星崎 祈は勇者になる   作:小鴉丸

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第七話 合宿

〜祈side~

 

 

戦いが終わったのを見て僕は横になっているみんなの所に歩く。

 

「みんな大丈夫?」

 

「私達のことより自分の心配をしなよ~」

 

「僕は…平気だからさ」

 

「嘘は言うなよ祈、竜巻の中に入ったんだからそんなはず……」

 

銀が僕の方を見る。

 

「(あ、嫌な予感)」

 

「あれ?傷が治ってる?」

 

「祈くんは魔法でも使えるの~?」

 

やはり不自然に思われるか、適当にこの話が来たら流そうと考えていたけど。でも魔法と思われても仕方が無い、竜巻に突っ込んで体中を風の刃に切り裂かれたのだ普通ならこんな短時間で回復するはずは無い。勇者でさえ回復能力が強化されているがここまで早く回復はしない、僕はみんなが敵に攻撃している時に神力で治癒能力を高めたのだ。

 

「(でもここで言うとめんどくさいことになりそうなんだよな)えっと……奇跡が起こったんじゃないかな?」

 

我ながら酷い話の流し方と思った。

それからは樹海化が解除されるまで全員で横になっていた。

 

 

 

それと須美が何か言いたげだったけど何だったんだろう?

 

 

 

 

~須美side~

 

 

「はぁ………」

 

その戦いから祈くんは二日間学校を休んだ。きっと戦いで負った傷のせいだろうと私は思っている。 担任の先生は「家庭の事情で祈くんは何日か休むことになりました」と言っているが本当の理由は違うと思う。先生は大赦の関係者だ、大赦側が祈くんに直接何か言ったから休んだのだろう。そこまで考えていたらそのっちと銀が私の席に来た。

 

「わっしー?今日も行ってみる?」

 

「いいえ、これ以上行っても親の迷惑になると思うから祈くんが来るのを待つことにするわ」

 

「そうだな、祈のお母さんも何か言いずらそうだったし」

 

祈くん……大丈夫かな?

 

 

 

 

~祈side~

 

 

正直めんどくさい、と思っている。表側で大赦とはあまり関わりたくなかったんだが……。

でもしょうがないか、この前の戦いで大赦の人になぜか僕のことを知られてしまったから大赦の人が家に来て「大赦まで来てくれ」と言うことがあった。母さんはもう既に僕が勇者ということも知っていて、三好春信という人が大赦から派遣されて僕の家まで迎えに来た。

今は春信さんの車に乗って大赦に向かっている。

 

「……星崎祈だったな」

 

「はい」

 

「お前が個人で大赦に絡んでいたことは知っている、何をしていたかを教えてくれないか」

 

もう隠しても意味無いか。

 

「神樹と話していました」

 

「神樹様と?」

 

「はい、大したことは話してませんけど」

 

そう言うと春信さんは少し考え。

 

「星崎くんは勇者であり巫女の力もあるんだね」

 

巫女って何だ。いや分かるけど多分僕が思っているのとは違うのだろう。

 

「巫女ってなんですか?」

 

「巫女とは神樹様のお告げが聞ける人のことを言うんだ」

 

お告げか、僕は直接話してるから違うんだろうけどな。そこまで話すと車が鳥居の近くに止まった。

 

「っと着いたよ」

 

「ありがとうございます」

 

僕と春信さんは車から降りて大赦の階段を上り、そして大赦の中に入りとある扉の前で止まった。

 

「ここからは星崎くんだけで入ってくれないか?」

 

「いいですけど。何かあるんですか?」

 

神関連だろう、扉越しでも神力が分かる。

 

「私達でも分からない。ただ上の人に星崎くんを入れろとしか言われてないから」

 

神樹がどうせ何か施してるんだろう。

 

「分かりました、では行ってきます」

 

「私はここで待っておくよ」

 

扉を開けて中に入ると少し広い場所になっていた。そこには七つの武器が置いてある。

 

「武器?」

 

武器は刀、手甲、鎌、旋刃盤、クロスボウ、薙刀そして一番奥に置いてある刀。僕は一番奥の刀に近寄った。

 

「(これが神力を発しているのか?)」

 

その刀を手に取った途端に周りが白くなる。

 

「これは……」

 

何度も経験している、この現象を起こすのは神樹だ。

 

「何度も悪いな」

 

「いや、もう馴れた。で何だ?」

 

「前の戦いの話なんだが」

 

あまり話したくないんだよな、例えば……

 

「言いづらいが、お前の剣についてなんだが……」

 

「……天秤の頭に刺さったままなんだけど」

 

「………………………」

 

「………………………」

 

これはとても触れてほしくないことだった。敵の回転を止めるのに精一杯だったからその後に突き刺さった剣を取るのを忘れていて今は武器がない状態にある。

 

「お前に武器を与える。だからもう一度戦ってくれるか?」

 

神樹が言うと目の前に剣が現れた。

 

「(この剣が僕の新しい武器……)」

 

懐かしい、と言うとおかしいがそんな感じがして仕方が無い。

 

「その刀は神刀『星樹』お前の力を最大限に引き出してくれる」

 

僕はその剣を掴みとる。

 

 

 

 

 

………………!

 

 

 

 

 

「!?」

 

何かが記憶を横切る、思い出すために意識を研ぎ澄ます。

 

 

 

 

 

『若葉…ゃ…、祈く…、手を伸ば……くだ…い!…こにあ……ず…す!』

 

『刀?』

 

 

 

 

 

「『若葉』?……若葉……………」

 

「星崎祈どうしてそれを………」

 

誰だっけ?とても大切な、忘れてはいけない、何かが……

 

「若葉……乃木……。……乃木……若葉……『乃木若葉』?」

 

「………………………」

 

そうか、七つの武器。あれは勇者の……

 

「僕はあの時……」

 

思い出した。この武器の懐かしいという感覚これは僕の武器だったんだ。

 

「そうだ、だが今を見ろ。私の用は武器を渡すだけだからな」

 

目の前は元の光景に戻っていた。それから僕は春信さんがのところまで行き自分の家に帰った。

 

 

 

 

〜神樹side〜

 

 

誰もいない樹海で神樹は祈に声を飛ばした。

 

「(時間が無いぞ、急げ星崎祈)」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

久々の学校だけど特に何も言われることなく放課後を迎えた。教室にそのまま残って欲しいと須美に言われ、いまは教室にいる。

 

「何かしたっけ、僕」

 

思い当たることもないしな。

 

「……祈くん」

 

「話って何、須美」

 

「前の戦いでなんだけど謝っておきたくて」

 

謝る?須美が僕に謝ることなんてないのに。

 

「祈くん、前の戦いで怪我したじゃない?」

 

ああ、それのことか。

 

「そこまで大した傷じゃなかったからいいよ。それにもう治ったから」

 

「でもあの時私、心配で……動けなくなって……祈くんに何かあったら……」

 

須美の目からは涙が流れていた。

 

「(そうか、樹海を傷つけ僕が危険な目にあったから)」

 

須美は抱え込みやすい性格だ。今回のことを抱え込んでいるのだろう。

 

「……ごめん、ごめんね……。私のせいで……」

 

「須美………それでも無事だったんだから、大丈夫だから、ね?」

 

「うん……うん……。ありがとう……祈くん」

 

須美は泣いている、鷲尾須美は勇者だ。だがそれと同時に一人の少女でもある。自分の役目は……みんなに託された思いは……。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「合宿、ですか?」

 

「そ、今度の三連休、大赦が運営している旅館で合宿してもらいます」

 

先生から勇者四人が空き教室に呼ばれ隊長の任命と合宿のことについて話があった。隊長はそのっちになった、家柄のこともありだろう。

 

「効率的に鍛えれますね、助かります」

 

「合宿……うわぁ、お泊まり会だ〜やった!」

 

「そりゃ楽しみだ、いよいよ夏だし。なんだかワクワクしてきた!」

 

「合宿?僕も?」

 

「はい、星崎くんも勇者ですから一緒に合宿をしてもらいます」

 

「うーん。ま、いっか」

 

須美と三人の温度差を、担任教師はある意味、頼もしく感じた。

少女達が真面目すぎても、お役目の重さに潰される。そういう意味では、鷲尾は苦労するだろうが、いいチームであると。

 

 

――そして、勇者達の合宿が始まった。

 

 

 

少女たちは、道場でみっちりと鍛錬を重ねる。基礎体力から技の型まで、全てその道の達人が指導にあたっていた。

祈くんは私達とは違う場所での鍛錬をしている。

少女たちの自由時間は、夜の鍛錬後、入浴時間からである。

ここから就寝までは、自由に過ごせる。朝は五時起床なので、夜更しは出来ないが。

三人は、温泉にゆっくりとつかっていた。

 

「バランスのとれた食事。激しい鍛錬。そしてしっかりと睡眠。勇者というか体育会系の合宿と全く同じだわコレ……なんかこう、超必殺技をバーンと授けるようなイベントはないのかね?須美」

 

「基礎はとにかく重要だから仕方無いわ銀」

 

「なんだか私、少し筋肉ついてきたかも〜」

 

「やれやれ強くなるのはいいが、これから成長する女の子がこなすには、イロンな意味で厳しいメニューだ。悲しー」

 

「銀、文句が多いわよ」

 

「そりゃ既に色々成長している鷲尾さん家の須美さんは余裕があるでしょうよ」

 

「成長……?」

 

「その胸、クラスで一番大きいんじゃない」

 

「銀!!!!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「あ〜、汗を流すのに温泉とは大赦もいいことするな〜」

 

僕は須美たちとは別に鍛錬をしていた。鍛錬といっても昔の戦い方を思い出すために、適当に理由を作り一人で鍛錬をしたいと言い許可を貰った。

今はそれが終わり温泉につかっている。

 

「それにしても……」

 

僕は竹で作られた仕切りを見る。

 

「(向こうは須美たちが入ってるんだったな。でも、なんでこんなに騒がしいんだ?)」

 

須美に限って風呂で騒ぐことは無いと思っていたのだが。

 

『その胸、クラスで一番大きいんじゃない』

 

『銀!!!!ひゃっ!?』

 

『それに柔らかい』

 

『ぎ、銀!やめ…て…』

 

「!?」

 

なんの話してんだよ!少し聞き耳を立ててみる。べ、別に興味があるわけじゃないし!

 

『事実を言ったまでだね!むしろ大きいくせに照れてるとか贅沢言うなー!』

 

『まさか反対に起こるとは……』

 

『こんにゃろ!』

 

バシャ!

 

『な、なんて行儀が悪い……』

 

『そんな行儀なんて知るか!それそれ!』

 

『子供のいたずらだわ……耐えるのよ須美』

 

『あぁ、子供だからな、続けるよ。ほれほれ』

 

バシャバシャ!

 

『くっ!このっ!もう我慢できない』

 

『沸点ひくいなー須美』

 

『うるさい、えいっ!』

 

バシャ!

 

『ぶわっ、へへ、お行儀悪いんだ』

 

『ねぇねぇ。 わっしー、ミノさん』

 

『お、どうした園子?』

 

『今の会話、反対側に聞こえてるかもよ〜。ね〜祈くん〜』

 

『〜〜〜!?!?』

 

素直に言うか、隠しても無駄だろうし。

 

「 ごめん聞こえてた」

 

 

『い、祈くんの……』

 

『お、おい須美何してんだ』

 

え、何。何かされるの。

 

『バカーーー!!!』

 

バシャ!!!!

 

「お湯!?」

 

仕切り越しにお湯をかけてきた。でもこれは僕が悪いのか?

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

温泉から上がり私たちは部屋に布団を敷いて寝ようとしていた。だが……

 

「お前ら、簡単に寝られると思ってる?」

 

「私はいついかなる時でもすぐ寝られるよ〜」

 

「明日も早いのよ銀、ほら目を閉じなさい」

「いやだ」

 

須美がいつもの優等生意見を出したが、私は速攻で拒否した。

須美が立ち上がる。それを私は女子なら誰でも興味を持つ話で妨害する。

 

「まぁ待て須美、話がある」

 

「何なの?」

 

ふっふっふ、この流れは私の勝ちだな。

 

「好きな人の言い合いっこしよう!」




次回予告

「だ……誰?クラスの人?」

「え、ええと出撃〜」

「繰り返さない、だから……」

「燃えるような戦い、か……ハァ……」

「戦い方は覚えてる」

第八話 本当の力

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