ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

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今回はお待たせせずに更新できました~(*^-^*)
楽しんで頂けたら幸いです。


ベイビー・パニック 21

 休み時間いっぱい使って何とか気持ちを落ち着けた乙女は、再びレオを抱っこして教室に戻ってきていた。

 席に着き、急いで2限目の準備をしていると、次の授業の担当教師が入ってくる。

 定年間近のおじいちゃん先生は、乙女の膝にいるレオを見て目を細めた。

 

 

 「おお、その子が噂のおちびちゃんだねぇ。うんうん、何とも可愛らしいなぁ。どれ、私にも抱っこさせてもらえんかね?」

 

 「もちろんです。ほら、レオ。抱っこしてもらえ」

 

 

 にこにこしながら近づいてきた教師に、乙女はなんの躊躇もなくレオを差し出した。

 大好きな乙女から離され、むずがるかと思われたレオは、なぜか目をキラキラさせておじいちゃん先生の顔を見上げている。

 いや、顔と言うより頭だろうか。

 おじいちゃん先生の頭は、長い年月をかけて磨き上げられたように、見事なまでにつるつるのぴかぴかだった。

 

 レオがおじいちゃん先生のぴかぴか頭に見入っているのに気づいた乙女は内心冷や汗をかく。

 レオが余計なことを言い出さないか気が気ではなかった。

 だが、おじいちゃん先生はそんなことにまるで気づかず、

 

 

 「ん?私の顔に何かついてるかね?それにしても可愛い子だねぇ。坊や、私のことは特別におじいちゃんと呼んでもいいんだぞ?」

 

 「う?」

 

 「さあ、言ってごらん。おじいちゃん、だよ」

 

 

 にこにこするおじいちゃん先生を見つめながら、レオは言葉を探すように首を傾げ、不意にぱっと顔を輝かす。

 それを見た瞬間、まずい、と乙女は思った。

 だが、乙女がレオを回収するより早く、レオは可愛らしい手のひらをおじいちゃん先生のおでこにぺたぺた押し当て、

 

 

 「はげー」

 

 

 と高々と声を上げていた。何とも楽しそうに。

 その瞬間、クラスの空気が固まるのを乙女ははっきりと感じた。

 

 

 「こ、こら、レオ!!いくら本当のことでも言って良いことと悪いことがあるんだぞ。いいか?ハゲの人にハゲというのはいけないことなんだ。わかるか?」

 

 「はげ、だめ~?」

 

 

 慌てた乙女が声を上げる。

 レオは乙女の顔を見て首を傾げ、それから再びおじいちゃん先生の頭を見上げた。

 そしてそのまま、なにやら考え込んでいるようだった。その仕草は何とも可愛いものだが、素直にそう思ってもいられない。

 乙女は申し訳なさそうにおじいちゃん先生に頭を下げる。

 

 

 「先生、申し訳ありません。ハゲにハゲと言うのはいけないことだと、後でちゃんと教え込んでおきますので」

 

 

 その、謝罪とは思えないほどの暴言に、教師は温和な顔をひきつらせる。

 

 

 「い、いいんだよ。この年頃の子供は正直なものだからね。ていうか、先生はむしろ鉄君の言葉に傷ついたよ・・・・・・」

 

 「は?」

 

 「いや、いいんだ。うん」

 

 

 そんな2人のやりとりをよそに考え込んでいたレオは、ふと何かを思いついたようにぽんと手を打ち合わせて、再び大きな声を上げた。

 おじいちゃん先生の頭を、可愛らしい指で指し示しながら、

 

 

 「タコ~!」

 

 

 と。

 その声に教師はがっくりとうなだれ、乙女は天を仰ぐ。

 とまあ、そんな感じで2限目の授業は始まった。

 

 

 

 

 

 授業が始まってそれほどたたないうちに、レオの頭がこっくりこっくり船をこぎ始めた。

 今日は朝早く連れ出してしまったからなーそう思いつつ、乙女はレオが膝から落ちないように両手で支えてやる。

 結果としてノートを取ることは出来なくなってしまったが、隣の席の友人がノートは私に任せてと親指を立てたので、その言葉に甘えることにした。

 今はとにかく、レオを落とさないことが大事だと割り切って。

 しかし、レオはレオで乙女や周囲に気を使っているようで、頭をぐらんぐらんさせてははっと目を見開き、乙女を見上げて、

 

 

 「レオ、おっきしてる!」

 

 

 と主張してはちらちらと乙女の顔を見上げる。

 どうやらいい子にしてたらなごみや姫の元に連れて行くという1限目の約束をちゃんと覚えているらしい。

 だが、しゃきっとしていられるのはほんの少しの間だけ。

 眠くて仕方のないレオは、すぐに頭を揺らし始める。

 

 

 「レオ、寝ててもいいんだぞ?ちゃんと抱っこしててやるから」

 

 

 小声でそう言っても、レオは素直に寝ようとはしない。

 勉強をするための教室で寝てしまうのは悪いことだと、どこかでちゃんとわかっているのだろう。

 レオは小さいから、お昼寝は必要だと思う。

 寝かせてあげたいと思うのだが、また授業を抜け出すわけにもいかないだろう。

 そんなことを考えていると、

 

 

 「ねえ、鉄ちゃん。レオ君眠そうで見てられないから一緒に保健室に行ってきたら?」

 

 「そうだね。うとうとしてるレオ君は可愛くてずっと見てたいけど、流石に可愛そうだもんね」

 

 「ノートはちゃんととっておくから!!」

 

 

 などと、周囲の友人から小声のアドバイスが飛んでくる。

 しかしなぁと教壇の教師を見上げると、彼もまたこちらを見ていて、

 

 

 「教師としては学業を優先しろというべきだろうが、鉄君は成績も優秀だし、今日は多めに見ることにしよう。さ、早く保健室へ連れて行ってやりなさい。もちろん、君も付き添うんだよ?」

 

 

 にこにこしながらそう言った。

 乙女はその懐の深さに感動しつつ、レオを抱き上げ立ち上がる。

 

 

 「先生、ありがとうございます。ではこの時間だけお言葉に甘えます。3限目は何か対策を考えますので」

 

 「いいんだよ。早くお昼寝させてあげなさい」

 

 「ありがとうございます。ほら、レオもありがとうを言いなさい」

 

 「う?」

 

 「ありがとう。言えるだろう?」

 

 

 レオは寝ぼけ眼をこしこしとこすりながら、穏和に微笑み老教師の顔を見上げて、

 

 

 「ありがとじゃーます?」

 

 

 微妙に疑問系でお礼を言った。

 その様子が余りに可愛くて、教師だけでなくクラス中が悶絶したのだった。

 

 

 

 

 

 「失礼します」

 

 

 礼儀正しくそう言って入ると、保健室は無人だった。

 いつもなら保健教諭がいるのだが、今日は姿が見えない。

 乙女はしばし考え、使い手の姿のないデスクに歩み寄り、メモを残す。

 自分の名前と、学年とクラス、それから許可してくれた教師の名前とベッドを使用する理由など、細々と書き込んで。

 

 書き終わった後に一度読み返して一つ頷くと、デスクの目立つところにそれを置き、レオをつれてカーテンの向こうのベッドに向かった。

 レオをベッドに降ろしてカーテンを引くと、眠そうに目をこするレオの頭をそっと撫でた。

 

 

 「ほらレオ、お昼寝するぞ?」

 

 「ん~~、お昼寝?」

 

 

 レオが目をしぱしぱさせながら乙女を見上げる。

 そんなレオを見つめながら口元を緩め、乙女はレオの小さな体を備え付けのタオルケットで包み込んだ。

 そのまま、ベッドの傍らにある椅子に座ってレオを見守ろうと思っていたのだが、眠たげな目のレオが乙女に向かって手を伸ばす。

 

 

 「乙女ちゃん、抱っこぉ」

 

 

 そんな甘えた声をあげながら。

 乙女が可愛いレオのおねだりにあらがえるわけもなく、乙女はレオのいるタオルケットの中に潜り込むと、腕の中にレオを抱き込んだ。

 

 

 「あったかいねぇ」

 

 

 にこにこ笑うレオが愛おしくて、乙女はレオのまあるいおでこに頬をすり寄せる。

 くすぐったそうにレオが笑い、だがその笑い声もすぐにあくびに取って代わる。

 乙女は微笑んでレオの頭を撫で、背中を撫でた。レオが心地よく眠りにつけるように。

 

 その甲斐あってか、すぐにレオの可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 よし、寝たなーと乙女が声に出さずに呟いた瞬間、胸の辺りにもぞもぞ動く何かを感じた。

 視線を転じると、昨晩と同じようにレオが乙女の胸の辺りを探っているのが見えた。

 

 

 (お、おっぱい……なのか?)

 

 

 昨夜の失態が思い出され、レオの求めるものを差し出すことはためらわれた。

 だが、レオは探すことを諦めない。

 ついにはもぞもぞと動き回り、制服の中にまで頭をつっこんでしまった。

 

 これには少々焦った乙女だが、今日は昨日と違うところがある。

 それは胸に巻いているさらしだ。

 昨夜は寝る体制だったからさらしの防御は無かった。だが、今はそれがある。

 

 さらし越しであれば、少々レオにしゃぶられたところで問題あるまいーそう思った乙女がほっと息をついた時だった。

 レオがとうとう乙女の胸の先端の突起物を見つけ、吸いついたのだ。

 どうやら緊張感のせいで、少々主張が激しい状態になっていたようだ。

 レオが布越しだと言う事など気にせずにちゅうちゅうと吸うおかげで、それの主張は更に強くなってきて、乙女の脳に少なくない刺激を伝えてきた。

 

 乙女は思う。

 

 なぜ、自分はさらしの防御力を盲信していたのだろうか、と。

 今ならわかる。さらしに防御力などありはしなかったのだ。

 現に今、レオの唇と舌の猛攻を防御することが出来ず、乙女は少しもどかしい様な刺激に口元を手のひらで覆った。

 

 何しろここは学校だ。みだらな声を漏らして、万に一つでも誰かに聞かれる危険性を犯すわけにはいかない。

 レオを起こしてしまえばいいわけだが、やっと眠ったばかりのレオを起こすのは流石にためらわれた。

 

 頬を赤らめ、荒い息をつきながら乙女は思う。

 レオを起こすまでもない。私が耐えきれば良いだけのことだ、と。

 せめて休み時間まで頑張ろうーそう思いながら、乙女は甘美な刺激に身を震わせる。

 

 3限が始まって間もない内に保健室にやってきてしまった2人には、休み時間までまだ十分な時間が残されていた。

 それはレオにとっては至福の、乙女にとっては試練の時間であった。

 

 

 




読んで頂いてありがとうございました。
最近、「君が主で執事が俺で」をやり始めました。森羅様とミューちゃんエンドをやっと見たところですが、面白いですねぇ。
現在きみある熱が高まっているので、そのうち「ベビパニ~君が主で編~」やっちゃいそうな自分が恐ろしい(笑)
今でも十分手一杯なのに。

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