咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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感想を読んでみたら元々不安を感じていた今後の展開よりも今回の方が不安になった(
逆にここを乗り切ればあんまり不安は無いかなーと。
賛否両論あるでしょう。
だが当初からの計画を変える予定はありません。
サブタイトルの表記的にも(



02新木桂その2 契約と逆襲

気がつくとそこは真っ暗な場所。

どこだここは・・・・・・俺は死んだのか・・・・・・?

新木はくるっと辺りを見回す。

 

 

逆様になって宙に浮いている女と目があった。

 

 

普段冷静な新木といえどもさすがにビクッと身体が跳ねる。

 

「あははははは」

 

女は鈴の音のような笑い声を上げた。

 

「無念な最後を遂げたね」

 

女は胡坐をかきながらそう新木に告げた。

 

 

「そうか、やはり俺は死んだのか」

 

 

新木は改めて女を見てみる。

 

年齢的にはまだ十代か。

露出の高いシャツと半ズボン、長いブーツ。

ふわっとしたロングヘア。

紫のアイシャドウと口紅が良く似合う半目の美人。

 

いや、それよりももっと注目するべきところはある。

 

 

その手に握られた、長い長い鎌。

 

 

「分かった? あたしは死神だよーん」

 

 

くるっと回転し、彼女は地面に降り立った。

いや、地面も周囲同様真っ暗なので本当にそこが地面なのかは分からないが、タンッと着地の音がしたから地面としておこうか。

 

「・・・・・・死神なんて、そんな非科学的なモンがいるとはな」

「デジタル打ちやってるくらいだもんね。

 確率と計算を信仰している人間からしてみたら確かににわかには信じられないでしょーね」

 

死神を名乗る女はそう言うと新木の顔を覗き込んだ。

 

「・・・・・・にしてはあんまり驚いて無さそうね。

 もっとパニックになるかと思ったのに」

「・・・・・・」

 

女の言葉に新木はプイっと顔をそむける。

 

「あー、そっか。

 もっとショッキングな死に方だもんね。

 裏切られてボコられて新薬の実験台!

 でもまぁ、ギャンブル物としては比較的あるバッドエンドじゃない?」

 

ケタケタと笑う女。

その笑い方、どこか妖しい。

 

「・・・・・・で、その死神が俺に何の用だ?

 生前何か契約を交わした覚えは無いんだが」

 

死神と言えば契約を交わしてその代償に死後魂を持っていく、と新木は考えるが特に思い当たる契約は無い。

いや、そもそもそれって死神っていうより悪魔との契約じゃなかったか?と思い直す。

 

「うん、まだ契約はしてないね」

 

女はそう言うとニコッと笑った。

 

「これからあたしと契約して欲しくて呼んだの」

「・・・・・・はぁ?」

 

死んだ人間を呼び出して契約も何もあったものではないだろう。

何せもう死んでいるのだから。

 

「ありゃ、やっぱりまだ分かって無いね。

 あんたまだ死んでないよ」

「・・・・・・そうなのか?」

 

しかしそれにしてはいかにも死んだような言い方をされた気がするのだが。

安心していいのか不安に思っていればいいのか、新木は変わらず怪しげに女を見てみる。

 

「このままだとあんたは意識を取り戻した時には拘束済み。

 それから死ぬまで薬の実験台。

 もう死ぬことは確定したも同然でしょ?」

 

女は事もなげにそう言う。

普通の人間がそれを受け入れるのにどれだけの労力を要するか。

 

「だからさ、あたしと契約してこの窮地を脱出してみない?」

「・・・・・・どうやって?」

 

「あんた、いざって時の為に、懐にお金入ってるでしょ?

 あの麻雀で言うとたった100点棒一本分。

 でもあの麻雀のルールは「点棒が尽きるまで」。

 だから、その点棒をかけてもう一回麻雀挑んで勝てばいいのよ」

「んな無茶な・・・・・・」

 

仮にそんな要求をしたとして三対一なのだ。

そんなにあっさり勝てるわけがない。

 

「だいじょーぶよ」

 

スッと女は自分の右手人差し指を立てる。

その先端は淡く光っていた。

 

「「これ」、あげるから」

「・・・・・・何だそれは」

 

新木の質問に、女は心底楽しそうに笑った。

 

 

「死神の力」

 

 

そしてその人差し指を新木に突き付け、聞いた。

 

「どうする? このまま薬漬けで死ぬ?

 それともあたしと契約して、この場を生き延びる?」

 

むぅ、と新木は考え込む。

 

死神の力と言う妖しげなものに手を伸ばせと言うのか。

代償は? その後の扱いは? 死後魂を取られるのか? 魂を取られたらどうなる?

様々な疑問が浮かぶ。

 

だが、新木は何も聞かずに頷いた。

 

「・・・・・・分かった、契約しよう」

「ありゃ、あっさりと。

 死後の扱いとか、力の代償とか聞かないの?」

 

逆に女が聞き返してくるが、新木は首を横に振る。

 

「他に選択肢は無いんだろう?」

「まぁ、そうだけどね」

 

くすくすと笑うと、女はその人差し指を新木の額に当てた。

 

途端に額が熱くなり、周囲の景色がぐらっと揺れる。

 

「最初はきついだろうけど、麻雀打ってるうちに慣れてくるよ。

 あ、それと素直なお兄さんに一つだけ代償を教えておいてあげる」

 

視界がぼやける新木に、女は言った。

 

「最初のこの試合だけはサービスしておいてあげるけど。

 それ以降あんまり長くその能力を使ってると・・・・・・」

 

そこで一度区切り、女はニコッと笑った。

 

 

「血を吐いて死ぬから」

 

 

それ、笑いながら言う言葉じゃない。

 

そんな突っ込みを入れることもできず、新木は意識を失った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・では、よろしくお願いします」

「はい」

 

エリスに言われ、男は新木を引き摺って部屋を後にする。

こいつも負けた。

地下で新たな実験台になるのか。

 

男はわずかに同情しながらも新木を引き摺り、

 

ぐいっと引っ張られて足を止めた。

 

何だ?と顔をそちらに向けると、

 

頭から血を流しながらも新木が立っているのが見えた。

 

「なっ・・・・・・」

 

まだ意識があったのか、と男は腰にさげていた棍棒を手に取る。

先程もこれで後ろから殴ったのだ。

さっさと意識を失ってくれよ。

そう思いつつ棍棒を振り上げる。

 

「・・・・・・まだだ・・・・・・」

「あ?」

 

新木の言葉に腕を止める。

新木は懐からスッと封筒を取り出した。

 

「・・・・・・まだ金がある・・・・・・これで打たせてもらうぞ・・・・・・」

 

そう言うと新木は男を無視したように、先程の部屋に向かって歩き出す。

 

「・・・・・・逃げないのか・・・・・・」

 

男はボソッと呟き、棍棒を下げた。

 

 

 

ガチャッとドアを開け、中に入る。

中にいたメンツはこちらを見て、まるで死人にでも再会したかのような表情を浮かべた。

 

「なっ・・・・・・お前!?」

 

真っ先に声を上げたのは琴野。

 

「・・・・・・何の用じゃ・・・・・・?」

 

続いて億蔵が少しばかり不満気な表情で口を開く。

ここで暴れる気か?と琴野はとっさに構えた。

ここにいるのは老人とメイド、そして自分だけ。

相手は怪我をしているとはいえ成人の男だ、自分が相手をするしかない。

 

先程連れて行った黒服の男はどうした?

もしかしてこれだけの怪我でありながら圧倒してきたのか?

もしそうだとしたら怪我ひとつないとはいえ自分が勝てるのか?

 

琴野は汗を浮かべながら色々と考える。

が、新木の行動はそんな不安とは全く的外れなものだった。

 

手に持っていた封筒をエリスに差し出す。

 

「・・・・・・10万入っている。

 確か「点棒が尽きる」が敗北条件だったな・・・・・・これを点棒に変えてくれ」

「・・・・・・正気ですか?」

 

今度はあからさまな三対一ができるこの状況、勝てる気でいるのか?

しかも10万円はたったの100点。

たった100点でこの状況から逆転すると?

 

「・・・・・・クゥクゥクゥ」

 

億蔵の笑い声に、エリスははっとする。

 

「たった100点で挑むか・・・・・・いいじゃろう、受けよう・・・・・・」

 

億蔵はそう言って席に座った。

その様子に琴野も同様に席に着く。

エリスは暫し億蔵と新木を交互に見ていたが、やがてその金を100点棒に変え、新木に差し出した。

 

「・・・・・・逃げだせばよかったものを・・・・・・。

 まぁいいでしょう、殺してあげますから」

 

エリスはそう言って笑った。

 

新木はフンッと鼻で笑うと懐から煙草を取り出す。

 

「! 煙草は禁止と言ったはずです」

 

エリスはとっさにそれを取り上げる。

新木は小さく舌打ちし、先程受け取った100点棒を代わりに銜えた。

 

「・・・・・・なら・・・・・・これでいいや」

 

ニッと笑い、牌を混ぜて行く。

 

 

ジャラジャラと山が積まれ、続きのエリスの親から始まる。

 

 

(・・・・・・ん・・・・・・?)

 

 

少しばかり頭が痛い。

 

先程殴られたところか?と思い、新木は頭を手で押さえる。

 

が、どうも違う、何かがおかしい。

 

何だこれは・・・・・・?

 

 

 

{(西)()()()()()()()()()()西()()()()()()}

 

 

 

(・・・・・・は・・・・・・?)

 

 

チャラッと賽が振られ、配牌を受け取っていく。

 

 

これは

 

 

これは・・・・・・!?

 

 

{(西)()()}      {()()西()()()()()()}

 

 

(・・・・・・・・・・・・見える・・・・・・・・・・・・?)

 

 

 

「おい、何してんだ。

 さっさと配牌とれよ」

「・・・・・・ああ・・・・・・」

 

琴野に促されて配牌を取っていく。

 

 

全員の配牌が揃ったところで、やはり、と新木は確信した。

 

 

{二九①②③⑦⑨2(ドラ)57東西} {北}

 

{四五六七②③⑧1(ドラ)5北發發}

 

{二四五七九④⑤58東南中中}

 

 

(・・・・・・今までの切り方から考えて、エリスが切るのは{西北}のどちらか・・・・・・)

 

チャッとエリスは{西}を切り出した。

 

(億蔵が切るのは{北}・・・・・・)

 

一つツモった億蔵は手牌の端から3番目、{北}を切り出す。

 

(今は東場・・・・・・琴野が切るのは、{南}しかない)

 

琴野は牌をツモった後、手牌から{南}を切り出す。

 

(やはり・・・・・・そうなのか・・・・・・

 

 ・・・・・・{三}・・・・・・)

 

 

{一四八④⑤⑧⑧12(横三)6北發中}

 

 

新木は山から{三}をツモってくると、それを手牌に加えながら、改めて確信した。

 

 

 

(全ての山も、手牌も見える!)

 

 

 

デジタル思考にこの能力、まさに鬼に金棒。

 

(この手・・・・・・)

 

新木は手牌から{北}を切り出し、山と全員の手牌を見渡す。

 

(・・・・・・次巡、俺が{發}を切り出せば億蔵が鳴く。

 その後出てくる{⑧}を俺がポン。

 それから4巡目に琴野から出てくる{二}をチー。

 6巡目に億蔵がツモ切りする{2}で上がりだ)

 

そしてその宣言通り。

 

「ポン」

 

「チー」

 

「ロン」

 

ジャラッと手牌を晒す新木。

 

{④⑤⑥2456} {横二三四⑧横⑧⑧} {(ロン)}

 

「タンヤオのみ、1000の一本場」

「ほぅ、安いの・・・・・・」

 

億蔵は笑いながら点棒を差し出す。

 

「そんな安手上がってどうする気だ?」

 

琴野も笑い、エリスは退屈そうにため息をつくのみだった。

 

 

そして次局、エリスはちらっと親番の億蔵と視線を合わせる。

億蔵はこくっと頷いた。

年老いた億蔵に素早さと確実さを要するすり替え技は使用できない。

だが賽の目を操る程度ならできる。

チャラッと出したのは7の目。

これでエリスの前の山が丸々残った。

 

(残念ですが、新木さん。

 さっきのであなたは終わっていたんです、これ以上余計な時間は掛けさせないでください)

 

チャッチャッと配牌を受け取るとエリスは手牌を倒し、自分の前の山に手をかける。

 

{()()()()()()()()()()()()()()()()()}

 

狙うは大技、つばめ返し。

 

先程のようなトリプル役満が簡単に手に入るわけがない。

こうして積み込んでおく必要がある。

その前のダブル役満も同様だ。

後はすり替えるだけ、第一ツモで最後に端の{7}をすり替えて地和宣言で終了だ。

残り1400点、ロン上がりを狙わずとも十分に行ける。

 

そうして、山に手をかけた途端。

 

 

「おい」

 

 

新木から声が上がった。

 

 

「・・・・・・何か?」

 

エリスがそちらを向くと、新木はエリスを睨みつけていた。

 

 

「・・・・・・この麻雀、つばめ返しはありのルールなのか?」

 

 

「!?」

 

読まれている!?

思わず山から手を引く。

 

「・・・・・・何の事でしょう?」

 

平静を装ってそう聞くと、新木は牌を捨てながらクッと笑った。

 

「いや、無しならいい。

 ちょっと動きが気になっただけだ」

「・・・・・・失礼しました」

 

エリスは牌をツモり、不要牌を切る。

 

 

・・・・・・この局は失敗か。

結局エリスはすり替えを行うことができず、この局再び新木の安上がりとなった。

 

 

そしてまた次局、今度は大技ではなく小技を狙う。

 

{()()()()()()()()()()()()()()()()西(西)}

 

自分の山の端に有効牌を仕込んでおき、手牌の不要牌を端に加えながら逆から有効牌を抜く。

自分の山に配牌の取り出しが重なってもすり替えを可能とする両端への仕込みを施した、いわゆる。

 

「・・・・・・今度はぶっこ抜きか」

「!?」

 

危うく声を上げるところだった。

何故バレている!?

問い詰めたいが、それはつまり自分のイカサマを認めることになってしまう。

それはできない。

 

結局またすり替えられず、上がりを許してしまう。

 

 

ならばと今度は自分のツモスジに有効牌を仕込む。

 

{()()()()()()()()()()()()()()()()()}

 

通称。

 

「・・・・・・千鳥なら許されるのか?」

「っ!?」

 

なんで? なんで?

エリスは新木の顔を見る。

 

新木はやはりこちらを睨んでいる。

ただそれだけ。

 

どうして? どうして? どうして?

 

錯乱する中。

 

「ポン」

 

あっさりとツモスジをずらされる。

そして。

 

「ツモ」

 

自分の積み込んだ山にツモが入る間もなく、終わりとなった。

 

 

どうして? どうしてこの男に自分のイカサマが見破られているの?

 

原因は分からない。

けれどももう積み込みは使えない。

 

ならば。

 

次局、エリスは積み込みを止めた。

代わりに自分の山の牌を記憶することに専念する。

賽の目は新木の山からの取り出し、これでいい。

 

エリス配牌

 

{九①②③④⑤⑤⑦146東南}

 

{()()(西)()()()()()()()()()()()()()()}

 

おそらく下山をすり替えるのは見つかるだろう、そう考えて上山だけを記憶した。

そしてエリスの第一ツモ。

牌をツモり、チラッと確認すると{西}。

頭として使えるか、とそのままツモって{九}切り。

続くツモは{八}。

裏目に出たか? いや、そうではない。

 

{()()(西)()()()()()()()()()()()()()()}

 

{①②③④⑤⑤⑦146東南西} {(ツモ)}

 

エリスは{1}を切り出した。

音も鳴らさぬ高速の上山すり替え。

さすがにこれは見切れまい、とエリスは心の中で笑う。

次にすり替えを狙うのは右から2牌目の{7}か。

後々頭用にと取っておいた{西}もすり替えなければ。

続いてのツモは{8、東}を切り出す。

 

必要牌なら手中に収め、不要牌ならすり替える。

おまけにこの上山すり替えは牌をツモった手が自分の山の上を通過する一瞬で完了する。

すり替えを指摘する事はまず不可能だ。

どうやって積み込みを見抜いていたのかは不明だが、これなら新木といえども止められまい。

 

そして次巡、ツモは{二}。

萬子はもう不要だ、すり替えに回す。

右から2牌目の{7}の上を通るように牌をツモり、そして。

 

ガシャン、と山が崩れた。

 

「・・・・・・え?」

 

まさか、嘘、そんな。

エリスは自身の右手に目を向ける。

開いたり閉じたりしてみるが変わった様子は無い。

なら、何故すり替えをミスしたのだ?

この手の訓練は何年も積んでいる。

1mmの狂いも無く狙った牌をすり替えるなんて、今更造作も無いはずなのに!

 

それはつまり、逆に言えば1mmでも山がずれたのならすり替えが失敗するという事。

 

(山をずらされた!?)

 

「チョンボだな・・・・・・次は無いぞ」

 

新木はそう言ってエリスの左手の小指をちょいと摘まみ、軽く力を入れる。

すぐに解放されたがそれはつまり。

 

(次やったら・・・・・・折られる・・・・・・っ!?)

 

エリスは慌てて手を下げ、すぐに頭を下げて点棒を差し出した。

 

この新木桂という人物の前ではどんなイカサマも不可能だ、そう察した。

 

(こ・・・・・・怖い・・・・・・)

 

エリスはもうどんな技も、仕込むことも行うこともできなかった。

 

 

 

それから30分後、空気は一変していた。

 

「ツモ」

 

ジャラッと手牌を倒す新木。

 

{五(ドラ)④⑤⑥99} {横678中中横中} {(ツモ)}

 

「中ドラ1、1000オールの・・・・・・9本付け」

 

チャリッと100点棒が横に積まれる。

 

もはや牌が見えるだけではない、欲しい牌が自分のツモる所にいてくれる。

山を見通した上で打っていることで全てが有効牌に見えるだけか。

 

もしくはこれも「死神の力」か。

 

「・・・・・・八連荘はありか?

 まぁ、ローカルダブル役満を認めてるんだ、当然ありだろう?」

 

新木の言葉に顔を見合わせる億蔵とエリス。

 

信じられない早上がりで、勝負再開から全てこの男の得点だ。

途中エリスのチョンボがあったのでカウント上次に上がれば八連荘となる。

もしここで八連荘を認めてしまうと、彼が親を続ける限り、今後全ての上がりが役満になってしまう。

そうなればこの金額差とはいえ、全てが持って行かれる可能性が無いとは言い切れない。

 

だから、億蔵はそれを認めなかった。

 

「・・・・・・ダメじゃ、八連荘は認めん・・・・・・」

「あっそ」

 

新木は笑って手牌を崩し、牌を混ぜ始めた。

 

 

その選択が将来どんな事態を呼ぶか知らずに、と笑いながら。

 

 

 

タンと牌が倒される。

 

「ツモ」

 

ジャラッと手牌が倒される。

 

{二二四五六②③④④⑤444} {(ツモ)}

 

「タンヤオツモ、2000オールの・・・・・・」

 

チャリッと100点棒を広げ、数を確認させる。

 

「23本付け」

 

「ぐっ・・・うっ・・・・・・!」

 

億蔵が呻き声を上げる。

一向に新木の上がりが終わることは無かった。

延々と、延々と上がりが続く。

 

そう思われたが、ここで琴野が点箱を卓に放り投げた。

 

「・・・・・・トビだ」

 

はっとする億蔵とエリス。

そうだ、トビは終了と言うルール。

これで終わりだ!

大分点数は持っていかれてしまったがもうこれ以上失わなくて済む!

 

「・・・・・・どうやらこれで終わr・・・」

 

エリスが終了を宣言しようとする刹那、ジャラララと琴野の点箱がいっぱいになる。

 

「なっ・・・・・・どういうつもりだ!?」

 

自分の点棒を移したのは、新木。

彼は事もなげに告げた。

 

 

「これで続行だな」

 

 

「て、てめぇ! まだ続ける気か!?

 まだ上がり続けられると思ってんのか!?」

 

琴野はそう叫ぶ。

が、新木は点箱を琴野につき付けると言った。

 

「当然だ。

 まだまだ搾り取る。

 このじいさんからも、メイドからも」

 

そして、琴野と視線を合わせ、笑った。

 

 

「お前からもな」

 

 

 

{五六七⑦⑦中中} {横九七八白横白白} {(ツモ)}

 

「ツモ。

 白中、2000オールの35本付け」

 

それからも。

 

{四五六⑤⑥22} {横456横二三四} {(ツモ)}

 

「ツモ。

 タンヤオ三色、1000オールの41本付け」

 

彼の上がりは。

 

{12357發發} {88横8南南横南} {(ツモ)}

 

「ツモ。

 鳴き混一(バカホン)、1300オールの52本付け」

 

終わることがなかった。

 

{一一八③③446699西西} {(ツモ)}

 

「ツモ。

 七対子、1600オールの63本付け」

 

 

 

と。

 

ガシャーン!と音を立てて億蔵が卓に倒れた。

エリスがはっとした表情で億蔵に駆け寄る。

 

「主様!」

「む・・・・・・ぐ・・・・・・くぅぅ・・・・・・」

 

億蔵は胸を押さえて苦しんでいる。

 

「っ!」

 

エリスは億蔵を床に寝かせると、新木に告げた。

 

「・・・・・・主様は体調を崩されました。

 すぐに病院に・・・・・・」

 

 

「座れ」

 

 

くいっと、新木はエリスの席を指差した。

 

「なっ! 病人がいるのですよ!? 勝負などしている場合ですか!?」

 

声を荒げるエリスに、新木は告げた。

 

 

「八連荘を認めていれば、もっと早く終わっただろうになぁ・・・・・・。

 

 それから勝負が終わるまでこの部屋から出られないと決めたのはそちらだ。

 

 席につけ。

 

 もし打てないのなら、オールツモ切りで続行だ」

 

新木はそう言って億蔵の後ろの金の山を指差した。

 

 

「その金が尽きるまで、

 

 

 死んでも搾り取る」

 

 

 

ガタッと琴野が席から立ち上がる。

 

その表情は真っ青だ。

 

「い、嫌だ! もうこれ以上お前と打ってなんかいられるか!!」

 

そう叫び、彼は部屋から逃げ去った。

 

「こ、琴野!」

 

エリスが呼び止めるがもういない。

 

 

新木はそんな琴野が出て行ったドアに小さく舌打ちをすると席を立ち、億蔵に近寄る。

その前にエリスが立ちはだかった。

 

「な、何をするつもりですか!? やめなさい!」

 

気丈にも新木と向き合うエリスだが、その表情はやはり真っ青。

 

 

新木は口に銜えていた100点棒をプッと吐きだすと、告げた。

 

 

「で? いくら出すんだ? じいさん」

 

 

 

 

 

ギィと屋敷の扉が開いた。

 

現れたのは血まみれになりながらも不敵な笑みを浮かべ、大金の積まれた台車を押してくる新木。

 

「あ、新木さん!」

 

組員が彼に駆け寄る。

 

「あ、新木さんが出て来たってことは・・・・・・?」

 

笑顔の組員に新木は告げる。

 

 

「ああ、勝ってきた・・・・・・」

 

 

ワァァ!と歓声が上がった。

 

新木は組員たちの喜ぶ姿を見届けて、意識を手放した。

 

 

 

改めてになるが、これは彼が30歳の時の出来事である。

 

 




山が牌画像変換で作れたよ、ちょーめんどくさかったけど。
これで積み込み、イカサマがメインの麻雀ストーリーも書けるね!(

「斬新な事をやってやりたい」なんて考えてシナリオを作っていたものですが、投稿している本人は不安でガクブルです。
フルボッコ上等だ! 掛かって来いよ!(小声

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