東方変幻録   作:大神 龍

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第五十二話

 目を覚ますと、植物に囲まれていた。

 

「………………」

 

 言葉なんて出なかった。というより、声を出すほど理解できていなかった。

 

 やっとはっきりしてきた意識で状況を確認し、そして、呟く。

 

「なんだコレは」

 

 やっぱり、理解なんてできるわけなかった。ただ、漠然と、確信できたものが一つだけあった。

 

「幻魔……今度は何をしたんだ…?」

 

 あのバカ執事。また面白い事をしやがって。サプライズかこの野郎。

 

 悪態を吐かずにはいられない。そんな紅魔館当主の兄、イーラ・スカーレットなのだった。

 

 

 * * *

 

 

「これで完璧。後はイーラ様の所に送った植物を片づけるだけ……なんか面倒だからあのままにしておきましょうか。封印は何重にもかかってますし」

 

 激しく迷惑である。現に地下では植物に囲まれてどうしようもなくなって動けずにいる当主の兄が居るのだ。

 

「掃除も終わりましたし、撤収しますか」

 

 植物との戦争に勝利を収めた幻魔は、自分の部屋に戻る。

 

「っと、リブラがここに寝ているから…仕方ない。椅子に座って休むとしましょうか」

 

 そう言って椅子に寄り掛かると同時、

 

「クレア様参上!!ご飯の時間よ!!」

 

 バンッ!!と勢いよく開け放たれた扉の先には、クレアがいた。

 

「……寝かせてください」

 

「むにゃむにゃ…あと1時間……」

 

 疲労困憊(ひろうこんぱい)の幻魔と、爆睡中のリブラ。その二人を見て、クレアは、

 

「何この状況!?なんて面白そうな…じゃなくて、なんて美味しそうな…でも無くて、なんて羨ましい状況なの!?」

 

「この状況のどこに羨ましい部分があるんですか」

 

「全部よ全部!!図書館に籠って全く出て来ないリブラちゃんと一緒にいる時点で羨ましいわ!!」

 

「あ、嫉妬の対象は私なんですね?」

 

 そうか。私が嫉妬されてるのか。と、変な納得をし、数秒考えて、やはり首を傾げる。

 

「何言ってるの!幻魔と一緒にいるリブラちゃんも羨ましいわ!!何十年も音沙汰なしで失踪してたどっかの誰かさんを捕まえて二人でキャッキャウフフ……私も混ぜなさい!!」

 

 どうやら二人でいた時点でダメだったらしい。そもそも混ざりたいなら混ざればいいのに。そう思うが、たぶんそう意味ではないのだろう。と思って黙り込む。

 

「じゃあ、ご主人が起きていない時にしてください。食事なのでしょう?今リブラさんを起こすので待っていて下さい」

 

「むぐぐ…仕方ない。先行ってるから早く来なさいよ」

 

「はいはい。分かってますよ」

 

「よろしい。じゃあね~」

 

 クレアはそれだけ言って、スタスタと行ってしまう。

 

「はぁ…せめてノックくらいして欲しい…いや、最初からそう言う人だったか…」

 

 諦めた様にため息を吐くと、幻魔はリブラを起こす。

 

「リブラさん。食事の時間です。起きてください」

 

「うきゅぅ……む?…むむむ…むぅ…幻魔さん…?」

 

 眠そうに目をこすりながら体を起こすリブラ。

 

「大丈夫ですか?さすがにまだ疲れてるとは思いますが、食事はとった方が良いので起こしました。起きれますか?」

 

「あぅ…大丈夫です…っとと」

 

 よたよたとよろけるリブラを支える幻魔。

 

「あぅ…すいません」

 

「気にしないでください。少し失礼しますよ」

 

「うぇ?え、えぇぇぇ!?」

 

 いきなり抱えられるリブラ。それも、お姫様抱っこで。

 

「少々吐き気を催すかもしれませんが、その際には言って下さるとありがたいです。それでは突然の浮遊感にご注意ください」

 

 微笑んでそう言い、顔を引きつらせるリブラを見ながら食堂の前に転移する。

 

「――――!?」

 

 逃げるように地面に転がり落ちたリブラは、気分が悪くなったのか、そのままうずくまる。

 

「やっぱり転移酔いしてしまいましたか…すいません。急ぎすぎましたね」

 

「あぅ…いえ…単に驚いて慌てたせいで気持ち悪くなっちゃっただけですので、だ、大丈夫です…後…1分…」

 

 カタカタと顔を青くして言うリブラを見て、大丈夫と言われても不安しかない幻魔は、カードを一枚当てて、回復させる。

 

「うぅぅ…うぅ…う?あ、あれ?治った…?」

 

「良かった…さて、行きますよ」

 

「ふぇ?あ、はい!」

 

 ちょこちょこと後ろをついてくるリブラ。その様子は、かなり微笑ましい。

 

「幻魔さん幻魔さん。今のも能力なんですか!?」

 

「そうですよ」

 

「むむむ……気持ち悪いのが消えた…不健康を健康に変換?でも、美鈴さんから聞いた時は、能力が消されてた人がいるって…あれ?なんかもう答え出てない?」

 

 幻魔は表情には出さないが、すでに能力に気付かれていることに落ち込む。

 

「(そこまで乱用している気はしないんだが…正直美鈴がいなければもう少し時間を稼げたのではないかと思う。別にばれて困るような事は無いが)」

 

 いつ答えあわせをしてくるか。それだけだった。もう答えには辿り着いているのだから。

 

「幻魔さん……後で、実験させてください。もちろんそれで良ければですけど」

 

「えぇ、構いません。何時でもどうぞ」

 

「そうですか…じゃあ、食事の後でお願いします」

 

「分かりました。では、そうしましょう」

 

 そして、彼は食堂の扉に手をかける。


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