感染 番外編   作:saijya

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第2話

子供が戦地に向かう父親の背中に何を見ていたのかは、分からない。けれど、こんなことを口にした事実が残されているのなら、安部が理想とする子供だって作れそうだ。

本日の取調べを終え、部屋から出された俺は、腰縄を付けられたまま、時期なのか暖かくなってきた廊下を歩いていた。

徹底的な取調べと名目された回数は、もう何度繰り返されたのか覚えていない。調書の枚数だけが次々と増えていく淡々とした日々に辟易しそうだ。弁護士を雇う金もねえから、さっさと終わらせてもらおうと協力してやっているってのに、どいつもこいつも、数十分後には青ざめた面でげんなりとしてやがる。

今日なんざ、詳しく話しをしろと言ってきたから、エド・ゲインの気持ちを理解しようとして、人間の臓物を壁に張り付けたが、さっぱり分からなく残念だった時のことを語ってやったってのに、調書をとっていた男は、机から立ち上がって出ていきやがった。一体、なにがしてえのやら……

異例中の異例とは言われているが、こうにも勾留が長引くと、刑罰を受けさせる気があるのかと問いたくなる。

 

「なあ、今日は面会の予定は入ってんのか?」

 

腰縄を持った刑務官に尋ねるも、声は出さずに頷くだけだ。俺と無駄な話しをするつもりはないのだろう。

俺は、反応の薄い男を気にせずに、来訪者への会話へ胸を踊らせる。退屈で真っ白な日々に色を持たせる僅かな時間、それだけが、今の俺にとって唯一の楽しみだ。

いつもの房に戻されてから数時間、ベッドでくつろいでいた俺に来訪者の報告が入った。拘束具を着ることにも慣れてきただけあって、準備をスムーズに終えられる。あとは、腰縄をつけられれば、楽しい愉しい時間の始まりだ。代わり映えのしない風景が豁然と広がる中に、いつもの男が椅子に座っている。

 

「どうも、東さん」

 

抱えられた聖書は、初対面のときよりも随分とくたびれている。俺は聖書に一瞥飛ばしてから、挨拶もそこそこに、腰を下ろしながら言った。

 

「もう少し早い間隔でも良いんじゃねえの?モタモタしてっと俺の刑罰が確定しちまうぞ?」

 

「すみません、なにぶん、こちらも都合がありますので」

 

どうかご容赦を、と付け加えて安部は笑う。

ここにきて、安部の態度は、だいぶ柔らかくなってきていた。切っ掛けは、タリウムを呑んでいた餓鬼が絡んだ事件からだ。

あのあと、安部が餓鬼の両親に、何故、分かったのかと問われたらしい。そのとき、安部は正直に俺のことを伝えたという。すると、どうなったと思う?


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