結局、幽霊は見つからなかった。
「ということで最終手段だ。幻魔、消し去れ」
図書館に戻ってから、プレジールは言う。
「分かりました」
仕掛けまくった結界を一気に縮小する。
「…………大変です。手ごたえが全くありません」
「なんだと?待て、つまりはレミリアの部屋、フランの部屋、ここの三か所のどこかにいるという事か?」
「そうなります」
「…………」
「…………」
沈黙の図書館。
「幻魔。急いでフランの部屋に行け。レミリアの部屋に私と雪花を送れ」
「私もですか。いえ、まぁご一緒しますよ」
雪花は立ち上がり、プレジールの隣に行く。
「では、送らせていただきますよ」
「あぁ、頼む」
「久しぶりの転移…対応できるかな?」
幻魔が二人に触れると同時、二人とも消える。
「さて、イーラさん。守り切ってくださいよ」
「当たり前だ。やる事はやるさ」
「えぇ、任せましたよ」
そう言って、幻魔は消える。
「別に、イーラ様がいなくてもどうにかなるんですけどね」
「私たちは信用されてないんでしょうか」
「私は幽霊さえいなくなれば問題ないです」
「……リブラさん、さっきからそればっかりですね…」
「だって、心の底から怖いですし」
「あっはははは!そんなこと言ってたら足元にいたりしてね!」
「え、えぇ!?い、いや、まさかそんな訳無いですよ…!無いですよ……ね?」
「見てみたら?」
プルプル震えはじめたリブラは、そのまま視線を下へと逸らし――――
キャアアァァァァァァァァァァ!!!!
また、悲鳴が響いた。
* * *
レミリアの部屋へと転移したプレジールは、レミリアの傍にいる幽霊を見て、すかさず近づいて殴り飛ばす。
しかし、幽霊は霧散して消える。
「さて……やっと見つけたぞ。雪花。援護は任せた。問題は無いか?」
「えぇ。戦うのも久しぶりですが、さすがに鈍ってないと思いますよ。むしろ昔よりは格段に戦えると思います」
「そうか…なら、任せたぞ」
「はい。一片の情けも無く抹消します」
そうして、二人は、再び形を取り戻した幽霊を睨む。
* * *
「……一体じゃないのか」
寝ているフランをかばうように立ちはだかる幻魔。
「即興で作った結界がどこまで効くかは分からないが、フラン様にたどり着く前に貴様らを葬り去る。指一本たりとも触れさせはしない。さぁ、消え失せろ」
無数の幽霊を前にして、幻魔はそう言い切る。
「浄化の光あれ」
光り輝く球が幻魔の前に出現すると、それを幻魔は握りつぶす。
「行くぞ」
光を宿した両手で、幽霊に殴り掛かる。
* * *
「で、こうなる訳ですね?」
「ひゃー…いつも火葬してる筈なんだけどな…幽霊って媒体が必要じゃなかったっけ?」
「幽霊は恨みだけで生まれるから媒体無しでも出て来たりしますよッ!!」
「ハハハ。コレは不味いんじゃないのか?」
「「「話し合いで貴方が矢面に立つんですよ?」」」
「そう言えばそうだったな」
机の下に出現していた幽霊は、リブラが蹴り殺した。いや、すでに死んでいるから、成仏させたというのだろうか。
ちなみに、蹴り殺せたのは全身に聖属性を
「私、もう部屋の隅っこでガタガタ震えて命乞いをしていていいですか?」
「トイレは行った?」
「神様じゃなくて吸血鬼に祈ってくださいよ?」
「心の準備はオーケーです」
「「「ならよし」」」
全力でふざけているが、戦闘中だという事には変わり無い。
イーラが幽霊を集め、美鈴が気砲で消し飛ばす。そのサイクルを見ながら、クレアはリブラに聖属性を
「しっかし、なんでこんなに居るのかな?」
「吸血鬼の館ですよ?食糧になった人間の恨みが集まって幽霊が生産されまくっても不思議じゃ――――いや、ダメです。許されません」
「そ、そう…まぁ、最悪定期的にこんな処理をするようになるのかなっと」
「そんな面倒なのはしたくないな。あ、リブラ。美鈴とクレアと幻魔意外に触れるなよ?お前の纏ってるソレは強力だからな」
「えぇ!?そんなに強いですか?私の能力だとそんなに強力にならないはずなのに…」
「お前のソレは才能の域だろうが。とにかく、触れるなよ」
「はい。分かりました。まぁ、後三十分くらいで解けるんですけどね…それまでに終わることを期待です…」
「終わらなかったら本当に部屋の隅っこでガタガタ震えて命乞いね!」
「いや、消える前にイーラ様を巻き込んで浄化魔法使いますけどね?」
「ハッハッハ!!爽やかに私を消し飛ばそうとするな!!」
「生き残るくせに何言ってるんでしょうかこの人は」
リブラがぼそりと呟く。
「幻魔なら激怒しそうな発言ね」
「本当に、幻魔さんがいなくてよかったですね」
「そ、そんなにですか!?」
「いやぁ…O☆SHI★O☆KIが発生するだけじゃない?大丈夫。一週間くらいで立ち直れるはずだから」
「え…重症じゃないですか!?」
「私もやられましたよ…」
美鈴が頬を引きつらせながら思い出して顔を青くする。
「二百年も居てここまで誰も受けて無いのは奇跡よね」
「伝説にしても良いかと」
「大事すぎません!?」
そう言っている間に、目に見える範囲の幽霊が消える。
「ふぅ…まぁ、これで幻魔が帰って来るまでの時間稼ぎは出来ただろう。たぶん隠れているのは居るだろうからな」
そう言うと、全員はそれぞれの椅子に座り、休憩するのだった。