星崎 祈は勇者になる   作:小鴉丸

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第八話 本当の力

〜須美side〜

 

 

「好きな人の言い合いっこしよう!」

 

その銀の意外な一言で、闘志は消え去った。

 

「銀、好きな人って……」

 

「も・ち・ろ・ん。お父さんとか身内で濁した奴は、勇者の称号剥奪な!」

 

「そ、そういう銀はどうなの?」

 

予想はついてるけど……

 

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

お、一番は私か。

 

「ミノさんの好きな人〜?気になるな〜」

 

「自分からこの話を持ち出したんだから『いない』なんてことは無いわよね」

 

「いや、いるさ。好きな人くらい」

 

園子は期待に目を輝かせている。珍しく須美も話に食いついてきた。

 

「だ…誰クラスの人?」

 

「お、おう……」

 

自分から持ち出したはずなのに段々と恥ずかしくなってきたな。

 

「え〜、ますます気になるな〜」

 

「銀、誰なのよ」

 

うう、須美が強気になってきてる。これは早めに言ったほうが楽になるかな。

 

「い、言うからな……」

 

「わくわく〜」

 

段々体が熱くなってきた気がする。あ〜、ここまで来たんだ言うさ!

 

「私が好きな人は……………祈だ!」

 

よし!言った、言ったぞ!二人の反応は?

 

「「……………………」」

 

あれ、固まっている?

 

「お、おい。須美、園子?どうしたんだよ」

 

「……………………ぇ」

 

「え?」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」」

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「そんな!銀も祈くんが好きだったなんて!」

 

私は思わず声を出してしまった。

 

「銀『も』?」

 

「ほー、へー、やっぱり須美は祈のことが……」

 

「ええ!私も好きよ!」

 

胸を張って言う。これで後はそのっちだけとなったが、私や銀はそのっちが誰の名前を出すか何となくだが分かる。

 

「これで後は園子だけだな」

 

「そのっちは誰が好きなの?」

 

 

 

 

~園子side〜

 

 

「ん〜とね〜」

 

二人とも祈くんか〜、いなかったらわっしーとミノさんって言おうと思ってたけどな〜。

 

「私も祈くんだよ〜」

 

「「はぁ………」」

 

二人はやっぱりと言わんばかりにため息をついた。

 

「全員祈くんが好きだね〜」

 

「そうね」

 

「そうだな」

 

う〜ん、祈くんモテてるな〜。

 

「でも二人には負けないよ〜!」

 

「わ、私も負けないわ!」

 

「勇者は恋も全力!やっぱり女子はこんなふうに燃えるような……」

 

その時、三人は、時間の停止を体感した。

 

「燃えるような戦い、か……ハァ……。盛り上がってたのにバーテックスとか勘弁してよ」

 

「気持ちはわかるけどぼやかないの。隊長、号令を」

 

「え、ええと出撃〜」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

温泉から上がり浴衣に着替えて部屋の外に僕は座っていた。星樹を手に持ち空を眺めている。夜だからか周りの音がよく聞こえる。みんなが部屋で何か言っているが外にいて詳しくは分からない、だが盛り上がっていることは確かだ。

今はこの時間を大切にしてほしい。

 

「え、ええと出撃〜」

 

勇者の姿になって園子たちが橋に向かって飛んでいる。敵が来たんだ。気がついたら樹海化が始まっていた。

 

「繰り返さない、だから……」

 

僕は勇者システムを起動する。本来の力を取り戻したからか勇者の姿に変化していた、神装のように白を基調とした姿だ。

みんなの後を追うように僕は橋に向かった。

 

 

 

 

〜園子side〜

 

 

大橋に私たちは武器を構えて敵を待っていた。

 

「来たっ、おぉ今度はなんかビジュアル系なルックスしているね」

 

「と、尖っていて強そう~」

 

「矢で攻撃してみるわ」

 

わっしーが弓を引き絞る。それと同時にバーテックスは橋にずしん、とその巨体をおろした。

四本の牙のような部分が橋に思いきりめりこんでいる。

 

「今回こそ……!!」

 

わっしーが気合いを込めて矢を放つ。竜巻のような螺旋力を纏い、標的に向かって飛んでいく矢。

バーテックスは、小刻みに振動をはじめて。

それと同時に大橋が、樹海が、世界が、グラグラと大きく揺れる。

 

「地震、あいつが起こしているのか!?」

 

「そうみたいだね」

 

ぎいん、と鈍い音がする。

 

須美の矢は、その振動ではじかれてしまった。

 

「う、また通じないというの……?」

 

ああ、わっしーが落ち込んでる。

 

「落ち込んでる暇はないよ、わっしー!この地震を止めないと!敵に近づくよ〜!」

 

「え、ええ」

 

バーテックスは橋から牙を抜き、空に急上昇をはじめていく。

 

「なんだ?地震は止まったけど……このまま逃げる気か!?降りてこいコラァー!」

 

「わっしー、ミノさん!警戒して!」

 

月の光を受けて敵の体が鈍く光る。

 

 

「!ミノさん、敵が何か仕掛けてくるよ!斧で防御して防御〜!!」

 

「えっ……んなっ!」

 

バーテックスは上空から、雨を降らした。正確には雨と形容できるほどの光弾。

 

「避けたら橋も樹海もやばい!上っ等!!野球は結構好きなのよね!!」

 

ミノさんが二つの斧で光弾を上空に弾き返す。

 

「敵を撃ち落とすぐらいはしなければ……!」

 

「わっしー?」

 

わっしーが何かに気づいたみたいだ。

 

「銀、大きいのがくるわよ!」

 

わっしーが叫んだと同時にレーザーじみた攻撃が銀にめがけて撃ち込まれた。

ミノさんは二つの斧をあわせて盾として光線を受け止めようとした。

だがそこに何かが割り込んできた。

 

「………………」

 

白い服に身を包み、刀持った祈くんだった。

 

「祈!?」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

大橋についてまず目に入ったのは光弾が降り注いでる光景だった。

僕は次の攻撃手段に移行しているのに気づいてすぐに銀の場所へ走る。

 

「銀、大きいのがくるわよ!」

 

「(間に合うか?)」

 

銀が斧を盾にしようとしている攻撃はレーザーだった。僕は銀とそのレーザーのあいだに割り込んで力を発動する。

刀は左手に持ち右手を前に突き出して叫ぶ。

僕が降ろす神は……。

 

「『八咫鏡』!攻撃を反射しろ!」

 

僕の前に大きな鏡が現れた。レーザーは鏡に反射され発射したバーテックスに当たった。

僕が降ろした神は『石凝姥命』。三種の神器の一つ『八咫鏡』を作った神だ。

 

「銀、大丈夫?」

 

「あ、ああ」

 

銀は何が起きたのか分からないという顔で僕を見ている。それは他の二人も同じだ。

 

「攻撃をするなら今かな」

 

「祈くん!ミノさん!」

 

園子?どうしたんだろう。

 

「攻撃するなら狙うのは胴体じゃなくて……」

 

園子が指をさす、胴体ではなく――。

 

「園子さん見かけによらず凄いこと考えますね」

 

銀が驚いている。これには僕も銀と同じだ。

まだ体勢を立て直してないバーテックスに須美の弓が放たれる。狙うのは発射口。

 

「任せて〜!」

 

「よっしゃ!行くぞー!」

 

園子と銀は勢いよくバーテックスに突撃する。

僕は刀を鞘から抜き出す。久しぶりの感覚だ。

 

「……戦い方は覚えてる」

 

僕も二人に続いた。

 

「ここから、皆の場所から出ていけ〜!!」

 

四人の一斉攻撃を受けて空から下に落ちてゆく。

気がつけば、壁の近くまでバーテックスを押し戻している。

バーテックスは壁の外へ逃げた。

 

「……いったかな〜?」

 

「みたいだな」

 

「も、戻ってこないよね〜?」

 

「少し待ってみよっか」

 

壁の前で敵がきてもいいように構える。

 

「戻ってくるなら……射ぬく!」

 

その気迫に押されてか、敵が戻ってくる事は無かった――。

 

 

樹海化は解除され僕達は大橋が見える公園にいた。

僕はみんなから少し離れる。

 

「(みんなを守る。誰一人死なせない為に……。それが僕の、みんなの……)」

 

空を見ると星が光ってる。

そう、星は無数にある……




次回予告

「か、可愛い可愛い言うな〜!!」

「あ〜楽しかったね〜」

「え?銀なの?」

「守るから」

「だんだこの光景も見慣れてきたなぁ」

「またね」

「ミノさん……!!」

「――神装」

第九話 願い

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