星崎 祈は勇者になる   作:小鴉丸

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今回は第四話を全部使ってるからいつもより話が長いです。


第九話 願い

〜祈side〜

 

 

僕たちは今園子の家に来ている。今は訳あって園子の部屋の外で待っている。

 

「もう入ってもいいかな?」

 

「いいよ〜」

 

扉を開けて部屋に入る。そこにいたのは。

 

「こ、これは……やっぱりアタシには……似合わないんじゃ、ないだろうか……」

 

「そんな事ないよ〜。ねぇわっしー」

 

「ええ、とても似合ってるわ銀(カシャ)」

 

フリフリした服を着ている銀がいた。園子と須美は普段見ない友人の姿に興奮している。

 

「うおい!やめろ須美、撮るな」

 

「あら、撮ってるのは私だけではないわよ」

 

そう言って須美は僕の方を向く。銀は顔を赤らめている。

 

「い、祈……」

 

「あ、その……」

 

僕は気づかぬうちに端末を取り出して写真を撮っていた。

 

「あー、私も私も、撮影会〜」

 

園子がわたわたと端末を取り出す。

 

「だぁー。はい終わり、もう終わり!」

 

「あぁ〜脱ごうとしないで、私まだ撮ってない〜」

 

「後で画像を送っておくわ、そのっち」

 

なんだろうこの二人の連携。

 

「くぅ〜〜。須美を着せ替え人形にしようと思ったのに、どうしてこうなった」

 

「あら、銀から言い出したじゃない」

 

「そうだよ〜」

 

「え?銀なの?」

 

これには意外だった。まさか銀から言い出したとは。

 

「は?そんなの言ってないぞ」

 

「だって銀が祈くんと「ああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」……どうしたのよ」

 

僕?僕が関係するのか?

 

「ど、どうしたもこうしたもないだろう!?」

 

「照れちゃって〜。ミノさん可愛い〜」

 

「僕がどうしたの?」

 

「いや!なんでもないぞ!気にするなよ!」

 

うーん、そう言われるとますます気になるんだよな。

 

「それじゃあ次の服にいきましょうか、そのっち」

 

「うん。まだまだ沢山あるんだよ〜」

 

まだこれは続くんだな。でも……

 

「銀の可愛い姿が見れるならいいか」

 

「「「えっ!?」」」

 

三人が驚いた。銀の顔がもっと赤くなる。

 

「祈……気持ちは嬉しいけど、そういうのは心の中で言ってくれないかな?」

 

「僕、声に出てた?」

 

「うん思いっきり出てたよ〜」

 

はぁ……凄い恥ずかしい。

 

「とにかく!アタシのお着替えタイムはもういいから!」

 

「えー。あんなに可愛かったのに〜」

 

「そうよ、可愛かったわ」

 

「か、可愛い可愛い言うな〜!!」

 

銀は顔が真っ赤になっていた。

ベットの中に避難して丸くなった銀を、須美や園子が追い討ちしていた。

 

「「か・わ・い・い・!!」」

 

「もうやめてくれよぉ〜〜!!」

 

僕は苦笑いを浮かべて、乃木家の使用人達は、園子の部屋からこぼれる談笑を、微笑ましく聞いていた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

神樹館。

一日の終わり、帰りの会では、生徒皆がソワソワしている。

早く遊びたい子供心と、先生の話を聞かねばという神樹館特有のモラルの高さが、ぶつかっているのだ。

私のクラスでは、担任教師が遠足の説明をしている。

窓から吹き込んでくる爽やかな海風は、七月の暑さを中和していた。

私は背筋を伸ばして、説明を聞いている。

うとうとしている、園子を時々、視線で注意しながら。銀は席が離れすぎてるから注意するには射程距離外だ。

 

「(銀……先生の話はちゃんと聞いてるでしょうね)」

 

チラリと銀を見る。すると銀と目が合った。

 

「っ!」

 

私を見て……いや、正確には私の隣を見ていたのだろう。

 

「…………………」

 

机に肘をついて外を眺めている祈くん。基本暇な時は外を、空を見るか本を読むのが好きだと前に言っていた。

銀もだけど私たち勇者三人は全員が祈くんのことが好き。仲間であり敵。新しくこの関係が出来た。

 

「………と、こんな感じです。祈くん分かりましたか?」

 

先生の説明が終わったようだ。ボーッとしていたから祈くんが当てられたのだろう。

 

「…………………」

 

気づいていない?私は祈くんに声をかける。

 

「祈くん先生が呼んでるよ」

 

「…………………」

 

「祈くん?」

 

どうも様子がおかしい。

 

「ん?どうしたの須美」

 

やっと気づいた。私は今の状況を教える。

 

「で、どうなんですか祈くん」

 

「…大丈夫です。分かりました」

 

「はぁ。ま、よしとしましょう」

 

そうして祈くんはまた空を見始める。

 

「(どうしたんだろう?それに……)」

 

遠足はこの土地を少しではあるが離れることになる。もしそのあいだにバーテックスが攻めてきたら……

 

「(それにしても遠足……大丈夫なのかしら)」

 

 

 

 

 

 

「アハハ、須美考えすぎ」

 

私は放課後、鍛錬が終わった後に、この悩みを仲間達二人に打ち明けた。

シャワーで汗を流した後、服を着ながら、銀は須美の悩みを笑い飛ばした。

 

「でも、遠足している最中にバーテックスが来たらと思うと……」

 

「勇者になれば、少し離れていても大橋まであっという間に到着するから大丈夫だよ〜」

 

「確かにバーテックス達はいつ来るか分からないのがむかつくけどさ、考えすぎてちゃ、何も出来なくなるよ。例えば疲れている今、この瞬間、バーテックスが来たらどうしようなんて思ってしまえば鍛錬もできなくなるし、夜、深く眠ることだって難しくなる。そう思わないかね、鷲尾さん家の須美ちゃんは?」

 

銀の台詞になるほどと頷く。

 

「……確かに分かるわ銀」

 

「たから、でーんと構えて遠足楽しもうよ〜わっし〜」

 

「……二人の精神力が、眩しいわ……」

 

「てなわけで遠足の班は、アタシ達3人と祈ね」

 

「祈くんが私たちの班になった時は周りが凄かったね〜」

 

そのっちが呑気に言う。まぁ、女子だけの班に男子が入ったとなれば他の男子が黙ってない。女子の班に男子が入るのは他にもある、だがそれは女子三人、男子三人というぐあいだ。

 

「でも私が誘った時は断られたんだよね〜」

 

この話は初耳だ。私の時はすぐに了解を出してくれたのに。

 

「ああ、それか。どうも上野達の班に呼ばれてたが私たちのことを知って祈に向こうの班に行っていいぞと上野が言ったらしい」

 

上野くんといえば祈くんとよく昼休みに本を読んでる人だ。

 

「これで遠足も祈くんと一緒だね〜」

 

「そうね」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

遠足当日。

神樹館の遠足場所は、僕達の街から少し離れた場所、県所在地にある。

国内最大級の庭園や、裏山にあるアスレチックコースなどか目玉だ。

僕は行ったことはないが、多くの生徒が行っているらしい。

最初は銀の希望で、勇者御一行はアスレチックコースに来ていた。

 

「勇者ならさ、遊び場のアトラクションぐらい全クリしなくちゃあね」

 

などという銀の謎理論は置いといても、鍛錬が無いので体を動かすには丁度いい、と須美は言っている。

 

「はしゃぐのはいいけど怪我だけはしないでね」

 

三人は今の服でも遊べるコースを軽々と踏破していく。実践と訓練の連続で、須美達の体は、その華奢な外見からは想像でこないほど漲っている。

中学生向けのコースですら、クリアしている。

三人の身軽な動きに、部外者は驚いていた。

 

「あわわ、ゆ、揺れる〜!」

 

園子だけ時々苦戦していたが。

 

「園子、大丈夫?」

 

「うん、ありがと〜祈くん〜」

 

僕が後ろについてサポートしてゴールにたどり着いた。

園子が、えーいと駆け込むようにゴールすると、銀がその体を抱きとめた。

 

「よしよし、よく頑張りました」

 

僕も園子の次にゴールすると、銀が園子の頭をわしわしと撫でた。

 

「うぅ〜次は並んで走れるようになるよ〜」

 

すると、須美がぐいぐいと二人の間に割り込んでくる。

 

「何してるの須美」

 

「仲良くしてるから私も、と思って」

 

「犬かお前は」

 

「きっと、ミノさんに頭撫でられたいんだよ。うまいもんねミノさん」

 

「なんだ甘えん坊さんか。よしよーし」

 

「……」

 

須美は何も言わずに目を細めていた。

次に園子の提案で商工商励館へ。

ここは、工芸品を自分で体験制作する事ができる。園子の立場は、アスレチックの時と、完全に入れ替わっていた。

 

「うぬぬ。器用にできない自分の手が憎い」

 

「そんなことないよ、ミノさんのも素敵〜」

 

「そのっちの作品は……なんというか、凄すぎて溜息しかでないわ」

 

「確かにね」

 

僕もそこそこアレンジを加えているが園子までは到底届かない。

 

「え〜思ったことを表現してるだけだよ〜」

 

「でもスタッフさん達なんか、皆ビックリして、園子の手元に注目してるぞ」

 

「そのっちの独創的な発想、分けて欲しい」

 

須美の作品を見る。須美サンプル道りに作っていた。

 

「須美の作品はサンプルにそっくりだね」

 

「ええ、あまりこういうのは得意じゃないのよ」

 

「アタシは元の型なんて壊していくからな」

 

「サンプル通り作れなかったからって開き直らないでよ」

 

「……やっぱ分かるか、アハハ!」

 

銀は豪快に笑い飛ばす。

結局、園子の作品は展示したいから、譲り受けたいと、商工商励館にお願いされるレベルのものが完成していた。

最後は、僕と須美の場所か。

 

「私の場所はあまり面白くないから祈くんが先でいいわよ」

 

んー、そう言われると僕の場所もつまらないんだけどな。

 

「僕の場所は暇だけどいい?」

 

「いいよ〜」

 

僕の提案で次は日本庭園を散策する。

 

「なんだ私もここに来たかったのよ」

 

どうやら僕と須美の場所は同じだったらしい。

 

「それにしても、素晴らしい景観ね……日頃の疲れが癒されるわ」

 

「そうだね……心が落ち着くよ」

 

和の美しさを前にして、須美がうっすりと目を細める。

 

「確かにいい眺めだけど、ここが一番の楽しみとは、流石須美だ……それと祈は意外だったな」

 

「僕はこういうのを見てると落ち着くから好きなんだよ」

 

こういう静かな場所で本を読んでみたいとかも考えている。

 

「わっしーは少し丸くなった気がするけど、ここはブレてないね〜」

 

「では二人に、ここがどれだけ素晴らしい場所か、おしえてあげるわ」

 

銀と園子の手をしっかりと握って、須美は微笑んでいた。僕はその光景を微笑ましく思った。

 

 

 

 

帰りのバスの中では、皆遊び疲れのせいか寝息を立てている。

 

 

須美達も例外では無かった。

やがてバスは何事もなく神樹館へ。

夕暮れの中、四人は帰途についた。

 

「あ〜楽しかったね〜。またみんなで来たいよ〜」

 

珍しく園子がハイだ。

 

「バスの中で寝てたから元気だね」

 

「祈も寝ればよかったのに」

 

「僕はそこまで眠くなかったからね」

 

それに敵がきたら迎え撃つために。

 

「明日は、お休みだね〜。半日は鍛錬として後、半日はどうしようか?」

 

「そうね……」

 

須美が何をするかを考えている。僕はゆっくりと本を読んで過ごそうと考えた。

 

「よし、じゃあアタシのとっておきイネスフルコース巡りにご招待!」

 

その時、いつもの違和感が四人の体を襲った。

時間が止まり、世界が樹海化する前兆だ。

 

「ご招待したいのはバーテックスじゃないんだけどねぇ」

 

「も〜せっかく楽しい遠足だったのに〜。最後の最後コレなんて無枠ってやつだよ〜」

 

「あはは、でも遠足が終わった後に来た分、まだマシだね」

 

そこに須美からのツッコミが入る。

 

「家に帰るまでか遠足なのよ、祈くん」

 

「先生か!」

 

銀が返し、園子が号令をかける。

 

「じゃあ、いくよ〜!!」

 

いつもより声が大きい、気がした。園子の号令で四人は端末を手に取り、勇者へとその姿を変えた。

 

 

 

 

僕達四人は、大橋の上で敵を待ち構える。

いつものように、世界は樹海化していた。

 

「だんだこの光景も見慣れてきたなぁ」

 

銀が、準備体操をしながら、大橋から見える景色について、そんなことを言う。

 

「油断しないように銀、そういう時が……」

 

「一番危ない、でしょ?分かってる須美」

 

「なんだかミノさん、最近わっしーに注意されるような発言を、わざとしてるみたい〜」

 

「アハハ、なんだかクセになってさ」

 

「勘弁して欲しいわ」

 

「まぁまぁ、こういうのも大事だよ」

 

そうして会話していると敵が見えてきた。

 

「!来たよ〜。え、ええええ?」

 

「どうした?園子」

 

園子が驚いた理由は銀も僕達もすぐに判明した。それは敵が“二体”進軍してきているからだ。

 

「あちゃあ、同時に二体……そうだよなぁ。律儀に一体ずづ来る必要ないよなぁ」

 

「バーテックスは単独行動が基本と聞いていたけれど……」

 

須美達にとっては四度目の実践。だが三人は心を落ち着かせていた。僕は星樹に手を添える。

 

「驚いたけど、大丈夫だよ〜。私とミノさん、祈くんが敵を引きつけるから、わっしーは遊撃で、援護してね」

 

流石だ。若葉の血をひいているだけはある。

 

「流石ね、そのっち。了解!」

 

「じゃあアタシは、気持ち悪い方と戦う!」

 

「どっちの敵も気持ち悪いと思うんだ〜!」

 

「待って、二人とも」

 

僕は二人を引き止める。

 

「どうしたの〜」

 

「銀と園子は針の方を相手して、僕が鋏のやつを相手する。それと須美はなるべく銀達の援護をして僕には気を配る程度でいいから」

 

僕は実践もはるかに多い、過去の記憶も思い出してきている。一体くらいなら余裕だ。もし、危険になったら最悪奥の手を使えばいい。

 

「ダメだわ、危険すぎる」

 

「祈の頼みでもこれは……」

 

反対意見が出てくる。

 

「大丈夫だよ〜。祈くんを信じてみよ〜」

 

「ありがとう園子」

 

「そのっちがそう言うなら」

 

「無茶はするなよ祈」

 

それが合図になった。

銀が突撃し、すかさず園子も続く。

須美も、矢をつがえた。

 

「結構大きい鋏だな」

 

鋏を振り下ろしてくる、それを避けてすきがある時に攻撃をしていく。

 

「若葉ほどの居合いじゃないけど……ねっ!」

 

一閃。

そこに追撃、敵の攻撃がシンプルだから落ち着いて対処できている。

 

「(早く倒してあっちを手伝いに行かないと)」

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

「わっしーの攻撃で敵が怯んだ時に畳み掛けるよ〜。それまでは粘るよ〜」

 

「オッケーだ、園子!」

 

この調子でいけば勝てるよ〜。

バーテックスは私達の連携攻撃で少しずつ後退している。

 

「(みんないいかんじ〜)」

 

その余裕が命取りになった。

 

「みんな!上から攻撃がくる!距離を!」

 

祈くんが叫んだ。

幾千の光の矢が、どしゃぶりの雨のように、降り注いだ。

 

「これ広域だ!逃げられない〜!」

 

私はとっさに頭上で槍を回転させる。ミノさんは二つの斧を重ね合わせる。

 

光の矢を凌ぐ。

しかし、その上空からの謎の攻撃と同時に。

二体のバーテックスも、この矢の雨の直撃を体に浴びながら。

強引に攻撃を仕掛けてきた。

 

「うぁぁぁあああああっ!!」

 

私達の体が宙に舞う。

橋の上にどさりと崩れ落ちる。

 

「あ……あぁ……ぁぁ……い、痛い……」

 

わっしーが激痛に声を漏らす。

どこをやられたのか。全く分からない。

 

「げほっ、ごほっ、ごほっ……」

 

「た、立てるか……須美、園子……?」

 

ミノさんがよろよろと立ち上がるのが見えた。

私も立とうとするが、さっきより倍の痛みが体を駆ける。

それと同時に血をはいた。わっしーも同じだった。

 

「これは……ちょっと……マズイ、かな」

 

ミノさんがバーテックスを見ながら言う。

視界に入ったのは、二体に合流する、三体目のバーテックスだった。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

「動けるのはアタシ一人か……。こりぁとるべき道は一つかな」

 

アタシは接近戦担当、その分他の二人より防御力が高いらしい。祈のはどうか知らないけど。

アタシは二人を抱えあげた。このままだと全員死んでしまう、だから。

 

「よっと……園子より須美の方が重いかな」

 

「何を言ってるの……銀……こんな時に」

 

「ミノさん、どうするつもり……」

 

どう、ってそりゃぁ。

 

「勇者が逃げたら世界は終わっちゃうから、ここは頑張るしかないっしょ」

 

二人の手をぎゅっと握った。

 

「……銀?」

 

そして、アタシは二人を大橋の上から。

 

 

 

 

 

「アタシに任せてアンタ達は休んどいてよ」

 

 

 

 

 

海に向かって、放り投げた――。

 

「! なっ!?」

 

「ミノさん……!!」

 

 

 

 

 

「またね」

 

最後の言葉。

二人に別れを告げた。

 

「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいん!!!」

 

叫びながら、二人は落ちていく。

やがて園子と須美の姿は、完全に闇に消えた。

 

「さーて、と……」

 

問題は次なんだよな。

 

「……銀」

 

私達の想い人。

刀を手に持ち立ちふさがる。

 

「そこをどいて、祈」

 

星崎 祈。

 

「……嫌と言ったら?」

 

「力づくで通る」

 

アタシは斧を構える。

 

「……………」

 

祈が刀に手を添える。

祈の力は未だに謎が多い。あの刀だってなんなのか私達全員知らないだろう。

 

 

「止めてみなよ」

 

 

それが合図になった。

鞘から抜き放たれた一閃。アタシはなんとか防御する。

 

「くっ!?」

 

「……………」

 

だが、一撃が重い。まるで長年放ってきたかのような。

祈が鞘に刀をしまう。

 

「な!?」

 

「銀、結果は見えてる。諦めて、こんな事をしてる場合じゃ……」

 

今だ!祈は油断している、このタイミングで!

 

「らぁぁぁぁぁっ!!!」

 

アタシは祈に向かって片方の斧を投げる。

それに身を隠しながら突っ込む。

 

「っ、銀!」

 

投げた斧は弾かれる。だが……。

 

「へへっ」

 

まさかこんな場所でするなんてね。

アタシはもう片方の斧を手放し……。

 

「!?」

 

祈に抱きつく。

 

「ぎ、銀?」

 

「祈……アタシ、アンタのこと……」

 

顔を見合う。そして。

 

「―――――好きだよ」

 

橋から突き落とした。

 

「………………!」

 

祈もやがて見えなくなる。

一瞬だけ強く握った両手のぬくもり。

それと……。

 

「ここは任せろって言った以上……責任持たないと、かっこ悪いからね……いっとくかァ!!!!!!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「ゴホッ……ゴホッ……!」

 

まずい流石に一人で三体の相手は無理がある。四人で戦えば何とかなるのに。

先ほどの銀の行動が過去の記憶と重なる。

 

『後は……私に任せて』

 

一番親しかった。なのに、その言葉が最後になった。

 

「っ!繰り返さないと決めたんだ!」

 

神力を集中させる。

もう一度、力を呼び覚ます。

僕の本来の―――

 

「――神装」

 

『天照大御神』そのものの力を宿す。

体が宙に浮く。星樹も強く輝く。

 

「………銀」

 

神の力。

勇者ではない力を一人の女の子を救うために使う、か。

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

アタシは少しずつ、少しずつ、バーテックスを引き返させていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

防御を捨てて攻撃しているから苛烈な攻めが展開できる。だが、どんなに一撃が小さくとも相手の攻撃を受け続けているためダメージが少しづつ蓄積されていく。

 

「っ!このまま……出て行けぇぇぇ!!!!」

 

このままいけば押し切れる。そう思っていた。

光の矢が、動きを止めるように、左足を貫いた。

 

「う……あぁ…………ッ!」

 

踏みとどまろうとするが足に力が入らない。

 

「(立て、立て!立て!)」

 

バランスを崩し倒れる。顔を前に向けると、バーテックスがまたこっちへ向かってくる。

二体のバーテックスの後ろに矢を放つバーテックスがトドメを指すようにアタシに狙いを定める。

 

「(ああ、ここまでか……)」

 

脳裏に浮かぶ。弟やクラスの子、須美、園子、そして祈。

 

「みんな……ゴメンな……」

 

光の矢が発射され目をつぶる。どうあがいても死ぬからだ。後は自分の死を待つのみ。

そう覚悟していた。だが、そこにいないはずの声が聞こえた。

 

 

 

 

「勝手に死ぬなんてさせないよ」

 

 

 

 

そこにいたのは光輝く祈だった。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「……祈」

 

光の矢が迫ってくる。

僕はそれを難なく切り伏せる。

 

「銀、守るから。ここで待っててね」

 

銀を敵から離れた場所に置く。

 

「敵は三体か……」

 

敵を見据える。まずはめんどい矢を放つバーテックスを倒すことにした。

敵に向かいながら新たな神を降ろす。僕は同時に複数の神を降ろすことが出来る。

『自分』と武器の『星樹』にだ。

神降ろしで僕は風を身に纏う。降ろした神は『志那都比古神(しなつひこのかみ)』。分かりやすく言えば風神。

光の矢が僕を撃ち抜かんと向かってくる。それは僕の周りに吹く風で消滅してゆく。

間合いを詰め星樹を構える。

 

「『火之迦具土』!焼き祓え!」

 

渦を巻きながら星樹に炎が宿る。横に薙ぎ払い敵の体が真っ二つになる。そこにもう一度攻撃を加える。

敵は跡形もなく焼き消えた。残り二体のバーテックスはそれに怯えたのか引き返してゆく。

だがそれを逃しはしない。

 

「――『建御雷神』よ。力を――」

 

疾風迅雷。

長い尾のバーテックスの上で止まり、星樹を下にし僕自身が雷のように落ちる。剣を地面に突き刺した。

そのバーテックスは落ちてきた雷により消えた。

最後のバーテックスはその隙に逃げたようだ。

 

「ふぅ……」

 

星樹を鞘にしまう。

静かな樹海に今回の戦いは終わったんだと実感する。

 

「い、祈くん……?」

 

振り向くとそこに須美がいた。園子と一緒に銀を背負っている。

 

「……須美」

 

この三人には言った方がいい。

この世界の真実を。

そして……僕自身の……

 

 

 

 

 

「みんな……大事な話があるんだ」




次回予告

「話って……」

「僕は――」

「傷が治ってる?」

「はいはい鷲尾先生」

「それ……本当なの?」

第十話 真実

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