美鈴の傷を治した幻魔は、気絶したままの美鈴を部屋に運び、プレジールに侵入者の正体を説明していた。
「――――ふむ。吸血鬼か……やはり出て来たな」
まるで最初から知っていたかのような反応。幻魔はそれが少し引っかかり、質問してみる。
「つまり、ご主人はこの事態を予期していたという事ですか?」
「まぁ、そうなるな。だが、その時は私とクレアしかいなかったからな。それに、このタイミングだという事が少し気になるな」
「どういうことです?」
「そうだな……幻魔には言っても良いか」
プレジールは少し考えた後、
「君がこの館に来る前の事だ。私はこの周辺の村をいたのだ。ただ、少々やり過ぎてな。他の吸血鬼の領地にも手を出した。今日のはその報復だろうな。ただ、これで問題なのは、それをしたのは君が来る一か月ほど前の事なんだ。だから、なぜ今になって来たのかが少し疑問なのだよ」
「なるほど……遅めの報復ですか……それは確かに不思議ですね」
「だろう?ただ、これ以上襲われるのも癪なんでな、明日奴らの城に乗り込もうと思う。どうする?ついて来るか?」
不敵な笑みを浮かべ、そう聞くプレジール。幻魔はそれに対し、邪悪な笑みを浮かべ、
「もちろん。私のモノに手を出した罪を償って貰わないといけませんから……フフフ……明日が楽しみですよ」
「ククク……では、今日はもう寝る事としよう。明日のためにな」
「分かりました。ではご主人、また明日」
不気味な気配を纏いながら、二人はそれぞれの行くべきところへと向かうのだった。
そして、その翌日の事である。
日が沈むかどうかという時間帯。プレジールと幻魔はいつもとはまるで違う不敵で不遜な表情で門の外に立っていた。そして、プレジールは門の内側に立つクレアに、
「では行ってくる。留守の間、城を頼んだぞ?」
「行ってらっしゃいませ。我が主」
クレアがそう言うと、二人は飛び去って行くのだった。
日も完全に暮れ、人とモノの区別すらつかなくなる時間帯。二人はある城の前に降りる。
目の前には大きな門。その場に門番は二人いた。
「幻魔。私はここの主を叩く。それ以外はお前が好きにするといい」
「御意に。では、ゴミ掃除をして参ります」
幻魔はそう言うと、懐からカードを二枚、左右に投げる。と、その時。前方から、
「貴様ら!何者だ!」
声が聞こえた。幻魔は満面の笑みで、
「侵略者ですよ?無能な門番さん」
左右に投げたカードは二人の門番に命中し、彼らの身体の中に入り込むと同時、ゾンッ!という音と共に無数の銀色に輝く刃が内側から突き出て、彼らは絶命する。
不敵な笑みを浮かべ、幻魔はもう一枚カードを取り出し、門へと投げ、
「私の城を襲い、仲間を傷つけ、あざ笑う。私はそういう奴らが一番気に喰わない」
キュドォォォォンッッ!!!!という爆音と共に門は消し飛び、道が出来る。
「さぁ、復讐の時間だ。愚者には絶望を叩きつけてやろうではないか」
そう宣言したプレジールの紅く光る瞳には、確実な殺意が含まれていた。
壊れた門を通り、中へと入る。すると、前後左右から計6体の吸血鬼が出てくる。
「馬鹿がっ!たった二人でどうにかできる訳がないだろうが!!」
「馬鹿は貴様らの方だ。自分の敗北した原因も分からず消え逝くが良い」
瞬間、吸血鬼達は、地面から突如現れた無数の銀色に輝く武器に貫かれる。
「ガッ……!?ゲフッ、ゴホァ……な、なん、だっ、これは…!?」
「自分で考えるが良いさ。そして、貴様はその正体に気付く前に死ぬんだ。無知ゆえに、な」
幻魔は冷やかにそう言い捨てると、カードを一枚地面に置き、プレジールが城の扉の前にたどり着くのを見ると、転移して扉を開けて中へを入れる。そして、自分も中に入ると同時、指をパチンッ!と鳴らす。
その瞬間、カードは明るく光りだし、それによってその吸血鬼達は灰になっていく。
「……吸血鬼も、落ちぶれてしまったものだな。昔はあれほど猛威を振るったというのに」
「ご主人は落ちぶれてなどいませんよ。この城の者どもが特別腐っているだけです」
「ふん。まぁ良い。とにかく、引き続き殲滅を頼むぞ。我が
「
幻魔はそう言うと、懐から一本の銀製のナイフを取り出す。ただし、食器のナイフだった。
すると、不意に上から一体の吸血鬼が襲い掛かってくる。
だが、幻魔はその吸血鬼を見る事もせずにナイフを投げる。
そのナイフは正確無比に吸血鬼の心臓を穿つ。しかも、かなりの速度で飛来したにも関わらず、突き抜けるのではなく、突き刺さったまま壁まで吸血鬼を飛ばし、壁に打ち付ける。
「な、ぜ……ばれ、た…っ!?俺は、確かに、きさ…ゲフッ!きさまらに、見つかっていなかったはず…!」
「……ここまで馬鹿だと、ここの主も底が知れますね。こんな雑魚どもを狩るのにご主人が出る必要なんてなかったのでは?」
「貴様…ッ!こた、えろぉ!」
「うるさい」
素早く幻魔は懐からもう一本ナイフを取り出し、吸血鬼の頭に放ち、これもまた正確に打ち抜く。
「……幻魔。たとえここの主がどれほど雑魚だったとしてもだ。私は自らの手で奴を殺さなければ気が済まないのだよ。なぜなら、奴は私の大事な部下を傷つけた。この気持ちは分かるだろう?」
「はい。もちろん。それはそれは苦しいほどに」
「ならば、私が来なくても良かったと聞こえる様な事をもう言うな。分かったな?」
「はい。ご無礼を働いた事、誠に申し訳ありません」
「分かったならもう良い。では行くぞ」
「
王と従者は、たった一つの目的の為に動く。そう。自分の大切なモノを傷つけた愚者に制裁を与えるために。