東方変幻録   作:大神 龍

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第八話

 王と従者は城の中にいる存在を片っ端から薙ぎ払っていく。

 

 そしてある時、広い部屋に出る。

 

「……広い部屋、ですか。ご丁寧に進む扉は一枚ですね。そして、もちろん私達は引きはしない。そうですよね?」

 

「当たり前だ。聞くまでも無いだろう?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、二人はそう言う。そして――――

 

 

 

 

 ヒュッ!っと風切り音が聞こえたと同時、その方向へ幻魔は銀のナイフを持って腕を振るう。

 

 直後、金属製のモノ同士がぶつかる嫌な音が響く。幻魔が追撃しようともう片方のカードを持った腕を振るうと、そこには人の姿は無く、代わりに無数の蝙蝠がいた。

 

 しかし、すぐさまその正体に気付いた幻魔は、その無数の蝙蝠の中から一匹だけカードで打ち抜く。

 

「グギャァァ!?」

 

 だが、他の蝙蝠はその事を気にかけず、幻魔達から離れた所に集まる。

 

「……すいません。外しました」

 

「良い。気にするな。とにかく今は目の前の敵の魂を刈り取れ」

 

「御意に」

 

 一か所に集まった蝙蝠はだんだんと姿を変え、人の形を取る。

 

「いやはや、まさか人間相手に一瞬焦りを感じてしまうとは、私も衰えたのでしょうか」

 

 そう呟く人物は、幻魔と同じような執事服を着た男。しかし、その背中には蝙蝠の様な羽が生えており、時々口から姿を現す鋭い牙を持っていた。容姿は60代くらいだろう。

 

「さて。私はここで執事長をさせていただいています。デュパンでございます」

 

「これはどうもご丁寧に。では、私も名乗りましょう。私は我が主プレジール様の城にて執事長をさせていただいている黒焔幻魔です。まだ執事長としての経験は浅いのですが――――」

 

 幻魔はごく自然に懐からカードを取り出す。

 

「――――『掃除』だけは他の者に負けはしないと自負しております」

 

「フフフ……良いでしょう。では、一つお伝えしておきます。主はこの扉の向こうにおられます。しかし、ここを通るには私を倒す他がありません。それでは、本日の遊戯を始めましょうか」

 

 デュパンはそう言うと、腕を振るい、袖の中から現れた、(幻魔のような食器のではない戦闘用の)ナイフの柄を握ると、幻魔に向かって来る。

 

「ご主人。お下がりください」

 

 一言そう言うと、幻魔もデュパンに向かって突っ込む。

 

 一瞬で相手に詰め寄った双方は、手に持った武器をほぼ同時に振るう。

 

 デュパンのナイフは幻魔の脳天に向かって迫り、だがしかし幻魔は気にする様子も無くカードをデュパンの正面に出すと、カードは強い光を発する。

 

 その強い光に、思わずデュパンは顔を覆う。その瞬間、幻魔はいつの間にか取り出していた銀のナイフを振るう。

 

 デュパンはその殺気に反応し、勢いよく地面を蹴ってナイフの攻撃範囲から出ると同時、手に持っていたナイフを幻魔に向かって投げつける。

 

 光が消えると同時に迫るその凶器を、幻魔は刃を指で挟んで止め、投げ返す。

 

 光が消えたのを理解したデュパンが目を開けると、眼前に迫るナイフ。瞬時にデュパンは上体を反らし避ける。

 

 

 

 

 

 

 

――――が、果たして、幻魔の使うモノが、たとえどれか一つでもまともだった例があるだろうか?…そう。つまりこの投げ返されたナイフも――――

 

 

 

 瞬間。不自然なまでに、不可解に方向を変え、上体を反らして身動きの取れないデュパンの脳天へと迫り行く。

 

 やばい。そう思った時にはすでに手遅れな幻魔の一撃は、

 

 

 無意識に体を蝙蝠に変化され、回避される。

 

 驚く幻魔だが、それ以上に、避けたデュパンは戸惑っていた。しかし、すぐに頭の中を切り替え、体を再構築しようとし――――

 

 

――――気付く。圧倒的速度で、圧倒的精密さで、自身に迫る(ナイフ)に。

 

 それは蝙蝠化している彼の眼前に迫り、

 

 

 

 

 

 爆炎に彼は飲み込まれる。

 

「―――――――ッ!!!!!!」

 

 声にならない声を上げ、幻魔から彼の姿を視認できなくなる。

 

「これで終わり――――って言うとフラグですか。じゃあ予防としてもう一枚放り込みましょうかね」

 

 未だ爆発の煙の消えていない中、一枚のカードをその煙の中に投げ込む。

 

 それはズバチィッ!!と音をたて放電し、確実に止めを刺す。

 

 煙が晴れると、地面に一匹の蝙蝠が倒れていた。

 

「おや?姿が残っているとは……なかなかしぶとい方ですね。さすが執事長」

 

「終わったのか?」

 

 後ろからプレジールが近づいてくる。

 

「えぇ、無力化は。ですが、このように姿が残っているので、どうするべきかと考えておりまして。吸血鬼は生命力が強く、ご主人ほどではないですがそう簡単には死なないんですよ。なのでどう処理をしようかと考えておりました」

 

「そうか。ふむ……普通に太陽の光で焼けばいいのではないか?」

 

「それは確かにそうなのですが……ご主人がいるので控えようかと思いまして」

 

「ふむ……そうは言うが、先ほど使っていただろうが。そして、それにも関わらず私はこんなにも元気だ。私の前には太陽光もただの明かり同然だ。私をそこらへんの吸血鬼如きと同列にするな」

 

「おっと。それは失礼いたしました。では、さっさとこの蝙蝠を始末して奥へと進みましょう」

 

 そういうと、幻魔はカードを取り出して容赦なく蝙蝠に突き刺し、それと同時に光を発して消える。そして、その光の消えた後に残ったのは灰のみだった。

 

 そして、幻魔は奥へと続く扉を開ける。


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