「「「若返りの薬!?」」」
竜宮の中に、3人の声が響いた。
その3人とはもちろん、姫、良美、なごみの事である。
乙女が重々しく頷く。
「はー、あかり先生もやってくれますねぇ」
「そうなんだ。一応中和する薬を開発してくれるそうだが、いつになる事やら」
「迷惑な先生ですね」
「対馬君、かわいそう」
みんなの目線が、3歳の幼児になってしまったレオに集まる。
レオはみんなに見つめられきょとんとしている。
大きくてつぶらな瞳も、寸足らずな体型も、何ともいえずに可愛い。
その魅力にやられて、みんな何となく頬を赤くしている。
「ああーっ。なんて可愛いんだ!レオー!!」
見つめているうちに色々辛抱たまらなくなったのだろう。
乙女は、姫の膝にちょこんと座っているレオに駆け寄り、抱きしめる。そしてぐりぐりと頬ずりをし、幼児特有の甘ったるい匂いをいっぱいに吸い込んだ。
「レオ、私はちょっと出かけなければならない」
名残惜しそうに、柔らかいほっぺたを両手で包む。
「乙女ちゃ、行っちゃうの」
レオは今にも泣きそうな顔だ。やはり、この中でも一番乙女になついているのだろう。
「大丈夫。すぐ帰ってくる。それまで、ここにいるお姉ちゃん達が遊んでくれるぞ」
「すぐ、帰ってくる?」
「ああ」
「じゃあ、レオ、いい子で待ってゆ」
涙を我慢する様子がいじらしくて、乙女はもう一回レオをぎゅーっと抱きしめた。
「姫、私は学園長に事情を説明しにいかねばならん。その間、レオを頼めるか?なるべく早く戻る様にする」
「はい、頼まれました。心配せずに、行ってきて下さい」
「すまんな。じゃあ、頼んだぞ」
乙女は精悍に微笑み、それから再びレオに目を戻すと今度はデレーっと笑って、小さな頭を一撫でしてから、すごい勢いで出ていってしまった。
それを見送った3人は、何となく息をつき、それから苦笑。
「あー、何だか疲れちゃった。よっぴー、お茶入れてくれる」
「うん、いいよ。椰子さんは?」
「あ、自分で入れますよ」
「んーん、いいよ。紅茶でいい?」
「・・・・・・はい。ありがとうございます」
そんなやりとりの後、良美はしゃがみ込んでレオの顔を見つめた。
「対馬君・・・・・・レオ君もジュース飲む?オレンジジュースでいいかな?」
「ボクも、いいの?」
「子供が遠慮しなくていいの。よっぴー、いいから持ってきてあげて」
「うん、先にジュース、持ってくるね」
良美はニコニコしながら立ち上がり、冷蔵庫からオレンジジュースを出してグラスに注ぐ。
そして、すぐにそれを持って戻ってきた。
レオの目の前で再びしゃがみ、
「はい、レオ君のジュース。どうぞ?」
とグラスを差し出した。こぼさないように、ちゃんと量は少な目に入っている。
レオは、一瞬ちゅうちょしたものの、素直に両手でグラスを受け取り、
「よっぴー、ありがと」
そう言って無邪気に笑った。
「うん、ゆっくり飲んでね?こぼしちゃダメだよ」
良美は微笑み、今度は紅茶の準備をするため、流しへ向かった。
「ほら、飲んでいいわよ?」
姫に促され、コップに口を付ける。
甘い味が口の中に広がって、レオは幸せそうに口元をほころばせる。
「美味しい?」
「うん、おいしー。お姫しゃま、ありがと」
口の周りをオレンジジュースでべたべたにしながら、レオは姫の顔を見上げて嬉しそうに笑った。
可愛くて、まるで猫のようになで回してしまいたい衝動に駆られる。だが、何とか自重して、柔らかな髪の毛をそっと撫でるのに止めた。
「危険ね~。元が対馬君とは思えないくらいの可愛さだわ。・・・・・・まあ、対馬君も結構可愛いところあるけど」
そんな風に1人呟きながら、良美が入れてくれた紅茶を飲む。
しばらくして、紅茶を飲み終わったなごみが立ち上がった。流しで、ティーセットを片づけ、
「じゃあ、あたし、先に帰りますんで」
そう言いながら、姫の方へ近づいてきた。
姫の前で立ち止まり、さっき良美がそうしたようにしゃがんでレオの顔をのぞき込む。
「じゃあ、センパイ。また」
そんな挨拶を受け、レオが首を傾げる。
「センパイ??」
センパイという言葉の意味が分からないようだ。そんなレオの様子に、なごみは優しく目を細め、
「そうだね、センパイはおかしいか。じゃあ、レオ。またね」
そう言って微笑みかけた。その微笑みの威力は絶大で。子供ながらに頬を染めたレオが、
「ん。きえいなおねーちゃ、またね」
そう言って手を振ると、なごみはその頭を優しく撫でてから立ち上がり、
「じゃあ、お先です」
今度はそっけなく姫と良美に挨拶すると、さっさと帰ってしまった。
残された姫と良美は、さっきのなごみの微笑みにあてられたように、ほんのり頬を染めている。
ふだん無愛想な分、笑った顔の破壊力は絶大だった。
たとえ、その微笑みが自分に向けられたものではなかったとしても。
「なに、あれ?なごみんのニセモノ?」
「椰子さんも、子供には優しいんだねぇ」
2人揃って失礼なセリフである。
そのまま二人はしばらくぽーっとなごみの出ていったドアを見つめていたのだった。