~風side~
「祈……?」
宙に浮いている男を見ながら言葉を漏らす。
降りてくる場所に東郷ら三人は駆け寄っている。私、友奈、樹は分からないのでその様子を離れて見ていた。
「何だか三人とも楽しそうだね」
「そうですね……それにしても誰だろう?」
樹の言葉は私の思っている事だった。
大赦から東郷達も勇者だなんて聞いてもいない、そしてあの男もだ。だが状況からしてあの男と東郷達は仲間だろう。
「……樹海化が解除されるわ。話はその後ね」
そう二人に言う。
丁度花びらが舞う、これは樹海化解除の合図でもある。
私は二人にこの事を話すと同時に他の部員に自分達の事を教えてもらう事にした。
〜祈side〜
花びらが舞う。
気がつくとそこは僕が全く知らない場所だった。少し周りを見てみると学校、の屋上だろうか?
「ふぅー、帰ってきたなー!」
「ええ、そうね」
銀と須美が会話をしている。
僕は空を見て身をもって実感した。“帰ってきた”と。
「祈くん~!」
「うわっ!」
ドサッ、と園子が飛びついてきた。その衝撃で尻餅をつく形で倒れる。
懐かしい友の顔を見て自然と気が抜けてしまう。
「おかえりなさい~」
「うん、帰ってきたよ」
そういい僕の胸に顔を埋めて頭を動かす。
「そ、園子……嬉しいけど少し離れてくれないかな?この服汚れてるし」
「それでもいいよ〜。二年も会えてないんだから〜」
服と言っているが神装だ。
あれから解除してないからどうなるか分かったもんじゃない。前の姿になるのか、それなら困る。歳としては中学二年生だ、背とかももちろん成長している。絶対神樹館の服なんて――、とそこまで考えた時に別の声が頭に響いた。
『解除しても別にいいぞ』
「(え、本当に?)」
天照だ、姿は見えないが近くにいるのだろう。
『ああ、だけど体の一部は動かないからな。まぁ一日二日寝れば治ると思うけどな』
「(それなら……)」
神装を解除する。
すると僕の服は天照が着ていた服になっていた。
「――っ!?」
解除と共に身体中に激痛が走る。
試しに右手を動かそうとするがピクリともしなかった、おそらくこれが神降ろしの代償だろう。
「? 祈くんどうしたの~?」
「い、いや何でもないよ」
神装の時は痛みは無くてただ動かないだけだったが……。
どうやら神装の状態では痛みが少なくなるらしい。だから多少の無理はしていた。
そう考えてる間にも園子は顔を動かす、何だか小動物みたいだな。
「そ、そのっち……私も……」
「いーのーりー!」
須美と銀も近寄ってきたと思ったら銀も僕に飛びついてきた。
「お前心配してたんだぞ!無事じゃなかったらどうしようって――」
そう言う銀の顔を見る。その目には少しだが涙が浮かんでいるのが分かった。
「銀のお守りのおかげかな?それにこうして皆の場所に戻って来たんだからさ」
銀と園子、そして須美を見てから言う。その言葉を言った後に須美も飛びついてきて――。
「祈くん!」
「おわっ!?」
僕の上に三人が乗る形になってしまう。
「(ちょ、ちょっとこれは!)」
まずい。
その単語が頭に思い浮かぶ。皆は中学二年、なんというか……その、体の一部分が成長している(特に須美)ので自然とそこを意識してしまう。園子や銀も須美ほどではないがあるにはあるのだ。
「祈くん〜」
「祈〜」
「えへへ〜、祈くんの匂いだよ〜」
当の本人達は気づいていない。
「(くっ――!意識をするな!そう無心だ!)」
『何やってんだかこの馬鹿は』
謎の戦いに呆れる天照。
そうだろう馬鹿だと思うだろう、でもこっちは本気なんだよ!
などと変な事をしていると金髪の女性が三人の後ろから声をかける。
「おーい、そこの少女三人~もうすぐ授業だから教室に戻りなさい〜」
ビクッ、と体を震わせて何をしているのかを理解したらしい。
「あわっあわわ!」
「じゃっ、じゃあな祈また今度!」
「ご、ごめんなさい!」
三人は顔を赤くして去ってしまう。
助かった、と思う。
「あなた達の関係はよく分からないけど話がしたいのなら学校が終わってから……まぁ四時くらいね。そのくらいにここに来なさい」
私もあなたに聞きたい事があるし、と言い残し僕に紙切れをくれた後にその人も去る。
そしてこの場には僕一人となる、さてどうしよう。
「とりあえず家に帰るぞ」
天照が実体化して僕に話しかけてきた。今の僕と天照は昔以上に瓜二つだ。
「どうやって?今いる場所も分からないのに」
「そこは大丈夫だ、俺がそこまで移動する」
そう言って手を差し出してくる。握れという事だろう。
「いつまでもここにいても仕方ないね。じゃ頼むよ」
天照の手を握る。
すると僕と天照の姿はその場から消えた。
「ほら、着いたぞ」
そう言われて僕は気づく、そうここは僕の家だ。
「待っとくから行ってこい。親には顔を見せないとな」
「分かってるよ」
家のインターホンを鳴らす。家の中から返事が聞こえて鍵を開ける音がした。
何故か緊張している、久しぶりだからだろうか。
「どちらさ――」
言いかけた母さんの声が止まる。
「え、えっと帰ってきました……」
頭を掻きながらもじもじとしながら言う。
そんな僕を見て母さんは優しく微笑みこう言って家に入れてくれた。
「おかえりなさい祈、お役目お疲れ様」
〜天照side〜
祈が家に入ったと思ったら出てきて俺も入れと言ってきた。
リビングに着いたら祈の母親が椅子に座っていた。
「そこにいるのかしら?」
「うん。天照実体化して」
別にいいが何をするんだ?
疑問に思いながら実体化をする。
「どうも」
「あら……そっくりね」
祈の母親は目を丸くする。
「そりゃそうだ。俺は過去のこいつだからな」
「過去?」
「まぁそこら辺はあとから話すよ。で、本題の僕のお役目の事なんだけど……」
「俺の手伝い――神樹の守護だな」
俺が割り込んで言う。
「勇者なんて存在がいるがそいつらは俺の力の回復までの時間稼ぎに過ぎない。今回からは本当の意味での……悪い言い方をすれば使い捨てになった。ま、それをこいつが認めたくなかったみたいで変な要求を神樹に言って、それが――」
「天照の手伝いになった訳」
頷き質問される。
「そのお役目は何時ぐらいに終えるのかしら?」
「終わりなんて無い。言うなれば祈が死ぬまでだな、戦い続ければ百年や二百年は普通に行く場合もある」
現に俺がそうなんだが。
「じゃあ私が死んだ後でも……」
「戦い続けるな、それもお前らが知らない空間で。こっちに戻って来るのはその時代の勇者がいる時だけだし」
「そう……」
「…………」
祈と母親が暗い顔になる。だが。
「それなら頑張らないとね」
「母さん?」
どこか納得したように言った。
「どんなに時間が経っても、あなたの家はここ。そして私は離れていても応援し続けるわ」
「……ふん。いい母親じゃねぇか」
「ありがとう母さん」
俺とは大違い――いや勝手にやってるだけだしな。
俺がこれを始めた理由、それはある意味復讐に近い。栞那が死んでそれを認めたくなくて……力を求めて……、辿り着いたらこれだ。
……確か、他の勇者に言われたな「怒りに身を任せて力を振るっても意味が無い」。本当その通りだ、もはや俺は何のためにやってるんだろうか?なんて思う。
「……天照?」
「あ?」
祈の声で意識を戻される。しまったな完全に考え込んでしまった。
「なんだ?」
「ちょっと大赦に行こうか、って」
「分かった」
外に出て学校の時のように手を差し出す。
「じゃ母さん行ってきます。後で戻ってくるからね」
「行ってらっしゃい。祈、天照くん」
祈の母親にそう言われ頭を搔く。
「……行ってくる」
「ふふっ」
祈が左手で俺の手を握る、そしてまた場所を移動した。
苦手だな、こいつの親は。
~???side~
「勇者、ねぇ」
大赦から出て私――三好夏凛は呟く。
「どうかしたの?」
それに反応する私の精霊の月詠。
「次の戦闘は見に行ってみようかなって」
神樹様に聞いた話、どうやら勇者が揃ったらしい。
「参加はしないの?夏凛ちゃんの力ならすぐにでも――」
「私の力はあんたと一体化しないと全力は出せないじゃない。逆にあんた一人で私の体を使った方が早いわよ」
「え~、それなら二人で戦おうよ〜」
この子、月詠は私よりも身長は少し低い(今は浮いているから高いが)。そしてどこの制服か分からないのを着ている。
「それよりも祈ってやつの事も気になるわ」
「お兄ちゃん?なんで?」
首を傾げる。
祈というのはこの子の兄らしい。
「私と同じ力でしょ?気にもなるわよ」
私は実践はまだした事が無い。この子は過去にあると聞いた。やり方としたらその祈ってやつに聞いた方が手っ取り早いと考えたわけだ。
「わたしもお兄ちゃんの事は気にな――」
そこまで言いかけ、突然目の前に人が現れる。
「「え?」」
「は?」
「わわっ」
驚いてその瞬間に月詠は消える。
左手で手を握っている男と目が合う。そして微妙な空気。
「えーと……どうも」
「え、ええどうも」
「「…………」」
互いに言葉が出てこない。
「お前よく聞け、これは夢だ。よし行くぞ」
シュッ、と姿が消える。
いや夢って。
「今のは……」
そして月詠――栞那が入れ替わりで出てくる。
「夢、夢ねぇ。とにかく帰るわよ栞那」
「う、うん」
どこか浮かない表情の栞那と共に家に帰ったのだった。
〜須美side〜
学校が終わった私達はいつも通りに部室へ向かう。そして部室に着いた私達を待っていたのは先輩と樹ちゃんだった。
「さて、今日の事について話してもらうわよ」
先輩が椅子に座っている。
「言われなくても話すさ」
銀が言い話が始まった。
「アタシ達も勇者だ」
「みたいね。大赦からは何も聞いていないけど」
「それはこちらも同じです。そもそも私達の端末から勇者システムは回収されたはずなんですから」
そう、私達の端末から勇者システムは二年前に回収されている。その時にお役目も終わったと伝えられた。
「その事は私から聞いておくわ。それで、あなた達はどうして勇者なの?」
「どうしてって……」
「私達二年前にも戦ってたんですよ~」
「……二年前?」
「どうして、と言われたらその時に選ばれたからとしか答えれませんね」
「選ばれた……そう、二年前……」
「?」
先輩が下を向き何かを言っているが聞き取れない。その後私達の方を向いて。
「まぁいいわ。つまりあなた達は先代の勇者って事ね」
「(先代の勇者ね……)」
複雑な気持ちになる。
勇者といっても結局はずっと祈くんに――
コンコン。
ドアが叩かれた。
「ん、来たわね入っていいわよー」
先輩は誰か知っているような感じだ。友奈ちゃんが先輩に聞く。
「風先輩、お客さんですか?」
「ええ。ま、正確には先代チームのね」
「私達にお客様〜?」
分からないままに扉が開く。
「失礼します」
「え……祈くん?」
そこには祈くんが立っていた。
〜祈side〜
「来たわね。さ、こっちに座りなさい」
言われるがままに指定された椅子に座る。
「この子達の事については大まかに聞いたわ。あなたは何なのかしら?勇者?」
いきなり質問される。なんだ、そっちも聞きたい事があったのか。
とりあえずこの人の質問に答える。
「神樹の守護という言葉上は勇者という括りでいいと思います。でも僕のお役目は神樹の守護者……の手伝いをやってます」
そこで須美が疑問を持ったようで質問をしてきた。
「神樹様の守護者って結局誰だったの?」
そうか須美達には分からないと言っていたことを思い出す。あの時は本当に分からなかっただけなのだが……。
これは本人に言ってもらおう。
「天照お願い」
呼ぶと僕の横に現れる。
他の人はそれに驚く、やっぱり驚くよね。
「ああ?前の勇者には言ってないのかよ」
「いやー分からなくて」
「……まぁ、別にいいが」
面倒くさそうに話をする。
「直接会うのは初めてだな。神樹の守護者の――あー……星崎祈だ。一応こいつの精霊でもある」
「? 祈くんが二人?」
まぁそうなるよね。
「天照――あ、こいつの事ね。は過去の僕らしい」
銀やピンク髪の子は首を傾げる。正直、何言ってるか分からないよね。
続けて僕の代わりに金髪の人の質問に答えてくれる。
「それで祈だが半分は人間、半分は俺と同じ神になっている」
「先代勇者の次は半分神様ときたか……」
苦笑いをされる。
というか。
「(それ、僕も初耳なんだけど)」
心の中で天照に語りかける。
『薄々分かるだろ。神降ろしの代償、半分はもう侵食されてるぞ』
だから体半分は動かないのか?でも何回か外で腕やら足やらを噛みちぎられてその度に神降ろしで再生させてたからな〜。
「ふぅ……今日は大赦から聞いてない事だらけのオンパレードね」
疲れた様子でため息を漏らす。
「話聞いてたら頭痛くなったわ、うどん食べましょうかうどん。あなた――祈も来るわよね」
「え?僕ですか?」
「天照もいいわよ、私の奢りで」
「お、ラッキー乗っとこうぜ祈」
見ず知らずの人に奢ってもらうのはちょっと……。
「ねね!祈くんも行こうよ~」
「久々にいっぱい話したいしな!」
「先輩の提案に乗るべきよ祈くん。私達とも長くいれるし……」
悩んでいたところに三人から腕を掴まれる。そしてピンク髪の子と金髪の大人しい子から声をかけられる。
「私も君とお話したいな!」
「わ、私もお話聞きたいです」
「い、樹が自分から――!ううっ……お姉ちゃんは嬉しいわ!」
何故か泣いている。
うーん、こうも言われたら断るにも断れない性分で。
「じゃあお言葉に甘えて」
と言うがまだ泣いていて、とても聞こえてる様子ではない。
「祈行こうぜ!」
銀に手を引かれる。
「お姉ちゃんは後で連れてきますので先に行っててもらえませんか?」
「お願いね樹ちゃん」
「うどんだー!」
「ミノさんずるいよ〜!」
この騒がしいのが楽しく感じる。
「平和だな」
「うん。でもこれが丁度いいよ」
腕を引っ張られて部屋を出る。
そして僕と勇者部との関係が始まった。
次回予告
「大丈夫か?」
「まさかこんなに増えるとはね」
「平和だ……」
「あ、あの!」
「羨ましいわ」
第四話 新たな仲間