの秀介なら{[五]}を切っていてもおかしくないが、チャンタを意識させた手の進行で{[五]}切りはあからさまで逆に注目を集めていただろう。
だからこそ逆に赤では無い{五}を切ることで意識から逃れていたのだ。
再び上がられた、振り込んでしまった、予想外の手に。
フッと笑いかけてくる秀介。
その笑みを見ても本気の秀介と打てる事を楽しんでいた衣だったが、その感情はいつしか反転していたようだった。
東三局3本場 親・秀介 ドラ{中}
7巡目。
「リーチだ」
秀介の捨て牌が横向きになる。
衣 108100
手牌
{三八八八⑥⑥⑥
同巡、衣も聴牌。
だが役無し。
先程上がりを逃したことでさすがに流れが悪くなったか。
秀介の捨て牌に視線を移す。
秀介捨牌
{南⑨發七五四} {
索子が一枚も切られていない事以外は普通に手を進めて行ったように見える。
{④⑨}切って見え見えの間四ケンで待っているのか、それとも萬子待ちか、はたまた見た通り索子の混一、清一か。
(・・・・・・くっ・・・・・・)
衣の表情が歪む。
秀介の手から感じる気配は18000、跳満手だ。
だがそれがどういう手格好なのかが全く分からない。
清一、リーチ役牌混一、三暗刻ドラ、はたまたリーチとドラたくさん。
何を切ればいいのかと、衣の手が止まる。
手成りで{9}?
清一、混一に危ない。
そもそも役無しは勝負できる手では無い。
恐る恐るという仕草で衣は{⑨}を切る。
現物の安牌切り。
(違う! しゅーすけと勝負できそうな三暗刻まで手を伸ばす為だ!)
自らの弱気を打ち消すように衣は首を振り、秀介に視線を向ける。
やはり秀介はフッと笑った。
だが衣は笑い返せない。
何なのだこれは。
(衣は・・・・・・しゅーすけに本気の麻雀を打って欲しいと思っていたはずなのに・・・・・・)
次巡、秀介がツモ切ったのは{5}。
(索子は平気、なのか・・・・・・?)
とも限らない。
散々見て来た事ではないか。
{5を切って6-9}待ちなんて如何にもあり得る。
同巡、衣がツモったのは{四}。
これも安牌だ、安心して切れる。
次巡のツモは{②}、久が秀介のリーチ後に切った、安牌。
次巡のツモは{發}、ゆみが鳴いている、安牌。
次巡のツモは{中}、リーチ後に秀介自身が切った、安牌。
次巡のツモは{1}、今しがたゆみが切った、安牌。
ひたすらに安牌が並び、気づけば6巡が過ぎていた。
秀介捨牌
{南⑨發七五四
一体何待ち?
何を狙っている?
衣に限らずゆみも久も同様に考える。
(安牌は増えるばかりだが・・・・・・ここまでくると悪待ちか上がり牌の数が少ないのか・・・・・・?)
(・・・・・・シュウがここまで上がれないなんて珍しいわね。
どんな待ちなのかしら?)
もっとも先程まで狙われていた衣に比べれば恐怖心は無いわけだが。
それでも。
(・・・・・・不安は不安だな、志野崎秀介・・・・・・)
どこで待っているのだ?
ゆみも頭を悩ませながら牌を切っていく。
そしてリーチから7巡目。
「・・・・・・ツモだ」
ようやく秀介の手牌が明かされた。
{二三四五六七八九45677} {
「リーヅモ平和一通、裏1で6000オールの3本付け」
「なっ!?」
衣がガタッと席から立ち上がる。
衣に限らない。
ゆみも、秀介の手牌が見えていなかったメンバーは全員が驚く。
久もさすがに表情を変えていた。
{一-四-七}待ち!
なのに!
(リーチ前に{四も七}も捨てられている!
三面張のダブルフリテンリーチ!?)
ただの平和ツモならもっと早く上がっていただろうに!
わざわざフリテンでリーチをかけた理由は!?
そこまで考えて、衣は椅子に座り直した。
座り直したというか、足の力が抜けて座り込んでしまったというか。
(・・・・・・リーチをかければ衣も他の者も手を回してくると読んだんだ・・・・・・。
だから高めをツモる余裕はあると・・・・・・)
きゅっとスカートの裾を握りながら秀介に視線を向ける。
秀介は100点棒を本当にタバコに見立てているように小さく息をついた。
そしてやはり笑いかけてくる。
衣は思わず視線を伏せてしまった。
東三局4本場、秀介の親は未だに続いていた。
ようやく秀介視点の麻雀が書けました。
ここのところ伏線回収とかに必死だったから、麻雀を書くのが難しく感じる(
追記:指摘されてた点数とそれに伴って衣の思考を変更しました。