平行世界のアルカディア   作:度会

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収束

 

 

――フェイリスの家に着いてから俺は電話で話した通り料理を作ることにした。

 

「だけど、ホントに凶真に料理なんて出来るのかニャン?怪しいクスリじゃなくて食べれ

るものを作って欲しいのニャン」

 

「ふふ、案ずるな。この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真にかかれば料理など造

作ない」

 

俺の話を聞いてフェイリスはニヤニヤとした笑みを浮かべてキッチンを出ていった。

 

どこに行ったのだろうか。

 

暫くするとフェイリスが父親の手を引いて現れた。

 

「ね、作ってるでしょ?」

 

「そうだな。頑張ってくれ。期待してるぞ」

 

「は、はい……」

 

まさか父親が家にいるとは思わなかった。

 

当然失敗はしないと思うが万が一ということもある。

 

俺とフェイリスが食べる分ならどんな風に作ってもいいのだが流石にフェイリスの父親に食べさせるならしっかりと作らなければならない。

 

俺は気を引き締めた。

 

キッチンに入ってきては俺の邪魔になると考えたのかフェイリスはキッチンの入り口の所で嬉しそうに俺を見ていた。

 

期待を込めた視線が俺にヒシヒシと伝わってくる。

 

少し気になってそちらを見るとフェイリスの後ろにはフェイリスの父親がその様子を見ていた。

 

「あれだな」

 

「ニャ?」

 

何か合点がいったように父親が頷く。

 

「何かに似ていると思ってたんだが、あれだ。両親へ挨拶に来て、料理を作らされている感じに似ているな」

 

その理論だと俺は嫁になるのだが。

 

「どういうこと?」

 

「んー、いや、違うな。これは新婚で、珍しく夫が料理を作ると言いだして、それを不安そうに見つめる新妻みたいな感じだな」

 

「なっ……」

 

「え……」

 

俺は意識的に料理に集中した。

 

会話は耳から入ってくるが出来る限りそちらを向かないように。

 

「ちょ、ちょっとパパ何言ってるの」

 

「ん?いや、そのままの意味なんだが。二人は付き合ってるんだろ?」

 

聞こえないフリをしなければ。

 

「へ?そ、そうだけど……」

 

「王子様を見つけたって言った時は父親として少し哀しかったけどな」

 

「そ、そんなこと今言わないでよ。聞いてるでしょ」

 

顔は見えないがきっとフェイリスの顔は真っ赤なのだろう。

 

斯く言う俺も顔に血が集まってきていてる。

 

「白衣を着ているのは研究室にいるだろうから別に不自然でもなんでもないし、なにより、あんな状況でも留未穂を守ろうとしてくれたからな」

 

「あぅ……」

 

最早反論すら出来ないのかフェイリスは言葉にならない言葉を発した。

 

「岡部くん」

 

「は、はい」

 

フェイリスの父親に名前を呼ばれて咄嗟に俺はそっちを向く。

 

目が合うと彼は笑みを浮かべて親指を立てた。

 

「留未穂を頼んだよ。あと、オムライス期待してるからね」

 

今まで耐えていたがもう限界だった。

 

「は、はい……」

 

そう答えると俺は素早く料理に目を戻す。

 

顔から火が出るかと思った。

 

中二病的な意味ではなく本当に。

 

もう一度顔を入口の方にやったがどうやら父親は部屋に戻ってしまったようでそこには顔

を赤くして俯くフェイリスしかいなかった。

 

「ま、全くパパも困った人ニャン……」

 

沈黙を紛らわす為にフェイリスは地面を向きながら呟く。

 

「恥ずかしくて、凶真の顔が見れないニャン……」

 

「フェイリス……」

 

「……呼び方」

 

「あ、留未穂」

 

俺が訂正するとフェイリスは頷いて後ろを向いた。

 

「それじゃ、期待してるニャン、王子様」

 

本気かふざけているのか分からないような動作でフェイリスは俺の視界から消えていっ

た。

 

「いいなこういう生活も……」

 

ここは誰も死なない世界線。

 

ある意味これが最良の世界線かもしれない。

 

俺もSERNなどという機関に脅えたり、対抗することもなく、ゲームや漫画の主人公の

ように好きな女の子とこうして

 

色々なことが出来るのだから。

 

波乱万丈である必要はないのだ。

 

俺はただの大学生。

 

一般人なのだから。

 

「お、そろそろか」

 

どの食器を使っていいのか分からなかったがとりあえず近くにあった皿にオムライスを盛

り付ける。

 

ケチャップで文字を書くと言うことはしなかったがそれなりに綺麗に盛り付けた。

 

俺は緊張した面持ちでリビングにそれを運ぶ。

 

脳裏では昔見た料理の鉄人を思い出していた。

 

あそこまで料理が上手いわけではないが、誰かに審査される点については同じだ。

 

「あ、凶真出来たのかニャン?」

 

「期待に添えるかは分からないが、この鳳凰院凶真特製のオムライスを味合うがいい」

 

「相変わらずの自信ニャ。ちょっとパパ呼んでくるから待ってて欲しいニャ」

 

フェイリスは笑顔で父のいるだろう部屋の方へ歩いていった。

 

正直自信はない。

 

大体フェイリスの父親は社長なのだから舌も肥えているに違いないのだ――。

 

 

 

 

「良かったニャね凶真」

 

「そうだな。寿命が縮む思いだった……」

 

俺とフェイリスはマンションのエレベーターを待っている所だった。

 

結果的に言うとフェイリスの父の舌に合ったようでしきりに褒めて貰った。

 

お世辞かどうかの判断は出来なかったがそれでも素直に嬉しい。

 

「あ、そうだ。留未穂」

 

「い、いきなり呼ばないでよ……。それでなんだニャ?」

 

一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐにいつものフェイリスに戻る。

 

「いや、おじさんから感想を聞いたが留未穂の感想を聞いてなかったと思って」

 

フェイリスが納得してくれたらメイクイーンでバイトをすることが出来るのだ。

 

そもそも、当初の目的はそこだ。

 

「ん……とっても美味しかったニャ凶真。多分お店で出しても問題ないと思う」

 

「そうか」

 

その事実に俺は安堵する。

 

「でも……あんまりバイトに採用したくないのニャ」

 

バツが悪そうに地面を見ながらフェイリスは呟く。

 

空気を読まないエレベーターが到着したようで、間延びした音を立てて扉が開く。

 

俺とフェイリスは黙ってエレベーターに乗り込んだ。

 

「なんでだ?」

 

俺は一階を押してフェイリスに向き合う。

 

幸いにして俺達以外に誰も乗っていなかった。

 

「だって……凶真の料理はフェイリスだけが食べたいんだもん……」

 

モジモジと手を遊ばせながらフェイリスは言った。

 

視線は相変わらず下を向いており表情は分からないが耳まで真っ赤なのは見てとれた。

 

「なっ……」

 

まさかそんな回答が返ってくるとは思ってなかった。

 

完全なる不意打ちだ。

 

そんなことを言われたら諦めるしかないではないか。

 

「分かった。バイトの話は無しにしてくれ」

 

「ごめんニャー、凶真」

 

相変わらず視線は下を向いていたがフェイリスの手がおずおずとした調子で俺の手を握っ

た。

 

その普段とは違う様子に俺の心臓は早鐘を打つ。

 

バイトはまた違うものを探せばいいか。

 

それきり俺達は何も発しなかった。

 

エレベーターが一階に着いたようでドアが開く。

 

手を繋いだまま俺とフェイリスはロビーに出る。

 

「それじゃ、じゃあね凶真」

 

「お、おう」

 

別れの言葉を発した割にフェイリスは指を離そうとしなかった。

 

上目遣いで見るフェイリスは何かを期待しているようにも見える。

 

「ん……」

 

俺がぼうっとその姿を見ていると不意にフェイリスの顔が近づく。

 

気づいた時には俺の頬に柔らかい感触があった。

 

「じゃ、じゃあニャ、凶真」

 

フェイリスは俺の返答も待たずにマンションのエレベーターの中に消えた。

 

頬がやけに熱い。

 

そこだけが特別に熱を持ったかのように。

 

俺はフェイリスの唇の感触を思い出しながら頬に触れた。

 

 

 

 

俺は自室にいた。

 

寝転がり天井を見ている。

 

今日は色々なことがあった。

 

まさか鈴羽の母親に会うことになるとは思ってなかった。

 

母親という表現はおかしいか。

 

母親になる予定だったか。

 

時系列が前後するがルカ子にも会った。

 

この世界線でも相変わらず巫女の衣装を着ていた。

 

世界線の関係でもしかして女だった可能性もあったのでは?と今更ながら思ったが男だっ

た。

 

「後はクリスティーナと……閃光の指圧師か」

 

その二人がいれば関係は違えどラボメンが揃う。

 

尤も未来ガジェット研究所はないのだが。

 

「あ」

 

ふと俺の頭にある考えが過る。

 

閃きにも近いそれは俺の体をパソコンの前に座らせていた。

 

俺の指がキーボードを打つ。

 

「これでよし」

 

全て入力を終え俺は時計を一度見て、エンターキーを押す。

 

 

 

 

【時間】過去に行く方法を見つけたのだが【跳躍】

1 鳳凰院凶真 [age]

過去に行く方法を見つけたのだが。

もしかしたら世紀の発見かもしれない 2010/8/22 22:00:44 ID:h7PtwVat0

 

「こんなんで見つかったら笑えるな」

 

実際にやってみると自分の閃きの陳腐さに笑いがこみ上げる。

 

案の定、スレには『妄想乙』などと言う言葉が飛び交っていた。

 

やはり駄目だったか。

 

そう思って俺がブラウザを閉じようとした時また新たな書き込みが追加された。

 

 

12 栗御飯とカメハメ波 [sage]

 

とりあえず>>1の話聞いてみようぜ 20108/22 22:50:45 ID:+T8+Ac:t0

 

いた。

 

 

本当に釣れるとは思わなかった。

 

ネットは便利だ。

 

つくづくそう感じた。

 

 


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