それでは第五話、どうぞです。
~祈side~
こっちの世界に帰ってきて何日か経った朝。ずっと外にいたからかまだこのベットの上にいるというのが変に感じる。
体を起こしてカーテンを開ける。陽の光が差し込んできて寝起きだからだろう、眩しく感じた。
「おーい祈ー。起きてるかー?」
「あ、おはよー」
天照がエプロンを着て僕の部屋に入ってきた。
「飯は作ってるぞ、もう少ししたらこっちに来いよ」
「うん、ありがとう」
二度寝はするなよー、と軽く言って部屋を出ていった。
洗面台に行って顔を洗う。
右腕は昨日には治っていた。痛みはなく自由に動かせる。
「(動かなかったら初日から大変だよね)」
転入初日に腕を怪我して動きません、なんて事は絶対に困る。
そんなことを思いながらリビングに向かう。
そして扉を開けると……。
「おはよー!」
「おはよ~祈くん〜」
既にご飯を食べてる女の子が二人椅子に座っている。天照はコーヒーを飲んでテレビを観ていた。
「……何で二人が居るの?」
取り敢えず聞いてみる。
「何でって、そりゃ朝ご飯を食べにだよ」
「それと迎えに来たんだよ~」
当然と言わんばかりに言われる。
食べに来ていいなんて言った記憶はない。……駄目と言ったこともないが。
「別に二人が来て困る事もないだろ。そんな事より早く食べろ、初日から遅れていいのか」
「はいはい。分かったよ」
考えるのはやめよう。どうせこの生活が続くんだ……同じアパートに住んでるんだし。
「祈――じゃなくって、天照のご飯は美味しいな! 」
「別に、俺も“祈”なんだけどな」
「うーん……天くん! 天くん!」
「天くん? それって俺の事か?」
「そうだよ~。天照から天を取って、天くん!」
「……呼び方はあまり気にしないからいいけどさ」
二人とのやり取りに少し疲れてる天照。その光景が可笑しくてつい笑ってしまう。
「笑うなよ」
「いや、だって……くくっ……」
天くんは笑う。もはや神様の威厳も何も無い。
「はぁ。いいから早く飯を食べろ」
逃げるように言われる。
僕は残りわずかの食べ物を口に入れ込み、よく噛んでから飲み込む。
「ご馳走様。今日も美味しかったよ」
流し台に食器を置いてから礼を言う。
天照は「おう」と一言。
それを聞いて僕は歯を磨き、部屋で制服に着替える。
初めて手を通した制服。まだ固く、新品なのだど実感させられる。
「(中学生、なんだよなぁ)」
と思い始めたのは最近の事。
二年間もの間、同じ空間に居て
神の力を振るい、隣には実際の神様(の力を持つ者)が肩を並べていて。
バーテックスは昔倒したやつや、見たことのない形のバーテックスもいた。
戦いの最中に僕の腕や足は噛み千切られてその度に神降ろしで再生させていた。……おそらく時間的には一年くらい経った時だろうか? その時には腕を噛み千切られたくらいだと痛みの感情は既に無く、流れるように再生させていた。
そんな事からこの世界に戻ってこれたのは今でも不思議だ。
天照は力の回復の期間、だなんて言ってる。きっとこれが勇者の存在理由なんだろう。
「(こうして考えると変な話だよなぁ。大赦側は知ってるのか? いや僕が考えても仕方ないか)」
ついついため息が出てしまう。
「……あ」
机の上に置いてある物に目が止まる。僕はそれをポケットに入れてから鞄を持って皆がいるリビングへと向かう。
「準備出来たよ。いつでも学校行ける」
「わぁ~! 祈くん似合ってる!」
「あはは、ありがとう園子。それじゃあ行こっか」
その前に、二人には外で待ってもらい僕は天照と玄関で少し話す。
「あぁそうだ祈。現勇者、鷲尾や三ノ輪達じゃない方な。には外の事や満開の事を伝えるなよ」
「言うつもりは無いけど……。だってそれを言ったら駄目でしょ」
須美達は元々勇者という事を知っていて命をかけてお役目をしていた。
だけど今回はどうだ?
複数の適正者からバーテックスの襲撃時に初めて自分が勇者だと分かり、常識離れした戦いに身を寄せる……それも自分は精霊の絶対的な防御がありちょっとやそっとじゃ傷つかないときた。
「満開と精霊……。今回の勇者システムは酷だよ。これなら死んだ方がまだいいと思う」
「お前や俺は精霊のバリアを貫通出来るけどな」
そう、天照の言う通りだ。
僕は一度未来に飛ばされた事がある。よく思い出せばその時に見た事のある顔が何人も勇者部にいる。
その時に未来の園子と剣を交えて神力を持った攻撃でバリアを普通に破った。
「僕らなら勇者を殺せるって? そんな事はしないさ。無いと思うけど大赦に反抗されない限りね」
「流石に反抗は無いだろ。どの時代の勇者かは覚えてないけど二、三人は反抗したのもいたな」
「その人ってどうなったの?」
つい聞いてしまう。
「大赦に直接来たやつは俺が止めた。面倒なのは壁を破壊しようとした勇者だな」
「は?」
耳を疑った。
壁を破壊って、
「おーい! 祈ー! 遅れるぞー!」
外から銀の声が聞こえる。
「っと悪かったな。続きは帰ってきてからだ。それと勇者部には俺も来るから」
「りょーかい。それじゃ、行ってくるね」
「おう。頑張ってこいよ」
軽く挨拶をして僕は家を出たのだった。
〜須美side~
今日は朝から珍しい事があった。
銀が私よりも早く学校へ登校していたからだ。「悪い須美! 用事があるからアタシと園子は先に行くぞ!」とメッセージが端末に入っていて驚いていた。
「おはよう」
「おっはよー! 銀ちゃん! そのちゃん!」
私と一緒に登校した友奈ちゃんが同じく銀とそのっちに挨拶をする。
「おう! おはよう!」
「おはよ〜、二人共〜」
自分の席に鞄を置いて四人でいつものように友奈ちゃんの席の周りに集まる。
「それにしても……今日は騒がしいわね。何かあったかしら?」
「うん。皆ざわざわしてるよね」
今来たばかりの私達は分からない。見渡すといつもより騒がしいのだ。
その質問にそのっちが答えてくれる。それも何故か得意気に。
「ふっふっふ~。今日はねー、転入生が来るんだよー!」
「へぇー! 男の子? 女の子?」
友奈ちゃんがそれに食いつく。
私としてはそこまで興味を持てなかった。でも――。
「(転入生、祈くんを思い出すわ)」
小学六年生の記憶。二年前の戦いの始まり。そして祈くんとの出会い。
ついその単語には反応してしまう。
「男の子だよ〜。それも超カッコイイんだって~」
「クラスの女子が惚れちゃうかもな」
「あら本当に珍しいわ。銀がそんな事を言うだなんて」
「へへ。そりゃあカッコイイからな」
この口ぶりから銀と転入生は知り合いなのだろうか? 他の人達の会話に聞き耳を立ててみる。
「今日の転校生、凄くカッコイイらしいよ」
「ほんと? ちょっと私話しかけよっかなー?」
「運動神経抜群らしいぞ? これはサッカー部だろうな」
「は? 野球部だろ。お前らになんか譲らねぇからな」
色々と噂されている。
一体どこからそんな情報が出てくるのか……。
そこでチャイムが鳴り響く。
先生が来てそれぞれが自分の席につき始めた。
「挨拶の前に皆さんにお話したい事があります。今日から新しくこのクラスに仲間が増えます」
先生のその言葉でクラスがざわつく。「静かに」とその一言で徐々に静まっていく。
「それでは星崎くん。入ってきて」
「(え?)」
先生から出た名前に思考が停止する。そのっちと銀が私の方をニヤニヤとしながら向いてくる。
そうしてる間にも教室の扉は開いて、一人の男の子が入ってきた。
「星崎祈です。よろしくお願いします」
〜祈side~
「来たわね祈!」
放課後になり勇者部の部室の扉を開くと風先輩が立って待っていた。その奥には天照が樹ちゃんと話しているのが見える。
「知ってるだろうけど新しい部員を紹介するわよー!」
皆を集めて先輩が紹介する。
「今日からこの部にお世話になる星崎祈です、よろしく」
拍手が起こる。
そして須美が一言。
「それにしても一緒のクラスだなんてね」
正直苦笑いが出る。
銀と園子は知ってたんだよな~。本当に言ってなかったとは……。
「ま、こっちとしても連絡が早く回るから好都合ね」
勇者は固まってた方が動きやすい、そういう点での大赦の計らいだろう。
「僕は皆と一緒で嬉しいけどね」
「――っ! は、恥ずかしい事言うなよ!」
「え? 本当の事だったんだけど……」
空いた時間は思ったよりも人を素直にさせるようだ。
そこで先輩が提案をした。
「部員が増えたんだしかめやに行きましょう!」
祝うわよ〜、と張り切ってる先輩とうどんに喜ぶ部員。何でこんなに急に決まったのに対応出来るのか。
「(あれ、先週も行った気が……)」
うん。きっと気にしたら負けなんだろう。部活は――それっぽい事をしてるんだろうし。
皆の背中を見ながら僕はそう思った。
次回予告
「お守り、返すよ」
「て、敵ですか!?」
「隠したい主義なのかしら」
「三好夏凜。一応勇者よ」
「星崎栞那! 夏凜ちゃんの精霊です!」
第六話 新たな勇者