星崎 祈は勇者になる   作:小鴉丸

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ログインボーナスが再び……神樹様が枯れちゃいますね。

それでは六話です。今回は微妙に長いです。


第六話 新たな勇者

~祈side~

 

 

「なぁ星崎遊ぼうぜ!」

 

「星崎君ちょっと話そ?」

 

転入して二日目。昨日に続いて僕の周りには人だかりが出来ていた。趣味や色々と聞かれる。

 

「う、うーん……」

 

人と話す事はそこまで得意じゃないので正直困る。

 

これならバーテックスを相手する方がまだ楽だ。……物理的にだけど。

 

「遊ぶのはちょっと……ほら、昼休みでもないし。話すくらいなら」

 

因みに今は三時間目の休み時間。次は移動教室や体育ではないので早めに行動する人はいない。

 

「それなら何聞こっかな〜」

 

「でも昨日で結構聞いたよね?」

 

「だよな~。うーん」

 

悩まれても困るんだけどなぁ。

 

こんな時に上野が同じクラスだったら、と思う。学校自体違うけど。

 

「そうだ! 昨日ははぐらかしたからさ好きな人の話しようよ!」

 

机に体を乗り出して聞いてくる。それに食いついたのは大抵女子だ。

昨日ははぐらかした。というのは同じ事を聞かれて曖昧な回答をして時間を潰していたからだ。

 

中学生、つまり思春期真っ最中だから恋愛の話は神樹館の時よりも盛り上がる。

 

「(僕は盛り上がらないけど)」

 

チラッと僕よりも前の席に座る女子に視線を向ける。そこでは銀と園子が楽しそうに話をしていた。

 

「(話すよりも見ていた方がはるかに楽しいよ)」

 

目を閉じて席の周りにいる人達の質問に答えていく。

 

四時間目が始まるまで、僕はクラスメイトと話をしていたのだった。

 

 

 

 

~樹side~

 

 

昼休みになって私は図書室へと向かった。

前に来た時に気になる本があって予約をしておいたのだ。

 

図書室には委員会の人を含めても数人しかいない。

 

「本を予約していた者なんですけど」

 

カウンターに座る生徒に声を掛ける。名前を言うとリストを取り出して私の名前を探す。そして机の下から一冊の本を出して渡してくれる。

 

「えっと……この本であってる?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

本を受け取った私は空いてる席を探して――。

 

「(あれ?)」

 

席を探すために見渡していると知ってる人を見かけたのでそこに駆け寄る。

 

「星崎先輩こんにちは」

 

声を掛けると本から目を離しこちらを向いてくれる。

 

「ん、樹ちゃん?」

 

……本当にそっくりだなぁ。

 

天照さんとは違って話し方が柔らかいと思う。

 

「やあ。樹ちゃんも本を読みに?」

 

「はいっ。前に予約していた本があって」

 

隣いいですか、という質問に優しく「いいよ」と言ってくれる。

そして再び本に目を落として読み始める。

 

「星崎先輩はどんな本がお好きなんですか?」

 

つい気になってしまったので聞いてしまう。

 

「ラノベ、ライトノベルだね」

 

ちら、と表紙を見せてくれる。

 

なんというか意外に思ってしまう。

 

「樹ちゃんは何の本を?」

 

「えっ?」

 

聞き返されたので声を上げてしまった。

 

「本ですか? 私は……」

 

おどおどとしながら本を差し出す。受け取った先輩はへぇ、と声を漏らして少し恥ずかしくなる。

 

「歌手、夢なんだ」

 

「は、はい。歌、上手って周りやお姉ちゃんに言われて……」

 

「それなら頑張らないとね。応援してるよ」

 

はい、と言って返してくれる。

 

私が本を受け取ろうと手を触れた瞬間、体が違和感に襲われた。これは前にも感じた――。

 

「……人の読書時間を邪魔するなんて」

 

栞を挟んで本を閉じてから席を立つ。私もそれに続いて立つ。

周りを見ると予想していたとおり時間が止まっていて皆動いていなかった。

 

星崎先輩はどこから取り出したのか分からない刀を手に持っていて、私に声を掛けてきた。

 

「まだ戦闘は慣れてないでしょ? 無理はしないでね」

 

「は、はい。でも足は引っ張らないように頑張ります!」

 

そして私達は光の壁に包み込まれた。

 

 

 

 

〜夏凜side〜

 

 

廊下を歩いていたら急にありとあらゆる音が消えた。人も人形のように動かなくなり本当に学校かと思いたくなる。

 

私はこの状態を知っている。だから別に慌てはしない、逆に来るのを待ってもいた。

 

「(樹海化……。本当に嫌なほど綺麗な光景ね)」

 

光の壁が押し寄せてきて目を開けると先程とは別の空間に立っていた。

 

慌てる事もなく端末を操作して樹海のマップを見て自分と敵の位置を確認する。敵を示す赤い点の上には射手座、蟹座、さそり座と表示されていた。

 

「栞那」

 

私は自分の精霊の名前を呼ぶ。名前の主は音もなく横に現れた。

 

「どうしたの夏凜ちゃん」

 

肩に少しかかる金色の髪を揺らして宙に浮いている。

 

「前に言ったけど今回は私達も参加するわ」

 

「参加というよりも乱入――」

 

「どうでもいいじゃない。向こうとしても人手が多いと助かるでしょ」

 

栞那の言葉を途中で無理矢理終わらせる。

いつも素直な栞那は思った事をすぐに口に出してしまう。逆にそれが悪いところなのだが。

 

「それはそうだけど……。ほら、勇者は助け合いだよ?」

 

「助け合い、ね。じゃあちゃっちゃと一体ぐらい消滅させますか。体、頼むわよ栞那」

 

その言葉で意味を理解してくれる。

 

「うん! 任せて!」

 

元気に返事してくれる栞那が心強い。

 

私は再び端末を操作し変身のボタンを表示する。それを躊躇わずに押すとオレンジ色の小さい花が無数に私を包み込んだ。

 

「それじゃあ行くわよ」

 

制服から勇者の服に姿を変えた私はバーテックスの元へと跳躍を開始した。

 

 

 

 

~祈side〜

 

 

「あ! 風先輩、樹ちゃんと祈くんが来ました!」

 

「やっぱり一緒だったわね」

 

勇者服へと姿を変えた勇者部の皆が立っている場所へ着地する。どうやら僕らを待っていたようだ。

 

「やっと来たか」

 

天照が星樹を持って僕に近づいてくる。

 

「体は何ともないか?」

 

「うん大丈夫。神装もいけると思う」

 

そこで天照は少し悩む。

 

「そうか。でも神降ろしはあまり使うなよ。お互いに力は完全じゃないんだ」

 

「分かった」

 

天照との話が終わると僕は銀に話し掛ける。

 

「あ、銀。ちょっといい?」

 

「ん? どうしたんだ祈」

 

僕はポケットからあるものを取り出す、そして。

 

「失礼。……これでよし」

 

うん似合ってる。心の中でそう思い銀を見る。

 

「これって……」

 

銀は僕が髪につけたのを手で触る。そう、それはあの時に僕がお守りとして貰った銀の髪飾り。

 

「お守り、返すよ。とても心強かった、ありがとね」

 

「おう! えへへっ」

 

いい笑顔で笑ってくれる。だけどそこに園子と須美が割り込んで注意をしてくる。

 

「む~! イチャイチャ禁止だよ〜!」

 

「そうね。銀だけなんて卑怯だわ」

 

はいはい、と手を二回叩いて意識を戻す。

 

「マップを見て分かる通り今回は敵が三体よ。いい事にこっちは人数が多いから効率よく一体ずつ倒していくわよ」

 

「風先輩」

 

そこで真面目に戻った須美が声を掛ける。

敵を見て思った事があるのだろう。それは僕や銀、園子も同じだったようで……。

 

「どうしたの東郷。何かあった?」

 

「何か、と言いますか。前の敵もですけど今回の敵は昔私達が撃退した敵なんです」

 

その言葉を銀が受け取る。

 

「だから行動パターンは覚えてるな。向こうは面倒な連携もしてくるし、あれは事前に確認してた方がいい」

 

正直いい思い出はない。仲間を一人死に追い込んだバーテックスなのだから……。

 

精霊バリアが勇者にあるといっても精神面には響く、それならパターンくらいは頭に入れていた方がうまく対処出来る。

 

「それなら東郷、指示をお願い。先代の知恵は役に立つわ」

 

「分かりました。まず――」

 

須美が先輩に変わって指示を出す。皆そちらに集中しているが。

 

「顕現、八咫鏡!」

 

飛んできた矢を鏡で防ぐ。

 

ここは既に樹海。悠長に考えてる時間はあまりない。

 

「(くっ! やっぱり安定しない!)」

 

一撃防いだだけで鏡が割れてしまう。右腕で顕現させていたからその腕が痺れる。

 

少しの心の乱れ。それにより神装の維持、顕現の形は変わっていく。今回はただの体力だろう。学校に行くくらいの体力はあるから大丈夫だと思っていたのが軽い考えだったようだ。

 

そうこう考えてるうちに矢が雨のように降り注いできた。

 

「っ――天照!」

 

名前を呼ぶとシュッ、と僕の横を通り抜けて行く。

 

「俺もあまり力は戻ってないんだがな!」

 

同じように顕現させ防ぐ。後ろから見て腕が震えてるのが分かる。

 

「祈! ちょっと体を寄越せ!」

 

顔を少しだけこちらに向けて声を上げる。

二年間外で戦っていた時に使った方法だ。一体化、と天照は言っていた気がする。

 

「あれ一方的に僕に負担がかかる気が……」

 

「俺が百パーセントの力を出す方法がそれしかないんだ。あと俺にだって負担はある」

 

攻撃を防ぎきった天照に近づいて愚痴を言う。

 

「まぁいいや。後はよろしく」

 

「――体の痛みは文句言うなよ」

 

は? という声が発せられる前に僕は気を失った。

 

 

 

 

~銀side〜

 

 

須美指示によりそれぞれ行動を開始したアタシ達。アタシと風、須美と友奈、園子と樹という組み合わせで行動をしている。

 

「それにしても――多いわねッ!」

 

風が大剣を振るい敵を一掃する。小型のバーテックスがうじゃうじゃとやって来るから何度もこれを繰り返している。

 

「おまけに大きい敵は三体ときたもんだ。めんどくさいっちゃありゃしないな!」

 

アタシも斧モードで力任せに薙ぎ払う。

 

そしてアタシ達より前の方では須美サポート、友奈の攻撃で蠍座のバーテックスを攻撃している。友奈が本体を攻撃して蠍座が尻尾を振るう時に須美がそこを狙い撃つ、という感じだ。

 

周囲の敵は園子と樹が撃破している。

 

「本当よ! って、ん? あれは……祈?」

 

「え?」

 

視線が上を向いていたのでそちらを見る。すると祈が宙から降りてきていた。

 

「三ノ輪、風。そこを動くなよ」

 

いつもとは違う呼び方。それであれは天照だと分かった。分かったが、少し違う。

あれは祈だ。でも何だろう、体は祈だけど雰囲気が……。

 

言われた通り動かずにいると祈が刀を持ってない方の腕を横に振った。するとアタシ達の周りにいた小型のバーテックスが一瞬にして消滅した。

 

それを見て風は唖然としている。

 

「うわお、流石神様。次元が違うわ……」

 

「そんな事は後だ! まずは蠍座を!」

 

道を開いてくれた祈に感謝しつつ友奈の元へ向かう。そして前と同じ手順で御霊を出す。そして風が攻撃をする――が。

 

「おりゃ! ってあれ?」

 

ヒョイと御霊は避ける。ブンブンと剣を振るうが一向に当たらない。

 

「ムカつくわねぇ!!」

 

気合を込めて再び振るが避けられる。だが。

 

「…………ッ」

 

避けた先に目に見えない速度で祈が後ろに回り込み横一線。御霊が消滅した。

 

「蟹座は俺に任せろ。お前らは射手座を頼む」

 

倒すや否やそう言ってすぐに蟹座へと向かった。

 

「祈くんって戦う時いつもあんななの?」

 

「いやー違うよ〜。あんなの初めてだよ、ねーミノさん~?」

 

「ああ。まるで天照だよな」

 

アタシ達が私語をしていると須美から連絡が入った。

 

「私語は慎んで。敵は遠距離型、いつ攻撃が来てもおかしくないから注意をして」

 

「りょーかい!」

 

須美からの連絡が終わり射手座へとバラバラに向かう。

 

だけど不思議な事が次の瞬間に起きた。

 

 

 

 

天照()side~

 

 

先程射手座との連携をしていた蟹座。こいつ自体の攻撃はそうでもないが、なんと言っても防御面でよく分からない強さがある。

 

『神降ろしで倒そうよ、一回ならそうでもないと思うし』

 

祈が頭に語りかける。

 

「いいのか? 結構くるぞ」

 

『いいよ。時間をかけるよりもはるかに楽だ』

 

「ま、お前がいいなら遠慮なく使うけど……」

 

そして俺は意識を研ぎ澄まし、神樹の記憶にアクセスする。呼び出す神は俺ら()がよく使う神。

 

「纏え――火之迦具土」

 

現勇者のように一々御霊を攻撃するなんて時間がかかる。それよりもこいつ自体を消し去った方が早い。

 

「(……少し体が重いな)」

 

俺が少し止まっていると器用に六枚の反射板を使用し俺に攻撃をしてくる。

 

それを火之迦具土の力を宿した星樹で一つずつ破壊していく。一枚、二枚、三枚……そして攻撃手段を失わせるために尻尾、最後に本体を十字に斬り消し去った。

 

「ふう……しんどい」

 

思わず声が零れる。

 

こんなにこいつの体は疲れてるのか、と思ってしまう。よくもまぁこんな状態で神具顕現を使ったなこいつ。

 

『じゃあ皆を手伝いに行こうか』

 

自分に負担がかかるだけだけどな……。

 

「了解。それじゃ行くぞ」

 

俺は射手座の近くに転移をする。

 

そこには勇者達が立っていた。立っていたが……。

 

「は?」

 

『あれは?』

 

俺らは揃えて、はて? と思う。そこには知らない勇者が居たから。

 

取り敢えず状況を聞くために風の横に降り立つ。

 

「おい風。あれは誰だよ」

 

「そんなの私が聞きたいわよ」

 

言い草からして知らないようだ。

 

「私達が着いた時には戦ってて〜、手伝おうとしたら一人で消滅させたんだよ~」

 

「消滅?」

 

少々言い方に引っかかる。

今の勇者は封印というシステムがある、だから俺や祈みたいなバーテックス自体を消し去るという言い方には違和感を感じる。

 

それにあの勇者の服装……とても栞那に似ている。

 

「(いや、関係ないな)」

 

ぶんぶんと頭を横に振り考えを消す。だってそれは有り得ないから。

 

その正体不明の勇者はこっちを見ると、ゆっくりと近づいてくる。

 

「て、敵ですか!?」

 

怯えながらも武器を構える樹。

 

「武器を下ろせ樹。何かあったら俺がやる」

 

俺はそれをやめさせる。

一人で動いた方がやりやすいというのもある。

 

そいつは俺の前に来ると足を止めた。

 

「……星崎祈ね」

 

「ああ」

 

目の前に立たれて思う。

 

服装が栞那と似ているのではなくて同じなんだ。

金木犀をモチーフにオレンジがメインの服。違う点は歩く前に消した武器が刀だったという点だろう。

 

「もうすぐ樹海化も解除されるわ。話すのは放課後ね」

 

周りを見ると少しずつ解除されていくのが分かる。

 

そいつは変身をなぜか解除して話し掛ける。ギリギリまで話したい事でもあるのだろうか?

 

「ああ、それと私の精霊があなたに言いたい事があるらしいから」

 

降りていた髪を結びながら話す。

 

「精霊?」

 

精霊って三ノ輪の義輝みたいなのは困るぞ。と思っていた。

 

だけど現実は……とても、とても意外なものだった。

 

「えへへっ、久しぶりだねお兄ちゃん」

 

くるり、と一回転してそいつは登場した。

金色の髪を揺らし、まだどこか幼さも残る少女。

 

俺はそいつをよく知っている。知っているなんてものじゃない。だってそいつは……。

 

「かん――」

 

手を伸ばしながら名前を呼ぼうとしたがそれは樹海化の解除によって叶わなかった。

 

無数の花びらによって隔てられた俺らはあの時の光景の再現にも思えた。

 

「栞那……」

 

ボソリと誰にも聞こえない声で言う。その声は虚しく消えていったのだった。

 

 

 

 

~友奈side~

 

 

戦闘が終わり前と同じように屋上の社の前に転送された私達。そこでは先程の女の子について話をしていた。

 

「さっきの人誰でしょうね?」

 

「讃州の制服着てたからここの生徒ということは間違いないけど……」

 

「ま、探すのはやめにしましょう。どうせ向こうから私の女子力に惹かれて来るわ!」

 

自信満々に風先輩が言う。

 

私は最後に話をしていた祈くんに話し掛けて情報を貰う。

 

「祈くんは何を話してたの?」

 

「…………」

 

「祈くん?」

 

「……ん、ああ。どうした友奈――じゃなくて結城」

 

「(ふあっ!?)」

 

急に名前で呼ばれてビクッとする。クラスの男子にも言われるけどそれとは少し違った感じがした。

 

「え、ええと……あの女の子と何話してたのかなぁ、って」

 

「そうだった、それを言わないとな。放課後に話に来るらしい」

 

「話にって……部室に?」

 

「そうだろうな。ま、俺は一旦こいつから離れる。そうだな、三ノ輪ーこいつの体、支えろよ」

 

銀ちゃんを呼んで何かをしようとしている。

 

「え? お、おう! ドンと来い!」

 

そう言うと祈くんは力が抜けたようにふらっと倒れる。まるで糸が切れたようにも思える。

 

「え? おい! 祈!?」

 

慌ててそれを受け止める銀ちゃん。そこに東郷さんとそのちゃんが駆け寄る。

 

「祈くんどうしたの!?」

 

「大丈夫〜?」

 

くそ、と声を漏らして銀ちゃんの肩を借りてゆっくりと立つ。そしてこの場に居ない人物に向けて文句を放った。

 

「自分が巻いた種だけど、ここまでキツイとは……あいつ……」

 

「あれ? 祈くん?」

 

「どうしたの友奈」

 

あれ? さっきと雰囲気が……。

 

「あれ? あれー? さっきの祈くんは違う祈くん?」

 

一人で悩む。なんというか少し男っぽかったような気が。

 

と私が何に悩んでるのか気付いた祈くんが答えてくれた。

 

「多分さっきの僕の事だろうけど、あれは天照だよ。僕の体を使ってたんだ。だから皆の呼び方が違ってたでしょ?」

 

「そうだな、苗字で呼ばれたのはビックリしたな」

 

「ま、あの状態の事は気にしないで。それよりも教室に戻ろうか、昼休みが終わる前に」

 

「そうね。授業に遅れたら言い訳が出来ないわ」

 

お先ー、と風先輩は樹ちゃんを連れて先に教室へ戻る。私達もそれに続いて戻る事にした。

 

 

 

 

~祈side~

 

 

「三好夏凜。一応勇者よ」

 

放課後になり勇者部室に集まった僕らは昼の時に出会った少女に話を聞いていた。

 

「あのねぇ、何で聞いてもない勇者がこんなにも出てくるのよ」

 

ため息混じりに先輩が言う。とても混乱している様子だ。

 

「私にそれを言われても知らないわよ。それと“一応”勇者。正確には違うわよ」

 

「勇者じゃないならどうしてあの場に?」

 

「星崎祈を見たかったからよ」

 

「え、僕?」

 

不意に名前を出されて驚く。

 

「ええ。私の精霊が会いたいって言ってたからね」

 

この子の精霊、それは樹海化の解除前に少しだけ見えたあの少女の事だろうか? それなら。

 

「会わせてもらおうか、栞那と」

 

天照が急に出てくる。

丁度呼ぼうとしてたから手間が省けて助かる。でもどうして天照があの子を知ってるんだろうか。

 

「……二人居るのね。栞那、来て」

 

夏凜という少女は天照を見て目を丸くした。でもすぐに栞那という精霊を呼ぶ。

 

「はいはーい! 星崎栞那! 夏凜ちゃんの精霊です!」

 

登場と共に元気な声が部室に響く。

周囲の反応はそれぞれで、でも大抵が「可愛い」というものだった。

 

かくいう僕もそうなのだが……。

 

「……おい」

 

「うひゃっ!」

 

ペちん、と両手で栞那という少女の頬を挟む。

 

「あ、天照? 流石に初対面にそれは……」

 

僕の声なんか無視してその少女と話をする。僕を含め勇者部の面々は不思議な様子で二人のやり取りを見ている。

 

「お前、何で居るんだ。何でそんな平気な顔をして俺の前に顔を出した」

 

「それはお兄ちゃんを手伝いたいからだよ? 前とは違うよ、今は力もあるし!」

 

「力? お前もしかして……」

 

「うん。神装? って力だよ」

 

「……はぁ。お前、知ってるのかその力を手にしたら一生――」

 

「一生戦わないといけないなんて承知の上だよ。それならお兄ちゃんとずっと一緒に居られるし!」

 

頭を抑える天照。

 

そこに風先輩が口を挟み皆に変わって状況を確認してくれる。流石部長、頼りになります。

 

「えーと、お二人さん? 二人はどのようなご関係で?」

 

そう聞くと二人は顔を見合う。そして一度は躊躇った天照が口を開いた。

 

「一応兄妹だ……」

 

「えへへ♪」

 

照れくさそうに言う天照とそれとは反対に嬉しがる栞那。

 

「大赦は隠したい主義なのかしら。東郷達の時にも言ったけど」

 

「失礼ね。私達は大赦なんかと関係は無いわよ」

 

先輩の呟きに否定を入れる。

 

「大赦と無関係で樹海に入れるのか?」

 

銀が僕に聞いてくる。

 

大赦と関係が無いと入れないなんて事は聞いたことはない。でも勇者システムがあるなら大赦からの支給のはずだし……無関係というのはおかしい。

 

「うーん……どうだろう」

 

「大赦と無関係って……じゃあ、どうやってあの場に」

 

「神装だよ」

 

栞那がさらりと言う。

 

「神装? それって祈くんが使う?」

 

何で神装がここで……。

 

「(あっ)」

 

成程。そういう事か。

 

「神の力、っていう事だね。それなら大赦を通さなくても樹海化でも動ける。だって神樹は神々の集合体、そのオリジナルの力を持つなら普通に入れてもおかしくはない」

 

「そういう事。私も詳しくは知らないけど栞那がそう言ってたわ」

 

「うんうん、私の力は月詠様の力。お兄ちゃんとは正反対だよ」

 

指をブイにして向けてくる。その姿は天真爛漫な少女そのものだ。

 

「大赦と関係はして無くても勇者の服装もあるわ。これは栞那のやつだけどね、端末も」

 

へぇ。端末が同じなら勇者装束もその同じものになるのか。

 

これは意外な発見だった。あまり端末なんて受け継がれるものではないだろうに。

 

「それよりも私はここの活動について詳しく知りたいわ。ボランティアだけじゃないのでしょ」

 

「あら入部してくれるの?」

 

期待の眼差して風先輩が夏凜を見ている。それを少々変な目で見てから返答をする。

 

「……ええ、栞那が入りたいって言ってたからね」

 

「歓迎よ! 樹、友奈、東郷! おもてなしの準備よ!」

 

先輩が呼び掛けるとすぐさまに行動を開始する三人。思った事は須美が案外ノリが良くなってるという事だ。

 

「銀と園子、祈は軽く掃除!」

 

「(って、やっぱり僕もだよね)」

 

箒を持って床を掃除する。その途中に天照を見ると栞那とじゃれあっている。

 

「おにーちゃん♪ えへへ〜♪」

 

「あぁもう……。なんだよ栞那」

 

あんな顔、するんだな。

 

その時の天照の顔は表では面倒なようにしているが、抱きついてくる栞那を受け止めているところを見ると嫌がってない事が分かる。

 

そんな事を思いつつ僕は歓迎の準備を続けた。




次回予告

「か、栞那ちゃん」

「なーんてややこしい」

「天照がそんな趣味だったなんて」

「人助け?」

「恥ずかしいよ……お兄ちゃん……」

第七話 兄妹

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