第一話 勇者部
〜友奈side〜
ここはとある幼稚園。
そこで私達、讃州中学勇者部は人形劇をしています。
「姫を返せ!魔王!」
「ふははは!!姫が欲しければ私を倒してみろ!」
「僕は君と戦いたくはないんだ!」
「そうだ魔王、話し合おう!そうすれば姫も――」
人形劇は私が勇者役、銀ちゃんが勇者の仲間、風先輩は魔王役になっている。そのちゃんがお姫様で東郷さんと樹ちゃんは司会の係。
「勇者様……」
「ええい!うるさいうるさい!何が話し合おう、だ!誰も私の話は聞きはしないそれはお前達も同じだろう!!」
物語は終盤。
子供達が頑張ってー!と言う声も聞こえる。
「同じじゃないよ!僕は君と話し合う!そして君を!――」
私はつい盛り上がって右手を横に振る。その手は舞台にぶつかってしまい……。
「「「あ……」」」
倒れてしまった。
風先輩と銀ちゃんが小声で私に話しかけてくる。
「ちょ!友奈何してんのよ!」
「これ、どうすんだよ」
周りを見ると子供達は口を開けたまま止まっていて後ろに座っている先生達は微妙な表情をしている。
「あわ、あわわ……。え、えーと……」
そこでたどり着いた答え、それは。
「勇者キーーック!!」
「ええぇぇええ!?」
魔王(風先輩の左手)を攻撃した。
「い、痛!それはキックじゃ――じゃなくて!さっき話し合おうって言ったばっかりじゃないの!?」
「わわわ……」
「おのれ〜!そっちがその気ならこちらだって……。魔王ドリルヘッドバット!」
風先輩もさっきの私のように攻撃をしてきた。
「う、うわー!」
「樹!ミュージック!」
「え?えーと……じゃあこれで」
樹ちゃんが流した音楽、それは魔王のテーマだった。
「これって魔王のじゃない!?」
「勇者!前前!」
「え、前?」
銀ちゃんに言われて前を見るとそこにはノリノリの風先輩が立っていた。
「ふはは!!さっきはよくもやってくれたな勇者よ!そこの仲間と共に葬り去ってくれるわ!」
えー!
私が困って東郷さんを見つめる。それに気づいたのか東郷さんはサポートを入れてくれた。
「皆!勇者を応援しましょう!はい、がーんばれ!がーんばれ!」
がーんばれ!がーんばれ!!
東郷さんの誘導により子供達が応援してくれる。
「くっ!な、なんだこの力は――!力が、力が無くなる~!」
風先輩が台本に無かった演技で繋いでくれた。
「お姉ちゃんナイスアドリブ!」
「今だ勇者、一緒に!」
「うん!」
「「ダブル!勇者キーーック!!」」
銀ちゃんと共にキック……基パンチをやり魔王をダウンさせる。
「勇者様~!」
「姫様!無事でしたか?」
「ええ。勇者様とそのお仲間のおかげで〜」
子供達の歓声が残ってる間に風先輩が東郷さんに私達に聞こえる程度の声で指示をした。
「東郷、しめてしめて!」
少し戸惑った東郷さんはすぐに話をしめてくれる。
「と、いう訳で皆の力で勇者は姫を救うことができ二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「皆のおかげだよ!ブイ!」
手をピースして子供達に向ける。
喜んでる子供や楽しかったー、と言ってくれる子もいる。
と、こんなふうに私達勇者部は活動をしています。
そして場所と日付が変わって今は学校の放課後。
「起立」
私の号令で皆が立つ。
「礼」
先生と生徒がお互いに礼をする。
「神樹様に、拝」
教室の外が見える窓側に向かい両手を合わせ拝をする。
「はいさよなら〜」
さよなら〜、と生徒達がそれを合図にそれぞれの行動を始めた。
「わっし〜、ゆーゆー部室行こ〜」
「ええ、分かったわ」
そのちゃんが銀ちゃんと一緒に来てくれる。
私達は偶然にも、二年生で全員同じクラスになった。きっと神樹様が私達に起こしてくれた奇跡なのだろうか?
四人で教室を出て部室に歩く。
「そーいえばさ」
「なに~?」
「いや結局須美も入ったな~、って」
「そうね、何だかんだで入っちゃったわね」
「そのおかげで東郷さんと一緒に居れて私は嬉しいけどな~」
「友奈ちゃんありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
微笑む東郷さん。
やっぱり綺麗だな……なんて自然と思ってしまう。
「お?いつから平気でそんな事言えるようになったんだよ~」
ぐいぐいと銀ちゃんが東郷さんにする。
「いつからでもいいでしょ」
が、それを軽く流す対応をとる。
そんなやり取りをしてる間に部室の前に着いた。
「部室にとうちゃーく!」
着くや否や部室に入る銀ちゃん。
「失礼します」
「部長〜こんにちは〜。いっつんも~」
それに続いて東郷さんとそのちゃんも入っていく。
「部長!今日は何をするんですか?」
「相変わらず元気ね〜。ミーティングするから椅子に座って~」
私も入って置いてある椅子に座る。
風先輩は写真を数枚黒板に貼って今日のミーティングが始まる。
「子猫の飼い主探し……ですか?」
「そ。こんだけ解決してない依頼があるのよ~、だから今回は学校も巻き込んで対応するわ。ちなみに学校の方は私が手をつけるから大丈夫ね」
「おお~!流石です部長~!」
「ふふふ、褒めても何も出ないぞ乃木」
得意げに言う風先輩。
「それでホームページは……東郷任せた!」
「はい、任せてください」
そう言って東郷さんはパソコンが置いてある机に向かった。
「それで風、アタシ達は何をすればいいんだ?」
「今までどうりにだけど~今まで以上に頑張れ!」
「うう、アバウトだよお姉ちゃん……」
「ど、どんな事でも部長の命令は聞くべきよ!」
気まずそうに小さくなる。
そこにそのちゃんが意見を出した。
「朝の掃除の時に〜地域の人に声をかけるのはどうかな~?」
「お、それはいいな。人は多くて困らないからな」
「それなら少し別れて掃除をしましょうか、そうした方が会える人も多いと思うわ」
アイデアを出し合っているとそこに東郷さんの声が入る。
「ふぅ、ホームページの強化終わりました」
「はやっ!?」
「流石だな須美」
「わっしーこういうの得意だよね~」
「ついでに携帯からもアクセス出来るようにしておきました」
「凄いわ東郷……」
私と樹ちゃん、風先輩は目を丸くする。東郷さんは機械系にとても強い、最初もとても驚いていたことを思い出してしまう。
「ま、まぁ今回は短いけどこれで終了ね。今日のメインは昨日の打ち上げだし」
「かめやですか!?」
打ち上げという言葉を聞いてすぐに反応してしまう。
「そうよ。じゃ行きましょうか」
そうして場所を勇者部部室からかめやへ。
「それにしても昨日は大成功でしたね!」
「果たしてアレを大成功と言えるのか……」
うどんを食べながら会話をする。
「須美のサポート、風のアドリブのおかげで何とかって感じだったもんなー。うん美味い!」
「ああするしかないじゃない……。内心とても焦ってたわ」
「でも流石わっしーだよ~」
「ほんと東郷には感謝だわ。――んくっ、んっ……ぷはぁ!ご馳走様」
確か三杯目だったような気が……。
私もうどんは好きだけどこの短時間で食べるのは無理だろう。
「うどんは女子力を上げるのよ〜?」
「だってよ~わっしー、ミノさん〜」
「園子にも言える事だろ?」
「えへへ~」
そのちゃんが意味ありげな言葉を東郷さんと銀ちゃんに言っている。それに風先輩が興味を持つ。
「お?なになに、恋バナ?」
「まぁ、そんなところですね」
「と、東郷先輩?」
「ん?どうしたの樹ちゃん」
樹ちゃんが東郷さんに話しかける。
「すす、好きな人がいるんですか……?」
「……ええそうよ」
おお〜!
風先輩、樹ちゃん、私が声を上げる。
「意外ね。三年にも東郷の話は回ってきてるけど、その本人が思いを寄せる人がいるなんて……。どれだけいい男なのよ」
先輩は意外とこういう話には積極的だ。
……先輩には言ってないけど、二年のクラスでは風先輩も人気があったりなんだけど……。
「かっこよくて〜強くて〜、優しいんですよ〜」
「だな」
「あれ、その様子だと……二人も?」
「えへへ~」
「ま、まぁ……な」
少し照れくさそうにする二人。
「その男は罪ね。こんな美少女三人から思いを寄せられるなんて、これは軽く死刑だわ」
「物騒だよお姉ちゃん」
「まぁいつか見てみたいわね。この中学なの?」
「あっ――」
風先輩の何気ない質問、だけど東郷さんは一瞬暗い顔をした。
「?」
風先輩はそれに気づいていないらしく返答を待っている。
「今は、会えないですね。少し……遠い所に居るから」
「須美……」
「そう。それは残念ね」
風先輩は何かを考え込むようにして。
「そうね、それじゃあ今日はこれについて話しましょうか!先輩が色々と男を落とす方法を伝授してあげるわ!」
そうしてこの打ち上げは恋愛トークになっていったのでした。
〜銀side~
「なんというか、昨日の活動は謎だったな」
「そうだね〜」
次の日、アタシは席の近い園子と話をしていた。内容は昨日の事についてだ。
「『不意なキスは相手を意識させるわ』か~。あー私しておけばな〜」
「お、おう……。そうだな……」
急に顔が熱くなる。
「(そういえばアタシはしたんだよな……)」
あの死を覚悟した時に、キスではないが告白を。
結局は祈に助けられて生きてるわけだが。
「どうしたのミノさん?熱?」
「い、いや何でもないぞ?」
「変なミノさん〜」
くすくすと笑う。
時計を見るとそろそろ授業が始まる時間だった。
「じゃあそろそろ私は席に戻るよ〜」
「りょーか――ん?」
園子と言葉を交わそうとしたら教室に妙な音が響く。多分携帯の音だろうけど……。
音が聞こえる方を見ると、友奈が携帯を持ってあわあわとしていた。
「あわわ!」
「友奈のかよ、マナーモードにしとけよなー」
「えへへ、ごめんなさい」
クラスの男子から注意を受ける。
そしてその音が止まったと同時に――
アタシは意識を失った。
〜友奈side~
「あ、あれ?皆どうしたの?」
携帯から変な音が鳴って止まった次の瞬間、世界が停止したような静かさが訪れる。
いや、この表現はとても正しい。外の葉っぱは飛ばされてるまま止まって、クラスの皆……さっき私の方を向いて注意してくれた男子がそのまま止まっている。
「私だけ?動ける?」
それだけでは終わらず、不思議な現象は続く。
謎の光が海から学校に押してきているのだ。私はどうする事も出来ずにそれに飲み込まれて――
目を開けたらそこは――
「え?え?こ、ここは……?」
教室ではなく不思議な空間に一人で立っていた。
〜須美side~
「――結城さん……ってあれ?」
結城さんに話しかけようとした私。だけどそこには結城さんやクラスの人の姿は無く、あったのは……。
「……樹海?」
二年前に勇者として世界の敵バーテックスと戦っていた時に起きていた現象、樹海化した時の風景に似ている場所。
「これは夢?勇者のお役目は終わったんじゃ――」
「おーい!須美ー!」
「わっし―!」
一人で悩んでいると聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見るとやはり銀とそのっちがこちらに走ってきている。
「無事だったか、よかった~」
「ねぇわっしー……これってやっぱり〜」
胸をなで下ろして安堵した様子の銀と、この状況を私に確認するそのっち。
私はそれに頷いて答える。
「ええ、恐らく樹海化よ」
そして続けて言葉を発する。
「お役目は続いている、ね」
次回予告
「風先輩!」
「この姿も久々だな」
「お姉ちゃん……」
「どうしてあんた達が――」
「ははっ……久しぶり、だね」
第二話 再開