それでは番外編です
~須美side〜
あの瀬戸大橋での戦い……瀬戸大橋跡地の合戦と名付けられた戦いからもう一年も経った。私達は神樹館を卒業し今は中学生となっている。
戦いが終わった後は色々とあった。
まずは私の名前、旧姓旧名の東郷三森に戻されたのだ。理由はもう勇者として戦うお役目が終わったかららしい。それと同時に勇者システムも端末から回収された。だからだろうあれ以来、樹海化はしなくなった。
次は元勇者の私達の中学校が大赦側に決められた事。
讃州中学校。それが私達が通う学校だ、それに伴い家を銀とそのっちは学校近くにあるマンションに私は元々の家――東郷家に住むことになる。
入学してもう半年経つくらいになる今は既にその生活に慣れている。
そして――
ピンポーン。
「銀ー?学校行くわよー」
マンションのとある部屋、そこのベルを鳴らして住んでいる人……銀を呼ぶ。
…………
「返事無いね〜。寝てるのかな〜?」
隣にいるそのっちはその隣の部屋で私が毎回二人を迎えに来て学校に行っている。
「……入りましょう、仕方ないわ」
あらかじめ貰っていた合鍵を使って部屋に入る。外は既に明るいが部屋の中はカーテンが閉まっていて暗い状態だった。
つまり……。
「ううん……やめろぉ須美ー、それはアタシの~……zzz」
寝ていた。それも何かの夢を見ている。
「えぇ~!わっしーミノさんからなにか取ったの〜?」
「取ってないわよ。全くどんな夢を見てるんだか……起きなさい銀、朝よ」
ゆさゆさと体を揺さぶる。がくんがくんと揺れる銀、そして目を覚まして一言。
「……?アタシのジェラートは?」
「知らないわよ……ほら早く準備して」
ため息混じりに返す。
こんな事がしょっちゅうあるから私としては慣れているのだが。
「朝ごはんはおにぎりを握ってきたわ」
椅子に私のそのっちが座り机にお茶を注いで銀の準備を待つ。
「毎度毎度助かるな〜」
制服に着替えて椅子に座る銀。そして勢いよくおにぎりを食べる。
「そんなにがっつかなくても食べ物は逃げないわよ」
「……ん!?んん!!」
胸の部分を手で叩く、どうやら詰まらせたようだ。
「はいお茶だよ~」
そのっちが注いでいたお茶を銀に差し出す。
ゴクッゴクッと飲むが。
「ゴホッゴホッ!あ、熱い!!」
「朝から元気ね。さっき起きたばかりというのに」
「ふー!ふー!仕方ないだろ!?」
「あはは~ミノさん面白いよ〜」
とてもあんな大きな戦いがあった後とは思えないほど平和な日常。
銀がご飯を食べてから三人で学校に向かう。学校までは歩いて向かう。
「あれ?今日は友奈はいないんだな」
「今日は先に行くって言ってたのよ」
「やっぱりあの部活〜?」
「ええ、そうらしいけど」
友奈というのは私の家の近くの結城さんの事だ。とても明るく元気な少女、私達と同じ中学でもある。
「ほんと面白い部活だよな。勇者部って」
勇者部。名前を聞くだけなら何の部活だろうと思うがただ単に人助けやらボランティアやらをする部活らしい。それに結城さんは所属している。
「結城さんに進められているけど……少しその単語は、ね」
勇者、ゲームなどでは主人公の位置。誰もが憧れるだろう。でも私達はその言葉は心にくるものがある。
「思い出しちゃうからね~、祈くんの事」
「……だな」
少し暗い雰囲気になる。
あの戦いが終わって祈くんだけが戻ってこなかった。二人に話を聞けば私が気絶している間に色々あったらしい。
「でもちゃんと帰ってきてくれるよ~。約束は守るからね~祈くん」
少し笑顔で言うそのっち。
「ええそういう男よね、祈くんは」
釣られて微笑む。その私を見ていた銀がからかってくる。
「おやおや?クラスで相変わらず人気の高い須美さんがそんな事言っていいのかな〜?」
この二人は今でも昔の名前……で呼んでくれる。まぁ、今の方が昔なんだけど。
「いいのよ、好きなんだから」
「おお~わっしー大胆〜!でも私も好きだよ〜」
「ふふっ、アタシだって祈が大好きだけどな!」
祈くんが居なくなって前よりも更に大きくなっていた私達の気持ち。
登校中は楽しい会話をしながら肩を並べて歩く。
そして丁度通学路にある橋を渡った場所には、毎朝ある二人組が橋の下のゴミを拾っている。その二人は学生や走っている地域の人達とすれ違う度に笑顔で挨拶をしている。
「おはようございます!……あ!」
そのうちの一人、赤髪の女の子が私達に気づく。
「おはよー!東郷さんー!」
手を振りながら挨拶をしてくる。私はその女の子――結城さんに近づいて挨拶をする。
「おはよう結城さん、今日も頑張ってるのね」
「うん!勇者部の活動の一つだからね!」
後ろから銀とそのっち、結城さんの方から黄色髪の人が私達に寄ってくる。
「あら東郷じゃない、おはよー」
「犬吠埼先輩、おはようございます」
頭を下げて挨拶をする。
この人は勇者部部長の犬吠埼風先輩、二年生で勇者部を立ち上げた本人でもあるらしい。
「あ、風じゃんおはよーっす!」
「部長さんおはよーごさいます~」
「はぁ……銀には二人を見習って欲しいわね」
何故か銀は犬吠埼先輩に敬語を使わない、理由は分からないが……。
「銀ちゃん、そのちゃんおはよー!」
「おはよーだな友奈!」
「おはよーゆーゆ」
挨拶を終えたそのっちが鞄を下ろして袋を持つ。
「手伝うよ~部長~」
そのっちはこの部活に興味があると前から言っていてたまにこの様に手伝う、それに流されて私達も手伝う事がある。
「おお、やっぱり乃木はいい子だな~」
「えへへ~」
頭を撫でられるそのっち。
「私達も手伝いましょうか、銀」
「え?学校は?」
起こしに来たから遅刻する前だと思っているのだろう。
「今日来た理由はあのままだと遅刻してたでしょ?だから早めに起こしに来ただけよ」
まだ時間はあるわ、と言って近くの時計を指さす。
「なーんだそれならいいか」
私と銀も鞄を置いてゴミ拾いに参加する。
「もう東郷さんも入ればいいのに楽しいよ?勇者部」
「考えるわ、入っても来年だけどね」
「あら部長権限で今すぐにでも入部させるわよ?」
「わぁ~!」
「それっていいのか?ちゃんと段階とか……」
「権限で打ち消すわ」
笑い声が響く。
こんなにも平和、だけど物足りない。それはやっぱり祈くんの存在……いつの間にか私達の中で大きくなっていて、居なくてはならなかった……。
「(私達は待ってるわ、いつでも帰ってきてね)」
心の中で願う。
この願いがいつか――届くようにと。
「もういっそ入るか?この部活」
「私は賛成だよ~!ね、わっしー?」
「だから待ってって言ったでしょ?せめて来年ね」
「来年入るの!?」
「賑やかになるわね、来年は妹もくるから楽しくなるわ」
……心のどこかでこの輪に祈くんが居れば、なんてわがまますぎるわね。
〜???side〜
『お前達は……』
「久しぶりですね、神樹様」
「……これがあの神樹様?」
『どうやってこの場所に来た。星崎祈ではないと――』
「その祈ってやつは私は知らないけど、この子と関係あるのよね。話に聞いたけどそいつと同じらしいわよ、この子」
『同じだと?……なるほどな、やはり兄妹か。神装に手を出したな』
「お兄ちゃんが頑張ってるのにわたしが何もしないなんて、そんな事出来ないもん」
『で、どうしたいんだ?』
「お兄ちゃんに会わせて」
『無理だ』
「どうして?この子なら力に――」
『まだ次の勇者が揃っていない。もう少しだからそれまで待て』
「…………」
『それまでは干渉するな。お前達が早めに来ると混乱する、イレギュラーが二人も居るのは私としても予想外だからな』
「あれ、私も?」
『当然だ』
「わたしの力を使えるからね。ごめんね巻き込んじゃって」
「いいって、何回も言ってるじゃない」
「じゃあわたし達は戻るけど最後に一つだけ。お兄ちゃんは無事だよね?」
『……ああ、
「……分かったよ。ありがとう教えてくれて」
「じゃ、失礼したわ」
『まさかお前も来るなんてな。……もう少しだけ耐えてくれ星崎』
〜???side〜
「はぁ、はぁ……っ」
視界がぼやける。
手に力が入らない。
「もう俺がやる。お前の体を寄越せ。神降ろしの使いすぎだ」
「そう……する、よ……」
声の主に体を支えられ意識が薄くなっていく。
何か大事な事が思い出せない。
――――約束、してたんだけどな。
次回予告
「何だかんだで入っちゃったわね」
「部長の命令は聞くべきよ!」
「と、東郷先輩?」
「お役目は続いている、ね」
「こ、ここは……?」
第一話 勇者部
次回“星崎 祈は勇者になる 「結城友奈は勇者である」編”開幕――