咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
外伝的な小ネタなので生温かい目でごらんくださいませ。
秀介と美穂子の機械オンチ
「キャプテン、牌譜まとめ終わりましたし」
池田がそう言って風越から持ってきたノートPCを美穂子に差し出す。
美穂子はそれを受け取った。
「ありがとう」
「へぇ、風越の皆さんは良くできた人たちね。
うちも見習ってほしいわ」
そんな彼女たちに声をかけるのは久。
美穂子は少しばかりドキッとしながらも受け答えする。
「ええ、本当に皆いい子たちばかりで・・・・・・」
そう言うと池田が嬉しそうに身体を捩る。
「そんな! キャプテンには負けますよ」
「確かにご飯も作れるし気がきくし」
「そんな・・・・・・ありがとうございます」
久も賛同すると美穂子は頬を赤らめた。
「で、牌譜はどうやって見るのかしら」
「キャプテン!? パソコンの使い方、この間教えたのに!」
◇ ◇
「福路さんは機械オンチなの?」
「・・・・・・ストレートに聞きますね。
お恥かしながら家電以上ケータイ未満でして」
久の言葉に少しばかり落ち込みながら答える美穂子。
そんな美穂子の反応を見て久は、ふむと腕を組んで考え。
「シュウも結構機械苦手なのよ。
どっちが上かしら」
どうでもよさそうな疑問をぶつけた。
「そんなところで優劣を競わなくても・・・・・・」
というわけで呼んでみた。
「シュウ、あんたがどれくらパソコンを使えるか説明してあげて」
「突然呼び出して何を言わせる気だ、お前は」
少し不機嫌そうな秀介は久の質問に即答する。
「あんなもの人間が操作するものじゃない」
えー!と池田が驚愕の声を上げた。
「第一声がそれですか!?
でも、それじゃあ先輩は誰が操作するものだと思ってるんですか?」
その質問に、秀介は当然のように応える。
「サイボーグ」
◇ ◇
それはそれとして、話は秀介がパソコンをどれだけ使えるかと言う話に戻る。
「俺はネット麻雀が打てる」
「ネット・・・・・・?」
どうやら知らないようで美穂子が首を傾げた。
それを見て秀介は少しばかり自慢げになる。
「どうやら俺の方が上のようだな」
「うぅ・・・・・・」
美穂子は落ち込んだ。
秀介がパソコン苦手だと聞いて仲間ができたと思ったのに、と。
その様子を見かねて久が助け船を出す。
「でもあんたパソコンで文章打つこともできないじゃない」
「それは久の教え方が悪い」
「酷っ!」
そんな吐き捨てるように言わなくても!と久は頬を膨らませる。
しかし秀介はやれやれと首を振りながら言葉を続けた。
「大体パソコンなんていじってたら勝手に青い画面になるじゃないか」
「いや、どうやったらそうなるのよホント・・・・・・」
どうやら過去に何かやらかしたらしい。
その言葉に美穂子はポンと手を鳴らして言葉を続ける。
「あ、それは私もやったことあります」
「どうやったらそうなるの!?」
◇ ◇
結局秀介はパソコンをどれほど使えるのか、久がまとめてみた。
「シュウはネット麻雀はできる」
「余裕。
過去の牌譜見たりと機能を存分に使ってる」
「パソコンで麻雀が打てるのですか。
私もやってみたいです」
うむ、と頷く秀介に美穂子は感心する。
「パソコンで文章打つことはできない」
「人間のやる事じゃない」
「とてもできるようになるとは思えません・・・・・・」
二人揃って落ち込んだような仕草を見せる。
いや、秀介はもう諦めて気にしていないようにも見えるが。
「絵を描くこともできない」
「ただでさえ下手なのに
「下手でも描けるんですね。
私もそれくらいなら・・・・・・」
美穂子にほんのりと希望が見えて来た。
これをきっかけにパソコン操作を覚えてくれるといいのだが、と池田は思う。
その時不意に声がかかった。
「志野崎先輩ー、ちょっと来て下さいだじぇ」
「どうしたタコスちゃん」
近寄った先では麻雀卓がゴトゴト音を立てている。
「ちょっと麻雀卓の調子が・・・・・・」
「どれどれ・・・・・・」
ガチャッと手慣れた様子で秀介は卓の蓋を開けた。
そしてすぐに原因となっていたそれを取り出す。
「なんだ千点棒が巻き込まれてるじゃないか」
「ホントだじぇ!」
「でも麻雀卓はあっさり直せる」
「凄いです!」
◇ ◇
パソコンはまだしも麻雀卓の扱いで負けるとは。
美穂子は落ち込んだような様子で、しかし秀介に興味あり気に問いかけていた。
「もしや志野崎さんはメールとかも使えるのでしょうか?」
「ああ、最初は電話だけでも十分と思ってたけど、慣れてみると便利なものだ」
なるほど、パソコンはダメでも携帯はちゃんと使えるのか。
自分も使えることは使えるのだがいまいちよくわからない、と美穂子は悩みを打ち明ける。
「私、どうしてもあれが使えなくて・・・・・・。
一体どういう仕組みでやり取りしているのでしょう?」
すると秀介はぐっと親指を立てて答えた。
「仕組みなんて分からなくても使えれば問題ない」
「大丈夫よ、こいつも分かってないから」
久がボソッと告げた。
◇ ◇
「メールとは特定の人間に伝言を残すことができると思っておけばいい」
メールに関しておおざっぱだが、秀介は美穂子にそう説明した。
「それは便利です。
なんとか使えるようになりたいです」
「よろしい、ならば教えてあげよう。
最初からろくな説明なく理解している人間よりも、俺のような昔使えなかった人間が教えた方が理解も早かろう」
ふふん、と自慢げにそう言う秀介。
どうやら昔は携帯もろくに使えなかったらしい。
美穂子は安心したように言う。
「た、助かります。
私が使おうとするとどうしてか画面が青くなってしまって・・・・・・」
「ケータイでブルースクリーンになるの!?」
ええ!?と久が驚く横で秀介も告げた。
「あー、俺も最初の頃よくやったよ」
「ホントどうやってるの!?」
◇ ◇
「ここをこうして・・・・・・これでメールが使える」
「それから・・・・・・?」
「こうして文章を打って・・・・・・」
「ふむふむ」
美穂子は秀介に教わりながらメールを打っているようだ。
少しばかり親しげに見えるその様子を久は何となく不機嫌そうに見守っていた。
やがて文章が完成したらしい。
「あの・・・・・・この文章はどういう意味なんでしょうか?」
「送ってみれば分かるさ。
とりあえず池田に送ってみよう、これで送信を押すんだ」
「ポチッと・・・・・・」
美穂子が送信ボタンを押す。
それから少し間を開けて、ヴーヴーと池田の携帯が音を鳴らした。
「あ、華菜のケータイが鳴ったようです。
ちゃんと届いたんでしょうか」
「いや、偶然他の人から届いたという可能性もある。
見ていれば分かるさ」
秀介の言葉に美穂子はじっと池田の様子を見守る。
携帯を開いてメールを見た池田は、一瞬「え?」と首を傾げた後、秀介達の方を向いて動き始めた。
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
Let's\(・ω・)/にゃー!
「よし、届いたみたいだな」
「め、メールには人を操る機能が・・・・・・!」
「うーにゃーしてってメール来たからやっただけなんですけど・・・・・・」
何かを勘違いしたらしい美穂子がガタガタと震えているのを見て池田はフォローしに駆け付けて来た。
◇ ◇
「こうでしょうか?」
「おー、できたじゃないか」
ピロリンと音を立ててメールが送信される。
どうやら一人でメールの送信までこぎつけたようだ。
「よかった、ありがとうございます」
「何度か連絡とってればそのうち使いこなせるようになるよ」
自分もそうだったし、という秀介の言葉に美穂子は頭を下げた。
さて、そこまでやって美穂子は思い出したように別の質問をぶつけた。
「そう言えばコーチがこの間一瞬で二人に、しかも一字違わず正確にメールを送っていました。
みんなは一斉送信と言ってましたけどあれはどうやるんでしょうか」
その言葉に秀介はいつになく無表情で答えた。
「なにそれおれしらない」
遠くで久が苦笑いしながらやれやれと首を振っていた。
◇ ◇
龍門渕の些細な復讐
昼食を終えて胃袋を落ち着けている時間帯。
透華と一はひそかに燃えていた。
「あの志野崎秀介とか言う男・・・・・・はじめがトバされたのは絶対あいつのせいですわ!
昼食に紛れて何か復讐をしてやりましょう!」
ゴォ!と背景も燃えているように見える。
「とーか、ボクは別にそんな・・・・・・でもやりたい」
一もやる気のようだ。
「ではどうしてやりましょうか」
「ボク達も何か作って・・・・・・定番の辛いやつを仕込むとか」
「それにしましょう!」
どうやら何か仕掛けるらしい。
◇ ◇
「あの、志野崎さんって言いましたよね。
さっきの試合ではどうも」
「ああ、どうも」
挨拶に行く一。
まずは何気ない挨拶で警戒を解くことから始めよう。
「お饅頭作ってみたんです、良ければどうぞ」
そう言ってスッと皿の上のそれを差し出した。
ほぉ、と秀介はそれを受け取る。
「これはどうも、ありがたく・・・・・・って一個だけですか」
「ええ、後で他の皆さんにも配りますので」
これで完璧、誤魔化した!と一はひそかに笑った。
余りの辛さに火を吹くといいよ!
と、そこに近寄る一つの影。
「あら、何それ、美味しそう」
清澄の部長、久であった。
「食べるか? 久」
「あらいいの?」
「後で皆にも配るって言ってるし」
「なら遠慮なく」
久は嬉しそうにその饅頭を受け取ると、はむっと喰いついた。
「あー!」
◇ ◇
作戦が失敗に終わり、一は透華に泣きついていた。
「自分の学校の部長を犠牲に生き延びるとは・・・・・・やはりあの男は卑劣ですわ!」
「とーか! 仇を取って!」
「お任せなさい!」
とうとう龍門渕透華が立ち上がる。
すでにそのデジタル思考回路で改善点を導き出していた。
(あの男、はじめが一個しか作らなかったのを見て罠を警戒した可能性がありますわ。
ここは三個ほど用意してその全てに仕込むという作戦で!)
フフフ、これで完璧!と透華はお菓子作りに取り掛かった。
そして。
「あー、志野崎さんと言いましたわね、蒸しパンを作ってみましたの、いかがかしら」
「おや、これはどうも。
丁度甘い物が食べたかったのですよ」
「おーっほっほっほ、どれでもどうぞ」
透華が差し出したそれに、秀介はまんまと喰いついたようだ。
フフ、これだけの人数の前ではじめを飛ばすなんて失態を晒させてくれて。
今度はあなたが辛さにのたうちまわって失態を晒す番ですわよ!と透華は笑った。
「で、どれがタバスコ入りですかな?」
「お、おーっほっほ、いえいえ、そんなもの入っていませんわよ?」
「なるほど、今度はラー油か」
(な、何故バレましたの!?)
辛い物ってそれらとハバネロくらいですから。
◇ ◇
ラー油が仕込まれた辛い菓子パンを手に取る秀介。
しかし、そこに予想外の敵が現れた!
「む、志野崎とかいったな、何を食べているのだ?」
透華と一が先程から絡んでいる事に興味を持ったらしい衣がやってきてしまった。
「まだ食べてな・・・・・・天江衣か、蒸しパンだが何か?」
「蒸しパン!? ずるいのだ!衣も食べる!」
「まぁ、いいぞ」
皿ごと受け取っていた秀介はそれを衣の前に差し出す。
これはまずい、衣が激辛の蒸しパンを食べてしまう!
(予想外ですわ! 純! ともき!)
ピキーン!とアホ毛を立てて仲間達にサインを送る透華。
付き合いの長い仲間達は、そのアホ毛の動きと透華の表情からすぐに透華の言いたいことを理解した。
(む? 透華のあの表情・・・・・・おそらくあの志野崎とか言うやつに復讐を考えてやがるな?)
(あの男、蒸しパンを食べようとしています・・・・・・。
この状況で考えられる最善の復讐と言えば・・・・・・)
((あの蒸しパンを奪う事!))
二人の考えは一致した。
「私にも一つください・・・・・・」
「じゃあ、俺にもこれくれ」
ひょいひょいと皿から蒸しパンが姿を消した。
「あ、俺のが・・・・・・」
「いーじゃんいーじゃん、また透華に作ってもらえば。
けちけちすんなよ」
「わーい、みんなで食べるのだー」
「「「いただきまーす」」」
龍門渕メンバーは揃って菓子パンに食いついた。
「あー!」
◇ ◇
「三人も犠牲に・・・・・・許せませんわ!」
「とーか、これからどうしよう・・・・・・」
新たに犠牲者を出してしまった龍門渕メンバー。
透華と一は作戦の練り直しをしていた。
そこに声を掛けられる。
「そこのお二人さん、何か企んでいたようですが失敗しましたかな?」
「くっ! 志野崎秀介!」
「・・・!」
にっくき仇、秀介がそこにいた。
一に至ってはその姿を見ただけで怯えたように透華の影に隠れてしまう。
秀介はそんな二人を宥めるように、皿に乗せたお菓子を差し出した。
「まぁまぁ、そう警戒なさらずに。
お近づきの印に俺が作った些細なお菓子でも」
「敵からの貢物など受け取れませんわ!」
キッ!と睨む透華。
人には散々差し出しておいて今更それか。
秀介はやれやれと首を振る。
「今は楽しい合宿の最中じゃないですか、仲良くやりましょうよ」
その言葉に透華は少しばかり頭を冷やし、観察してみる。
(む、この男焼き菓子を・・・・・・。
これは私の作った蒸しパンよりも時間がかかりそうですわ。
ということは私達が罠を張るより先にこれを作っていたと・・・・・・。
考えてみれば確かにこの合宿は麻雀の腕の強化もありますが交流の意味合いもあるはず。
私としたことが何をピリピリと。
思えばはじめをトバしたのが本当にこの男の仕業だったとしても、今回はただの交流試合、本戦の試合とは違いますわ。
一度でもこう言う状況を体験しておけばこれ以降注意しようという気持ちが働く・・・・・・それははじめにとってきっとプラスになる事。
それをこの男は・・・・・・)
そこまで考えて、透華は一度大きく深呼吸をした。
「・・・・・・敵だなんてひどい事を言ってしまいましたわね。
ありがたく頂きますわ」
そう言って焼き菓子に手を伸ばす透華。
「どうぞどうぞ」
「・・・・・・とーかが食べるんならボクも食べる」
一もそれに続いた。
「・・・・・・念の為聞きますけれども、タバスコは入っていませんわよね?」
「もちろん」
「ラー油も?」
「もちろん」
どうやら自分達が仕掛けたようないたずらは無いようだ。
「フッ・・・・・・なら頂きますわ」
「いただきまーす」
余計な心配でしたわね、と笑いながら二人はサクッと焼き菓子を口に含んだ。
「まぁ、ハバネロは入ってますけど」
◇ ◇
「いやぁ、久でもからかおうかと作ったんだが役に立つとはなぁ。
皆考えることは同じか・・・・・・」
どうやら最初からからかう目的で激辛菓子を作っていたらしい。
もっとも標的は別人に変わってしまったようだが。
そんな事を呟きながらサクサクと自分で作った激辛菓子を食べる秀介。
「うん、ハバネロもなかなか。
タバスコ饅頭やラー油蒸しパンも悪くなかったがこれも悪くない」
どうやら激辛好きだったらしい。
しかも透華達が作った激辛の品々の食べかけを貰って食べたらしい。
そこまで好きか。
と、そんな秀介に目を付けた一人の新たな刺客。
(あ、先輩何か食べてるし)
池田であった。
「最後の一個・・・・・・ダウンしてる久に追撃でもかけてくるか」
手に取った焼き菓子が池田の目に留まる。
(美味しそうな焼き菓子だし!)
何としてでも奪い取る!と言わんばかりに池田が秀介に近寄る。
「先輩、そこに何か落ちてますよ」
「ん? どこに何が?」
む?と周囲を見渡す隙に秀介の手からそれを奪い取る池田。
「もらったし! いただきまーす」
「別に何も落ちて・・・・・・あっ」
ちょっぴりにやっと笑ってもらえたらそれで満足。
次回からまたちゃんと麻雀に戻りますので。