東方変幻録   作:大神 龍

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再び遅れて投稿です。安定しないなぁ…次回こそは次回こそは定時で仕上げる…!


第六十五話

 後ろを指した探知コンパス。

 その事実に、二人はバッ! と振り向く。

 

 霧の中にそれは見えた。

 ゆらりゆらりと揺れる影。ふらりふらりと迫る影。

 引き込まれるようなその雰囲気は、二人の足をその場に止める。

 

 しかし、その雰囲気は次の瞬間には霧散する。

 

「「っ!」」

 

 無意識のうちに二人は左右に分かれ、幻魔はナイフを、リブラは防御アイテムを手に取る。

 

 直後、突き抜ける()()

 霧が両断されたように見えたそれは、すぐに霧が覆い隠してしまう。

 正体不明の攻撃は、威力も性能も分からないままだ。

 だが、一つだけ分かるものはある。奴は敵だ。ということだ。

 

 瞬間、幻魔は叫ぶ。

 

「リブラ! 背後だ!」

「っ!?」

 

 反射的にリブラは背後に持っていた防御アイテム――――魔力障壁作製器『しょうへきくん マークⅡ』を展開する。

 それと同時に金属が弾かれるような音が響き、黒い影がたじろぎリブラから遠ざかる。

 

 だが、幻魔はその影を狙い、ナイフを投げると、周囲の霧がナイフにより生まれた爆風に吹き飛ばされる。

 そして見えたジャック・ザ・リッパー。

 その正体は、白髪赤眼の少女。黒いローブを着ており、武装がどれほどあるのかは不明。しかし、幻魔と同じようにナイフを持っているのは分かった。

 

 瞬間、二人の視界が揺れる。否、ノイズが走ったような気持ちの悪い感覚に陥る。

 二人はすぐさま回復するが、しかし視界にとらえていたはずのジャックは消えていた。

 

「ッ! ガァッ!?」

「幻魔さん!」

 

 突如幻魔の腹部から噴き出る血。

 幻魔は吐血するも、すぐに原因を探す。

 腹部には傷。切断された傷だ。恐ろしいほど鋭利且つ感知させないほどの速度を持った一撃。本来であれば首を一撃で狩りとる事も出来たであろうそれは、しかし狙えない理由があったのだろう。

 と、次の瞬間、言いようのない悪寒が走り、前方に跳ぶ。

 腹部の傷が痛むが、直後振るわれたと感じた斬撃は、確実に幻魔の首を狙っていた。

 

「リブラ! トラベルゲート準備! 標的ごと紅魔館に飛ばすぞ!」

「わ、分かりました!!」

 

 リブラはバッグの中に手を突っ込むと、幻魔に言われたものを探す。

 しかし、敵もバカではない。狙った標的を逃がすまいとリブラに襲い掛かる。

 だが、幻魔もそう何度もやられ続けて黙っているような性格ではない。

 リブラに襲い掛かったジャックのナイフを左手で受け流し、反撃の蹴りを叩き込み、開いている右手でジャックを掴む。

 

 けれど、掴んだと思ったのもつかの間。次の瞬間には先ほどの様なノイズが走るような感覚と共にジャックが消える。

 想定外の状況。しかし、驚きに意識を裂かれている状況ではない。

 襲撃予想地点であるリブラの背後にナイフを投げつける。

 そして、その予想を肯定するように、ナイフを弾く音がする。

 

 ならば、やることは一つ。

 ノータイムでリブラの上空に転移し、ジャックを視界にとらえると同時にナイフを投げつける。

 ジャックはそれを視認することすらなく、一歩後ろに下がることで回避し、再度リブラを襲う。

 だが、当然幻魔はそんな事を許さず、リブラとジャックの間に転移し攻撃を受け止める。

 

「準備完了! 飛びます!!」

 

 宣言。直後、リブラを中心に広がる光の輪。それが幻魔とジャックを包み、視界を白く染める。

 

 

 * * *

 

 

「転移場所、ずれました!! 紅魔館上空! 地面に激突します!」

 

 落下による暴風の轟音の中、はっきりと聞こえるリブラの声。

 本来転移した場合これほど高い場所に放り出されはしないのだが、緊急転移したせいなのか、それとも別の原因か分からないが、今のこの状況に陥ったのだろう。

 大方、この事態に陥れた彼女が原因だろうが。

 

「シッ!」

 

 投げつけられたナイフは、まっすぐな軌道を描き、リブラへ向かう。

 しかし、現状において、その行為は無意味だ。

 

 キンッ! と響く金属音。

 直後響く爆音は、膨大な威力をもってリブラとジャックの距離を離す。

 舌打ちをするジャックは、しかしすぐさま体勢を立て直して間近に迫っていた地面に、重さを微塵も感じさせず着地する。

 それは幻魔たちも同じで、三人は地上に降りると、睨み合う。

 

 霧はすでにない。見えるは紅魔の館、ただ一つ。

 悪魔の住む館を前に、少女はニヤリと笑う。

 一言も喋らなかった彼女は、ここに来て、初めて口を開く。

 

「初めまして。紅魔の方々よ。私は――――そうね。ジャック・ザ・リッパーとでも名乗りましょう。今宵は満月。蒼き満月の夜に、悪魔の館で、深紅の華を咲かせるのも一興ではありませんか?」

「これはこれは、ジャック様。感謝いたします。当家の紅き館に、深紅の華は良く映えるでしょう。ありがたく頂戴致します」

 

 二人は微笑みながらも、両手にナイフを構える。

 リブラもそれに(なら)い、攻撃系のアイテムを手に取る。

 しかし、

 

「リブラ。館に戻って買ったものの整理をしておいてください。流石に終わった後にやるのは気が滅入るので。お願いできますか?」

「え? えっと…大丈夫ですか?」

「えぇ。私を誰だとお思いで? 紅魔館の執事長。この程度で負けることはありません。ですので、早く行って下さい」

「……分かりました。ご武運を」

 

 リブラはそう言うと、単体転移アイテムを使って紅魔館内へ転移した。

 残されたのは二人。門からかなり離れているので、美鈴も気付いたところで近づいてこないだろう。

 ならば、遠慮は要らない。全力で倒すのみだ。

 

 二人はほぼ同時に構えを取り、前に走り出した。


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