咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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ベッドは秀介の愛用品。
ところで原作の久は初登場時どこにいたっけなー?(



12染谷まこその2 恋愛とピンチ

時は流れに流れ、11月である。

 

 

「・・・・・・暇ですねー」

 

まこは部室の麻雀卓にうつ伏せになりながら呟いた。

一方秀介はベッドに仰向けになりながら答えた。

 

「だから麻雀打とうぜって言ったのに」

「いやぁ、また苛められる気がして」

「人聞きの悪い」

 

まこの言葉に秀介は苦笑いをする。

 

現在久は生徒議会中。

先に帰ってもいいと言われているのでまこは秀介を連れて喫茶店で打とうかと思っていたのだが、秀介はここで待つというのだ。

なら一人で帰るのも、とまこも部室に残っているのだがどうにもやることがない。

 

不意に秀介が起き上がった。

 

「ならルールを変えて打つか?

 以前久と打ってた特殊ルール二人麻雀」

「・・・・・・どんなん?」

 

首だけ上げて秀介の方を見るまこ。

 

「聴牌合戦のステージAと相手の待ちを読むステージBに分かれてて、両方に勝たないと点が入らないルール」

「どっちも勝てる気がしないわー」

 

再びカクンとまこは首を倒した。

 

「ならネット麻雀に転がっている「次の一打」論争」

「それだって先輩の独壇場じゃあ・・・・・・」

「なら上級者向け捨て牌読み「反射」の説明でも」

「この間も聞いたけどよう分からんて」

「ならば・・・・・・」

 

スッとベッドから起き上がると秀介はホワイトボードに向かう。

久が用意したものだが滅多に使われる事がなく、何の為に持ち込んだのかがいまいち不明な品だ。

秀介はそれに何やらカリカリと数式を書いていく。

 

「・・・・・・何を書いとるんじゃ? 先輩」

「授業をしてやろう、まこ。

 麻雀牌は全136牌、この内配牌で13×4=52牌が消費される。

 王牌はツモらないが不明な領域なので数に含め、代わりにドラ表示牌のみを除く。

 残った山の内、有効牌が引けるのは大体3回に1度と言われている。

 ツモの順番が4回に1回、さらに有効牌がツモれる確率が3回に1回となると・・・・・・」

「数学の教師かい! 頭パンクするわ!」

 

まこの言葉に秀介はため息をつくと再びベッドに向かい、仰向けに倒れた。

 

「わがままな後輩め」

「自分の身を守る防衛手段じゃ」

 

やれやれ、とそのまましばし沈黙が流れた。

 

 

まこは両手を枕にしながらベッドに寝ている秀介に目をやる。

秀介はベッドの近くの窓から外を眺めているようだ。

目は開いているし眠っている様子は無い。

 

「・・・・・・志野崎先輩」

「何だ?」

 

まこの呼び掛けに秀介はこちらを見ないまま返事をする。

 

「・・・・・・久がいない今だから聞かせて欲しいんじゃ。

 先輩、久の事どう思っとるん?」

「まこ、今日は何点マイナスにしてほしいんだ?」

「いや! もうあれはホンマに勘弁!」

 

秀介の言葉に思わず飛び上がるまこ。

秀介も冗談だったのか特に起き上がる様子は無い。

むー、とまこは身構えるのをやめたが、秀介の方に近寄りながら言葉を続ける。

 

「久が先輩を好きなんは傍目にもよく分かる。

 からかえば反応するしな。

 先輩もそれはわかっとるじゃろ?」

 

これで分かってなかったら鈍感なんてもんじゃない、女の敵じゃ!とまこは言う。

 

「・・・・・・知ってるよ」

 

秀介は寝転がったまま、しかし声色は真面目に答えた。

 

「ほんならなんで何もせんのじゃ?

 あの久の態度から察するに一回くらい告白してきたんじゃないんか?」

 

そこまで言われて、秀介はようやく起き上がった。

 

「・・・・・・答えなきゃダメか?」

 

その表情はあまりに真剣。

普段からかわれている中でも見たことがない表情だ。

聞いておいて思わずまこも黙りかける。

しかしここまで聞いたのだ、せっかくなのでともう少し押してみた。

 

「・・・・・・あのままじゃ久が可哀そうじゃ」

 

そう言って視線を逸らしつつ、しかしチラッと秀介の様子を窺う。

秀介は軽く自分の頭をかくと、小さくため息をついた。

 

「・・・・・・やっぱりそうだよな・・・・・・」

 

秀介はそう言って、一人考え込んでしまったようだ。

 

(・・・・・・これは思ってたよりも深いなぁ。

 そこまでとは思わずに首突っ込んでしもうたか・・・・・・)

 

まこはまこでまた考え込んでしまっている模様。

そうなるとまた沈黙が訪れる。

しかし。

 

(・・・・・・久は先輩が好きじゃし、先輩も満更でない様子・・・・・・)

 

お節介焼きのまこはやはりとことんお節介を焼いてやろうと考えたようだ。

 

「先輩、久の事は嫌いか?」

「・・・・・・いや、そんなことない。

 むしろ女の中では一番好きだ」

 

好きだ、とまで言ったか。

 

「それを本人に言ってやれば解決じゃろうて」

「・・・・・・すまんな、これは俺のわがままだ」

 

過去の、病室での事を思い出しながら秀介はそう言う。

何かあったようじゃの、と思いながらまこは言葉を続ける。

 

「例えばじゃ」

 

ニッと笑ってやった。

そして秀介がいるベッドのそばまでやってくる。

 

「わしが今ここで先輩に告白してせまったとしたら・・・・・・どうする?」

 

笑いながらも言っておいて恥ずかしいのか、まこは少しだけ頬を赤らめながらそう言って秀介の顔を覗き込む。

秀介は何故かベッドのシーツを握った。

 

「とりあえず抑え込んで縛りあげてベッドに転がしておくかな」

「ちょ、そりゃ酷い」

 

苦笑いをしつつ、まこは秀介から離れる。

 

「確かに先輩ならやりかねんな。

 でも・・・・・・久はどうじゃろ?」

「む?」

 

久がどうした?と秀介が顔を上げる。

 

「久がどこかの男に迫られたとして、おんなじようにできると思う?」

 

ふむ、と考えてみる。

あの気性、時々来る物理的な突っ込み、それを考えるとできない事も無かろう。

しかしとどのつまり久も女の子である。

最終的には逆に抑え込まれる立場であろう。

 

 

「先輩だけじゃない、久だって誰かに迫られる可能性はあるんじゃ。

 

 いつまでも答えを保留しとったら久の気持ちが別の誰かに転がるってこともある。

 

 今の先輩みたいに久と仲良く笑って、話して、麻雀打って。

 

 そんな男が先輩以外に久の隣に現れたりしたら・・・・・・どう思う?」

 

 

「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・嫌だな」

 

それほど時間をかけず、秀介はそう返した。

その返事にまこは安心する。

ここで身を引くようなら秀介の気持ちも所詮そこまで。

しかし嫌だと言えるのなら見込み十分だ。

 

「そんならとっとと返事して手元に置いておきんしゃい。

 あんまり久を待たせたらいかん」

 

ニッと笑ってやる。

秀介は「ああ」と小さく頷いた後にフッと笑った。

 

「・・・・・・お前、いい女だな」

「へ? ちょ! 何を!?」

 

突然の言葉に慌てるまこに、秀介は笑った。

 

「親友である久と先輩である俺の間に立って仲を取り持つとか。

 世間一般で言う「いい女」の条件しっかり満たしてるな。

 男子に人気あるんじゃないか?」

 

ああ、そういうこと、とまこは苦笑いを浮かべる。

 

「んなことないわ。

 先輩くらいに仲のいい男子はおりゃせんよ」

「まぁ、俺はいい男だからな」

「言うとれ」

「もし彼氏にするんなら、俺みたいないい男を選べよ」

「先輩はいじわるするから嫌じゃ。

 もっと優しい男がええな」

 

そんな会話をして二人は笑い合った。

 

と。

 

「ん、家から電話じゃ、ちょっと失礼」

 

まこが携帯にかかってきた電話に出る。

少しやり取りをして電話を切ると、その表情は苦笑いに変わっていた。

 

「仕事が忙しいから帰ってこいって」

「そうか」

 

まこは鞄を手に取るとドアに向かう。

秀介はベッドから降りてそれを見送る。

 

「じゃ、久と合流してからここを出るよ。

 店が忙しいんじゃ今日は寄らない方がよさそうだな」

「来てくれれば、時間はかかるかも知れんけどちゃんと接客しますよ。

 ほいじゃ志野崎先輩、またな」

 

手を振ってまこは部室を後にした。

それを見送ると秀介は軽く伸びをして、久を待つべく部室に残る。

その為に一人で時間を潰す為にどうするか。

 

彼は再びベッドに向かった。

 

「・・・・・・寝てるか」

 

選択肢はいつもの通りに。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ちょっと遅くなっちゃったわね」

 

久が生徒会を終えたのは普段より遅く。

 

「・・・・・・シュウ、また寝てるのかしら?」

 

久の頭には秀介が帰ったかもしれないなんて可能性はほとんど無い。

まぁ、まこが入部してからここまで遅くなったことは無いし、もしかしたらまこに気を使って一緒に喫茶店に向かった可能性もあるかもしれないが。

行くだけ行ってみましょうと、久は部室に向かった。

 

そして部室の前に来てドアを開けようとしたその時、不意に携帯が鳴った。

メールのようだ。

何事?と開いてみる。

まこからだ。

 

「麻雀関係で大ピンチじゃ。助けて欲しい。至急喫茶店まで」

 

そう書いてあった。

 

「・・・・・・シュウに頼みなさいよ」

 

そう思いつつメールを見直してみてふと気がつく。

宛先は自分だけ、一斉送信で秀介に送った形跡がない。

麻雀で頼りになる秀介には送らず自分だけに?

と言う事は・・・・・・秀介はすでに喫茶店にいる?

にもかかわらずピンチとは。

 

「この文面から考えると本当にピンチそうだし・・・・・・。

 そんな状況でシュウが手加減するはずもないし・・・・・・。

 ・・・・・・シュウが負けるなんてありえないし・・・・・・」

 

付き合いは長いのだ、それくらいは察する。

 

「・・・・・・とにかく行ってみましょう」

 

久は秀介とまこにメールで「何事?」と一言だけ送り、携帯を仕舞うとそのまま部室から離れた。

 

 

中でまだ秀介が寝ている可能性を考えずに。

 

 

 

結局秀介から返事は無く喫茶店まで到着した。

ドアを開けるといつも通りのチリリンという音が鳴る。

中は一見いつも通り。

 

だが、客が圧倒的に少ない。

 

そんな中、麻雀の音だけが聞こえる。

久はすぐに奥の麻雀卓に向かう。

卓についているまこと何度か見た常連さん、そして60代くらいの男とスーツの男。

そしてまこの後ろ。

 

「・・・っ!」

 

見覚えのある男が一人。

 

 

忘れもしない。

父親から法外な金を奪おうと無理矢理麻雀を打ったあの時。

 

 

秀介の背中に傷を残したあの男!!

 

 

「ロン」

「う、ぐっ!」

 

スーツの男が手牌を倒す。

 

「七対子ドラドラ。

 トビですか」

「・・・・・・あ、ああ・・・・・・」

 

振り込んだのは常連のお客さん。

 

「染谷さんは中々頑張りますねぇ。

 しかし・・・・・・あなたはちょっと」

 

スーツの男はそう言う。

麻雀好きなだけの一般人を相手に何を言っているのか。

 

「まこ」

 

区切りも付いたようだし、と久は声をかける。

まこはすぐに席を立って来た。

 

「スマン、できれば巻き込みたくなかったんじゃが・・・・・・わし一人じゃどうしようも・・・・・・」

「気にしてないわよ。

 それよりどういう状況なのか教えて」

 

こくっと頷くまこは、しかし辺りを見回す。

 

「・・・・・・志野崎先輩は?」

「え? 来てないの?」

 

てっきり一緒に来ていたと思ったのに。

 

「わしは仕事で呼ばれて先に帰ったんじゃが・・・・・・志野崎先輩はまだ部室で残ってるって・・・・・・」

「・・・・・・!」

 

迂闊だった、部室のドアを開けて中を確認するくらいしてくればよかった、と久は己の行動を嘆く。

 

「シュウの携帯にも一緒に送信したようじゃなかったからてっきり一緒にいるのかと思ってたわ」

「・・・・・・志野崎先輩のアドレス知らんて。

 いつも久が一緒におるから久に連絡してれば十分じゃったし」

「・・・・・・確かに」

 

それはそれで嬉しいやら恥ずかしいやら。

とは言えここで顔を赤くして身悶えしているわけにもいかないので話を続ける。

 

「・・・・・・ま、まぁ、それは仕方ないて。

 久、今からでも志野崎先輩に連絡・・・・・・」

「とりあえず状況を教えて」

 

まこの言葉を遮るように久がそう言った。

まこは少し不満気だったが、頷いた。

 

 

 

「わしが帰って来た時にはもうあの4人がおったんじゃ。

 卓に着いとる2人と、わしとあのお客さんの後ろに立っとった2人。

 そんでひたすらに勝ちを続けとるっちゅうんじゃ」

 

久はちらっと男達の方を見る。

あのまこの後ろに立っていた男、あの男がいるということから既に察しが付く。

 

「・・・・・・手牌を通されたのね」

「え? た、確かにわしもそれは疑ったけど・・・・・・でもお客さんじゃし、妙な疑いかけるわけにはいかん。

 でも何で断言できるんじゃ?」

 

知った顔だから、などとは言えない。

それはつまり久の過去をまこに説明する必要があるからだ。

父親がわざわざ関係を切ってまでこちらを守ってくれたというのに、それをわざわざ自分から掘り返すような真似はできない。

 

「・・・・・・それはそれとして、なんでまこの家に来てるの?

 もしかして借金抱えてたりとか・・・・・・」

「いんや、確かに昔雀荘じゃったここを改良した時にお金がかかったとは聞いとるけど、とっくに返し終わってるって聞いとる」

 

お金関係ではない?

ならばなぜ?

全く予想がつかない久に、まこが言う。

 

「・・・・・・わしも何の用かって聞いたんじゃ。

 そうしたら奴らこう言った」

 

少し声を落として。

 

「・・・・・・「麻雀のプロを負かす奴がいると聞いて来た」ってな」

 

どう聞いても靖子と秀介の事だ。

人目のある喫茶店で少しばかり勝ちすぎたか、と秀介がこの場にいれば嘆いた事だろう。

 

「狙いはシュウなのね・・・・・・」

「最初は常連の人とわしで追い返そうと思ったんじゃけど・・・・・・。

 あの対面のスーツの男がおかしい、強すぎるんじゃ。

 例えるなら・・・・・・」

 

ごくっと唾を飲み、まこは言葉を続ける。

 

 

「・・・・・・志野崎先輩と打っとるような・・・・・・」

 

 

「・・・・・・まさか・・・・・・」

 

あんな打ち方をする人間が他にも?

しかしまこは人の打ち方を記憶して手の進行の参考にする打ち手だ。

そのまこが秀介の打ち方に似ているというのなら本当にそうなのだろう。

 

「奴らは、志野崎先輩を出すまで帰らんと言うとるんじゃ。

 負けたら出ていくとは言うとるけど、素人のお客さんとわしじゃ追い返せん・・・・・・」

「いっそ警察でも・・・・・・」

 

久の言葉にまこは首を横に振る。

 

「あかんて、あの雰囲気只者やない。

 下手な騒ぎになったらうちの店にも変な噂立つかもしれんし・・・・・・」

 

そう言ってまこは苦虫を噛み潰したような表情で考え込む。

確かに実家に変な噂を立てられてはたまったものではない。

ましてや喫茶店なのだ、今後の売り上げに響くのは間違いない。

 

「・・・・・・なら、まこ」

 

まこの言葉に久はぐっと拳を作って言った。

 

「私達二人で追い返しましょう」

「え、でも志野崎先輩は・・・・・・」

「ダメよ」

 

まこの言葉を遮る。

あの手牌を通す男と秀介を会わせるのはよくない。

あの時の逆恨みで襲いかかってくるか、逆に秀介が恐怖心を抱えるか、どちらにしろ危険が高い。

 

「・・・・・・シュウは巻き込めない、そうでしょ?」

「う・・・・・・わしかてできれば巻き込みとうないと思っとった・・・・・・。

 けど・・・・・・勝てるんか?」

 

まこは不安そうに聞く。

久だって不安だ。

あの時男達に一方的に点棒をむしられた恐怖心を忘れたわけではない。

だがそれでも。

 

 

「・・・・・・やるのよ、私達で」

 

 

 


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