東方変幻録   作:大神 龍

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第五十一話

 ぴちゃん、ぴちゃん……

 

 一滴、二滴と(しずく)が落ち、窯の中で混ざり合う。

 

「後は…グルグル~っと回して……」

 

 大きなヘラの様なもので窯をかき回すリブラ。幻魔のおかげで埃一つ落ちない完璧な空間に感謝しながらゆっくりと混ぜて行く。

 

「ぐ~るぐ~る♪ぐるぐる~♪」

 

 とても楽しそうに窯をかき混ぜ、数分。

 

「よぅし。最後にコレを混ぜて…」

 

 緑色の液体を一気に注ぎ込み――――

 

 

 

 

 

――――強く窯が二、三度光って静かになる。

 

 

 

 

「――――で、出来ましたぁぁぁぁ!!!」

 

 うっきゃーーー!と叫びながら喜ぶリブラ。それほどまでに嬉しいのだろう。

 

「簡単に出来たように見えたのですが…まぁ、今は何も言わずに見ていましょうか」

 

 今しがた出来たばかりの薬品を持って飛び跳ねながら喜ぶリブラを見て、幻魔は微笑むのだった。

 

 

 * * *

 

 

「はふぅ…疲れました」

 

 そう言ってパタリと倒れ込むリブラ。騒ぎ過ぎたのもあるだろうが、それ以上に精神を削っていたのだろう。

 

「しっかりと休んでくださいね。一応今日の分の仕事は私が代わっておきますよ」

 

「はぅ…すいません。よろしくお願いします…」

 

 そう言ってすやすやと寝てしまうリブラ。幻魔は、そのまま彼女の部屋まで送り届けようとし――――

 

 

「…そう言えば、部屋を知らない…」

 

 

 致命的だった。部屋を知らない時点で送り届ける事なんて出来るわけが無い。

 

「……諦めて私の部屋にしましょうか。というか、確かリブラの部屋は植物だらけだとさっき言っていましたし」

 

 というより、今度から自分の部屋が植物蔓延る魔境になるんだよな。と気付き、それはそれで落ち込むのだった。

 

 

 * * *

 

 

「クレアさん…今大丈夫ですか?」

 

 リブラを自分の部屋に寝かせた後、クレアの元へと飛ぶ幻魔。場所はエントランスで、掃除をしているようだった。

 

「どうしたの?」

 

「いえ……リブラの部屋を知らないと気付きまして。今は私の部屋に寝かせているのですが…部屋を知っておいた方が良いと思いまして」

 

「あ~……なるほどね」

 

 クレアは、使っていた雑巾をバケツの中に放り込むと、

 

「じゃ、ついて来て」

 

「あ、はい」

 

 クレアに連れられ、数分歩くと、明らかに周囲とは雰囲気の違う、屋敷の端に案内された。

 

「ここよ」

 

「うっそぉ……明らかに周りと雰囲気が全然違うじゃないですか。本当にここですか?」

 

「疑うなら入ってみなさい。ちなみに私は入らないわよ。もうすでに散々な目にあったからね。これ以上は無理。雪花はまずこの近くに来ようともしないからね。相当嫌な目に会ったんじゃない?」

 

「あぁぁ……一体どんな魔境に住んでるんですか彼女は」

 

「異世界からの植物って異様に生命力あるのよねぇ…包丁一本じゃ再生速度に追いつかなかったわ」

 

「………ちょっと入ってみますね」

 

「そう?じゃあ私はもう行くね。逃げるからね。絶対助けを呼ばないでよ」

 

 

「わ、分かりました…そこまで言うなら助けは呼ばないで自力でどうにかしますね」

 

「うん。そうして。じゃあね」

 

 クレアはそう言うと、全力で走って逃げだす。本当にここに来るのは嫌だったのだろう。必死さがよく分かる逃走速度だった。

 

「…………まぁ、いざとなったら転移で逃げればいいか…」

 

 幻魔がそう言ってドアノブに手をかけ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――自動で解き放たれた扉から出て来た植物の(つた)の様なモノに絡め取られ、引き込まれる。

 

 声を出す暇すら無かった。

 

 そもそも助けなんて呼べない。

 

 

 まさに魔境。夥しいほどの植物の群れを、必死でナイフを振るって切り捨てて行く幻魔。

 

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

 

 もうすでに目から光は失われ、人形のように植物を根絶やしにしていく幻魔。彼は思う。何故リブラはこの植物たちがいるこの部屋で生活できたのだろうか。

 

「燃やす……のは、さすがに不味い。切り捨てるしかない。というか、ご主人もご主人だ。部下が何をしているのかくらい把握しておいてほしい」

 

 ワイヤーを張って、向かって来る植物を切断する。

 

「いい加減、服従しろ」

 

 ゴゥッ!!と、周囲を凍てつかせるような威圧感を発生させ、それと同時に植物たちは停止する。

 

「はぁ…はぁ…最初からこうすればよかった…なぜ忘れてたんだ…」

 

 植物の中を骨の様に石に変化させ、拘束したのだ。

 

「さて…これでこの部屋の中を探索できる…」

 

 もうすでにぐったりとしながら、彼は部屋の奥へと進んでいく。

 

「………ベッドも、散々だな。これだけ荒らされてると逆に清々しいな。許さないが」

 

 びりびりに破かれたシーツ、同様にボロボロの枕。布団。植物にやられたのだろうと思いながら、こんな所で寝ようとしているリブラに若干の怒りが芽生える。

 

「全く……この部屋がきれいになるまでは私の部屋に居て貰いましょうか」

 

 ベッドを復元しながらそれまで植物をどこへ置いておこうかと考え、イーラの所に持っていこうという結論に至り、周りの植物を見回す。

 

「ふむ……中々大きいものが多いな……転移で送って行くか」

 

 イーラへの迷惑は後回し。むしろ彼なら喜んで引き受けてくれる気しかしない。

 

「よし。さっさと片付けてしまおう」

 

 幻魔はそう言って植物を片づけに動く。


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