ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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ベイビー・パニック 4

 「「「若返りの薬!?」」」

 

 竜宮の中に、3人の声が響いた。

 その3人とはもちろん、姫、良美、なごみの事である。

 乙女が重々しく頷く。

 

 

 「はー、あかり先生もやってくれますねぇ」

 

 「そうなんだ。一応中和する薬を開発してくれるそうだが、いつになる事やら」

 

 「迷惑な先生ですね」

 

 「対馬君、かわいそう」

 

 

 みんなの目線が、3歳の幼児になってしまったレオに集まる。

 レオはみんなに見つめられきょとんとしている。

 大きくてつぶらな瞳も、寸足らずな体型も、何ともいえずに可愛い。

 その魅力にやられて、みんな何となく頬を赤くしている。

 

 「ああーっ。なんて可愛いんだ!レオー!!」

 

 見つめているうちに色々辛抱たまらなくなったのだろう。

 乙女は、姫の膝にちょこんと座っているレオに駆け寄り、抱きしめる。そしてぐりぐりと頬ずりをし、幼児特有の甘ったるい匂いをいっぱいに吸い込んだ。

 

 「レオ、私はちょっと出かけなければならない」

 

 名残惜しそうに、柔らかいほっぺたを両手で包む。

 

 「乙女ちゃ、行っちゃうの」

 

 レオは今にも泣きそうな顔だ。やはり、この中でも一番乙女になついているのだろう。

 

 

 「大丈夫。すぐ帰ってくる。それまで、ここにいるお姉ちゃん達が遊んでくれるぞ」

 

 「すぐ、帰ってくる?」

 

 「ああ」

 

 「じゃあ、レオ、いい子で待ってゆ」

 

 

 涙を我慢する様子がいじらしくて、乙女はもう一回レオをぎゅーっと抱きしめた。

 

 

 「姫、私は学園長に事情を説明しにいかねばならん。その間、レオを頼めるか?なるべく早く戻る様にする」

 

 「はい、頼まれました。心配せずに、行ってきて下さい」

 

 「すまんな。じゃあ、頼んだぞ」

 

 

 乙女は精悍に微笑み、それから再びレオに目を戻すと今度はデレーっと笑って、小さな頭を一撫でしてから、すごい勢いで出ていってしまった。

 それを見送った3人は、何となく息をつき、それから苦笑。

 

 

 「あー、何だか疲れちゃった。よっぴー、お茶入れてくれる」

 

 「うん、いいよ。椰子さんは?」

 

 「あ、自分で入れますよ」

 

 「んーん、いいよ。紅茶でいい?」

 

 「・・・・・・はい。ありがとうございます」

 

 

 そんなやりとりの後、良美はしゃがみ込んでレオの顔を見つめた。

 

 

 「対馬君・・・・・・レオ君もジュース飲む?オレンジジュースでいいかな?」

 

 「ボクも、いいの?」

 

 「子供が遠慮しなくていいの。よっぴー、いいから持ってきてあげて」

 

 「うん、先にジュース、持ってくるね」

 

 

 良美はニコニコしながら立ち上がり、冷蔵庫からオレンジジュースを出してグラスに注ぐ。

 そして、すぐにそれを持って戻ってきた。

 レオの目の前で再びしゃがみ、

 

 「はい、レオ君のジュース。どうぞ?」

 

 とグラスを差し出した。こぼさないように、ちゃんと量は少な目に入っている。

 レオは、一瞬ちゅうちょしたものの、素直に両手でグラスを受け取り、

 

 「よっぴー、ありがと」

 

 そう言って無邪気に笑った。

 

 「うん、ゆっくり飲んでね?こぼしちゃダメだよ」

 

 良美は微笑み、今度は紅茶の準備をするため、流しへ向かった。

 

 「ほら、飲んでいいわよ?」

 

 姫に促され、コップに口を付ける。

 甘い味が口の中に広がって、レオは幸せそうに口元をほころばせる。

 

 

 「美味しい?」

 

 「うん、おいしー。お姫しゃま、ありがと」

 

 

 口の周りをオレンジジュースでべたべたにしながら、レオは姫の顔を見上げて嬉しそうに笑った。

 可愛くて、まるで猫のようになで回してしまいたい衝動に駆られる。だが、何とか自重して、柔らかな髪の毛をそっと撫でるのに止めた。

 

 「危険ね~。元が対馬君とは思えないくらいの可愛さだわ。・・・・・・まあ、対馬君も結構可愛いところあるけど」

 

 そんな風に1人呟きながら、良美が入れてくれた紅茶を飲む。

 しばらくして、紅茶を飲み終わったなごみが立ち上がった。流しで、ティーセットを片づけ、

 

 「じゃあ、あたし、先に帰りますんで」

 

 そう言いながら、姫の方へ近づいてきた。

 姫の前で立ち止まり、さっき良美がそうしたようにしゃがんでレオの顔をのぞき込む。

 

 「じゃあ、センパイ。また」

 

 そんな挨拶を受け、レオが首を傾げる。

 

 「センパイ??」

 

 センパイという言葉の意味が分からないようだ。そんなレオの様子に、なごみは優しく目を細め、

 

 「そうだね、センパイはおかしいか。じゃあ、レオ。またね」

 

 そう言って微笑みかけた。その微笑みの威力は絶大で。子供ながらに頬を染めたレオが、

 

 「ん。きえいなおねーちゃ、またね」

 

 そう言って手を振ると、なごみはその頭を優しく撫でてから立ち上がり、

 

 「じゃあ、お先です」

 

 今度はそっけなく姫と良美に挨拶すると、さっさと帰ってしまった。

 残された姫と良美は、さっきのなごみの微笑みにあてられたように、ほんのり頬を染めている。

 ふだん無愛想な分、笑った顔の破壊力は絶大だった。

 たとえ、その微笑みが自分に向けられたものではなかったとしても。

 

 

 「なに、あれ?なごみんのニセモノ?」

 

 「椰子さんも、子供には優しいんだねぇ」

 

 

 2人揃って失礼なセリフである。

 そのまま二人はしばらくぽーっとなごみの出ていったドアを見つめていたのだった。

 

 

 

 


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