咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
色々それっぽい描写してたのに、冗談っぽく(
それでいて「A story」の段階で転生とかヤク・・・なんとかまで当てたりするから読者怖いわー(棒
これもネット小説、しかも連載中しか味わえない楽しみですね。
後の展開や伏線に関わる突っ込みされるのは本当にドキッとしますけど。
年は進み、秀介も久も中学三年生になっていた。
靖子は大学を出て実業団で活躍後プロになったと聞いたが、未だに家に遊びに来て麻雀を打っている。
暇なのかとか言ってはいけない。
秀介は靖子に「お前に安定して勝てるようになるまで通う!」とビシッと指をさして言われた身であるが、たまに手抜きをする時以外は靖子を蹴散らして追い返している。
「牌入れ替え」の能力は使っても少しだけ、そのせいで体調を崩すようなバカな真似はしない。
後はちょっとした挙動や言葉から靖子の考えを誘導して振り込ませたり下ろしたりしているのだ。
麻雀歴の差から来る心理戦のようなもの、プロに成り立てくらいのレベルが相手では彼の敵では無い。
そして手抜きする時以外は100点棒をタバコのように銜えるのを癖にしていたところ、今では秀介がその癖を出す度に顔色を変えるくらいになってしまった。
その内雑誌か何かに載った時に「打つ度に負けている奴がいる」とか言い出したりしないか不安である。
しかし負けた時のあの魂の抜けたような表情が何となく見ていて笑えるので止められない。
そんな話はさておき、卒業を控えた中学三年である。
小学校のクラブ活動から既に存在していたので覚悟はしていたのだが、この中学校にも麻雀部と言うものがあった。
秀介も久も当然のように部活に所属している。
が。
「シュウ!」
帰り道、呼び止められて振り向く秀介。
呼び止めたのは幼馴染、久である。
いつの頃からか呼び方から「くん」が抜けていた。
初めてそれを聞いた時には肩の荷が下りたような安堵を感じた秀介であった。
それはいいとして。
「どうした? 久」
「どうしたじゃないでしょ!」
ビシッと指さして正面から文句を言う久。
後ろをついてきていた子供の頃の可愛い姿もどこへやら、だ。
「今日も手抜きしたでしょ。
あんたの実力があんなもんじゃないってことくらい知ってるんだからね!」
「はいはい」
「流すなー!」
しっしっと手を振って追い払おうとする秀介になおも喰いつく久。
やれやれ、と秀介は真剣な表情で言ってやった。
「・・・・・・俺だって本気を出したいと思っている。
だがな・・・・・・それはできないんだ」
その表情と口調に押されたのか、久が心配そうな表情に変わる。
「ど、どうして・・・・・・?」
「それはな・・・・・・俺は・・・・・・全力を出すと・・・・・・」
額に汗まで浮かべて、秀介は久に向かって言った。
「5リットルの血を吐いて死んでしまう身体になってしまったんだ」
「嘘おっしゃい」
ビシッと頭を叩かれる。
半分くらい本当の事だというのに。
「そんなの見たことないわ。
いつもけろっとした顔で連勝してるくせに」
「そりゃ、見えるところで血を吐いたら大騒ぎだし」
事もなげにそう言う秀介に、久はぐぬぬと悔しそうな表情をする。
「大体家でヤスコと打つ時だって良いように弄んでおいて。
あれで全力じゃないって言うの?」
秀介を呼び捨てにするのと同時期くらいに久は靖子からもさん付けを取っていた。
何故かはわからないがおかげで年上の威厳大幅ダウンである。
それはそれとして、久の言葉に秀介は何かを掴むような仕草をした後にそれをくいっと捻った。
「・・・・・・赤子の手を捻る程度・・・・・・ってこと?
成り立てとはいえあれでもプロなのよ?
そんな簡単に捻っておいて本気じゃないとか、本人聞いたら泣くわよ?」
「・・・・・・あの人を泣かせたくは無い、だから黙っているんだ・・・・・・」
「とりあえずあんたは今黙りなさい」
真剣な表情だったと言うのに胡散臭そうに迎撃される。
昔はコロッと騙されてくれたのにいつからこんなにやさぐれてしまったのか、と秀介は過去に思いをはせる。
当然のように、毎回こうしてからかっているせいなのだがそれを自覚しているのかいないのか。
おそらくしている上でわざとそういう態度をとっている。
「大会も近いのよ?
中学最後の大会くらい、全力で挑んでみなさいよ」
「・・・・・・あんまり有名になるのは嫌なんだよ」
麻雀漬けの人生を送っておきながら有名になるのが嫌だとは、それが我がままだと言うのは分かっている。
だが常に全力を強いられるような戦いに身を置くことになった時、自分の命がどこまで持つのかという不安がある。
ましてやかつて自分が裏で現役で戦っていた頃より麻雀のレベルは上がっているのだ。
新しい人生、まだ中学生だ。
死ぬにはあまりにも早い、早すぎる。
が、そんな事を久に言ったところで「はいはい」と流されるに決まっている。
だから、いつしか秀介は不真面目キャラとしての地位を確立して行ったのだった。
ぎゃーぎゃー声を上げる久を宥め、時々からかいながら帰路に着く。
それが秀介と久の日常だった。
そんな日々を送っての中学生麻雀県大会である。
男子にも人気のある女子代表の久が秀介を猛烈にプッシュしたものの、人前でそんな実力を見せた事のない秀介を団体戦のメンバーにと言うのは誰も認めなかった。
久は悔しそうにしつつ秀介に八つ当たりをしていたものだが、「個人で頑張るよ」と言う言葉に小さく頷くのだった。
そうしてまずは団体戦、女子も男子も順調に勝ち抜いていく。
その対戦の最中、新たな出会いが訪れる。
試合の行われるフロア、その卓に久が向かうと、既に座っているのは一人だけ。
どうせなら、と久は彼女に挨拶をした。
「初めまして、上埜久よ。
よろしくね」
彼女は少しばかり驚いた表情を浮かべたが、すぐに席から立ち上がり、久に頭を下げた。
何故か右目を閉ざしたまま。
「初めまして、福路美穂子です」
これが彼女達の出会い。
東一局0本場 親・久 ドラ{⑨}
久配牌
{二六③⑧⑧4566東西北白} {發}
(・・・・・・微妙な配牌ね)
うーむ、と思い悩む久。
まぁ、一応手成りで打って行くしかないか、と{西}から切り出していく。
一方北家の美穂子。
美穂子配牌
{八③④⑦⑨24
悪くは無い。
この手なら役牌はいらないだろうと{發}から捨てて行く。
そしてその{發}切りに合わせて、次巡西家からも{發がこぼれる。}
({發}が早くも・・・・・・)
ふむ、と久は自分の手牌に目を落とす。
{二四六③⑧⑧45
(・・・・・・よし)
{白}を切り出した。
そして。
「リーチ!」
8巡目、予想外に久がリーチをかけた。
久捨牌
{西北白東二⑧6} {
美穂子手牌
{六六八③④⑤⑦
まだ情報は少なく右目は開けていないが、それでも捨て牌からある程度手を読む。
(牌は全て手出し。
前半の字牌はいいとして、後半の牌の切り方。
特に筒子{⑧③}切り)
こう言う時、仮説で手格好を思い浮かべ、そこから切り出しを当てはめて手を推測していく方法がある。
美穂子もそれにならって手を想像してみる。
(間四ケン、{③⑤⑥⑧という形から⑧③切っての④-⑦待ち}、そう考えるのが普通。
でもそれならもっと早くに切り出されていてもおかしく無い。
例えば{③④⑤⑥⑦⑧の形から⑧③切り}、これは既に面子として成り立っているからあり得ない。
逆にそれにいくらか牌を加えた{③④⑤⑥⑦⑧⑧
ここから{⑧③を切り出して④⑤⑥⑦⑧
筒子は完成していて他の所での待ち、ありえるわ)
ここまではよし。
だがまだ問題がある。
(何故{⑧
タンヤオを捨ててこの面子を成り立たせなければならなかった理由。
ドラを組み込みたかった、なんてこともあるかもしれないけれど)
そこまでたどり着けば結論はわりとすぐに出た。
美穂子は自信ありげに断定する。
(手が三色だからってことかしら。
{⑥を切って③④⑤⑦⑧
そう考えればリーチ前の{6切りも、566}辺りからの切り出しと考えれば{4-7}待ちと考えられる)
美穂子は手から{⑦}を切り出して久の様子を見る。
そこまで推測しておきながら、しかしまだおかしな点がある、と。
(その推測で間違いないと思うんだけど・・・・・・。
でも三色で決め打ちしていたのなら{6}なんてさっさと切ってしまってもおかしくないと思うわ。
それに捨て牌が{6⑧③}や{⑧③6}ではなく{⑧6③}になっているのも気になる・・・・・・)
麻雀とは上がりを目指す為、手牌から「何を切るか」を選択していくゲームだ。
極論、初心者とプロが同じ手牌、同じツモで打っても最終的な上がり形に大きな差は出ないだろう。
ならばそこから上がり牌を逃さないように受け入れを広くしたり、逆に決め打ちしたり。
あるいは牌の受け入れを想定し忘れて必要牌を先に切ってしまったり。
ともかく牌を切る順番には必ず理由がある。
久の捨て方{⑧6③}にも何か理由があるはずだ。
(・・・・・・ちょっとこの時点では分からないわね。
三色手ってところに間違いは無いと思うんだけど・・・・・・)
次巡、美穂子がツモってきたのは{發}。
自分の捨て牌に一つと上家の捨て牌にも一つ、これで3枚目だ。
無駄ヅモ、と美穂子はそれを切り捨てた。
鳴かれる心配は無いし、ましてや上がりとなれば地獄単騎しかない。
そんなことはあり得ない、と。
「ロン、よ」
「・・・・・・え?」
あり得ないと判断すれば、それが手牌から捨てる理由になる。
そして悪待ちの彼女がそこで狙う理由にもなる。
地獄単騎はあり得ないから捨てる、そう思った、と。
{四五六④⑤⑥⑦⑧
「リーチ三色ドラ1」
裏ドラ表示牌は{白}、すなわち。
「裏2で
(そんな!?)
初っ端から跳満振り込み、それも読みを外された上でだ。
思わず俯きかける。
そんな待ちはあり得ない、と。
その手牌なら{③を抱えておけば③④⑤⑥⑦⑧⑨となり、③-⑥-⑨}の三面張。
{6を抱えておいて4566の3-6}待ち、など受けを広く構えられたというのに。
もっとも三色になるのはそれぞれ{③と6しか}無いが。
逆にいえば単騎上がり狙いで{發を抑えていたせいで捨て牌の切り方が⑧6③になったのか。}
{③④⑤⑥⑦⑧⑨}の三面張と{發}単騎で天秤にかけていたからこそ、{⑧6を切ってその辺りの面子を確定、最後に③}切りでリーチと来たのだろう。
東初の親ならまずは点数よりも確実に上がりを、と美穂子は考えていたが、彼女の考え方は違うようだ。
初っ端から三色決め打ち、しかも地獄単騎。
ある意味、デジタル等の思想に縛られない自由な打ち手。
それでいて、と美穂子は久に視線を向ける。
牌を卓に入れ、賽を回し、配牌を取っていく。
そんな姿を見て美穂子は思った。
(・・・・・・麻雀を打つのが楽しそう・・・・・・)
自分はそんな風に麻雀を打った事があっただろうか?
東一局1本場 親・久 ドラ{七}
美穂子配牌
{一四五
第一ツモは{1}。
まずこの手をどう進めようかと考える。
ドラも赤もあるが面子に組み込むには{六や⑥}を引かなければならない。
少し厳しいか。
一先ずツモの流れを見てみようと、{1}はそのままツモ切りした。
そして9巡目。
「リーチです」
南家の女子からリーチがかかる。
捨牌
{北①八北1⑨9④} {
この時点で美穂子の手牌はこの形。
{四五
ちょっと手が遅い。
仮にこの手で上がりを目指すなら{⑧}はまだしも、おそらく{
今更それはきつい。
仮にドラが手に組み込める{六}を引いたとしても、ドラスジの{四}も切りにくい。
だからと言って他の面子や頭を崩すというわけにもいくまい。
(・・・・・・この手は降りね)
ツモってきたのはラス牌の{中}、そのまま捨てる。
そして直後。
「通らば、リーチよ」
久の捨て牌が曲がった。
思わず久の捨て牌に目を向ける。
{一南中1①③[五]西⑥} {
{[五]}切ってのリーチ、一体どんな手を狙っているのか。
一色手では無さそうだし、三色も無さそうに見える。
普通に平和手か、もしくは七対子だろうか。
リーチで張り合う以上形はよく手も高いのだろう。
少なくとも単騎待ちの七対子では無いか。
(・・・・・・でも果たしてその手、上がれるでしょうか?)
ちらっと南家に目を向ける美穂子。
実は南家の手は第一打の時点から予測していたのだ。
南家は最初にツモった牌を自分の手の右端に加え、その3つ隣の{北}を切り出した。
南家が綺麗に手を並べていた場合、{北より外側に来るのは白發中}のいずれか。
{中は既に枯れているので白か發}、それが暗刻になっていると予測できる。
その上でリーチとくればおそらく待ちは好形、両面か三面張だろう。
リーチ發ツモは手格好にもよるが3900から5200。
赤、裏ドラ、一発があれば7700か満貫。
一本場なのでいずれにしろ8000以上だ。
対して久の手はそれに向かって行くに値する点数があるのだろうか。
東一局目から分けのわからない上がりをされたし、様子見をしてみる必要があるだろう。
美穂子は完全にベタ降りを選択する。
そして3巡後。
「ツモよ」
ジャララララと久の手牌が倒された。
{六六八九⑦⑧⑨34[5]789} {
「リーヅモ三色ドラ赤、裏無しで6100オールよ」
ペンチャンドラ待ち!?
南家の子も「そんな待ちで向かってきたの!?」と言いたげに表情を歪めて手牌を晒す。
{二三四五六55777發發發}
やはり役牌暗刻ありの三面張。
三色手とはいえペンチャンドラ待ちが向かって行っていい手牌ではない。
(この人・・・・・・!)
これを読み切った上で突っかかって行ったのか、それともただの無鉄砲なのか。
そんな待ちでもなければまともに上がりをとれないような強者と相対してきたのか。
何にしても警戒が必要だ。
悪待ちをして来るというのなら、それを想定して動けばいいだけの事。
必ず読み切る。
この右目にかけて。
だがそんな美穂子の誓いはあっさりと空回りする。
一先ず美穂子が上がりを取って久の親を流したのはいいものの、悪待ちを警戒していると途端に普通の平和手を上がってくるのだ。
待ちも普通なら回避できたであろう裏スジ。
振り込んでしまう事もあるし、ツモで点数を削られる事もある。
とっさに狙いを他家に変えて上がりを取りなんとか2位になれたものの、トップの久相手に2万点以上差をつけられて終了となった。
「ありがとうございました」
久はただ一人悠々と挨拶をした。
他の二人も挨拶こそしたものの、落ち込んだ様子でフロアを後にしていた。
美穂子は席から立ち上がったものの、未だその場所から離れられずにいる。
自分の読みに自信を持っていた。
麻雀の強さに自信を持っていた。
その自信が今、砕かれた。
たった一人の少女によって。
その事実に少女は右目を伏せる事も忘れ、少女に見入っていた。
不意に久と目が合う。
「あら」
フッと微笑みかけられた。
「あなたの右目・・・・・・」
その言葉に美穂子はとっさに目を隠す。
色が違うこの青い瞳。
時にいじめに遭うこともあった
「綺麗ね」
初対面でそんな事を言われたのは初めてだった。
それが嬉しくて、何だかドキドキしてしまって。
だから美穂子は、その後久が何を言いたかったのかよく分からなかった。
ただ、次に会ったらその答えを聞こうと心に決めた。
そして2回戦が終わり、男子は敗退したが女子はまだ勝っており、明日は3回戦だ。
そう、次の日も当然試合がある。
にもかかわらず、久が突然「急用がある」とだけ告げて帰ったと言うのだ。
「志野崎、お前何か詳しい話を知らないか?」
「いえ、何も聞いていません」
コーチに聞かれてもそう返さざるを得ない。
何かあったのか? 一体何が?
男子は既に明日試合が無いということもあり、秀介はとりあえず家に戻り後日の個人戦に備えて休むようにと言うコーチの指示に従った。
そんなわけで家に帰る秀介は、ついでに隣の家のインターホンを押してみる。
が、反応は無い。
どうしたものかと思いつつ家に帰るのであった。
ふと空を見ると雨が降り出していた。
携帯の電話もメールも連絡がない。
こちらからの連絡もむなしいコール音が鳴るばかり、久と通話が繋がる事は無い。
何があった、と不安を抱える秀介は自室で考え込む。
考えても分かることではないのだが、それでも何か頭を動かしていないと不安で仕方がない。
そんな中、家のチャイムが鳴った。
誰かを迎えたのは親だったが、すぐに呼ばれた。
久が来た、と。
秀介はすぐに玄関に走った。
そこには雨に全身濡れた久が立ち尽くしていた。
「久・・・・・・どうした・・・・・・?」
雨に濡れているだけではない。
久は泣いていた。
「シュウ・・・・・・助けて・・・・・・!」
ルビーとサファイヤが同じ石・・・・・・彼女は一体何を言いたかったのだろう?
うむ、全く分からん(
次回から久の苗字が変わった理由についてです。
両親の死別だとか噂は色々ですが、自分は真っ先にこうなんじゃないかなーと思いました、酷い奴です(
タグの「過去捏造」は次回のお話の為にあります。
仮に原作で回収されたとしてもこの物語はパラレルワールドです、目を瞑ってください(