星崎 祈は勇者になる   作:小鴉丸

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わすゆ編最終話です


最終話 またいつか

〜天照side〜

 

 

「…………」

 

ただ、遠くを見ていた。別に何かが見えるわけでもないのに、神樹の近くに座って俺は遠くを見続けた。

 

『どうしたんだ星崎祈』

 

「始まったな、って」

 

『そうだな』

 

バーテックスの総攻撃。どの時代も苦しまされ絶望する、それに勇者達がどれだけ抗えるか……。

 

「……俺は、何をしているんだろうな。あいつのような事は繰り返したくないなんて言う割にはこんな――」

 

『星崎栞那か』

 

最愛だった人物の名前を神樹が言った。

動かない体を勇者の切り札で無理やり動かして当時の勇者達を救ってくれた、致命傷を負った体はバーテックス達を退けてさらに酷くなり――

 

「満開だったか。同じような事がなければいいが」

 

勇者に新しく与えられた力は制限はかかってるが前と変わらないもの……ではないな。力に対する代償が大きすぎる。

 

「……あいつの行動次第だな」

 

俺は神樹の横で戦闘の行く末を見ていた。

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「それが精霊?」

 

「そうらしいな」

 

勇者に変身した皆の横にふよふよと浮いているもの。これが勇者システムのアップデートで追加された精霊だそうだ。

 

「私はカラスだよ〜」

 

鴉天狗って言ってあげて、と須美から突っ込みが入る。

 

「須美の精霊は……卵?」

 

「青坊主よ。まぁ見た目は卵だけど……」

 

そう言い須美は青坊主を撫でる。

 

「それにしても銀の精霊は羨ましいわね、武者かしら?」

 

「諸行無常」

 

「おー!喋ったよ〜!」

 

「逆にこれしか喋らないんだけどな。因みに義輝って名前らしい」

 

「諸行無常」

 

ほんとにそれしか喋らないのか。謎の威圧感があるような無いような。

 

「私達は変わったけど祈くんは何も変わらないね〜」

 

園子が僕の姿を見てる。自分の格好を見下ろしてみて神樹館の制服が目に入る。

 

「僕は勇者システムのアップデートは無かったからね」

 

そもそも勇者システムではないと思うし。

そこに須美の声が入った。

 

「話はこの戦いが終わった後ね」

 

その言葉で今の状況に引き戻された。

そうだ今は話してる場合じゃなかったな。……でも皆だからこんな時に話せたんだろうな。

僕は須美の精霊、青坊主から端末を見せてもらい敵を確認する。

 

「(敵は三体……先に僕が切り込めば皆は安心して攻撃出来るはず)」

 

星樹を取り出して皆に提案。

 

「先に僕が行くからその後にみ――「待った」――?」

 

銀が僕の話を遮った。どうしたのだろうか?

 

「アタシ達は仲間、チームメイトだろ?一人で突っ走るなよ。私達だって強くなったんだぜ」

 

銀の言葉に須美と園子が頷く。

……そうか、昔と違って僕はいつの間にか一人で行動してたんだな。

 

「……ごめん。指示をお願い」

 

園子の目を真っ直ぐに見て言う。

 

「分かったよ〜!えっとね〜……」

 

園子の作戦は銀と園子、僕と須美の二手に分かれて敵を攻撃するというのだ。幸いバーテックスの一体、獅子座のバーテックスは動こうとしない。二体目は魚座のバーテックスだ、これを僕と須美が。最後の牡羊座を銀と園子が相手をする。

 

「了解よそのっち」

 

いつの間にか須美の手には弓ではなく銃が収まっていた、その形状からして確かスナイパーライフルだった気がする。

そう、勇者はシステムのアップデートに伴い新しい武器が追加された。と言っても追加されてないのもあるらしいが……。

 

「お、カッコイイな須美!」

 

「私はそのままだよ〜。使い慣れてるからいいけど〜」

 

須美に続いて武器を出す二人。

その例が園子だ相変わらずの槍、そして銀はというと。

 

「ミノさんの斧は少し形が変わったね〜」

 

「……くっつく?」

 

須美が不思議そうに言う。

 

「お!よく気づいたな!見てろよ〜……」

 

二丁の斧を刃が外を向くように合わせて大きな一つの斧に、そしてそれだけでなく……

 

「へぇ……」

 

思わず声を出してしまう。

銀はもう一度斧を二丁にし両手首のスナップをきかせたかと思うと刃の部分が180度動き今度は二丁斧ではなく二本の大きめの刀になった。これは前の武器に似ている。

 

「からの〜、二刀流!」

 

手に持ってた斧が消え手に二本の剣が現れる、その剣こそアップデートで追加された武器なのだろう。

 

「! 凄いわ!」

 

「わぁ〜!」

 

珍しく須美が声を上げている、園子は目を輝かせる。僕らの反応を確認した銀は剣を出した時に追加されたのであろう腰の部分にある鞘に剣を入れた。

 

「斧、刀、双剣に使い分けが出来るのね」

 

「おう!パワーにスピード両方を兼ね備えてるんだ!」

 

自慢げに話す銀。

 

「じゃあそれぞれの武器の性能も分かったし今度こそ行こっか」

 

僕が星樹を取り出して皆に言った。

 

「あ〜ちょっと待って〜」

 

「どうしたのそのっち、バーテックスもいつまでも待ってないのよ?」

 

視線をバーテックスに向けるが何故か三体とも動こうとしない。

待ってるのか?それならありがたいが……とても複雑な気分だ。

 

「でもでも〜、一つだけしたいのがあるんだよ〜」

 

「何をするんだ?」

 

「えっとね、肩を組むやつだよ〜」

 

きっと円陣の事だろう。僕らの時もやってた記憶がある。

 

「ほらほら来て来て〜」

 

「わわっ……」

 

園子に集められる三人、そしてそのまま肩を組んだのだが園子が微妙な表情をしている。

 

「…………」

 

「園子掛け声は?」

 

「考えてなかった〜!」

 

銀の問いに笑いながら答える。こういう所はしっかりしてないと思う。

 

「サブリーダーお願い〜」

 

え?僕?

唐突に振られた。それにサブリーダー?

 

「祈になら任せれるな!頼むぜサブリーダー!」

 

「お願い祈くん」

 

銀と須美もこう言ってくる。まぁいいか。

すぅ、と息を吸って声を上げる。

 

「今回の戦いは今まで以上に大変だと思う、けど僕らならやれる!この戦い……勝つのは僕らだ!ファイトーー――」

 

「「「「オーッ!!!」」」」

 

 

 

 

〜銀side〜

 

 

円陣をした後にアタシ達は二手に分かれ戦闘を開始した。相手は牡羊座のバーテックス。

 

「う……何だか気持ち悪いな」

 

ニョロニョロと大橋を突進してくる、それにアタシと園子は武器を構えた。

 

「行くぞ園子!」

 

「任せて〜!」

 

アタシは一丁の斧にして敵に振り下ろす。

 

「変な動きをしやがって、気持ち悪いんだよ……止まれえっ!」

 

その攻撃で脳天を真っ二つにした。続いて園子が関節部分を攻撃しバラバラに切り離す。

 

「終わりだな!」

 

身体がバラバラになったバーテックスを見て言う。だが……。

 

「あれ?待ってミノさん〜、このバーテックス……」

 

園子が真っ二つにしたバーテックスを見ている。

 

「こいつ再生してる!?」

 

「いや再生よりもこれは〜――」

 

アタシ達が斬った部分から体が生えてきている。

 

「まったく!気持ち悪い……な!」

 

「斬ったら増殖するなんて〜、これじゃ迂闊に攻撃出来ないよ〜」

 

一丁の斧を団扇のようにして風を起こす、それで取り敢えず敵を後退させる。園子は槍を器用に使い敵の攻撃を受け流す。

 

「! 園子後ろだ!!」

 

やはり増えた相手を二人だけでは厳しい。

数で押し切るようにして園子の横から増殖したうちの一体が強烈なタックルを仕掛けた。

が、その瞬間バーテックスと園子の間に園子の精霊、鴉天狗が現れて攻撃を防いだ。

 

「(アレが精霊バリアか、心強いな!)」

 

園子は衝撃で弾かれはしたがダメージは全く無いように見える。

アタシは心の中で思った。これは大きな力だ、前みたいに大怪我をしなくてもすむ。

だけど無敵ではないから油断は出来ないな。

 

「もう強引にきたって通じないよ〜!」

 

アタシ達は一斉に襲ってきた敵を斬る。やはりだが、それはバーテックスを増殖させるだけになる。

 

「諸行無常」

 

「ん?どうした義輝?」

 

義輝が端末をアタシに見せてきた。

 

「(何でレーダーを……ってん?)」

 

レーダーを見ておかしな事に気づいた。アタシ達が敵を斬って増えてるはずなのにレーダーは敵を示す印が一つしかない。

 

「(どういう事だ?)」

 

その場所を見てみるとそこには増殖した個体に囲まれている一体がいた。

 

「なるほどな!」

 

斧を消して鞘から剣を取り出す。

 

「だけどどうやって行こうか……」

 

うじゃうじゃとして斬り込んでも増えるだけだろう。園子も囲まれている一体を目指そうとするが敵に阻まれて思うように移動できないように見える。

 

ヒュッ――

 

何かがアタシ達の間、隙間を通り抜けた。

その後に囲まれている一体が何故か怯んで増殖した個体の動きが止まる。

 

「今よ!祈くん!」

 

後ろから須美の声が聞こえる、となると今のは須美の狙撃だろう。

 

「逃がしはしないぞ!」

 

神装状態の祈が上から炎を纏わせた刀を持って急降下していた。

その刀をバーテックスの上で横に薙ぎ払う、その一振りは本体と増殖した個体を同時に消し去った。

 

「やっぱり祈くんは凄いな〜」

 

「こりゃアタシ達も頑張らないとな」

 

須美と合流し祈も上から降りてきた。

 

「わっしー魚座はどうしたの〜?」

 

「それが……海に潜って出てこないのよ」

 

レーダーを確認すると同じところから動いていない。

 

「須美が攻撃をしたのはいいんだけど、その後に潜ってそのままなんだよ」

 

そう言い祈は橋の向こうを見る。そちらに視線を移すと獅子座が前進を始めていた。

獅子座の動きは、大橋を沿うように海の部分を進んでいる。

 

「どうやら魚座の方も来たみたいね」

 

須美が銃でいつでも撃てる状態に入る、アタシと園子、祈もそれぞれの武器を構えた。

 

そして地鳴りとともに海中から魚座が飛び跳ねてきた。

最初に須美の狙撃で体勢を崩す事ができた。

 

「おおぉぉぉぉッ!!!!」

 

気合を込めて敵に斬りかかる。

体勢が崩れた斬り裂くのは簡単だ。

アタシは斧を二つにして刀モードで十字に斬る、続けて園子が槍で連撃を加える。

 

「お前も――っ!?」

 

再び祈が炎を纏わせた刀で斬りかかろうとした、その時……。

獅子座から極太のレーザー砲が放たれた。

 

「狙いは……神樹様か!」

 

獅子座が狙ったのはアタシ達勇者ではなく神樹本体だった。

幸いにもレーザーは神樹様に届かず霧散した。

その隙に魚座は海に潜っていった。

 

「近づいてきてるよ〜!」

 

距離を詰められれば確実に神樹様に届く、そして破壊される。それだけは何としても避けなければいけない。

 

「撃たれる前に――撃つ!満開!!」

 

瀬戸大橋に花が咲き誇る。

後ろでは須美が満開――勇者に与えられた新たな力を使っていた。

 

 

 

 

〜須美side〜

 

 

「(これが満開……)」

 

不思議と力が湧いてくる。

今の私は宙に浮いていて、極太の砲座を束ねている。

 

「わぁ、巨大戦艦わっしーだ!」

 

「いけぇ須美!フルバースト!」

 

そのっちと銀が下で何か言っている。

銀に至ってはどういう事か分からないけど何かのゲームだろうか。

 

「この力、その身で受けてもらう!」

 

獅子座に空から砲撃の雨を降らす。

やはり火力が違う、一撃当たるだけでも大きな巨体を崩すことが出来た。

 

私の放った砲撃が何発も当たって海の中に獅子座は消えていった。

橋の上に私は着地する。

 

「二体とも海に沈めたわね……」

 

「もうそのまま帰ってくれてもいいけどな」

 

銀がそう言ってレーダーを眺めた。しかし、敵の位置に変化は無い。

再生をして仕掛けてくるのだろう。

 

私の満開が解除される。

 

「長時間の満開は不可能のようね」

 

「お疲れ須美。満開、凄かったよ」

 

祈くんが近づいてきた。

 

「(そういえば祈くんの神装は私達の満開と違うのかしら?……ずっとその状態でも平気のようだけど)」

 

神装を纏っている祈くんを見続ける、その体からは淡い光が溢れている。

その光は眩しいというよりも少しだけ温かく、包み込んでくれるような――。

 

「……須美?どうかした?」

 

いけないわ。

別の事を考えてしまっていた。

 

「いえ少し疑問があって。私の満開は短時間しか無理らしいけど、祈くんの神装は長時間可能なのよね?」

 

「長時間……うん。その気があればずっとこの状態でいられるけど神降ろしを使いすぎるとその分の反動がくるんだよ。まぁ、後のことを考えなければ神降ろしを何回使おうが――ってこんなのは話さない方がいいよね」

 

微笑みながら言う祈くん。

 

「やっぱり凄いわね、祈くんは……!?」

 

がくんと急に足に力が入らず倒れそうになる。が地面につく前に祈くんが支えてくれた。

 

「どうしたの?」

 

「? 足に力が……、いえ、足が、動かない」

 

そのっちと銀も近くにくる。

 

「どうしたんだ祈?」

 

「いや、足が動かないらしくて……」

 

「どうして〜?敵に攻撃でも受けたの?」

 

「いいえ。敵には攻撃は受けてないわ」

 

何故?

その言葉が頭の中でぐるぐると回る。

 

「っと、敵さんもまた来たな」

 

再生を終えた獅子座、魚座が再び動き始めたらしい。

 

「じゃあ今度は私が満開をするよ〜」

 

「アタシもこの際一気に攻めるぞ!」

 

二人も満開のゲージが溜まっていた。増殖体の牡羊座を相手した時に溜まっていったのだろう。

 

「そういえば須美。援護は出来るか?」

 

「ええ、動けなくてもそれくらいは出来るわ」

 

「うっし!それは助かるな!」

 

海から魚座が襲ってくる。

 

「まずはコイツからだ!」

 

「うん〜!」

 

「「満開!!」」

 

銀とそのっちが満開をする。

再び大橋に大輪の花が咲く。

 

「僕も行ってくるよ」

 

「了解、援護は任せて」

 

祈くんが刀を構えて魚座に向かう。

私は銃を数発撃ち援護射撃をする。

 

「ありがとう〜わっしー!」

 

そのっちは満開して変化した槍を操る。どうやら槍の穂先にある刃の数が増えているようだ。

その一つ一つを自由に操り敵を斬る。

 

「次はアタシだ!」

 

銀は満開してからは自分以上の腕が四本追加され、それぞれの大きな刀を持っている。やはり武士をイメージしているのだろうか、腕には二つづつ鎧の一部のような物が付いている。

銀が腕を振るうと腕が連動して動く仕組みのようだ、その四本の腕で刀を操り連撃を加える。

 

「銀下がって!後は僕が――」

 

銀が下がりその後ろから祈くんが刀を構えて敵に突撃する。

 

私と祈くんの距離は離れているがパチッと音が聞こえた気がする……。

 

「火雷神よ――」

 

敵を二、三回斬り、刀を逆さに持つ。

そしてそれを敵に刺して――。

 

「その力を示せ」

 

バチッ!!

 

轟音。そして一瞬だが視界が真っ白に染まった。

視界を取り戻して目を開けるとそこには魚座の姿は跡形も無く消え去っていた。

 

その間に銀とそのっちが獅子座を攻撃していた。

二人の止まらない連携攻撃で獅子座は再び海に沈む。

 

「雷、か?すごい音だったけど……」

 

「ぴかっ、どーん!だったね〜」

 

満開が解除された二人と祈くんが橋に降りてきた。

 

「雷であってるわよ。祈くんの力のね」

 

「お〜!さすが祈くん〜!」

 

そのっちに褒められたからか少し顔が赤い祈くん。

それを隠すようにレーダーを見る。

 

「これで魚座と牡牛座を倒したから後は獅子座だけだね」

 

銀の精霊にお礼を言って頭をぽんぽんと叩く。

 

「でもまだ海に潜ってるみたいね」

 

点が動いていないことからまた再生をしているのだろう。

 

「レーダー、レーダー……あれ……?」

 

そのっちが片目をこする。

 

「どうしたの園子?」

 

「あれ……あれれ?目が……片っぽの目が見えない〜」

 

「え?」

 

どくん。

何故か嫌な予感がする。そう考えていた矢先に……。

 

「……アタシは腕が動かない」

 

銀は右腕を左手で掴みながら言う。

自分の足も動けない状態なのだ、なのにこうも続けて同じような状態が起きるなんて……。

 

「敵の攻撃?やられたら呪詛を送り込むとかか?」

 

「神樹様の力を持ってるのに呪詛なんて効くのかしら……今は精霊だっているのよ?」

 

「じゃあ、どうして〜?」

 

攻撃をしたから?いいや、それなら今までだって――。

 

「……! 祈くんは!?」

 

もしかして……と思い祈くんを見る。

 

「いや、僕はなんとも無いけど」

 

何事もなく立っていた。

 

「敵を倒した、からじゃなさそうだね。それなら僕だってなる筈だから……っ!」

 

「どうしたの〜祈くん〜?」

 

「…………」

 

そう言って神樹様の方を見る祈くん。神樹様の安全を確認しているのだろうか。

 

「(それにしても敵の攻撃でもない、倒したからでもない……それなら何が原因なの?)」

 

まるで考えが思いつかない。

疑問を抱えている私達の事なんて当然考えるわけでもなく、獅子座は再び動き始めた。

 

「くそ……ふざけるなよ……!」

 

「祈くん?」

 

それと同時に祈くんは地面を蹴って獅子座に向かった。

 

「アイツ!精霊も無いのに何してんだ!」

 

「私達も追おう〜!」

 

「満開で祈くんをサポートしましょう、二人共頼むわよ!」

 

 

 

 

〜祈side〜

 

 

「(そういう事か神樹!)」

 

須美、銀、園子の状態の事で嫌な予感が付いてしまう。

 

『動かなくなるまでだ』

 

この戦闘が始まる前にした神樹との会話。あの言葉は文字通り(そのまま)の意味なのだろう。

 

「見えた……!」

 

獅子座が見えたと思ったら、僕の横を何かが通り過ぎそれが獅子座に当たって獅子座が傾く。

 

「今の、まさか!」

 

後ろを振り向くと、やはり須美が満開をしていた。そして銀と園子もだ。

須美の砲撃で敵が怯んでいる隙に銀と園子が攻撃を畳み掛ける。

が、獅子座は攻撃を仕掛けようと怯みながらも砲撃のチャージを続ける。

 

「下がって二人共!」

 

僕の指示で下がる二人。

 

「! わっしー!」

 

そして園子は叫びながら後ろに向かう。

そちらを向くと満開を解除した須美が橋の上で倒れていた、そしてそこには倒したはずの牡羊座のバーテックスが一体いた。

 

「どうしてあのバーテックスが?」

 

銀もそちらに気が取られてしまう。

そしてその一瞬が命取りになる。

 

「銀!」

 

獅子座の砲撃を開始した。その砲撃は拡散し狙いは定まってないように思える。だが、流れ弾が僕らに当たらないとは限らず……。

 

「え……」

 

砲撃の一部が銀に向かっていた。

 

距離がそう遠くなくて助かった。僕は銀を片手で自分に寄せて攻撃を防ぐ。

 

「神具顕現――八咫鏡!」

 

僕よりも少し大きめの鏡が目の前に出現する。前に神降ろしで出したのとは違い、今回のはただの盾だ。

攻撃を防ぎきった僕は一旦後退することにする。橋に銀を下ろし牡牛座の残り個体を星樹で斬りつけて消滅させた。

 

「……皆、体に変化は?」

 

聞きたくないが聞く、これでハッキリと分かるからだ。

 

「アタシは……え?か、体が――」

 

「わっしーは気絶してるよ。私は今度は左腕が……」

 

満開を解除した二人はやはり体に異常が起きていた。

園子は左腕、銀はどうやら体が自由に動かないようだ。

 

獅子座を見ると砲撃を放とうとしていた。

 

「園子、須美を持って!絶対に離さないでよ!」

 

「え?う、うん〜」

 

星樹を一旦消して両手で二人を抱える。

砲撃が来る前に陸地に移動して二人をおろす。

 

「あぁ!瀬戸大橋が――!」

 

大地が揺れた。

それは大橋が獅子座の砲撃で崩れたからだった。

 

満開――勇者の新しい力。

その力の代償、神樹の言葉の意味……。これを分かってしまった僕は二人に告げる。

 

「二人共、もう満開は使わないで……後は僕一人でどうにかするからさ」

 

「い、祈……」

 

銀はもう戦える状態じゃない。

園子が声を上げる。

 

「何で!?どうしてなの!?」

 

「自分でも分かったんだろ、満開の代償を」

 

「っ!?」

 

いざという時に強い園子は分かったのだ、満開を。そして使い続けると最終的にどうなるのかも。

 

「だから須美を今起こしていない」

 

「で、でも!私達だって戦えるよ〜!だから一人でなんて――」

 

三人を順に見る。

 

「とてもそういう状態じゃないけどね。園子も限界でしょ?」

 

「限界じゃないよ〜!戦えるもん!」

 

「そ、園子……」

 

武器を持つ園子だが、その手は震えている。

満開を使えば動かない部分は回復するが、解除されればまた何かが動かなくなる――その恐怖は大きい。それも一人の少女にしては、だ。

 

「園子、ここは祈に任せよう。ちゃんと……ちゃんと帰ってくるんだよな」

 

銀も分かったらしく僕を真っ直ぐに見て質問してくる。

 

「うん、帰ってくるよ。皆の場所に」

 

「よし!それなら行ってこい!!ただし――」

 

そう言って片腕で自分の髪留めを外した。そしてそれを僕に渡す。

 

「? これは?」

 

「ま、お守りか何かだと思っててくれ。アタシも……勇者だからな、せめてそれくらいさせろよ」

 

僕はそれを髪に付けてみる。

すると二人はくすっと笑う。

 

「え?何?おかしいかな?」

 

「あはは、祈くん可愛いよ〜!」

 

「祈に意外と似合うよな」

 

三人で笑い合う。

そうしてるうちに獅子座はゆっくりと進んでくる。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。神樹には先に送り返すように言っとくよ」

 

星樹を取り出して、最後に皆の顔を見る。

 

そして――

 

「じゃあね、みんな」

 

一言。そう言って飛び立つ。

目標は獅子座。皆が痛めつけてくれたおかけで一人でも楽そうだ。

 

「神樹!皆を元の世界に返してくれ!後は僕一人でやる!」

 

その声が届いたのどうかは分からないけど、きっと届いただろう。

 

『お前も馬鹿だよな』

 

「天照か、どうした?」

 

急に天照の声が響く。

 

『俺も手伝ってやるよ。獅子座は任せろ』

 

「任せろって……一体何を――」

 

聞き返そうとした、その時。

獅子座の巨体は少しずつ消滅していった。

 

「……一体何をしたの?」

 

「別に。普通に殺しただけだ」

 

先程まで獅子座が浮かんでいた場所には天照が星樹を持って、宙に浮いていた。

 

「一旦神樹の場所に行くぞ。話があるらしい」

 

バーテックスはいないが樹海化はまだ続いている。僕と天照は神樹の場所に向かった。

向かう途中に皆がいた場所を見るとそこには誰も居なく、神樹が返してくれたのだと思った。

 

そして、神樹のところに着いた。

 

『来たか』

 

天照は僕の少し後ろで待っている。

会話は僕だけにらしい。

 

「で、何?」

 

『そこの星崎祈は今から壁の外に行って時間稼ぎをする。それが元々の使命だ。お前達は星崎祈の回復するまでの間を稼いでくれて本当に助かった、感謝する』

 

「……お前なんかに感謝されてもな」

 

吐き捨てるように言う。

 

「そうだ、感謝するくらいなら僕の願いを聞いてくれ」

 

『ふむ?』

 

「…………」

 

「勇者達の満開の代償、あれを僕が受ける。というか代わりになるのはダメか?……そうだな、僕自身をお前に捧げるとかかな」

 

これなら釣り合うだろう。

後ろでは天照が笑ったような気がする。

 

『本当にいいのか?それほどまでしてあの勇者達のことを守りたいか?』

 

「うん、守り守られる関係だからね」

 

神樹は少し間を置いて。

 

『それなら現勇者達の満開の代償は無しにしてお前の体を供物とする。機能を奪うのではなく星崎祈と共に時間稼ぎを頼む』

 

「了解だよ。行こう天照」

 

くるっと後ろに進む。

 

「じゃあ頼むぞ神樹」

 

『ああ。それでは次の勇者が来るまで持ち堪えてくれ――』

 

神樹がそう言って視界が光に包まれる。そして目を開けたら――。

 

そこには無数のバーテックスがいた。

僕は先程の言葉を思い出す。

 

「次の勇者への架け橋に、か」

 

「……無理そうか?」

 

「いや。そういう終わり方もいいかなって」

 

「終わる前提かよ。まぁ、いいけどな」

 

天照は地面に星樹を突き刺して力を呼びだす言葉を口にする。

 

「神装」

 

そこには僕と同じのを纏った天照が立っていた。

 

「足は引っ張るなよ……()

 

「ははっ、頑張るとするよ(天照)

 

拳をお互いの拳にぶつけて言葉を交わす。

 

いつ終わるか分からない戦い。

だけど次の勇者達のためにもここは踏ん張らないといけない。

 

そうして僕らは神の力を振るう。

この、終わりの見えない戦いで。




無事わすゆ編を完結できました!
今回も読んでもらいありがとうございます!

完結なんて言っちゃいましたけどわすゆ編はまだお話が残っています。それは――
その時になるまでのんびりと待っててもらえると嬉しいです。

ご都合主義が結構目立っていた作品ですけどここまで読んで下さった方に感謝をしつつ終わりたいと思います。

それではまた!
勇者達の新たな物語にて会いましょう!

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