何かの呼び声   作:クロル

10 / 16
2-2 超特急エイリアンハント

 

 リアルクトゥルフ神話技能という言葉がある。

 CoCでは探索者がクトゥルフ神話の知識を身に付ける事がある。0~99%の熟練度で表され、これが高いほど神話生物や神話的現象についてよく知っているという事になる。

 もちろん、0%なら何も知らない。しかしゲームである以上、探索者(キャラ)とプレイヤーの間に知識の差が出てくる。探索者が何も知らない一般人という設定で、犬のような顔をした猫背の亜人間に遭遇して狂乱状態になったとしても、プレイヤーは「犬のような顔」「猫背」「亜人間」というキーワードから敵の正体が食屍鬼である事を看破できる。このようなプレイヤーのメタ視点での洞察を、探索者が持つクトゥルフ神話技能と区別してリアルクトゥルフ神話技能と呼ぶ。

 

 さて、私はこのリアルクトゥルフ神話技能が高い。散々ゲームをしてきたし、ゲームブックも読み込んできた。リアルクトゥルフ神話技能を使うと八坂一太郎(故)が見えていた以上に世界の真実が見えてくる。

 

 まず、私が勤めているはマホロバ株式会社。この時点で既にまずい。

 マホロバ社ではグループ社員全員が年に一度健康診断を受ける事が義務付けられている。この健康診断で「有望」とみなされた何人かは傘下のマホロバPSI研究所に被験者として送られる。

 PSIとは平たく言えば超能力の事だ。マホロバ社は創業者の肝入りで超能力研究施設を持っているのである。表向きは全く成果を上げていない創業者の道楽だと思われているし、八坂一太郎(故)もそう思っていたのだが、実際は世界有数の研究機関であり、多大な成果を出している。催眠、念動、発火、瞬間移動、予知。様々な超能力を高度に使いこなす超能力者集団を抱えているのだ。

 更に悪い事に、その超能力の源というのが邪神の一柱、アザトースだ。PSI研究所の副所長がアザトースの崇拝者であり、アザトースの力を借りて一般人を超能力者化。表向きは無害を装いつつ、世界を混沌の渦に叩き込もうと企んでいる。

 

 正直、お近づきになりたくない。

 放置すれば地球を狂気と混沌の世紀末に変える可能性すらあるマホロバPSI研究所は潰したいところだが、ちょっと勝てない。優秀な超能力者を何人も抱えているし、マホロバ社という大企業のバックアップがあり、表向きは何も変な事はしていない。

 私もマホロバ社に勤める以上、PSI研究所に出向を命じられたら断れない。みすみす地獄の釜に飛び込むようなものだ。リアルクトゥルフ神話技能のおかげでPSI研究所の経歴、人間関係、戦力まで丸裸なのに、手を出せない。奴らには特に弱点も無いのだ。純粋に私がスペックアップしなければ、今の手札ではどうしようもない。

 

 という訳で、会社を辞める事にした。

 君子危うきに近寄らず。こんな危ない会社に勤めていられるか! 私は転職するぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年ほどかけて研究室の薬品を使ってコッソリ良い子にはお見せできない薬品を造り出し着服した後、辞表を出して退職した。

 私は自分で言うのもなんだがかなり優秀な研究者だったので引き止められたが、「娘が成人したし、これからは好きなことをしようと思った」などとそれらしい理屈を並べて押し切った。

 私は既に四十歳。冒険するには歳をとりすぎているが、一億円近い貯蓄はあるし、実績も十分ある。選り好みしなければ再就職には困らない。

 

 再就職先だが、これからは神話生物や神話的事件にちょっかいをかけて楽しく暮らして行こうと考えているので、自由が利く職業が良い。私が会社を辞めたと知った特命係からお誘いがあったが、そんな理由でお断りした。警察はお堅い職業の代表格である。私向きではない。

 自分で職探しをしても、自由が利いて給料が良くて四十のオッサンでも歓迎というナメた求職に応えてくれる所が無かったので、早瀬源蔵に頼んで有力者のパーティーに出席させてもらう事にした。コネ就職狙いだ。使えるものは何でも使わせて貰う。

 

 さて、パーティーである。六本木の高層ビルのワンフロアを貸し切って開かれたこのパーティーは、早瀬雄太郎の当主襲名パーティーだ。事件後体力の衰えを理由に早瀬源蔵が引退する事になったので、息子の雄太郎が当主になる事になったのだ。

 日本有数の財閥のパーティーというだけあって、高そうなドレスやスーツを着てワイングラスを片手に談笑する方々は実に様になっている。私も一応スーツ姿で、火傷も治ってそれなりに見れる顔にはなっているのだが、若干浮いている気がする。これでも年収二千万の上流階級の人間なんだが……いや今は無職だった。年収一億越えのお歴々に比べれば私なんて庶民と変わらないか。

 

 さて誰に声をかけようかと寿司をもっさもっさ食べながら品定めをしていると、逆に声をかけられた。

 

「楽しんでいますかな?」

「ん? そうですね、これほどの規模のパーティーに参加するのは初めてなのでどうにも緊張が抜けませんが、それなりに。あなたは?」

「失礼、私はカール・サンフォード。警備会社サンフォードの社長をしている者です」

 

 その名前を聞いた私は顔が引きつらないようにするので精一杯だった。

 目の前にいる男は三十代後半のアーリア人種の男で、大柄な体と自信に溢れる顔にカイゼル髭がマッチしている。

 手に持った銀色の杖が目を引くが、そんな事はどうでも良い。

 

 コイツは銀の黄昏教団の幹部だ。

 私はまたもや事件に巻き込まれた事を知った。

 

 カール・サンフォード。本名はカール・スタンフォード。実年齢は三百歳以上。邪神を崇拝し、老化の鎖から解き放たれた、銀の黄昏教団の幹部クラスの魔術師である。

 POWは40。更に彼の持つ銀の杖には160のMPが蓄積されていて、自由に使う事ができる。豊富で凶悪な魔術を習得し、危なくなったら瞬間移動で逃走できる。体術の心得があるマッチョマンで、銃器も扱える。

 対して私はPOW22、MP22。身のこなしは並。武術は全く習っていないし、銃も使えない。こちらの魔術は相手に一切通らないのに、あちらはこちらの抵抗をティッシュのように破る強力な魔術を嵐のように撃ってくる。真正面から戦えば十秒で殺されるか、洗脳で配下にされるだろう。下手な神話生物よりも恐ろしい。

 

 しかし、幸いな事にカール・スタンフォードには弱点がある。無策で突っ込めばミンチ確定だが、準備をしていればむしろ御しやすい。

 私は既に彼と同じ銀の黄昏教団の幹部、アリッサ・シャトレーヌ……本名アン=シャトレーヌを殺害し、構成員の一人も始末している。カールはその復讐に来たのかと身構えたが、作った笑顔で話を合わせながら《透視》を使ったところ、特に私への敵意は無い事が分かった。むしろ見下したような、軽視するような感情が透けて見える。別件で接触してきたようだ。ホッとする。偶然怪物に接触してゲームオーバーなんてクソゲーだ。

 

 1920年代に隆盛を誇った銀の黄昏教団は、ある探索者達に野望を打ち砕かれ壊滅状態にある。現在では各地に散らばった残党が教団復活に動いているだけだ。従って同じ教団の名の下で活動していても、情報の共有ができているとは限らない。

 

 本名を出すのは怖かったので根津と名乗り、こいつを早くどこかへやってくれ、とクトゥルフ神話の中でも比較的善良な神(ノーデンス)に祈りながら愛想笑いを浮かべて当たり障りの無い受け答えをしていると、カールは声のトーンを落として話を持ちかけてきた。

 

「根津氏はハンティングに興味はお有りですかな? 実は私はエイリアン退治を主催していまして、現在参加者を募集しているのですが」

「……エイリアン退治ですか」

「はい。突然の話で困惑されるのは分かりますが、警備会社のツテで日本政府から要請されていまして。書類もこの通り。会社の者を動かしているのですが恥ずかしながら人数が足りず。ま、エイリアンと言っても大した事はありません。奇形の動物程度のもので危険度は低い。そこで一般の方の娯楽ついでに手伝って頂くのも手かと考えましてね」

 

 カールは頼んでもいないのに書類を見せてきた。

 カール・スタンフォード。エイリアン退治……OK、分かった。これはアレだな。「エイリアン・ハント」だ。

 キーワードからこれから何が起きるのか、犯人は誰か、どうすれば事件が解決するのか、諸々全て分かった。

 CoCでは普通のゲームでクエストに相当する「シナリオ」という枠組みの中でゲームをプレイする。CoCヘビープレイヤーの自称は伊達ではない。キーワードだけで今私がどのシナリオに巻き込まれたのか理解できた。そしてこのシナリオ、「エイリアン・ハント」はネタが割れていれば楽なシナリオだ。CoCではシナリオによってはネタが割れていても全滅しかねないものがあるので助かった。

 

 エイリアン・ハントはざっくり言うと、カール・スタンフォードが私が以前戦った事のある神話生物の一種族、ミ=ゴと結託し、人間に菌を植え付け苗床にし、その栄養分を搾り取って捧げる事で邪神復活を目論んでいる、というものだ。苗床にする都合上、今ここで殺される事は無い。殺されるならハンティング会場だ。ならば安心である。

 

「ふむ。興味はあるのですが、狩猟免許は持っていないもので……参加できますか?」

「おお、参加して下さいますか。狩猟免許は必要ありません。獲物は動物ではなくエイリアンですからな。エイリアン狩りを禁止する法律は無いのですよ……フフフ」

「ほう、詳しく話を聞いても?」

「勿論です。会場は××駅で降りて国道××号線を十分ほど北上したあたりにある山中で――――」

 

 開催の日時、他の参加者、参加料、持ち込める装備などについて話を聞いた私は、ポケットの中でこっそり慎重に携帯を操作した。自分で自分にメールを送り、着信音を鳴らす。

 

「おっと失礼、電話が。戻って来たらまたお話を聞きたいのですが」

「構いませんよ。どうぞごゆっくり」

 

 カールに頭を下げて会場を出た私は、そのまま足早にホテル一階のロビーへ向かった。

 ロビーに置いてあるパソコンで近場の護身用品専門店を探す。徒歩三分でまだ営業している店を見つけ、そこへダッシュ。

 

「いらっしゃいませー」

「すみません、スタンガンありませんか?」

「スタンガンですかこちらです」

 

 店に入ってすぐ、やる気が無さそうにカウンターに立っていた店員に声をかけ、スタンガンの陳列棚に案内してもらう。

 

「こちらですね」

「ありがとうございます」

 

 数種類あるスタンガンのうち、電圧が高くて小さい物を選び、即レジに持っていく。会計を済ませ、取り扱い説明書を読みながらホテルに戻った。この間二十分。パーティーはまだまだ続いている。

 

 袖にスタンガンを隠して会場に入ると、カールは別の人と話しているところだった。丁度いい。

 ワイングラスを取って歩きながら、《透視》を使ってさりげなくカールを見る。会話の相手にまた例の書類を見せて熱心に営業しているカールは凄まじいオーラだった。POW40は伊達じゃない。更に銀の杖からもとんでもないオーラが迸っている。流石銀の黄昏教団のマスターだ。

 オーラの色と揺らぎからまるで警戒していないリラックスした状態だという事が分かる。彼が警戒しなければならない状況などかなり限定されているだろう。ましてや今回のパーティーに警戒要素は無い。

 

 人ごみに紛れ、カールの背後に近づく。足音と気配は会場のざわめきに紛れて分からない。そのままカールの背後を通り過ぎる瞬間、袖からスタンガンを出し、カールの尻のあたりに軽く当てた。

 

「っ!?」

 

 カールがびくんと一瞬痙攣し、銀の杖を取り落とした。そのまま少し歩いて振り返る。カールは眠気を払うようにゆっくり頭を振り、話していた相手に心配されている。

《透視》で確認すると、彼のPOWは1あるか無いかまで急落していた。

 

「……よし!」

 

 カール・スタンフォード、撃破。

 

 仕掛けは簡単だ。実はこのカール・スタンフォード、本物は既に死亡していて、本物から作られたクローンなのだ。クローンの中に本人の精神体が入って活動しているのだが、この精神体というのが、高圧の電流に少しでも触れるとイオン化し、肉体と完全に分離してしまう。魂の入っていない肉の塊になるわけだ

 従って、どれほど高いPOWを持っていても、呆れるほどMPを溜め込んでいても、筋肉モリモリマッチョマンでも。軽くスタンガンを当てるだけでこの通り。

 適切な対処法さえ知っていれば、大魔術師を相手取るのに魔術も体術も銃も要らない。

 

 私はニヤニヤしながら突然廃人になったカールが困惑した顔のスタッフに担ぎ出されていくのを他の野次馬に混ざって見物した。

 いやあ、カール・スタンフォードは強敵でしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとしたハプニングもあったが、パーティーはつつがなく終了した。当主になった雄太郎には祝辞を述べると、これも貴方のおかげですと手厚い感謝の言葉を返された。

 ちなみにカール・スタンフォードが持っていた銀の杖だが、これは主催者の雄太郎と交渉して私が回収した。銀の杖は本来の持ち主以外が三十秒以上触れていると、POWを吸い取る能力がある。POWがゼロになるまで吸い取られてしまえば犠牲者は魂が吸い取られたという事であり、廃人になる。危険な代物だ。

 杖は吸い取ったPOWをMPに変換し、持ち主はそのMPを自由に使用できるのだが、私は持ち主ではないので使えない。でも蓄えられた160ものMPがもったいないので取り敢えず回収。自分が装備できない強い呪われたレアアイテムを倉庫に突っ込んでおく感覚だ。いずれ役立つ事もあるだろう。

 

 他にも彼が持っていた装飾された細工箱を貰いたいと頼むと、雄太郎は訝しげにしていたが了承してくれた。持つべきものは借りを作った権力者だ。実に事がスムーズに運ぶ。

 細工箱も魔術的なアーティファクトなのだが、今は使わないので、八坂屋敷に帰った時に金庫の中に入れておいた。

 

 さて、パーティーがあった翌々日の日曜日の夜。エイリアン・ハント当日だ。ハンティングの舞台となる山の麓を走る公道脇の駐車場に参加者達は集まっている。他の参加者が猟銃やら金属バッド、大ぶりの鉈を引っさげている中で、私の装備はホームセンターで買った強力なカビ取り剤を入れた噴霧器だけだ。自宅の庭で噴射の練習はしてきたので、射程の把握はバッチリだ。中のカビ取り剤もたっぷり入れてあり、念のため予備も持ってきている。

 

 主催者のカールが廃人になったものの、共犯者のミ=ゴが上手く情報操作したらしい。参加者に問題なくハンティングを決行する旨のメールが届いていた。

 私以外の参加者は興奮したり不安そうにしたりしながら話し合っていたが、私は彼らと少し距離をとって頭の中で計画を反復していた。これから最短ルートでミ=ゴを片付けるつもりなので、私と同行したいと言われても困る。

 

 そして深夜0時。開始時間になり、参加者たちは三々五々山の中に入っていく。私はコンパスを頼りに山の中をまっすぐ進んだ。

 目標地点は山の中の廃マンション。実は昼のうちに一度山に入って見つけてある。参加前に山に入ってはいけないとは言われて……いるのだが、それを言った人物は今精神病院の中にいる。文句は言われない。

 三十分ほど歩くと、山の中の開けた場所に立つ廃マンションを見つけた。廃マンションと言うと語弊があるかも知れない。マンションっぽいペンション、だろうか。いやマンションとペンションの定義の違いはよく分からないのだが。

 

 ガサガサと落ち葉を踏み分けわざと大きな音を立てながらペンションに近づく。するとマンションの窓が開き、奇妙な形容しがたい羽音と共にミ=ゴが出てきた。

 人間大のサソリに巨大なコウモリの翼をくっつけ、頭部に触手が密生してできた渦巻きを生やしたような神話生物である。関節の多い昆虫っぽい手には50センチほどの銀色の金属片のようなものを持ち、甲殻類に似た胴体には緑色のネバネバした網のようなものを着込んでいる。

 ショッキングなその姿は見る者に正気の喪失を強いる。が、私は液晶越しにグロ画像を見たような感覚しかない。気色悪いが、それだけだ。

 

 私は右手を前につき出し、ミ=ゴに向けてダッシュした。ミ=ゴが金属片を握り締めると、私に向けてギザギザした軌道の電撃が発射された。

 電撃に対し私は《被害をそらす》魔術を発動。命中コースだった電撃は不自然に歪曲され、あさっての方向へ飛んでいき、減衰して消えた。ミ=ゴがもう一度電撃を発射する前に、距離を詰め切る。そして私は噴霧器を発射し、ミ=ゴにカビ取り剤をしこたま浴びせかけた。煙に巻かれ、ミ=ゴは苦しげにもがき空に飛び立ち逃げようとする。そこに更に噴霧器を噴射。十秒ほどふらふらと飛んだミ=ゴだが、殺虫剤を吹きつけられた蚊のようにぽとんと地面に落ちた。

 

 警戒して距離を取り観察していたが、どろどろに溶けたミ=ゴの体はやがてゆっくりと蒸発していき、落ち葉の上に緑色の網のようなものと、銀色の金属片だけが残った。

 

「……よし!」

 

 ガッツポーズを取る。ミ=ゴ、撃破。

 

 緑色の網はミ=ゴの鎧に相当するバイオ装甲で、打撃、炎、電気などの攻撃を大幅に軽減する。更にミ=ゴの体は地球上のものではないので、弾丸や刃物などの弾・斬・刺突系の攻撃によるダメージはほとんど効かない。物理攻撃での退治は非常に難しい。魔術なら通るのだが、詠唱中に電撃を撃たれたらおしまいだ。

 そこでカビ取り剤である。

 

 ミ=ゴは宇宙人であり、地球の生物には分類できないのだが、無理やり当てはめるとすると半分菌類半分動物、という奇妙な特徴を示す。従って彼らは殺菌剤に弱い。加えて、ミ=ゴの顔に当たる部分にあるのは触手の渦巻き。口を持っていない。彼らは人間のような食事法はせず、皮膚呼吸をしているので口は要らないのだ。この皮膚呼吸をしているという部分につけ込む。

 皮膚呼吸をしているが故、ミ=ゴは「口を閉じる」という事ができない。ガスを浴びせると、全身で吸い込んでしまうのだ。従って彼らはガスに弱い。カビ取り剤を噴霧してやれば、全身から彼らにとっての猛毒を吸い込み、コロリと死ぬ。その結果がご覧の有様である。神話生物との死闘なんて無かった。

 

 私は戦利品としてバイオ装甲と銀色の金属片(電気ライフル)を回収し、意気揚々と廃マンションの中に入った。戦闘中も戦闘後も援軍が来る気配は無かった。ミ=ゴは一匹しかいなかったのだろう。まあ、普通の探索者二、三人なら完全武装のミ=ゴ一匹だけで全滅できるのだが。

 

 マンションの一室で菌の苗床にされていた人間達だが、奇形化が進み助かりそうになかったので、カビ取り剤を散布してトドメを刺しておく。

 書斎にあったカール・スタンフォードとミ=ゴが書いたと思しき走り書きやメモを読む限り、首謀者は二人だけだったらしい。苗床にされた菌人間はやがて凶暴化して人間を襲うと書いてあったが、それも始末してしまった。他にも邪神復活計画についての情報が記されていたが、もう知っている。

 目星い情報は無さそうだったので、マンションを出てさっさと下山した。すれ違った他の参加者に、廃マンションにエイリアンが居たので恐ろしくなって逃げてきたと言うと、意気揚々とそっちへ向かっていった。苗床にされた人間の後始末は彼らがしてくれる事だろう。

 

 これにて事件解決。全く、長く苦しい戦いだった……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。