あれから順調に強化と刀剣回収を進め、本丸に新たな仲間が加わった。平野藤四郎と秋田藤四郎だ。二人とも粟田口の短刀で、鍛刀と戦場で清光さまが刀を拾ってきた。礼儀正しく素直で、わたしをすぐに主と認めてくれた。
「歴史が変わるということは、それによって僕たち刀も生まれていなかった世界ができる可能性があるということです。主君にお支えすることで消えてなくならないのであれば、全力でお支えさせていただきます」
「あなたのことはまだよくわかりませんが、僕を拾ってくれたそこのお二方から察するに、悪い方ではないようです。だから、僕のことも使ってください、主君」
この愛らしさをこっちの二人に求めるのは酷でしょうか。
ちらりと見た視線の先で、清光さまはにっこりと可愛らしく笑い、国俊さまは「そんなことより」と言いたげな視線を返してきた。違う、こうじゃない。
「わたしはこのか、この本丸を任されている審神者です。これからよろしくお願いしますね、平野さま、前田さま」
「はい!全力でお守りします!」
「僕も頑張ります!」
あ、癒された。可愛すぎます。純粋なこどものようで、疑うことを忘れてしまう。わたしよりも、何百年も長く生きているというのに。
「国俊さま、お二人に本丸を案内してあげてもらえますか。その間にわたしは夕食を作ってしまいますから。あ、清光さまは手伝ってくださいね〜」
「おおっ、今日はご馳走か!」
「はいはーいっと」
二手に分かれてわたしたちは厨房へと歩く。広い本丸だけれど形は単純なので迷いそうもない。
「そういえば、彼らに部屋の場所を教えるのを忘れていましたね〜」
「そんなのあとあと。どうせ夕飯食べてからなんだからいいでしょ」
「そうですね〜。ところで、今日の夕飯は何がいいですか?彼らを連れてきてくれたので、清光さまの食べたいものも作りますよ〜」
そう言うと、目を輝かせた清光さまが、今にも尻尾を降り出しそうな勢いで詰め寄ってきた。これはもしかしなくても、この間貸した端末で調べていたようだ。
「俺、あれ!えっと、米を卵で包んだやつ、名前わかんないけど、あれが食べたい!」
「ああ、オムライスですね〜。よかった、フランス料理のフルコースとでも言われるかと思いました〜」
「ん?ふら…なんだって?」
「いいえ、なんでもないですよ〜」
覚えられてリクエストでもされたらたまったもんじゃない。さすがにそんな料理は作れません。
冷蔵庫の中身を確認して、必要なものを取り出す。メインはオムライスでいいとして、あとはスープとサラダと簡単なデザートでも作ろうか。
「清光さま、お箸は使えるようになりました?」
「う…あれ苦手。力加減がわかんないんだもん」
「折らないでくださいね〜」
これでは手伝ってもらえることがないではないか。
*** *** ***
「これが美味しいということなんですね!これが甘くて、これがすっぱい!人の体は面白いです!」
「僕、主君の作ったお料理大好きです!」
「ありがとうございます、二人とも。食べ終わったら、ごちそうさまでしたって言うんですよ〜」
「「ごちそうさまでした!」」
可愛らしい二人に構っている間にもう二人も食事を終えたようで、「ごっそーさん」やら「ごちそうさま」やら思い思いの挨拶が聞こえる。この二人は人の体に慣れすぎでしょう、まだ二日目だというのに。
*** *** ***
わたしの主な仕事は、まず人間というものを教えるところからだった。元は刀剣、物を食べることも知らない。ただ、それはわたしも一緒にできることだから手本を見せればいい。清光さまも国俊さまもそうやってなんとかしてもらった。ただ、それは先のような見せてできることに限る。
「頭はこれで洗って、流したら今度はこちらで整えるんです。一度だけはわたしがやりますから、次からはあなたたちが新しい仲間に教えてあげてくださいね」
「わあっ、あわあわです!ぶくぶくしています!」
「体は石鹸を泡立てて、汚れをこすり落とすんですよ〜」
「体が綺麗になるのがわかります!」
素直に驚いてくれるのは、こちらとしても教え甲斐がある。人の姿で過ごすためにはどうしても覚えなければならないこと、どうせなら楽しく覚えたほうがいい。
「頭がすっきりしました!」
「しかし主君の着物を濡らしてしまいました…申し訳ありません」
「大丈夫ですよ〜。あなた方が出たら、そのままわたしも入ってしまいますから〜」
*** *** ***
全員が風呂上がり、浴衣に着替えて静かに夜を待つ。
すでに二人はこれから来るであろう前田藤四郎とともに同室で過ごすことを了承し、部屋を整え終えていた。
「主君、床の用意ができました。これであっていますか?」
「はい。じゃあ、今日の最後ですよ〜。寝てみましょうね〜」
途端、二人がおずおずと居心地の悪そうな表情になった。きっとどうしたらいいのかわからないのだろう、清光さまと国俊さまもそうだった。
「じゃあこうして寝っ転がってください。お布団かけますよ〜」
ばさっと放り投げるように布団を掛ける。きゃーっとかわいらしい子供のそれのように喜ぶ。このままはしゃいでしまいたいところだけど、それでは意味がない。
「まだ霊力が安定しないでしょう?わたしがここで手を握っていますから、目を閉じて、ゆっくりと呼吸をしてください。明日の朝、目が覚めたら調子も良くなりますよ〜」
そう、人の体を保つためには自身の霊力が必要だ。わたしはただ最初の形を作る手助けをするだけ。自身の霊力の暴走は、人の体に慣れることでしか抑えられない。それは一晩眠って器に定着することで得られる安定。つまり、最初の一晩さえうまく眠ってしまえばあとはなんとかなるものなのだ。眠るために必要な霊力の調整、最初だけなら手伝うのも辛くはない。
だんだんと二人の手の力が抜け始めた。どうやらうまく眠れたようだ。
さあて、明日からはまた賑やかになりそうだ。
ここまで閲覧ありがとうございました。さすがに全員の登場を書くことはできないので、かっ飛ばします。また、次回からはこのかとメインキャラを決めて書いて行きますので、どうぞよろしくお願いします。※追記:平野くんは鍛刀です。訂正致しました。