東方変幻録   作:大神 龍

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第六十二話

「終わりました。ご主人」

 

「あぁ…そうか。なら、行こうか」

 

「えぇ」

 

 二人はそう言って歩き出す。

 

 しばらく歩いたところで、プレジールが声を出す。

 

「幻魔。今の戦いは見てられなかったぞ」

 

「すいません。油断しました」

 

「生きているならそれでいいが…次は油断するな。私に心配させるな。全力を持って戦え。周囲に気を使うな。良いか?」

 

「御意に。一片の油断も無く、ただ敵を殲滅いたしましょう」

 

 幻魔の言葉を聞くと、プレジールは壁に手をつく。

 

「もう一つの隠し通路…といった所か」

 

 ガコンッ!と音を立ててへこむ壁。

 

 すると、階段が現れ、どこかに繋がっているようだった。

 

「何所に繋がっているんでしょうか…」

 

「おそらく裏口だな…ここまで直通なんだろう。屋敷の中を通さずにここに運び込むためのな…」

 

「そうですか…では、一度ここから脱出いたしますか?」

 

「屋敷の中へと戻る道は……もう無いようだな。なら、一度外へ出るとしよう」

 

「分かりました。では、私が前を行かせていただきます。どんな危険が訪れるか分かりませんので」

 

「あぁ、任せた」

 

 そう言うと、プレジールの前を歩く幻魔。

 

 

 * * *

 

 

 外に顔だけ出すと、そこには三人の人間――――いや、吸血鬼がいた。

 

「貴様が侵入者か」

 

「吸血鬼が…吸血鬼を監視するのか?」

 

「私たちは人間側に付いているのでな。貴様には死んでもらう」

 

「お断りさせていただく」

 

 振り下ろされた足を、プレジールと共に彼らの後ろの中空に転移して躱す。

 

 直後、先ほどまで幻魔達がいた階段が砕かれる。

 

「ご主人」

 

「あぁ、殺せ」

 

「御意に」

 

 幻魔は()()を踏みしめて飛び出すと、地面に降り立つ衝撃で土埃が大きく舞い上がる。

 

 

 

 

 銀閃が走った。

 

 

 

 

 舞うは紅。一瞬にして無数の紅色の液体が舞い、ドサリと音を立てて何かが落ちる。

 

 土埃は晴れ、そこに立っていたのは幻魔一人。両の手には銀のナイフが握られており、そのナイフからは血が滴り落ちていた。

 

「聖なる火を宿した銀の刃。吸血鬼にはさぞ痛かろう?」

 

「な、何者だ…貴様…!?」

 

「紅魔の魔狼。貴様らがそう呼ぶ、ただの人間だ」

 

「なっ…!?き、貴様の主も吸血鬼だというのに…それほどまで吸血鬼に効く武具を持つとは…なぜだ!?」

 

「貴様らと同じにするな。私が刃を向けるのは、私の敵にのみだ。では、さようなら」

 

「ま――――!!!」

 

 銀のナイフが突き刺さり、瞬く間に白い炎に消される吸血鬼。

 

「それでは…どういたします?」

 

「幻魔…いや、確かに私は殺せと言ったが、ここまで 完膚なきまでに殺されると情報が聞きだせんのだが…」

 

「あ~…いえ、大丈夫です。おそらくここの主は、自分の放った悪魔に消されたはずです」

 

「ほぅ…?その訳は?」

 

「アレです」

 

 若干面倒そうな表情で幻魔が言う。

 

 その視線の先には、月を背に飛ぶ巨大な異形の存在。それは悪魔のようにも見えた。

 

 そして、手に握られているのは人間のようで――――

 

 

 

 ガブリッ!と一息に喰われる。

 

 

 

「……幻魔。本気だ。本気で奴を潰すぞ」

 

「えぇ…私も、彼奴だけはどうしても狩る必要があります」

 

 圧倒的威圧感。王者の威圧感とでも言うのだろうか、それは並みの生物を怯えさせるには十分で、だが、プレジールと幻魔には本気の殺意を芽生えさせる威圧感だった。

 

「ふんっ!!」

 

 瞬間的に生み出した紅い妖力の槍。

 

 衝撃波を放ちながら悪魔へと迫って行き――――

 

 

 

 

 ドォォォォンッ!!と轟音を立ててぶつかる槍。

 

 

 

 

 しかし、その槍は片手で受け止められていた。

 

「…ご主人。威力が足りてませんよ」

 

「うるさい。そこは彼奴の力が私以上だと言っておけ」

 

「遠まわしにそう言う意味になるんですけどね?」

 

 むしろ、プレジールの言葉が遠まわしだろう。

 

 だが、幻魔は冷静にナイフを取り出し、投げつける。

 

「では、ご主人は援護をお願いします」

 

「あぁ分かった。頑張れよ」

 

 プレジールの言葉を聞き、幻魔は瞬時に悪魔の前へ転移すると、無数のカードをばら撒き、再度転移する。

 

 瞬間、ナイフが悪魔に突き刺さる。それは一気に傷を広げ、しかもそれと同時にカードが無数の炎となり、悪魔を焼く。

 

「まぁ、これで死ぬとは思いませんが、一応様子見ですね。これでどの程度ダメージを与えられるかですが――――まぁ、そうですよね」

 

 炎が消えた時、そこには無傷の悪魔が見下ろしていた。

 

「無傷…か。倒せるのか?」

 

「えぇ…倒すだけなら何の問題もありません」

 

「…それ以外の問題はなんだ…?」

 

「ご主人の安全です」

 

 ハッキリと言い切る幻魔。プレジールはそれを聞いて、苦い顔をする。

 

「やはり、私が(かせ)か…」

 

 おそらく、幻魔はプレジールの手前、対異形攻撃の威力や攻撃を抑えていたのだろう。そして、今になってそれがとても大きな枷となっていると、プレジールは考えた。

 

「仕方ない…幻魔。他に人間は残っているのか?」

 

「いえ、生体反応はありません。おそらく全滅したように思われます」

 

「そうか…なら、私は先に帰らせてもらおう。そうすればお前も本気を出せるだろう?」

 

「ですが…よろしいので?」

 

「二度は言わすな。転送してくれるとありがたい。自室で頼む」

 

「では…失礼します」

 

「あぁ…頑張れよ」

 

「良い結果をご報告いたしましょう」

 

 幻魔の言葉と共に、プレジールは消える。

 

 そして、幻魔は改めて悪魔に向き直ると、

 

「さて、()()()。全力を持って消させてもらう」

 

「ガハハ!!人間…私が怖くないのか?」

 

 いつの間に降りて来ていたのか、その悪魔は幻魔を見てそう言った。

 

 改めて見ると、その姿はより恐ろしく感じる。

 

 顔は凹凸が無く、全身真っ黒。熊の様な巨大な体格に、片翼だけで自身の二倍近くある翼。

 

 だが、その姿を認識してもなお、幻魔は余裕の表情でこう言う。

 

「怖い?何を怖がる必要がある。貴様はただの敵だ。敵であって恐怖の象徴ではない。ただ倒すべき対象だ」

 

「ほぅ…?人間。貴様、中々面白い事を言う。そこまで言うのだからよほど自信があるのだろうな…ならば、その力、私に示してみるが良い!!」

 

「そのくだらない価値観を変化させてあげましょう。木端悪魔」

 

 その言葉を皮切りに、両者はぶつかる――――。


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