ベイビー・パニック   作:高嶺 蒼

13 / 25
ベイビー・パニック 13

 「さあ、レオ。着替えるぞ」

 

 自室に戻った乙女は、そう言いながらレオを畳の上にそっと降ろした。

 

 

 「お着替え?」

 

 「そうだ。着替えだ。レオは1人で着替えられそうか?」

 

 

 無理だろうと思いつつ、一応聞いてみる。

 

 

 「う?」

 

 「やってみろ。出来なかったら私が手伝ってやるから」

 

 

 微笑みかけると、レオはほっぺたを赤くしてコクンと頷いた。

 どうしようかというように可愛らしく首を傾げ、それから紅葉の様な手でYシャツのボタンをいじくり始める。

 乙女はその様子を微笑ましく見守りながら、自分も着替えておこうと制服を脱ぐ。

 制服を脱ぎ、しわにならないようにハンガーに掛けたところで、レオが声を上げた。

 

 「乙女ちゃん。脱げた」

 

 振り向いてみると、生まれたままの姿のレオがにこにこして手を差し伸べている。抱っこ、とでも言うように。

 即座に抱き上げてあげようとして、乙女はほんの少し躊躇する。

 

 いくらレオが子供に戻っているとはいえ、お互い一応妙齢の男女である。

 レオはすっぽんぽんだし、自分は下着姿だ。

 そんな状態でレオを抱き上げるのは、果たしてどうなのだろうか、と。

 

 だが、現在のレオは子供だ。

 出来たことに関して、きちんと誉めてあげないのはいけない事だろう。

 今、レオは1人で服を脱げたご褒美に抱っこを求めている。

 ならば、抱っこすべきなのではないか。否、抱っこしなければいけないのだ。

 これは決してレオのぷにぷにの身体を直接触り倒したいからではないのだ!

 

 「抱っこ、ダメ?」 

 

 レオの顔がふにゃっとゆがむ。

 泣きそうな顔ももちろん可愛いが、泣かせるのはダメだ。

 きっと椰子にも怒られるーそんな事を思いながら、反射的にすごい早さで抱き上げた。

 そのあまりの早さに、泣きかけたことも忘れてきょとんとした顔をするレオが可愛い。可愛すぎる。誰がなんといおうと可愛いのだ。

 

 乙女はさらしを巻いた胸にレオを抱き、すべすべのお肌を堪能する。

 子供とは、何とも触り心地のいいものだなと思いながら、ちらりとレオの秘密の場所も盗み見た。

 ぷにぷにした感じの、なんとも可愛いゾウさんだ。

 これが後に、女を泣かす凶器になるとは思いがたい。

 今のそれは、それくらいに可愛らしい器官だった。

 

 「乙女ちゃん」

 

 少し顔を赤らめたまま、やや鼻息を荒くする乙女を、レオが不思議そうに呼ぶ。

 その純真な声にはっとした。

 

 (いかんいかん。私はなにをしてるんだ!?)

 

 理性を取り戻した乙女は、ややぎこちないながらもにこりとレオに笑いかける。

 

 「いや、何でもない。さて服を着るか」

 

 乙女は再びレオを下に降ろすと、レオの服の入っている袋をがさがさと漁った。

 下着と、靴下と、服。

 服は上下繋ぎの着ぐるみタイプだ。

 乙女が選んだものと、なごみが選んだもの。

 今日はなごみに料理をしてもらっているから、なごみが選んだものにしてやろうと、引っ張り出したのは黒ブチの犬の着ぐるみパジャマだ。

 耳としっぽがちゃんとついていて可愛い。

 それをレオが来ているところを想像するだけで顔がにやけてしまうくらいに。

 

 「レオ、まずはパンツをはくか」

 

 レオを呼び寄せ、パンツを履かせた。ぴったりだ。可愛らしいゾウさんもちゃんと隠せた。これで一安心だ。

 乙女は1つ頷き、次いで靴下を履かせた。子供用で、裏には滑り止めもついている。

 これで少しは転びにくいだろうと再び頷き、最後に動物パジャマを取り出した。

 ボタンをあけ、レオに着せていく。

 足を通し、腕を通し、ボタンを留めて、最後に犬の耳のついたフードをかぶせた。

 大きめの垂れ耳が何とも可愛いそのパジャマを着たレオは、なんというか、犯罪的に可愛かった。

 

 「レオ~、すごく可愛いぞ?」

 

 にっこにっこしながら、レオの頭を撫でくり撫でくりする。

 だが、それだけでは我慢できず、抱き上げて頬ずりもした。

 

 「えへへ~。レオ、かわい~?」

 

 レオも満更ではなさそうだ。にこにこしている。

 それがまた可愛くて、もう一度ぐりぐりと頬をすり寄せる。

 レオがきゃっきゃと笑う。それがまた可愛くて・・・・・・

 

 いかん、エンドレスだーそう気づいて、乙女は渋々レオを下に降ろす。

 しゃがみ込み、レオの目を見て、

 

 

 「いいか、レオ。私はまだ着替えがあるから、先に椰子・・・・・・なごみお姉ちゃんの所へ行ってろ」

 

 「おねーちゃ?」

 

 

 レオが首を傾げる。

 だが、レオの口から自分以外がお姉ちゃんと呼ばれるのは何だか複雑な気分だった。

 だから、

 

 「・・・・・・なごみちゃん、だ。さっき抱っこしてもらっただろう?」

 

 そう、言い直す。

 

 「なごみちゃん?あっち?」

 

 レオは首を傾げながら、さっき入ってきた乙女の部屋の入り口を指さした。

 乙女は微笑み頷く。

 

 「ああ、あっちだ。良く覚えてたな。えらいぞ、レオ。おいで。戸をあけてやろう」

 

 言いながら、乙女はレオの手を取り一緒に戸の所まで行くと、レオの身体の分だけ戸を開けてやった。

 

 

 「乙女ちゃんも、くゆ?」

 

 「ああ。着替えたらすぐ行くから、なごみちゃんと一緒に待ってるんだぞ」

 

 

 レオが不安そうに見上げてくるので、乙女は安心させるように笑って見せた。

 

 「ん。わかった」

 

 コクンと頷き、少し不安定ながらもしっかりした足取りで、レオはなごみのいるキッチンへと歩いていった。

 それを見送り、用意してあった私服を手に取ると、乙女は急いで己の身支度を開始するのだった。

 

 

 

 




 ちびレオのゾウさんは、何だかみんなに人気です。
 次回はなごみんがレオを愛でる番で、その次辺りは乙女さんとお風呂、でしょうか。
 頑張って書きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。