ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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今回はキスの回。
ランチはどうなった!?って感じです。


ベイビー・パニック 25

 「ふぅ。あ~、ばっちかった」

 

 

 しっかりきっちり手を洗い、消毒した姫が手を拭き拭き席に戻ってくると、良美は絶賛落ち込み中だった。

 姫はそんな彼女をきょとんと見つめる。

 

 

 「あれ?よっぴー、どうしたの?そんなに落ち込んで??」

 

 「ううう……もう、エリィのせいだよう」

 

 「ええ??わたし??」

 

 

 涙目の良美に責められて姫は目を白黒させる。

 何のせいで良美が落ち込んでいるか分からず、

 

 

 「うーん、でも、ちゃんとよっぴーの唇は死守したわよ?」

 

 「そう言う問題じゃないの!もうっ」

 

 

 ぷりぷり怒る良美を前に困った顔で姫がなごみとレオを見るが、なごみは処置なしと言うように大きなため息をつき、レオは可愛らしい顔で首を傾げるだけ。

 助けはない。さて、どうやってよっぴーのご機嫌をとろうかと、首を傾げていると、そこで再びドアが元気よく開いた。

 

 

 「おお、みんな揃っていたのか。椰子、教室にいないから探したぞ?」

 

 

 そう言いながら入ってきたのは乙女だ。

 乙女の姿を見たレオがぱあぁっと顔を輝かせ、

 

 

 「乙女ちゃん!!」

 

 

 と呼べば、乙女は音速を超えた勢いでレオの傍らへ移動し、自分に向かって手を伸ばす愛おしい存在を椰子の膝からそっと抱き上げた。

 

 

 「ん~~~~、レオ~~~~。ちゃんとお利口にしてたか?」

 

 「レオ、いい子!!」

 

 「お~~~!!そうか、そうか。えらいぞぉ、レオ~~~♪」

 

 

 乙女がぎゅーっと抱きしめれば、レオがきゃーっと嬉しそうな悲鳴を上げ、その声が可愛くてたまらん、と乙女はレオにぐりぐりと頬ずりをする。

 更にレオの腹に顔を埋めると、ふんかふんかと鼻を鳴らしてレオの臭いを胸一杯に吸い込んで、むふ~っと満足そうな吐息を吐き出し、顔を上げてはっとする。

 後輩が3人、レオと戯れる乙女を、物珍しそうに眺めていた。

 

 

 (し、しまったぁぁぁ~~!!!レオが可愛すぎてついはしゃぎすぎたっっ!!)

 

 

 心の中で叫び、後悔するも、時すでに遅し。

 

 

 「ぷぷっ。乙女先輩、かぁわいい♪」

 

 

 そんな姫の言葉に赤面し、

 

 

 「エ、エリィ。そんな風に笑ったら乙女先輩が可哀想だよぅ」

 

 

 そんな風に良美にかばわれ、肩を落とし、

 

 

 「乙女先輩、取りあえず座ったらどうです?早くしないと、料理が冷めるんで」

 

 

 なごみの淡々としたセリフに悄然として頷き、だが少し救われたように大人しくイスに腰を下ろした。

 レオも、乙女が何となく沈んでいる様子に気がついたのだろう。

 乙女の膝にお尻を下ろしたまま、何とか元気づけられないかと小さな頭で一生懸命に考える。

 そして閃いた。

 

 

 「乙女ちゃん、乙女ちゃん」

 

 

 レオは乙女を見上げて大好きなその名前を呼ぶ。

 

 

 「ん?どうした、レオ」

 

 

 それに気付いた乙女が顔を寄せて来るのを待ち、それから手を伸ばして彼女の髪を左右一束ずつそっと手のひらに握り込んで、それを優しくひっぱって更に彼女の顔を引き寄せた。

 そして、

 

 

 「乙女ちゃん、元気、だして?」

 

 

 そう言いながら、彼女の唇にちうっと可愛らしいキスをした。

 ちょっと前に、屋上で、元気の無かったなごみは、ちゅうをしたら元気になった。

 その記憶が、まだ新しかった為に思いついたことであったが、柔らかな唇同士がふれあう感触は気持ちよかった。

 レオはそのまま何度か乙女の唇を可愛らしくついばみ、それから乙女の顔を見上げてにっこり笑う。

 

 

 「乙女ちゃん、元気、でた??」

 

 

 突然のキスに、乙女は固まり、その場の時間も時を止めた様だった。

 が、レオの笑顔で全てが動き出す。

 

 

 「ふわっ!!??」

 

 

 まずは乙女が気の抜けたような声を漏らして口元を押さえ、じわじわとその顔を赤く染めていく。

 そんな乙女を見ながら、レオはにこにこと無邪気に笑い、乙女ちゃん、元気になったね~、などと見当違いのセリフを漏らしているのはご愛敬だ。

 乙女は何かを言おうとするのだが、口がぱくぱくするだけで言葉が出ない。

 そんな乙女を見上げながらレオが首を傾げて、

 

 

 「んーと……もっと??」

 

 

 そんな爆弾のような問いを投げかけて来るものだから大変だ。

 乙女の顔は更に沸騰したようになり、あ、とか、う、とか、意味不明な言葉を漏らしつつ、目をぐるぐるさせ始めた。

 

 あ、これはやばいかもと察した姫が、乙女の膝からさっとレオを取り上げる。

 次の瞬間、乙女は頭をオーバーヒートさせてテーブルに突っ伏してしまった。

 なごみはそれを予測していたのか、すでに乙女の前のテーブルの物をどかして、きちんとスペースを確保している。

 流石である。

 

 

 「お、乙女先輩をこうも簡単に撃沈させるとは、恐ろしい子ね~。しかし、いつの間にこんなアダルティーな技を??」

 

 

 言いながら、姫は両手でぶらんとぶら下げたレオをまじまじと見つめた。

 今朝も見てはいるが、クマのコスチュームがなんとも愛らしい。

 だが、さっきのキスシーンを見ていたせいか、視線はどうしてもレオのぷっくらと可愛らしい唇へと流れてしまう。

 

 さっきまで乙女の唇と触れ合っていた唇は、ちょっと濡れてつやつやしていた。

 小さい子の唇をみながらそんなことを思うのはどうかと思うが、ちょっとエッチだな、と素直に感じる。

 そして、元々好奇心旺盛な姫は更に思う。私もキスしてみたいな~と。

 

 では、レオとキスをするにはどうしたらいいか。

 ただキスが欲しいと頼むのでは面白くない。

 だが答えはすぐに見つかった。というか、レオの方で勝手に見つけてくれたと言うべきか。

 

 うーんと考え込む姫を見て、レオは姫も元気がないと勘違いした。

 レオは姫の事ももちろん大好きだったから、ここは自分が頑張るべきだと奮起する。

 そして、彼女の腕に抱き抱えられているせいでとても近くに見える姫の端正な顔をきりりと見上げた。

 それからそのほっぺたにぺたりと両手を当てると、姫の唇にちゅう、と吸い突く。

 

 突然己の唇に押し当てられた柔らかな感触に、姫は目を見開き、次いでうっとりと目を閉じる。

 そのキスは、思っていた以上に気持ちのいいものだった。

 それに結構長い。

 時折、レオの唇が甘噛みをするようにふにふにと姫の唇を挟んで刺激するのがまた何とも言えなくて、姫もまた、お返しとばかりにレオの唇を挟んで刺激してみる。

 すると、レオが同じように仕返して来るので、姫もまた仕返しを。

 そんな風にそのキスはエンドレスで続くかのように思えた。

 だが、何事にも終わりは必ずやってくる。不意に腕の中のレオが誰かに奪い取られて、

 

 

 「独り占めは禁止です」

 

 

 そんな風に響いたのは、ちょっと不機嫌そうななごみの声。

 え~、いいじゃない、別にーそう返そうとした言葉は、口をついて出ることなく、姫は目を開いた瞬間飛び込んできた光景に思わずぽかんと口を開いていた。

 

 キス、である。

 しかもかなり大人の。自分がさっきレオと交わしていたキスなどでは、及びもつかないほどの。

 

 なごみがむさぼるようにレオの唇を蹂躙していた。

 事実、むさぼっていたと言っても過言ではないかもしれない。

 それは、目の前で他の女とのキスを2連発で見せられ、無意識の嫉妬に焦がされてかなりのフラストレーションが溜まった結果だった。

 

 二人のつながった唇から聞こえてくる生々しくもイヤらしい水音にほっぺたをリンゴの様に染めた姫は、これはやばいと良美の目と耳をふさいだ。

 これをよっぴーに聞かせたら危険だと、そう判断した上で。

 

 

 「エリィ~。これじゃあ見えないし、聞こえないよぉ」

 

 「よっぴーがこれを聞いたら大惨事になるから、絶対ダメ!」

 

 

 良美の不満を、姫が切って捨てる。

 レオとなごみのキスの音は聞こえないが、流石に耳元で話す姫の声は聞こえている様だった。

 

 

 「ええ~?で、でもでも、ちょっとくらいなら……」

 

 「だめったらだめ!可愛く頼んでも許可しないわよ?もうすぐ終わるから、ガマンよ、ガマン」

 

 

 良美に言い聞かせつつ、同じ言葉を自分にも言い聞かせる。ガマンだ、と。

 しかしその思いとは裏腹に、目の前で繰り広げられるキスシーンは中々終わらず、姫の表情は段々苦虫を噛み潰したような表情になり、頬の赤みは増すばかり。

 そして乙女は、というとオーバーヒートした状態のまま、なごみとレオのなまなましくも悩ましいキスシーンが終わるまで、目を覚ますことは無かったのだった。

 

 




読んで頂いてありがとうございました。

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