東方変幻録   作:大神 龍

61 / 67
第六十一話

 階段を降り切ると、そこには牢獄が広がっていた。

 

「昔見た事のあるあれと同じだな…人間は、何時までもバカな奴はいる者だな。いや、それは吸血鬼も同じか」

 

 プレジールは不快そうな表情でそう言い、一つ一つの牢屋を見て行く。

 

「フン…不快だ。幻魔。ここは徹底的に潰す。それと、囚われている吸血鬼は全て牢から出して連れて行くぞ。良いな?」

 

「御意に。徹底的に潰し、救い切って見せましょう。我が(あるじ)

 

 幻魔はそう言うと、たまに見かける吸血鬼が入っている檻の中へと転移し、鎖を断ち切って共に外へと出る。

 

(あるじ)。牢から出したらどういたしましょう。私には思い浮かばないのですが」

 

「む…盲点だったな…誰にも言わなかった事をここで後悔するとはな…そうだ。兄の部屋でいいのではないか?」

 

「イーラ様…最近、心労で倒れるのではないかと不安ですね…」

 

「あいつにそんなものがあり得るのかが疑問だ。まぁ、私はそれで構わないと思う。もしくは全員連れたまま移動するかだが…難しいだろう?」

 

「彼らが動いてくれるのならばそれでも問題はありませんが…そうですね。イーラ様に全力で迷惑をかけましょう。家の中で寝ているだけの者に反論の余地無しですね」

 

「中々手厳しい事を言う…」

 

 幻魔の言い分に、納得しつつも頬を引きつらせるプレジール。

 

「さて…では、送らせていただきます。ちなみにあなた方に拒否権は与えません。また会う時に文句を言って下さい」

 

「おい幻魔。待て。その発言は誤解を――――」

 

「あ、何か言いました?」

 

 すでに送った後だった。

 

「……お前は…最初に会った時と随分変わったな…?」

 

「そうですか?私はそんなに違いを感じませんけどね…まぁ、ご主人がそう言うならそうなんでしょうね」

 

 昔はしっかりと話を最後まで聞いていたと思うのだが…と思うが、幻魔自身はそんな事を全く思っていない。

 

「はぁ…まぁ良い。面倒事は兄にすべて任せよう」

 

「ご主人も中々ひどいと思いますよ?」

 

 きっと、紅魔館の地下室で寝ていたイーラは、今頃泣いているだろう。

 

「さて…これで全員か?」

 

「おそらくそうだと思われますが――――!?」

 

 突如崩壊する天井。

 

「チィッ!!今度は何だ!!」

 

 プレジールは舌打ちをし、距離を取ると、その前に幻魔は現れ、土埃がはれるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちて来たのは、狼。しかも、異様に白く、且つ目が紅い。大きさも、野生のそれとは二回り近く大きい。

 

「なんでしょうか…」

 

「こいつ…吸血鬼の血が入ってるな…?」

 

 その言葉にピクリと反応する幻魔。

 

「どういうことです?」

 

「信じがたいが…この狼は、おそらく吸血鬼を喰った」

 

 プレジールに言われ、無意識にナイフを手に取った幻魔。

 

「つまりは、かなり頑丈という事でしょうか…?」

 

「そうなるな…気を付けろ。力は通常の何十倍もあるぞ」

 

「分かりました。お下がりください」

 

 プレジールは幻魔に言われるままに下がり、見守る。

 

「さぁ、獣。私が相手をしようか」

 

 最初に動いたのは幻魔。

 

 素早くナイフを投げつけるが、軽々と躱され、一瞬で迫ってくると、噛みついてくる。

 

 幻魔は素早く下がり、カードをばら撒く。

 

 狼はそのカードを本能的に躱し、踏まぬように高く跳びかかる。

 

「フッ!!」

 

 幻魔は素早く右手でナイフを持ち、飛び掛かって来た狼に向かって振るう。

 

 しかし、狼は空中を踏みしめ更に跳んで躱すと、噛みつこうと大きく口を開く。

 

 驚く暇も無く、無意識にカードを持った左手をかざし、

 

「くっ!!」

 

 ドゴォッ!!と音も立て、幻魔の左腕に噛みついた狼を内側から爆破する。

 

 狼から力が抜け、そのまま押しつぶすように落ちて来るので、転移して回避する。

 

「つぅ…左手は…動かないか…だが、これで倒した――――!?」

 

 ピクリと動いた狼。瞬間、幻魔は凍りつく。

 

 ゆっくりと起き上がる狼。その表情は、まるでダメージを感じさせず、ただ静かな怒りの炎が見えた。

 

「ハハハ…そうか…中々骨のある…ならば、やるしかない」

 

 一枚のカード。それを左手に当てて瞬間的に癒すと、天井と地面にナイフを投げる。

 

 そのままナイフを素早く狼に投げると、狼は回避してカードの上に降りる。

 

「吹き飛べ!」

 

 思わず叫びながら地面を強く踏み、それと同時に数枚のカードが狼を穿ち動きを止めると、残っているカードが火を生み出して狼を焼く。

 

「まだ行くぞ!!」

 

 幻魔は止まる事無くナイフを投げつける。

 

 しかし、炎の中から無数の蝙蝠が飛び出し、当たった感触も無く、カツッ!と音も立てて壁に刺さる音が聞こえた。

 

「だが、想定内!」

 

 カードを一枚投げ、幻魔から見て天井や地面に突き刺さったナイフの向こう側に出た瞬間、強力な重力場が発生し、蝙蝠をかき集める。

 

「これで終わりだ!!」

 

 強引にかき集められた蝙蝠が狼の形をとると同時に重力場は消え、回避の隙無く突き立てられるナイフ。

 

 短い悲鳴の様な鳴き声を上げる狼は、しかし次の瞬間、青ざめたように見えた。

 

 向かって来る無数のナイフ。幻魔が()()()()()ナイフの群れだった。

 

 針山の様に突き立てられたナイフの群れ。それは一気に白い炎となり、狼を灰にした。

 

「聖なる炎に炎に焼かれて灰燼と化せ」

 

 立ち去りながら、幻魔はそう言った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。